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6話 ミッションコンプリート

6.01


「は――い! みんな掴んだ? はずれを引いた人はここで留守番だからね!」


 信人ママが差し出したくじを一斉に引き抜く4人。そして、ペアが決定する。


「それじゃ、みゆきと信人から出発!!」


「あら、本音が漏れちゃったかしら!?」


「そうよ、遥が界人を殺したのよ!」


6.02


・・・ ― ― ― ・・・


「信人君と李依のお母さんの方ね」


 すみれは信人と交換を使った。


「ちょ――、ちょ――、なん? これどげんゆう状況!?」


 突然の口調の変化で我に返る李依ママ。急に力を緩められバランスを崩す信人の身体。


「ちょ――、これもう無理――――!!」


6.03


 後ろを振り返ると……断崖絶壁、絶体絶命である。すみれは再び腹をくくり、落下予測地点へと視線を落とした。


「もう、どげんにばってんなれっちゃ!! い――やっちゃるわい!!」


 視線の先には、ここまで車を走らせてきた公道が通っていた。


「信人んお母しゃん、すまんたい! 許せんね!」


6.04


 すみれは、すかさず信人ママと交換を使った。


「李依、大変、信人君が! って中身は信人君のお母さんなんだけど……」

「えっ、何ですか?」

「このままだと信人君が断崖絶壁から……」

「あなた、すみれなの?」

「とにかく、急いで! 駐車場まで走るわよ!」


 わけの分からぬまま並走する李依。


6.05


 すぐにハイキングコースの入口まで辿り着いた。案内板の前にはあぐらをかいて、どんと腰を下ろしたすみれの姿があった。


「いたいた、信人君、あなたの身体が大変なことになってるの! 時間がないわ! 急いで!」


 信人は状況を理解し、すみれの呼びかけに従い二人の並走に加わった。


6.06


「えっ! どういうこと!? すみれの中身は信人ってこと? 信人ママの中身がすみれだから、あ――もう、頭がこんがらがってきた。ってことは断崖絶壁で大ピンチな信人の中身は信人ママね。そもそも、私のお母さんはそこで何をしているのよ! 指をくわえて見てるってこと!?」


6.07


 李依の丁寧な状況説明が完了すると、ようやく駐車場が見えてきた。


「早く車に乗り込んで!」


 信人ママのポケットの中にあるキーに反応して自動で車のドアが開く。


「で、どうするつもりなのさ」


「断崖絶壁からの落下予測地点に公道が通っていたの。そこまで車を回すから信人君がキャッチして」


6.08


「普通に無理でしょ。それ」

「大丈夫よ、私の身体、鍛えてるから」


「で、誰が、運転するのよ」

「そりゃ、この状況じゃ、道路交通法上、私しかいないでしょ」


 すみれは、どや顔で信人ママの顔写真付きの運転免許証を見せつけた。


「これがアクセルで、こっちがブレーキね。それじゃ急ぐわよ!」


6.09


「バカ! 前に進むのよ、前に! バックしてどうすんのよ!」

「これをこうして、よし、前に進んだわ! あとはアクセル全開でいくわよ!」


 ガードレールに車体を擦り付け、火花を散らしながら猛スピードで車を走らせるすみれ。ワイパーも作動しているが、それにツッコむ余裕など誰にもなかった。


6.10


「ちょっと! なんで対向車が同じ車線を走ってるのよ!」

「バカ! あなたが逆走してるのよ!」


「ちょっと、あれ! 信人の身体もう落ちちゃうじゃない!」


 信人の身体が信人の視界に入った。


「すみれ、そのままアクセル全開! どうせ、向こうの方がよけてくれるさ」


6.11


 信人はウィンドウを開き、ボンネットに飛び乗った。その瞬間、断崖絶壁の信人の身体は完全に足を滑らせた。落下という縦方向の移動と、猛スピードで逆走する車の横方向の移動が測ったかのように交差する。そして、鍛え抜かれたすみれの身体が、しっかりと信人の身体をキャッチした。


6.12


「すっご――い! ミッションコンプリート!!」


 息をのむ光景に思わず歓声を上げる李依。


「ごめ――ん! ブレーキどっちやったっけ!?」


 対向車は大きくハンドルを切り、難なく衝突は回避されたが、すみれの運転する逆走車はそのままガードレールを突き破った。


「い――、やばか、これ絶対また死ぬ……」


6.13


「は――い! みんな掴んだ? はずれを引いた人はここで留守番だからね!」


 信人ママが差し出したくじを一斉に引き抜く4人。そして、ペアが決定する。


「まずは高梨さんと信人のペアから出発ね。5分遅れて私と神坂さんも出発するから」


「みゆきは留守番よろしくね――」


6.14


「結局、私は李依とはペアになれないのね」


 不満げな表情を隠しきれていないすみれ。


「それじゃ、高梨さんと信人から出発!!」


「すみれ、何だか、様子がおかしかったわよね?」

「そう思って、一応、聞いてみたんだけど……」

「あなた、また使ったの!? それで、どうだった?」


6.15


 李依のお母さんが留守番なら今度は大丈夫でしょ……


「どういう意味よ?」

「さぁ――」

「でも、変な感覚なのよね。デジャブというか、サイコロをもう一度振り直しているような」

「サイコロじゃなくて、くじ引きでしょ?」

「たとえ話よ!」


「そういえば、あなた前におかしなこと言ってたわよね」


6.16


「お父さんが飛行機事故で亡くなったのは君のせいじゃないって」


 不思議と急な話題転換だとは思わなかった。


「そんなこと言ったけ?」


「でも、私のお父さんは交通事故で亡くなったのよ。確かにお父さんが乗るはずだった飛行機は事故で墜落した。テレビのニュースで絶望したことを覚えているわ」


6.17


「けど、その飛行機にはなぜか乗らずに、お父さんは交通事故で亡くなったのよ。絶望、安堵、絶望、お母さんと私は、その日神様を呪ったわ」


「なんであんなこと言ったの?」

「なんでって……そりゃ――、君の心の声で、君の記憶を辿っただけさ」

「だからそれが違うって言ってるのよ!」


6.18


「あれ? あの時、僕、飛行機事故って言ったっけ?」

「言ったわよ!」

「じゃあ、この記憶は何だ!? 誰の記憶だ!?」


 僕には昏睡状態よりも前の記憶が全く存在していない。誰がこんな記憶を僕に植え付けた。それとも、この記憶こそが世界5分前仮説が僕に用意した記憶だとでもいうのだろうか。


6.19


「神坂さん、私たちも、そろそろ出発しましょ」

「つ――か、何で、信人君のお母さんと私がペアなのよ! 李依との二人の距離を縮めるためには肝試しだって言ってくれたじゃないですか!?」

「私だって、ほんとは信人とが良かったわ」

「そうですよね。お互いの利害が一致しているならいいですよね」


6.20


 すみれは、信人と交換を使った。


「神坂さん、何わけの分からないこと言ってるの?」

「ごめん……なさい。失敗した……しちゃった……みたい……です」

「だから何で、片言なのよ――――!」


 信人の身体を揺さぶる李依。


「信人! 信人! どうしたの? 大丈夫!?」

「あれ、何だっけ?」


6.21


「あれ、何だっけ? じゃないわよ! あなた、今、いきなり倒れたのよ!」

「どのくらい気を失ってた?」

「ほんの10秒程度よ」

「信人、あなた歩ける? 今日はもう帰りましょう?」


 李依は信人の手元から懐中電灯をぶんどると、リズミカルに点滅させた。


・・・ ― ― ― ・・・


6.22


「これで大丈夫。すみれが、かけつけてくれるはずだから」

「発光式モールス符号のSOSか?」

「信人、詳しいのね……っていうかあなた、また使ったのね?」

「えっ、何が?」

「えっ、何が? って、また私の心の声を盗み聞きしたんでしょ?」

「いや、使ってない」

「また、また――」


6.23


「あれ?」

「どうしたの?」

「っていうか使えない……いつもどうやってたっけ?」

「あなた、本当に大丈夫!?」

「…………………………」

「それじゃ――、SOSのモールス信号のことは、もともと知ってたってこと?」

「あれ、何で分かったんだ? まただ!! これは誰の記憶だ!?」


6.24


「李依、どうしたの? 大丈夫!?」


 一番にかけつける李依ママ。


「信人がいきなり倒れて、すみれに運んでもらおうと思ったんだけど……」

「信人君、大丈夫?」


 信人は、なぜかこのとき、李依ママの裏側の声をどうしても聞いてみたいという強い好奇心にかられていた。しかし、できなかった。


6.25


 遅れて、すみれもかけつける。


「SOSのモールス信号、忘れちゃったの? 小学校の自由研究で一緒にやったじゃない?」

「そうだっけ?」


 一瞬、沈黙するすみれ。


「そうだった、そうだった、李依のお父さんにレクチャーしてもらったっけ」

「ほんとに覚えてる? 何かわざとらしいんですけど」


6.26


「信人君がこんな調子じゃ肝試しは中止ね」


 すみれは、お姫様抱っこでもするかのように信人の身体を軽々と抱え上げた。そこにかけよる信人ママ。


「信人、あなたどうしたの? 高梨さんにやられたの?」

「お母さん、落ち着いて下さい」

「あなたに、お母さんと呼ばれる筋合いはないんですけど――」

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