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《Snowboard Chronicle:Seven Hearts of Snow》 ――雪を嫌う悪役令嬢、世界を滑る。  作者: 南蛇井


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王国軍の封鎖 ― “空の雪葬”

雲冠峰の高空域から降りてくるにつれ、エリゼは胸の奥を締めつけるような違和感を覚えていた。

あれほど自由に歌っていた風が――まるで、息を潜めている。


麓の谷に近づくにつれ、その違和感は確信へ変わる。


風が、死んでいた。


滑走を助けるはずの追い風も、頬を撫でるはずの凍気もない。

季節外れの無風。吹雪の谷が“静止画”のように凍りつき、空気そのものが死んだように沈黙している。


リオンは滑走を止め、眉間を押さえるようにして周囲を見回した。


「……風の流れが……切れてる。」


そんなはずはない。

この北方山脈は、常に乱流が走り、風鳴りが絶えない――はずなのに。


さらに異様なのは、音の消失だった。

どこか遠くで聞こえてくるはずの風笛の響きすらもない。


完全な沈黙。


その沈黙の向こうから、白い霧が無音で押し寄せてくる。

吸い込まれるように谷へ流れ込み、その先には――うっすらと光が格子状に絡み合う“歪んだ空”が浮かんでいた。


幾何学的な光の網。

六角形が幾重にも連なり、まるで天空を“押しつぶす”ように広がっている。


エリゼは息を呑んだ。


(……風が、逃げてる?)


恐れや怯えではない。

風そのものが、この空域から“退避”したかのような気配。

自然ではありえない。

これは――意図だ。誰かが、風の道を封じたのだ。


白い霧が、ふたりの前に重く降りてくる。

その奥に広がる光の網は、まだ何も語らない。

だが、確かに告げていた。


――この空はもう、誰のものでもない、と。



霧が――裂けた。

まるで見えない刃で切り裂かれたかのように、静かに、しかし決定的に。


その向こうに広がっていた光景に、エリゼは思わず息を飲む。


 


●空の封鎖 ― 氷結バリアスノウ・セイル


大空一面に、幾何学模様が広がっている。

いや――“広がっている”のではない。空が、塞がれているのだ。


大小無数の魔導氷柱が宙に浮遊し、その先端同士を光の糸で繋いでいる。

それらが六角形の光膜となり、巨大な氷のハニカム状空壁を形成していた。


風は通れない。

雪は砕ける。

空翔族が誇る風翼でさえ、突破できる隙間はどこにもない。


完全封鎖。


リオンは言葉を失ったように空を見上げ、茫然とつぶやく。


「……王国軍が、本気で空を閉じた……?」


その声は震え、怒りとも悲しみともつかない感情が揺れていた。


エリゼは胸の奥がひやりと掴まれるのを感じる。

空翔族の領域を越えて――王国が雪山全域を“空から葬る”つもりでいる。


 


●地上 ― ホワイト・オーダー降臨


封鎖空壁の下。

白い谷一帯に、戦列が整然と並ぶ。


白銀の兵装。

雪結晶を模した盾。

滑走用のブレードと祈祷刻印を刻んだ槍。


――滑走兵団ホワイト・オーダー


聖雪教直轄、王国最強の滑走戦闘部隊。

その滑走は戦闘のために最適化され、祈りと殺意が一体となった“白の軍楽”。


兵団長が一歩前に出る。

面頬越しに光る瞳は、冷たい正義と確信だけを宿していた。


「呪雪の徒――エリゼ・スノウフィールド。」


エリゼの胸がきゅっと鳴る。


兵団長は槍を水平に構え、谷に響く声で宣告した。


「雪を汚した罪により――

 ここに断罪を執行する!」


その瞬間、兵団全員が一斉に滑走姿勢へと移行。

白銀の槍先が、エリゼただ一人へ向けられる。


空は塞がれ、地は包囲された。


逃げ道は、どこにもない。


「……エリゼ、あれを見ろ。」


シルヴァが静かに指を上げる。

その声音には怒気も焦りもなく、ただ重く、冷えた現実だけが滲んでいた。


エリゼが空を見上げると――

氷結バリア陣の中心部に、巨大な“光の布告幻影”が浮かび上がっていた。


六角形の光膜をスクリーンとして、白銀の文字が刻まれていく。


 


●聖雪教・王国布告


『雪を穢す者に赦しなし。

 呪雪の子エリゼを捕え、

 白聖堂へ連行せよ。』


 


その文言は、谷全域に無慈悲に響き渡った。

まるで世界そのものが彼女を拒絶しているかのように。


エリゼは胸の奥に鋭い痛みを覚えた。

冷たい指で心臓を掴まれたような、呼吸の止まる感覚。


 


エリゼ(心の声)

「……雪を赦せないのは、私なのに。

 どうして……世界じゅうから“罪”って呼ばれるの……?」


雪は嫌い。

雪は憎い。

でも――それは彼女の“内側の声”であって、世界の罪ではなかったはずだ。


世界の側から、断罪されるなんて。


言葉がない。

心が追いつかない。


氷結バリア陣はその感情に呼応するかのように、白光を強めた。


その瞬間――

胸の《雪翼》がかすかに震えた。


蒼い脈動が乱れ、波紋のように広がっていく。


聖雪教の布告は、彼女の存在そのものを否定する“世界規模の呪い”。

《雪翼》がそれに抗うように揺らぎ、

エリゼの心臓は――新たな試練の気配を察していた。


白い霧の奥――

風の震えと共に、一人の空翔族戦士が飛び込んできた。


背から伸びる風翼は乱れ、息は荒く、

まるで空そのものに殴られたような形相。


 


空翔族戦士

「エリゼ殿!

 我らの空路が……閉ざされた!」


 


その声にシルヴァとリオンが振り返る。

戦士は震える指で空を指し示した。


 


●映像が描く“侮辱”


遠方――

空翔族が誇る上昇風レーンが、氷結バリア陣にぶつかった瞬間、


バキィンッ


音もなく、風そのものが砕け散った。


・空へ続くはずの透明な風道が、氷に叩き折られる。

・風が悲鳴のように散り、雲が枯葉のように舞い上がる。

・空翔族戦士たちが信仰する“風の道”が壊されるという、最大級の冒涜。


 


リオン(悔しげに)

「風の民に……喧嘩を売ったな、王国は。」


歯を噛み締める音が聞こえた。

彼は王国の兵士でもある。

そのリオンがここまで怒るのは――これは軍事行動を越えた侮辱だからだ。


 


シルヴァ(静かだが怒りを押し殺した声)

「いや、狙いはエリゼ一人だ。

 空翔族ごと封鎖してでも、彼女を捕えるつもりなんだ。」


 


戦士も続ける。


空翔族戦士

「王国は……“風の民は呪雪の庇護者”と断じました。

 我らの領域までも、“異端”として封鎖対象に……!」


 


●物語上の重大転換点


王国の封鎖は、もはや“エリゼ一個人への追跡”ではない。


世界規模の宗教・政治戦争へと発展した。


・聖雪教会は“呪雪”という概念を世界秩序の柱にしようとしている。

・その中心にエリゼを据え、“断罪されるべき象徴”として扱うつもりだ。

・空翔族を巻き込んだことで、王国はついに“空そのものを敵に回した”。


エリゼの胸の《雪翼》は、静かに震えた。

これは逃げられる試練ではない――

世界が彼女を“罪として固定しよう”としているのだから。

帰還のために向きを変えた、その刹那だった。


 


空を裂く鋭い風音――

王国の紋章を掲げた騎竜が、白霧を突き破って降下した。


竜の翼が雪面を震わせ、

その背から降り立った兵士は、迷いのない足取りでリオンの前に進む。


 


兵士

「リオン・フェイルズ殿。

 王国はあなたに“断罪執行者”の任を下す。

 ……呪雪の子を、討て。」


 


エリゼの心臓が一瞬止まったように感じた。

リオンは受け取った符文書を見つめ、

その手が――目に見えて震えている。


 


エリゼ

「リオン……?」


 


リオンは、顔を伏せたまま答える。

握りしめる拳が、白い雪の上で微かに赤く染まるほど強く。


 


リオン

「……すまない。

 僕は……王国に呼ばれた。」


 


兵士は冷徹に続けた。


兵士

「王都へ戻れ。

 教皇が直々に命を下した。

 “あなたでなければ、彼女の罪は正せない”とな。」


 


“罪”

その言葉が、凶器となってエリゼの胸に突き刺さる。


 


エリゼ

「やめて……そんな言い方……」


言葉にしようとしたのに、声が震えて漏れるだけだった。


 


リオンはエリゼを見ない。

見てしまえば、命令を破ってしまうと分かっているから。


だが、騎竜へ乗り込む寸前――

ほんの一瞬だけ、視線を向けた。


その瞳には、痛みと、迷いと、決意が重なっていた。


 


リオン

「……必ず、また会う。

 その時――

 君を、赦したい。」


 


その言葉を残し、

竜の翼が白壁の向こうへと消えていく。


 


エリゼは一歩踏み出そうとしたが、

足が雪に縫い付けられたように動かなかった。


声が出ない。

息さえも、凍りついたように浅い。


 


エリゼ(心の声)

「どうして……

 どうしてみんな、私に“赦し”を求めるの……?

 私がいちばん……

 雪を赦せないのに……!」


 


次の瞬間――


背の《雪翼》がかすかに揺らぎ、

白く透き通った翼の端に“亀裂”のような乱れが走る。


雪=罪

その構図が、再びエリゼの心を凍らせていく。


彼女の胸の奥で、

まだ言葉にならない叫びが、風に溶けずにうずくまっていた。


ホワイト・オーダーの隊列が一斉に槍を構え、

白銀の気配が雪原を覆った。


氷結の祈祷が響き、地面の風が固定される。

逃げ道は、もうどこにも存在しない。


 


シルヴァ

「来るぞ、エリゼ。

 聖雪圏へ押し込む気だ――徹底的に!」


白壁の奥、王国軍が展開した“光の裂け目”。

その向こうには、白聖堂を中心に構築された巨大迷宮――

**《聖雪圏ホーリー・スノウ・ドメイン》**が待ち構えている。


断罪された者が、二度と戻らぬ“罪の回廊”。

雪が裁き、祈りが刃となり、

滑走そのものが“審判”に変わる領域。


 


エリゼは一歩前へ出る。

胸にぎゅっと手を当てる。


そこにある《雪翼》は――

乱れかけながらも、確かに脈動していた。

空と共鳴した新しい心臓は、まだ折れていない。


 


エリゼ(小さく、しかし揺らがぬ声で)

「……私を“罪”って言うなら――

 その赦し……追い越してみせる。」


 


ホワイト・オーダーが包囲を狭め、

祈祷槍の先から白い光刃が伸びる。

その中心で、エリゼは深い姿勢で滑走の構えを取った。


背の《雪翼》が、微かな蒼光を散らしながら開く。

雪片が逆風に舞い上がり、彼女の周囲だけ世界の輪郭が揺らぐ。


 


正面――

光壁が裂け、白い十字の回廊への“入口”が開いた。

断罪再演。

かつて彼女が拒んだ“白い聖堂”へ、ふたたび挑む時が来た。


 


シルヴァ

「――行け、エリゼ! 今しかねぇ!」


リオンの言葉、空の光、雪の痛み、すべてが胸の中で衝動に変わる。


 


エリゼ

「……行く。

 ここで、終わらせるために。」


 


そして――

彼女は白い裂け目へ飛び込んだ。


雪が音を失い、世界が純白の光に飲まれる。





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