第1話 2人の出会い
処女作です
改善点や改良案などがあれば是非コメントで教えて頂けると嬉しいです
―――――出発日の早朝から足を止めることなく、三日三晩(正確には2日間)歩き続けた甲斐があった。
2度目の夜空を眺める事なく、仮目的地であったこの鉄塔に着くことが出来たのだから!
…だが足を止めた直後、その疲労はまるで前日の自分の無謀さを思い知らせるかのように、ツケとして体全体にズシリとのし掛かって来た。
もう意識が持ちそうにない。
しかし、目を閉じる前、細かな記憶が薄れる前に記録帳だけは付けなくては…
混濁しかけている意識に必死に抗っていると、突然、空風が私の体を刺していったのだ。
余りの冷たさに一瞬で意識が覚醒するが、すぐさま毛布をかけた事により、意識は再び闇へと向かっていく。
だが、寝てはいけない。このまま欲望に従って後でイタい目を見るのは、自分なのだから…
タロウ、ケツイを力に変えるんだ!
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200m(目測)焦茶色鉄塔にて
到着
2069年 10月9日 昼頃
現在位置
近くに人影は無し。しばらく歩いて来たが建物も全く見当たらないので、どうやらここはマジのド田舎のようだ。
看板等も見当たらなかったが、恐らく関東からはまだ離れてないと思われる。
道中の記録
田舎エリアの直前に、ビルの残骸がポツポツと点在する場所を通った。
そこでは、人と通りすがったり、ビル跡の中に見かけたりする事が何回かあった。
その影響か、以前まで1日に1回は手に入ったはずの物資は、道中1つも見つけられなかった。
資源状況
リュック1つ ヤキトリ缶4個 500mm水2本半 地図1枚 非常用ライト1本 毛布1枚 グミ1袋
課題
まずは、
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―――――――どうやら、その時の私に今後の課題を書くまでの余力は残されていなかったようだ。
気が付くと、私は2度目…いや、1度目の夜空を見上げていた。
…凄く唐突に、そして自分で言うのも何だが、私の体内リズムはメチャクチャ優秀だと思う。
明るいうちに移動を開始する為に、何があろうと早朝に目覚められるようになっているのだ。
つまりこの状況から言えることは、現在自分の体に何かしらの「異常事態」が起きているという訳で…
もう率直に言おう。
死ぬ程寒い。毛布が無い。ついでに地図も無い。
盗まれた。
昼だって寒くはあったが、今の気温と比べれば、あんなの比較対象にすらならないだろう。
そして、どうやらこの余りの寒さに私の体内時計はブッ壊れ、先ほどアラームが鳴ってしまった…という事らしい。
だが幸いな事に、リュックを枕代わりにしていた事で食糧などはターゲットから外れてくれたようだとか言ってる場合じゃない!!!!!!
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!
この時期に毛布も寝袋も無いのは食糧なんかよりも圧倒的にマズイ!!!!
食糧は最悪付きても3日くらい動けるかもしれないが、もし今夜、このまま体温を上げて眠りに就く事が出来なかったのなら、それは間違いなく一発アウトを意味するだろう。
一体どうすれば…!!!
…そのような絶望の真っ最中であっても、私の身体は、空気を読んではくれないらしい。
何も無い暗闇の中、ただ己の腹の虫だけが寂しい鳴き声をこだまさせた。
…思えばあんなに歩き続けた後、更に夕食も摂らずに寝てしまったというのなら、これは起きて当然の現象だろう。
次第に強くなっていく飢餓感に耐え切れず、一旦私はライトを使い、リュックの中から缶詰を取り出そうとした。
そして気付いた。
私の前方には、私の手前から真っ直ぐと伸びていく靴模様の跡があった事に。
田舎に入ってからというもの、人っ子一人見かける事はほんの1度も無かった。
…間違いない、これは犯人の足跡だろう。
これこそが本当の「幸い」だ!
…さて、この状況で私が採れる選択肢は2つ。
1 このまま歩き続け、犯人を探す
2 道を引き返し、ビル跡で寒さを凌ぐ
本当はすぐにでも1を選びたい所だが、やはりここは冷静に考えなくては。
このまま犯人を追い続けようとしても、その間、犯人だって移動し続けている可能性があるのだ。
私がこうやって悩んでいる今だって…
そうなると、犯人との距離は一向に縮まらず、ただ時間と体力だけが無くなっていくだろう。
私がヤツに追いつくより先に、死神に背中をタッチされる事になるのは御免だ。
そして…2。
道中で見たあのビル群なら、毛布が無くても何とか朝を迎える事は出来るかもしれない。
しかし、歩いた道を記録してきた地図でさえも、今はヤツの手の中だ。
この田舎は見通しこそ良いものの、分かれ道が人生と良い勝負なのではと思うくらいに多い。
もし道も分からないまま下手に引き返しても、散々見てきたあの何も無いエリアをぐるぐる回り続けるだけで、結局は…
…同じリスクを取る事になるのなら、最後は自分の心に従うべきだ!
私は空になったヤキトリ缶を投げ捨てたのを最後に、二度と後ろを振り返らなかった。
―――――――あの決断から、一体何時間経ったのだろうか。
ついさっき、ライトの光が消えた。
全身が氷のように冷たい。
肺もこの凍る空気に耐えられず、今にも張り裂けそうな感覚だ。
…しかし、私はここでくたばるわけにはいかない。前も後ろも分からなくなった闇の中を、ただ
ひたすらに進んでいく。
…そして、いよいよ目も肺も、足さえも使えなくなった私は、静かに地面へ倒れ込んだ。
頭の中で戦争が起こる前の楽しかった出来事が渦巻いている。昔好きだったゲーム、大好きだった母の手料理、それらを優しく包みこんでくれた、愛しの我が家…
これが走馬灯というやつなのか。
あの憧憬を思い出すと、今でもハッキリと目に浮かんでくる。
そうそう、子供の頃は自分の家でさえもテーマパークみたいに見えてたっけなぁ…
こうして私は、この世で1番幸せな景色を目に焼き付けながら、静かに目を閉じた…
…いや待て、流石にここまではデカくなかったぞ?
その疑問を解き明かす為に、私は再びその眼を開いた。
幻覚じゃない。
暗闇の中でも分かるくらい、とても巨大な建物がそこには確かにあったのだ。
私は最後の力を振り絞り、地面を這い進みながら、その内部へと入っていった。
…全く予想できなかった。まさか、あの選択肢に3つ目があったとは。
目の前(という表現は微妙に違うと思うが)にしても未だに信じられない。
今まで倉庫1つ無かったような場所に、まさかこんなのがあるなんて…
電気は付いておらず真っ暗で、人の気配は感じない。とは言っても、この暗さで断言は出来ないが。
中には暖房が効いているわけでも、ストーブが置いてあるわけでもない。
だが、比較対象がアレならば、ここは「天国」と呼べるような場所だ。
…もうそろそろ本当に限界だ…
ここが何処なのかとか…犯人の行方だとか…
それはまた…明日考えよう…
寒さを凌いで安心したタロウの全身から力が抜けていくのに連れ、その瞼も徐々に下降を始めていった。
――――――タロウが寝息を立て始めてから数分後、突如として足音が響き渡った。
その者は異音の在処を探るべく、耳を澄ませながらあちらこちらに歩を進め、遂に異音の正体を突き止める。
そしてそこにいた、目の前でいびきをかいている不審者をライトで照らしながら、メガネの男は不思議そうな表情で口を開いた。
「…キミ、もしかしてお客さん?」
第1話 完
タイトルとかは一応理由があって決めました
まあ…今のところ決めてるの序盤とラストの展開だけですが