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《Snowboard Chronicle:Seven Hearts of Snow》 ――雪を嫌う悪役令嬢、世界を滑る。  作者: 南蛇井


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《白哭》完全覚醒 ― “雪の意味の再定義”

天逆流走を埋め尽くしていた“雪の滝”が、

七つの心臓が一斉に脈打った瞬間——

ふ……っと、音もなく変質した。


それはもう、雪ではなかった。


冷たさでもなく。

痛みでもなく。

静寂でもない。


雪神リュミナの理そのもの——

“動きを拒むための逆流雪”が、

まるで赦しを乞うように白蒼へと色を変え、

ひと粒、またひと粒と光へ還元されていく。


・殺意を孕んでいた雪片が、柔らかな白蒼色へ反転し

・巨流を成していた滝は、落ちるのをやめ

・次の瞬間には“上へ”と流れを変え

・そして、空へ吸い込まれるように消え失せた


空膜に走っていた亀裂が、

まるで花弁のように開き、光を弾け飛ばす。


世界の根幹——

「雪は止まるべき」という理が、

少女エリゼの速さに触れたことで書き換わっていく。


静止から、流動へ。

拒絶から、共鳴へ。

“雪”という概念そのものが、

彼女の走りを背負うように震え始めていた。



エリゼの胸の前で、白蒼の風が渦を巻いた。


七つの心臓が同じ律で震え始め、

その脈動が、空間そのものへ“意味”を押しつける。

静止した世界に、初めて形を要求するように。


エリゼの両手の前に——

淡い蒼白の線が一本、すっと伸びた。


次の瞬間、線は光を吸い上げながら輪郭を厚くし、

白い雪片を巻き込みながらゆっくりと“刃”の姿を取っていく。


やがて現れる、一本の刀。


《白哭》


それは武器ではない。


悲しみ。

速さ。

赦し切れない想い。

雪を嫌った痛み。

リオンが抱えてきた赦しの歪み。


——それらすべてが結晶化した、“泣き声”そのもの。


●演出


・刀身に刻まれた紋様がひとつ震えるたび、

 周囲の雪片が吸い寄せられ、光へと変質していく。


・刃が揺れると、

 世界の静寂を破るように、澄んだ“泣き音”が鳴り響く。

 泣くことを許されなかった時間を取り戻すような音。


・白蒼の炎とも風ともつかない光が刀身を纏い、

 光は波紋のように広がって空間の“静止”を溶かしていく。


リュミナが微かに眉を寄せた。

雪神にとって理解できない“動く雪”の象徴が、

エリゼの手の中に確かに存在してしまった事実に。


エリゼは、震える指でその柄を握る。


《白哭》は、まるで泣き声で彼女を迎えるように——

**しん……**と、優しく震えた。


音のない世界に、ありえない揺らぎが走った。


天空層には“音”という概念そのものが存在しない。

風も、雪も、呼吸すらも、ただ静止している。

だから本来——何も響くはずがない。


しかし。


エリゼの手の中で揺れる《白哭》が、

ひときわ強く脈動した瞬間。


しん——……


雪片ひとつが震えるような、

涙が落ちて広がる波紋のような、

言葉でも音でもない“響き”が空間を満たす。


そして――


その揺らぎは、

やがて明確な“声”へと変わった。


《白哭》(泣き音と響声の中間)

「――泣いたままでいい。

 泣きながら、走れ。」


世界が……揺れた。


・静止していた雪片がひとつ、わずかに傾く

・空膜に走っていた裂け目が、音もなく震える

・リュミナの結界に淡い“しわ”が刻まれる


雪神の領域で唯一、

静寂を破ることを許された声。


リュミナの銀瞳が細く揺らぐ。


リュミナ

「……その声は……雪ではない……?」


世界の理がひっくり返される瞬間を、

エリゼはただ、涙の滲む目で見つめていた。


その涙さえ——

《白哭》の光のなかで優しく震え、

“走る理由”へと変わりつつあった。



静止した世界で、

ただ一人“動かないはず”の存在――雪神リュミナ。


その銀の瞳が、

かすかに 揺れた。


それは風でもなく、雪でもなく、

ましてや“感情”などという人間の揺らぎですらない。


この世界に本来、存在してはならない乱れ。


リュミナ

「……その声は……雪ではない……?」


その声音には怒りも驚きもない。

ただ、理が崩れたときに生まれる純粋な戸惑いだけがあった。


《白哭》の声は、雪の概念を外れたもの。


雪ではない。

吹雪の悲鳴でも、氷の軋みでもない。


雪から流れ出たものではなく——

雪を“嫌いなまま”、それでも走り続けた少女の涙と速さから生まれた声。


世界のどの層にも位置づけられない新しい存在。

静寂でもなく、赦しでもなく、痛みでもない。


リュミナ

「雪が……生んでいない……?」


エリゼの足元に散る雪片が、

重力を無視したようにふわりと“彼女のほうへ”寄っていく。


それは、雪神の意志ではなく――

エリゼの速さに引かれるような動き。


リュミナの白い睫毛が震えた。


リュミナ

「……雪ではない概念が……雪に触れている……?」


世界の凍った因果律に、細かなひびが走る。


雪神の理を外れた瞬間――

エリゼはついに、“雪の静寂”そのものを揺らしたのだ。


静止世界。

動くはずのない雪片が、エリゼの一歩に合わせてかすかに震えた。


彼女は涙で濡れたまま、

胸の前に《白哭》をそっと構える。


その刀身は、まるで彼女の呼吸と一緒に震えていた。


エリゼ

「雪は止まらない!」


静寂の世界に、言葉だけが鋭い光となって走る。


エリゼ

「止まらない雪が、私をここへ連れてきたの!!」


声が震えている。

けれど、それは恐れではない。


痛みと、怖さと、悔しさ。

その全部を抱えたまま、走ってきた速さ。


エリゼ

「……痛くても、怖くても……

 それでも走りたい私を、止められなかった!!」


《白哭》が眩しいほどに白蒼の光を放つ。


刀身の刻印が一斉に脈打ち、

彼女の言葉に呼応するように――


“雪の意味”を書き換える新しい律動が世界へ染み出していく。


静止の雪世界を守るはずの理が、

少女の涙混じりの声に揺さぶられ、軋みを上げた。


雪は止まらない。

止まらない雪が、エリゼをここへ導いた。


彼女がその意味を言葉にした瞬間、

世界はもう、雪神リュミナの“静寂”だけでは保てなくなっていた。


エリゼの頬を伝い落ちた涙が、

《白哭》の刀身に触れた瞬間だった。


――キィン。


静寂しか存在しないはずの天空層に、

澄んだ“始まりの音”が走る。


涙が刀身に吸い込まれ、

蒼白の光が内部から咲くように広がっていく。


●世界の変化


光は波紋となって空間全体へ拡散し、

その触れた場所から――雪が変わった。


・静止していた雪片が、淡い光粒へ溶ける

・動くはずのなかった雪が、ゆっくり“流れ”はじめる

・冷たさだけだった世界に、かすかな温度が生まれる

・紫蒼の空膜が柔らかく脈打ち、呼吸を取り戻す


まるで、

“雪に心が芽生える”瞬間を見ているようだった。


リュミナの銀の瞳が大きく開く。


リュミナ

「……これは……雪……では……?」


静止の理を守ってきた雪神の声が、初めて震えていた。


エリゼは《白哭》を抱くように握りしめ、

涙の跡を拭わずに静かに答える。


エリゼ

「“私にとっての雪”だよ。」


その言葉はささやきのようだが、

この世界のどんな雪よりも、深く、強く響いた。


静寂の雪ではない。

痛みを知り、涙を知り、それでも流れ続ける――


新しい雪。エリゼの雪。


天空層の温度が上がり、

世界はもう静止ではいられなくなっていた。


世界が――揺れた。


静止しか知らなかった天空層に、

はじめて“動き”という概念が流れ込んだ。


エリゼの涙が《白哭》へ染み込み、

その光が雪を“流れ”へ変えた瞬間。


雪はもう、

リュミナが定めた「永遠の静寂」ではない。


雪は――


痛みを抱えたまま走る者の涙で、はじめて“動く”もの。


天空層の雪が、エリゼの意思に応えるように

淡い光を引きながら流れはじめる。


止まっていた世界が息を吸い、

静寂を本質としていた雪神リュミナの瞳に、

理解ではなく“動揺”が宿った。


リュミナ

「……雪が……動いている……?」


エリゼは振り返らない。

ただ《白哭》を握りしめ、胸の奥で脈打つ七心臓の震えを感じていた。


エリゼ

「雪は……止まらない。

 私が泣いたまま走った分だけ、動いてくれたんだ。」


その瞬間、

世界の法則が“書き換わった”。


雪とは静寂ではなく、

赦しでも断罪でもない。


――痛みごと抱え、

  それでも前へ進もうとする者の意志そのもの。


これこそが、

《白哭》完全覚醒の本質。


雪の意味は、少女の涙と速さによって再定義されたのだ。


――世界が、崩れはじめた。


静止していた雪神リュミナの領域に、

はじめて“動き”が生まれたことで、

この天空層の法則そのものが軋みを上げている。


雪片はもはや止まらない。

光の粒へ変わり、川のように“流れ”となってエリゼの足元へ集まっていく。


その流れはやがて一本の道となり、

天逆流走の最深域――

世界の底へ向かう滑走路を形作っていく。


リュミナの衣を構成していた静止雪がほどけ、

その銀の瞳に、ありえない“揺らぎ”が宿った。


それは感情。

ほんの欠片。

雪神本来の理からすれば存在しないはずの揺れ。


リュミナ

「……ならば――証明しなさい。」


声が、静寂を破って落ちる。


リュミナ

「その雪が……本当に速いのか。」


エリゼは《白哭》を握り、

七心臓の律動とともに足を前へ出す。


光流の道が応えるように震えた。


次の瞬間、

世界の深底へ向けて――

最終滑走《天逆流走》の突破戦が幕を開ける。






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