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《Snowboard Chronicle:Seven Hearts of Snow》 ――雪を嫌う悪役令嬢、世界を滑る。  作者: 南蛇井


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37/51

教皇との対面 ― “救済の名を借りた罰”

審判の大聖路を抜けた瞬間、エリゼは息をのむ。


 ――音が、消えた。


 足音も、風の気配も、胸の鼓動すら吸い取られるように静まり返る。

 白い光が世界のすべてを塗りつぶし、方向の概念が消えていく。

 雪のようで雪ではない。光のようで光ではない。

 ここは、時間が凍りついた“白の底”。


 空気は冷たいわけではない。

 ただ、呼吸そのものを拒んでくる――そんな質感だった。


 視界の中心に、ひとつだけ異物のような影がある。


 塔にも見える、巨大な雪柱。その頂で、誰かが静かに祈っていた。


 白い神衣が、風もない空間で揺れる。

 氷のような髪は透き通り、その背に落ちる影すら淡い。


 その全身が、雪の精巧な彫像のようでありながら、

 瞳だけは深い碧の光を宿していた。


 振り返ることもなく、その存在は囁く。


「……来なさい。

 呪雪の子、エリゼ・スノウフィールド。」


 その声は、美しく――残酷だった。


 王国すら従える、聖雪教の頂点。

 教皇アズラ・スノウ=ルクス。


 白光の空間で、ただ一人動いているのは彼女だけ。

 その立ち姿ひとつで、エリゼの《雪翼》が微かに震える。


 まるで――

 雪そのものが、彼女の意志に従って流れているかのようだった。



エリゼが白光の空間に足を踏み入れた瞬間、

 世界は呼吸をやめた。


 音が死ぬ。

 風も止む。

 ただ、雪のような静寂だけが舞い落ちる。


 巨大な雪柱の上で祈りを捧げていたアズラが、

 ゆっくりとその瞼を上げた。


 動作は、人間のものとは思えないほど滑らかだった。

 雪片が重力を忘れて落ちるような、不自然な静けさ。


 そして――微笑む。


 あまりにも美しく、あまりにも冷たい微笑み。


「雪を赦せぬ者よ。」


 その声は、氷に触れた金属のように澄んでいた。

 一切の温度を持たず、ただ“純白という名の罰”だけを孕んでいる。


「その心臓は、空にも風にも――不要。」


 たった一言。

 けれどエリゼの胸に突き刺さる音は、剣よりも鋭かった。


 《雪翼》が震える。

 鼓動が、かすかに乱れる。


 アズラは続けた。


「赦せぬ者に、速さは宿らない。

 あなたはただ……雪を汚し、世界を傷つけるだけ。」


 その瞬間、白光がわずかに揺らぎ、

 まるで空間そのものがアズラの言葉を肯定するように、

 エリゼを拒む冷気を漂わせた。


 その声は祝福ではなく――宣告だった。


 エリゼが白光の空間に足を踏み入れた瞬間、

 世界は呼吸をやめた。


 音が死ぬ。

 風も止む。

 ただ、雪のような静寂だけが舞い落ちる。


 巨大な雪柱の上で祈りを捧げていたアズラが、

 ゆっくりとその瞼を上げた。


 動作は、人間のものとは思えないほど滑らかだった。

 雪片が重力を忘れて落ちるような、不自然な静けさ。


 そして――微笑む。


 あまりにも美しく、あまりにも冷たい微笑み。


「雪を赦せぬ者よ。」


 その声は、氷に触れた金属のように澄んでいた。

 一切の温度を持たず、ただ“純白という名の罰”だけを孕んでいる。


「その心臓は、空にも風にも――不要。」


 たった一言。

 けれどエリゼの胸に突き刺さる音は、剣よりも鋭かった。


 《雪翼》が震える。

 鼓動が、かすかに乱れる。


 アズラは続けた。


「赦せぬ者に、速さは宿らない。

 あなたはただ……雪を汚し、世界を傷つけるだけ。」


 その瞬間、白光がわずかに揺らぎ、

 まるで空間そのものがアズラの言葉を肯定するように、

 エリゼを拒む冷気を漂わせた。


 その声は祝福ではなく――宣告だった。


アズラの声が落ちた瞬間、

 エリゼの胸で《雪翼》がびくりと跳ねた。


 まるで“拒絶された”と理解したかのように、

 蒼光が乱れ、翅の輪郭が不規則に明滅する。


 風が――離れていく。

 さっきまで寄り添っていた空の呼吸が、すっと遠のく。


 背中が急に重くなり、

 胸の中央に冷たく硬い“氷核”ができたような感覚が走る。


 アズラの声は優しい。

 優しいのに、痛い。

 優しいからこそ、逃げ場がない。


「その心臓は、不要。」


 エリゼの足元が揺れた。


 息が浅くなる。

 視界が白く滲む。

 膝が震えて、立っていることすらどこか他人事に思えた。


 胸の奥から、忘れたはずの声が蘇る。


『雪は人を選ぶ。選ばれない子は、凍えるだけだよ。』


『エリゼ。あなたは雪に嫌われているの。』


『もう滑らなくていい。もう痛い思いをしなくていい。』


 過去の残響が、断罪装置の幻影より残酷に胸へ押し寄せた。


 彼女の内側で、なにかが音を立てて砕ける。


 ――そうだ。

 私は、雪を赦せなかった。

 風に抱かれたつもりで、まだどこかで怯えていた。


 だから。


 だから、あの人は言ったのだろうか。


「……“不要”?」


 かすれた声が漏れる。


 喉が痛い。

 胸がもっと痛い。

 《雪翼》の鼓動が弱まる。

 脈動に乱れが生じ、氷の縛りが体の内側から広がっていく。


 ――私は……

 私の心臓は……

 本当に、いらない……?


 自分の問いが、自分の胸を最も深く突き刺した。


 そしてエリゼは、凍結寸前の静寂の中に沈んでいった。


エリゼの動揺を、アズラはひどく穏やかな表情で見つめていた。

 まるで、庭に咲く花が散る瞬間を慈しむように。


 静かに、声が落ちる。


 アズラ

 「雪を憎む子よ。

  あなたの心臓は、永遠に傷つき続ける。

  

  ――ならば、雪へ還りなさい。

  痛みも、苦しみも、もう抱えずに済む。」


 その声は柔らかい。

 聞きようによっては、母親が眠る子へ語りかけるようですらあった。


 だがそこに救いは一片もない。

 “救済”という語の仮面をかぶった、完璧な破壊だった。


 アズラの瞳は深い碧。

 透明な氷の底から浮かび上がる冷たい光が、

 エリゼの胸に刻まれた《雪翼》の乱れを確かに見据えている。


 アズラ

 「雪は赦し。

  赦しとは献身――すなわち、沈黙。」


 白い空間が、ゆっくりと軋むように反応する。

 まるで聖堂そのものがアズラの信条を肯定しているかのように。


◆“赦し”の正体


アズラの思想はこうだ。


 苦しむ者の声は、雪に届かない。

  ならば、その声を奪ってしまえばいい。


 それが彼女にとっての“赦し”であり“救い”。


 ――痛む心臓は不要。

 ――泣く心は雪へ沈め。

 ――苦悩は供物として捧げよ。


エリゼの震えを、アズラはまるで祝福の証のように受け取っていた。


 アズラ

 「あなたは雪を憎んでいる。

  だからこそ、もっとも純粋な贄となる。

  雪は、憎む心を好むのです。」


 その一言で、すべてが線で繋がる。


◆世界がエリゼを追った理由


王国軍が動き、聖雪教が全権を握り、

空翔族すら封鎖された理由。


それはエリゼが罪人だからでも、災厄を生むからでもなかった。


“最も純度の高い雪の供物”として、教皇が指名したから。


ただそれだけ。

ただ、エリゼの苦しみが美しいと。

ただ、彼女の心臓がよく沈むと。

ただ、彼女が“憎む雪”を雪へ捧げる儀式にふさわしいから。


それだけの理由で、世界は彼女を追い詰めたのだ。


 アズラ(微笑を深めて)

 「さあ、エリゼ。

  あなたの痛みを捧げなさい。

  雪は――きっと優しく迎えてくれます。」


その優しさが。

その静けさが。

その慈悲の形をした“処刑宣告”が。


エリゼの胸の《雪翼》を、

ゆっくりと、確実に凍らせていった。



◆エリゼの揺らぎ ― “心の底に触れる刃”


 アズラの言葉は、外側から刺す鋭利な刃ではなかった。

 内側で、ずっと刺さりっぱなしだった棘そのものを、そっと撫でるような言葉だった。


 だから逃げ場がなかった。


◆胸を締め付ける連鎖する記憶


 母の手が雪に沈んだ瞬間。

 あの日の赤い雪面。

 それを前に、ただ震えて立ち尽くす幼い自分。


 その全てが、エリゼの胸の奥で鈍く脈打っている。


 風を掴むたびに蘇る痛み。

 《雪風》を得ても、《雪翼》を得ても、

 消えないまま残った“赦せない雪”。


 アズラはそこを、正確に、微笑みながら言い当てた。


◆アズラの言葉が、心臓を揺らす


 アズラ

 「雪を赦せぬ者に、風の心臓は不要。」


 その言葉は、外から押される判断ではない。

 エリゼ自身が一番よく知っていた“自分への疑い”と完全に重なっていた。


◆エリゼの心の声


 足元の白い空間がゆっくりと揺らぐ。

 壁も天井もない、無限の白光が波紋のように歪む。


 エリゼは唇を噛んだまま、胸元を押さえる。


 エリゼ(心の声)

 「私は……雪を赦せない。

  憎んでる。

  ずっと……ずっと……。

  

  なのに……

  雪を速さに変えて走りたいなんて……

  本当は、許されない……?」


 吐き出した声は震え、空中で形を失って消えていった。


◆《雪翼》の乱れ


 背中の《雪翼》が、まるで迷っているかのように震動する。

 蒼い光が白く濁り、薄い氷膜のようにきしむ音が響く。


 エリゼの心臓の脈動と不協和音を起こしながら、

 翼は“揺らぎ”の中に沈んでいく。


 風との共鳴は途切れ、

 雪の記憶だけが、胸の奥で冷たく重く残る。


 その瞬間――

 エリゼは、これまでのどの戦いより深い“凍結寸前”の状態へと落ちかけていた。




◆教皇の“最後通告” ― “赦しの名をした処刑”


 白い世界に、アズラの影が音もなく降り立つ。


 その歩みは静かで、雪の上に足跡さえ残さない。

 ただ、触れる空気だけが淡く凍っていく。


 エリゼの目の前まで来たアズラは、微笑んだまま告げる。


◆アズラの宣告


アズラ

「雪は罪ではない。

 だが――“雪を憎む心”は罪。」


 その声は柔らかいのに、

 雪柱を割るほど強い“絶対”を含んでいた。


アズラ

「あなたはそれを抱き続ける限り、

 空の速さを持つ資格は無い。」


 エリゼは息を呑む。

 胸の奥の《雪翼》が小さく震え、光を失いかける。


◆“赦し”ではなく“沈める手”


 アズラの白い手が、まっすぐ伸びる。

 雪でできたようなその指先が、エリゼの胸へ触れようとする。


アズラ

「――その心臓、雪へ還しなさい。」


 その瞬間、空間の温度が一気に下がる。

 まるで世界全ての雪がエリゼの胸へ引き寄せられるようだった。


 胸の奥が強烈に痛む。

 《雪翼》が亀裂を走らせ、蒼光が白へと濁っていく。


 触れられたら終わる。

 翼は砕ける。

 心臓は凍り、二度と風を掴めなくなる――


◆しかし――


 アズラの指先が、エリゼの胸に触れた“その瞬間”。


 凍りつくはずの《雪翼》が――凍らなかった。


 蒼光が、逆に激しく瞬いた。


 白い罪の冷気を押し返すように、

 胸の奥から“風の脈動”が噴き上がる。


 アズラの瞳が、初めて揺れた。


アズラ

「……これは――?」


 彼女の手がわずかに弾かれる。

 エリゼの胸から、蒼い粒子が噴き上がり、白光に裂け目を走らせた。


◆エリゼの心臓が、拒絶ではなく“抵抗”を選んだ。


 凍結するはずの《雪翼》が、微かに震えている。

 砕ける寸前だったはずの心臓が――揺らぎの中から、脈動を取り戻しつつあった。


 まだ声にならない。

 まだ言葉にはならない。


 けれど。


 エリゼの胸は、確かに言っていた。


 “私はまだ――終わらない。”


◆“リオンの乱入”の予兆 ― 氷の破砕音


 アズラの白い指先が、再びエリゼの胸へ迫る。


 今度こそ防げない。

 《雪翼》の光は揺らぎ、膝は震え、呼吸は雪の底へ沈んでいく。


 ――触れられたら終わる。


 その瞬間。


 ガァァンッ!!


 白い静寂を切り裂く、激烈な破砕音が

 大聖路の奥――エリゼが走り抜けてきた方向から轟きわたる。


 聖堂全体が震える。

 積もった霜が天井から雪崩のように落ち、

 断罪の白光はかき消された。


 アズラの指先が、ほんのわずか止まる。


 その刹那――

 エリゼの心臓が、“戻ってきた世界の音”に呼応して、強くひとつ脈動した。


エリゼ(微かな息)

「……今の……音……?」


 冷たく沈みかけていた瞳に、

 たった一滴の、色が戻る。


 ――助けに来る。

 言っていた。

 必ず、また会うと。


 記憶の奥で、風を震わせて届く声。


リオン(幻でも、記憶でもない気配)

「エリゼ……そこにいるんだろ?」


 まだ姿は見えない。

 まだ名前も呼ばれない。


 だが、確かに“風の流れ”が変わった。


 アズラが眉をひそめ、静かに振り向く。


アズラ

「……来たか。

 雪に逆らう愚か者が、もうひとり。」


 エリゼは息を吸い込む。

 凍りついた胸に、かすかな熱が戻っていく。


 そして――


 物語が次の瞬間、激突へと動き出す。


 大聖路へ砕け落ちる氷塊の向こうで、

 誰かの影が、白光の裂け目を踏みつけていた。







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