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《Snowboard Chronicle:Seven Hearts of Snow》 ――雪を嫌う悪役令嬢、世界を滑る。  作者: 南蛇井


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主題衝突 ― “雪は止まらない” vs “雪は永遠の静寂”

エリゼは、胸の前で震える指先をそっと押し当てた。

《雪翼》がゆっくりと律動する。淡い蒼白の光が、彼女の鼓動に合わせて脈打った。


その瞬間だった。


足元に漂っていた一粒の雪片が、

――かすかに震えた。


音も風もない世界で、雪が動くはずがない。

ましてこの天空層は、雪神の支配する“完全静止”の領域。

物が触れたところで、熱が伝わったところで、

動きの概念そのものが排除される空間。


なのに。


ふるり、と揺れた。


エリゼは息をのむ。

世界のどこにも風の気配はない。

空は紫蒼の薄膜のまま止まり、雪は銀の粒となって浮いたまま凍りついている。

けれど――たった一粒だけ。


彼女の鼓動に呼応するように、

“動いてしまった”。


《雪翼》が、ぱち、と強く鼓動した。

蒼白の光が彼女の背の奥でわずかに滾り、

静寂の空間へと染み出していく。


世界が静止している中で、

エリゼだけが確かに“動いている”。


その事実が、この凍りついた空域に最初の揺らぎを刻んだ。


胸に置いた手がまだ震えている。

けれど、その震えは恐怖のものではなかった。

自分の中から溢れ出す“答え”が、声になろうとしているだけだった。


エリゼは、静止した雪の世界をまっすぐ見据えた。


「……雪は、止まらない。」


声はか細く、それでいて確かに熱を持っていた。


「だって……風と一緒に流れて……

 心と一緒に動いて……

 私のボードの上で、走り続けてる!」


その瞬間――。


世界が、揺れた。


音のない空間で、静止していた雪片が

サッ、と“流れかけて”――しかし、ここが静止世界であるがゆえに、途中で押しとどまる。

それでも、“動こうとした”事実は消えない。


紫蒼の空膜に、微光の脈が走る。

まるで、この層全体が一拍だけ“息を呑んだ”かのよう。


そして――


リュミナの衣を構成する雪片が、

神の意志とは関係なく ふるり、と乱れた。


雪神の瞳が細められる。


エリゼの言葉。

彼女の速さ。

彼女の“雪への定義”。


それらが、静止世界の根幹へと干渉し――

この層の絶対法則を、書き換えはじめていた。


エリゼの言葉に揺れた世界。

その揺らぎの中心にいるリュミナは――

初めて、静寂の膜を破って“視線を上げた”。


銀の瞳が、わずかに揺れる。


この世界で、揺れは異常だ。

雪神リュミナは揺らがない。

本来、揺れてはならない存在だ。


だが今は、確かに揺れていた。


リュミナ

「それは、あなたが“傷の上で走っている”だけ。」


言葉は淡々としている。

けれど、その中心に冷たい焦りがひそんでいるのを、エリゼは感じた。


リュミナ

「雪に赦されぬまま走れば、いずれ止まる。

 どんな速さも……痛みを越えられない。」


雪片が、リュミナの周囲だけ再び“静止”を強める。

彼女がこの世界の法則を優位に戻そうとしている証。


エリゼには理解できなかった。

どうして雪が止まらないといけないのか。

どうして動くことが、そんなに“禁忌”なのか。


だが――リュミナの心の奥はもっと狂おしい。


●心理構造(行間)


リュミナにとって雪とは、

“静寂”であり“停止”であり“終わりそのもの”。


雪が動けば、静寂が壊れる。

静寂が壊れれば、自分という概念そのものが崩壊する。


つまり、エリゼの速さは――

リュミナの存在意義そのものを否定する “死の宣告” に等しい。


だからこそ、彼女は言わずにはいられない。


リュミナ

「あなたの速さは、世界の理を乱す。」


銀の瞳が細められ、

静止した世界がエリゼだけを拒むように、冷たく、硬く、圧を帯びる。


雪神と少女。

“雪の定義”そのものを巡る戦いは、すでに始まっていた。


リュミナの静寂が押し寄せ、

この世界の全てが「止まれ」と命じてくる。


だが――エリゼは胸に手を当て、震える息を整えた。


逃げるように走ってきた日々。

雪が怖くて、痛くて、憎くて。

それでも止まれなくて――

“なぜ走るのか”なんて、一度も言葉にしたことがなかった。


だからこそ。


今、この場所で。

雪そのものが否定してくるこの世界で。


初めて、言葉になる。


エリゼ

「違う!!」


静寂を裂く声だった。


エリゼ

「私は――“赦されるために”走ってない!!

 雪が怖くても、嫌いでも……

 それでも、走るために走るの!!」


瞬間。


世界が――揺れた。


●演出


・静止していた雪片が、一斉に“エリゼへ向かって流れ出す”

 動きたかったように、ずっと抑え込まれていたように。


・リュミナの足元の静止結界に、

 細く、鋭い“亀裂”が入る。

 雪神が保っていた完璧な静寂に、初めての破損。


・天空層を覆う紫蒼の膜が

 **「ビン」**とガラスのように震え、

 まるで否応なく“動き”を認めさせられたかのように反響する。


それはただの反論じゃない。


エリゼという存在そのものの主張――

凍りついた世界に突き立てた、たったひとつの“速さの定義”。


走る理由は、赦しでも贖罪でもない。

生きるために走る。それだけ。


その核心が、静寂の世界を揺さぶり、

雪神リュミナの瞳に、初めて“理解できないもの”への色を灯した。


静止世界に響く声は、本来ありえないはずだった。


雪は止まり、時間は閉じ、風は存在を忘れ――

この天空層では、どんな叫びも“凍る”のが理。

それでも。


エリゼの声は、凍らなかった。


胸の奥底で長いあいだ言えなかった言葉が、

雪神の前でようやく形を持った。


エリゼ

「違う!

 私は――“赦されるために”走ってない!!

 雪が怖くても、嫌いでも……

 それでも、走るために走るの!!」


その一瞬。


世界が、呼吸を思い出した。


●世界反応


——止まっていた雪片が、一斉に震え、

  エリゼの方向へ向かって流れかける。

  まるで“そちらへ行きたい”と意志を持ったかのように。


——リュミナの足元の静止結界に、

  ピシッ……!

  細く、鋭い亀裂が走る。

  完璧な静寂がはじめて破れた音。


——天空層の紫蒼の膜が、

  「ビンッ」

  硬質ガラスのように高く共鳴し、

  静止しかけた世界そのものが揺り動かされる。


風のない世界で、風が生まれかける。

動くはずのない雪が、動こうとする。

雪神リュミナの瞳に、初めて“理解不能”の色が灯る。


エリゼの思想が、

ただの言葉ではなく――


静寂の理を揺さぶる速さになった。


この瞬間、天空層の支配は揺らぎ、

“雪は止まるもの”という絶対の原理が、

彼女の意志ひとつで崩れ始めていた。


静止世界が揺らいだ余波はまだ収まらない。

雪片は落ちもせず、舞いもせず――

ただ“動こうとする衝動”だけを帯びて震えている。


その中心に立つエリゼは、胸を押さえ、呼吸をひとつ飲み込んだ。


リュミナの言葉は、彼女を赦さないためのものではない。

本質的には――“雪を静寂へ戻すための殺意”だ。


だが、エリゼはその正しさに従わなかった。

従えなかった。


そして今、彼女の思想が“形”になろうとしている。


エリゼ

「……私は、雪を好きになったわけじゃない。

 赦したわけでもない。

 痛いって、まだ思ってる……!」


言葉が吐き出されるたびに、

周囲の雪片が“ビクリ”と痙攣し、

止まった世界に微かな亀裂が走る。


エリゼ

「でも――それでも、走るんだよ。

 痛くても、怖くても、赦されなくても……

 私は、それでも前に進む。

 それだけが、私の速さだから!」


ここで、理念が完全にひっくり返る。


●エリゼの速さの正体

それは赦しを求めるものではなく、

赦されないまま走り続ける“痛みごとの速さ”。


・雪を好きになる必要はない。

・雪を赦す必要もない。

・過去を忘れる必要もない。


ただ、止まらない。


世界のどこにも救いがなくても、

痛みを抱えたまま、それでも踏み出す。


その意志こそ――

雪神リュミナの静寂と、絶対に噛み合わない速さ。


リュミナの瞳が、雪の光を失っていく。

神ですら理解できない価値観。


リュミナ

「……赦されぬまま走る速さなど……

 存在してはならない。」


エリゼの足元で、雪片が“そっと揺れる”。


止まった世界が、

彼女の意志に触れて――動こうとしていた。

リュミナがまぶたを伏せ、

静かに息を吸い込む“ように見えた”。


雪神は呼吸などしない。

呼吸とは、動く者の行為だからだ。


それでも――吸った。

ほんのわずかだが、世界の静止が揺れた。


紫蒼の空膜が微かに震え、

その表面に “第二の亀裂” が細い稲妻のように走る。


静寂の女神は、声を落とす。


リュミナ

「……その速さは、雪を壊す。」


それは事実の宣告ではない。

神が初めて“感情に似たもの”を滲ませた拒絶だった。


リュミナ

「あなたは雪の理から外れた存在。

 ここへ来た時点で、もう還れない。」


その瞬間――世界が脈動した。


●反応1:空膜の揺らぎ

空全体が波紋のようにたわみ、

第二の亀裂がゆっくりと広がり始める。


●反応2:雪片の異常挙動

止まっていた雪粒が、

なぜか“上へ向かって”動こうとし――

一瞬だけ浮き、そのまま硬直する。


雪は落ちるものだ。

この世界では落ちも揺れもしない。

だが今、“上へ行こうとした”。


静寂の理が、エリゼの存在に干渉されている。


●反応3:《雪翼》の変化

エリゼの背の《雪翼》が、

蒼白を混ぜた光を強く脈動させる。


止まった世界に反発するように、

“動くための鼓動” を世界へ叩きつけるように。


エリゼは拳を握りしめた。

神の拒絶は、恐怖ではなく――

「理解されない痛み」への応答だった。


エリゼ(小さく、しかし確かに)

「……私は還らない。

 ここまで来たんだ。

 雪が怖くても、嫌いでも……

 私は……動きたいんだ。」


静止世界で、動く意志が生まれる。


それが、雪神リュミナが最も恐れる“始まり”だった。



リュミナは、もう一度エリゼを正面から見据えた。

その銀の瞳には、感情ではない――

“概念の純度”だけが宿っている。


静寂そのものが、言葉を発した。


リュミナ

「雪は永遠の静寂。

 動く雪は、雪ではない。」


その瞬間、天空層が――“固まった”。


●世界反応

・紫蒼の空膜に走った亀裂が、一気に網の目となる

・雪片は完全停止を超えて“凍結のさらに外側”へ

・空気の流れすら、リュミナの言葉に従うように硬化


まるで世界そのものが、

“雪とは止まるもの”という定義に強制的に沿おうとする。


エリゼは息を呑んだ。

胸の《雪翼》がぎゅっと縮むように震える。


エリゼ(心の声)

「……雪が動くって信じたら……

 私の存在そのものが、雪を傷つけるっていうの……?」


リュミナは静かに、だが絶対的に告げる。


リュミナ

「あなたは、雪の理を破った。

 あなたの速さは、静寂を壊す。」


その声音は淡々としているのに、

エリゼにとっては“存在否定”そのものだった。


なぜならエリゼの速さは――

雪を赦さず、それでも走り続けた心そのものだから。


●対立構造が完成する


・リュミナ:雪=止まるもの。静寂こそ雪の本質

・エリゼ:雪は動く。痛くても、怖くても、走れる


この二つは並び立たない。

どちらかが正しければ、もう片方は“存在してはいけない”。


だから――戦いは避けられない。


天空層の空膜が大きく軋む。


雪片がゆっくりとエリゼの周囲に集まり、

リュミナの背後で“静寂の螺旋”を描き始める。


リュミナ

「あなたが動こうとする限り、

 わたしは――止める。」


エリゼは、一歩前へ滑る。

怖さよりも、痛みよりも、

“走りたい”という意志が強かった。


エリゼ

「……止まらない。

 私の雪は……もう止まれない!」


静止の神と、疾走の少女。


互いの存在理由そのものを賭けた

“最終滑走”は、ここに必然として成立した。


紫蒼の天蓋に走った亀裂が、まるで巨大な裂傷のように広がっていく。

天空層の“静止”が崩れ出し、世界がぎしりと軋んだ。


エリゼの足元で──

雪片が上へ落ちた。


落下ではない。

上昇でもない。

ただ、重力という概念そのものが“裏返った”。


エリゼ(心の声)

「……重力が……逆転してる……?」


空膜の裂け目がさらに開き、

上下の区別を拒むように光が乱反射する。

静止世界の規則そのものが瓦解を始め、

その中心で――風のないはずの場所に、かすかな流れが生まれる。


それは、後に名を持つ技の前兆。


天逆流走てんぎゃくりゅうそう

天空を逆方向へ“落ちていく”ように滑り抜ける、

この世界の理すら飲み込む滑走法。


リュミナはゆっくりと腕を広げ、

静止した雪片が彼女の周囲へ螺旋状に集まる。


リュミナ

「証明しなさい。

 雪が動くというのなら――

 雪神を越えてみせよ。」


音のない声が、エリゼの胸を刺す。

しかしもう、彼女の心は揺れなかった。


エリゼは深く息を吸い込み、目を閉じる。

静寂が、彼女の鼓動だけを浮かび上がらせる。


《雪翼》が、蒼白の光をひとつ強く脈動させる。


エリゼ

「……雪は止まらない。

 私が……止まらせない。」


目を開いた瞬間――

静止世界の雪片が一斉に震え、

重力の層が反転し、

天空そのものが“滑走路”になった。


雪神リュミナとの最終滑走が、ここから始まる。





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