まにまに外伝 ナギの休日「魚釣り」
「……今日は、やすみにします」
ぽそっとナギが言った瞬間、場が静まり返った。
「え……? ナギが……?提案し始めた!!」
一瞬の沈黙を破ったのは、ソウマの妙に深刻なトーンだった。
だがナギは続けた。
「釣り……行ってみたいんです。みんなで、ゆっくり……」
それだけで、今日の遠征は決定した。
* * *
釣り場に着いたナギは、ピンク色のリボンを頭に結び、やる気満々。
「風の流れ……水の音……いけます……!」
そう言って針を垂らすと、すぐに浮きが動いた。
「きた……かも!?」
いきなりのあたりに一同が注目する・・・
引き上げると——
「……カニ?」
次は、
「カッパ……? えっ、生きてる……? あ、あの、すみません……」
「ナギィィ! 魔物だよそれ!逃がして!!」
カッパ風の何かが
「今度はきゅうりでお願いします」と言い残して水に戻っていった。
一方、ユウトはというと——
「……また釣れた」
無言でスッと釣り上げる。
「……さらに釣れた」
淡々と魚を並べていく。
「職人か!」とツッコミを入れられても、ユウトはただ静かに首をかしげた。
その時だった。
「どきな!ババアが通るよ!!」
山道から現れたのはティザナ、釣竿を肩に大股でやってきた。
「釣りに来たんですか……?」
「当然だろが!この口の悪さは釣りの腕前で鍛えたんだよ!」
「そんな経歴あるんですか……?」
「あるわけねーだろ!!」
威勢よく糸を垂らすティザナ。だが何度やっても、釣れない。
「くそが……こんなことで……!」
ピッと結界を展開すると、水中に三角の枠が落ちた。
結界の中に魚が閉じ込められる。
「釣ってませんよね!?反則ですよね!!」
「うるせぇ!魚は魚だ!なにが問題だ!?」
「すごい……!こんな大人に、なりたくない……!」
* * *
その直後だった。
「きたァァァッ!!よっしゃ釣れたァァァァ!!!」
ティザナが大声でリールを巻く。
みんなが注目する中、水面から現れたのは——
「巨大魚……の……頭、だけ……?」
魚の胴体がなく、頭部だけが釣り針についていた。
「……って、誰だよォォォ!!!ワシの魚のケツ食いちぎったやつはよォォ!!」
「おしりって言ってください!!!!」ナギが悲鳴を上げる。
「背中どころか腹もねぇ!どうなってんだこの川はァァ!!」
「川の神様が怒ったんです……結界反則への制裁かと……」
「んだと!!」
* * *
ふと、川の奥でぷかぷかと浮かぶ姿があった。
「……あれ? ソウマ兄さん……?」
釣り椅子。麦わら帽子。サングラス。
「……今日だけ浦島太郎になるわ……」
まにまにの背中に乗って、静かに釣りを楽しむソウマ。
「……まにまにの背中……デッキになっていないか?……」
* * *
夕暮れ。
ユウトが釣果でスープを作っていた。
「……今日はトマトと香草。ナギの摘んだやつ」
「ふーふー……おいしい……」
ナギは微笑んだ。
「釣り……楽しかったです。ちょっと、だけ、得意になれた気がします……!」
「次はもっと普通の魚釣ってな?」とソウマが苦笑する。
こうして、平和でちょっと騒がしい一日は、記録者の甲羅にそっと刻まれた。