柘榴石ノ月ノ刻‐一
「さて、と。」
星詠みの魔女から受け取ったものを、机の上に置いていく。
「“契約の首輪”に、念の為の“服従の足枷”、それから“召喚の魔法陣”……えーっと、『八割魔力が込められてるから、一割は供物を、残りの一割は召喚者の血を垂らすこと』だっけかな?」
リビングにあたる部屋を少し片付け、魔法陣を広げる。
「供物は……どこにやったかな……ま、召喚できりゃいいか。
雪解け水で育てたポットマリー、新月の日にしか咲かないルリジと……琥珀の葉をしたアンバーハーブ、これも入れとくか。」
魔法陣の上に薬草を並べていき、“仕上げ”としてナイフを左手で握る。
ぼたぼたと血が魔法陣に零れ落ちる。
『星の煌めきと混血の供物をお前に捧げる。我が呼び声に応え、契りを交わせ。』
淡く黄色に光り、風が吹く。
「……魔力が“皆無”な魔女様の血だ。大盤振る舞いしてやっから、意思疎通が図れるヤツを頼むぜ!」
光と風が激しさを増していく。
目が開けられない程になった頃、何かが“べちゃ”っと放り出された。
人間で言うところの十代の見た目。
上半身は、はだけたベストしか身につけておらず、下は短パン。
深い緑からオレンジのグラデーションになっている髪色。
べっこう飴のような二本のツノ。
そして、何が起こったのかわかっていない琥珀の瞳。
「……は?何が起きた……?オレ様のおやつは……?」
“おやつ”って……うーん、種族はいまいち判別がつかないな。
しかし、まだ幼体の個体を召喚してしまったらしい。
……おいおい、不良品を掴まされたんじゃあないだろうな、あとで星詠みの魔女をとっちめるか……
「小悪魔か……?いや、悪魔……?」
「……は?」
「何にせよ、家周りをしてくれるブラウニーや、せめて家事をしてくれるシルキーが良かったんだが……」
「……あ"?」
「ま、しょうがないか……見たところお前さん、幼体のようだが契約できるかい?」
「……ハァ〜〜〜?!!お前いま、オレ様をそこらの小悪魔や悪魔と一緒にしたか!?偉大なるオレ様のことを!!?しかも幼体!?オレ様はもうじき成体だッ!!」
前半二つは独り言で、後半は召喚された奴に尋ねたつもりだったが、どうやら全部、己に言われたことだと認識したらしい。
「もうじき成体?……私の胸元ぐらいまでしか、ないくせに?……まあ、私としては何でもいいんだが、契約はできるのかい?てか、召喚用の魔法陣は再度、使用ができないんだから、私と契約してもらうよ。」
「ハッ!だ〜〜れがお前みたいな下級悪魔とオレ様を判別つかない“人間”と契約なんかすっかよ!契約失敗で泣いてろ、バ〜〜カ!アヒャヒャヒャ!!」
「おや、私と契約するのが怖いのかい?」
「あ"?……そんなわかりきった、やすい挑発に誰が乗るか……」
「今なら左手の小指一本だけで、相手してやろうと思ったんだが……しょうがない、この魔法陣は破棄して、もっと強そうなのを呼ぶとするか。」
「誰が弱そうだって!?」
まんまと挑発に乗った悪魔の幼体(仮)が薬草の魔女に殴りかかる。
薬草の魔女はひらりと躱し、左手の小指を悪魔(仮)の後頭部目がけ弾く。
その衝撃で悪魔(仮)は吹き飛び、横転した姿を晒していた。
「お前!オレ様に何をした!!」
「“何をした”って……小指で弾いただけでぶっ飛んでったのはお前さんの方だろ?」
「そんなわけねぇだろ!……ッ、これならどうだっ!」
体勢を立て直し、風の刃を薬草の魔女に向かって放つ。
薬草の魔女は避けることをせず、左手を前に出し、先程と同じく小指で放たれた風の刃を弾いていく。
「は、反則だろ!?“人間”が反魔法を使えるなんて聞いた事ねぇぞッ!?」
その言葉を聞き、薬草の魔女は頭を搔く。
「全部ハズレだよ。」
「ハズレ……?」
「正解は……」
悪魔(仮)はここで気を抜いて、戦闘態勢を解除してはいけなかった。
突然、目の前から薬草の魔女が消えた。
“どこだ”と目線を彷徨わせたが、見つからない。
「私は、反魔法を使ってないし“人間”じゃない。」
声がする方へ振り向こうとした瞬間、意識が途切れる。
「……魔力が皆無なただの“魔女”さ。」
「て、聞こえてないか。……ま、いっか。」




