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おじいちゃん助けて。

ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編のスピンオフです。

杏子が結婚し、娘がでました。その時のお話です。

「おじいちゃん、助けて!」


杏子は電話の向こうで、焦った声を出していた。いつもの穏やかな響きではなかった。切羽詰まった、焦燥と不安の入り混じった声。その一言で、おじいちゃんの脳内は一瞬にして警戒態勢へと切り替わる。


「おじいちゃん、助けて。」


繰り返すぱみゅ子の声。祖父には、それだけで何もかも理解した。説明は必要ない。もちろんだとも、ぱみゅ子。お前を助けるためなら、全てを失っても全く惜しくない。


「大丈夫だ。何があった?」


杏子の頼みごとは、どんなに小さなことでも、いつだって真剣に聞くのが、彼のやり方だった。理由なんてどうでもよかった。彼女が困っている。だから助ける。それ以上、なにが必要なんだ? それだけで十分だった。それだけで、地球の裏側からだって、駆けつけてやるさ。


「あのね…もうなにをしたらいいのか分らないの」


杏子は沈黙した後、ぽつりと言った。


 「彩代の笑顔を…守りたいの」


おじいちゃんは、しばらく無言で考えていた。そして、思わず口をついて出たのは、いつも同じ言葉だった。


「よし、任せておけ。」


 言葉に一切の迷いはない。


「本当に…?」杏子は驚いた様子で、ほんの少しだけ安堵を浮かべた。「でも、ほんとに、どうしていいか分からなくて、なんだか…」


「心配は要らない、ぱみゅ子。今まで、おじいちゃんが、ぱみゅ子のお願いを聞かなかったことがあったかい? 任せておけ。」


頼みごとの困難さからは、全くかけはなれた明るい声だった。もちろん、それは意図したものだった。任務の困難さからはかけ離れて、明るく振る舞った。ぱみゅ子を少しでも心配させたくない。安心させたい。孫娘を思う、祖父の気持ちがそうさせた。


ぱみゅ子には、おじいちゃんの声が、いつも以上に力強く響いた。これなら大丈夫だ、そう思わせてくれる力があった。


「ありがとう、ほんとに…お願いね。」


電話が切れると、おじいちゃんはそっと電話を机の上に置き、しばらく右手でゆっくりと口元を触ったかと思うと、ゆっくりと立ち上がった。

久しぶりの大仕事だな。

そう呟くと、覚悟を決め、ドアを開けた。


歩きながら考える。まず、ぱみゅ代の元に行こう。

期限はあと二週間か。

いや、と考え直した。

ぱみゅ子の気持ちを考えると早いにこしたことはないだろう。ぱみゅ子も長くは耐えられないに違いない。そうすると、10日でなんとかしてやりたい。


おじいちゃんの“任務”が始まる


さっそく準備に取りかかり、次の日からはもう、孫娘ぱみゅ子の長女である彩代(さよ)の「影」になった。


ぱみゅ子のことを思えば、もう一瞬たりとも目を離す訳にはいかない。緊張感が祖父を包む。


思えば、彩代が生まれてから、今までも彼はその成長を一日たりとも見逃さないようにしてきた。だが、今回は任務は今までとは全く次元の違うものだった。

彩代も、それだけ成長した、ということか。

与えられた任務の大きさに震えながら、祖父は、同時に玄孫の成長を思った。


彩代の学校帰り、公園での遊びの時間、食事の時、眠る前の静かなひととき。いつもと違うことはないか。誰か不審な動きをしていないか。目を光らせ続ける。


 何かが彩代に迫っている――。


 その確信だけが、おじいちゃんを動かしていた。


この日も、彩代が学校から帰ると、いつも通り、公園に遊びに行く。祖父も彩代に付き添い、公園に行く。


そして、彩代の周辺に気を配り、何かいつもと違った様子はないか、逆にずっと遊んでいるものに異変はないか、穏やかな表情は崩さず、目だけは、忙しく動き回り、今までの記憶と比べていた。


時には一緒に砂場で山を作っては壊し、ブランコに乗り、ジャングルジムで遊んだ。


老体には堪えるわい。

そう考えると、ぱみゅ子の時はまだ若かったなあ。

肩で息をしながら、そう考えた。


だが、そんな中でも、観察眼だけは、研ぎ澄まされていた。

ぱみゅ代の笑顔を守らなければ。

だが、今のところ、周りの状況も、全くいつもと変わりない。

彩代もまるでいつも通りだ。


これは。思ったりよりも、困難な任務になるかもしれん。苦しめられるかもしれないな。

祖父は覚悟を新たにした。


警戒させるかもしれない。だが、このままでは、彩代の笑顔を守ることはできない。


祖父は、優しく彩代に話しかける。

「なあ、ぱみゅ代」

「もう、たーじぃ、わたしは彩代だよ」

「いや、本来は、ぱみゅ代と名付けるはずだったのだ。それを、ぱみゅ代のママとパパ、そしてひいばあちゃんもわしの息子であるぱみゅ代のおじいちゃんもおばあちゃんも、家族総出で、わしをだましたんじゃ」

思わず興奮し、ぱみゅ代にはまだ分らない複雑な環境を口にしてしまった。

「それ、みんなだね」

しまった。瞬間後悔するが、周りの状況、ぱみゅ代の視線、表情、そこから意識を外すことは無かった。

「そうじゃ。全員裏切り者じゃ」

いかん。話が逸れたままだ。だが、かえって油断させる効果もあるかもしれん。


彩代に注がれる視線がないか、彩代がどこを観ているのか、繊細な観察が続いた。


おじいちゃんの目が輝く。


「ところで、ぱみゅ代。ぱみゅ代には最近、変わったことは無かったかい?」


できるだけ警戒をさせないように、普段と全く変わらぬ口調で穏やかに尋ねた。本人が何か気がついたことはないのか。それは最も重要な情報だ。


普段と違うことがあれば、そこを突破口にできるかもしさない。


全ては、ぱみゅ代の、いや、ぱみゅ代とぱみゅ子の笑顔を守るためなのだ。


「うーん…あのね~」


ぱみゅ代はもったいをつけていた。


そして、最近のママ(ぱみゅ子)との寝る前のやりとりを話してくれた。


そうか。ぱみゅ子。お前もなかなかやるじゃないか。子供が寝る瞬間。その瞬間を共にできるのは、親としての特権だ。そしてもっとも気持ちを張りめぐらさなければならない瞬間でもある。


祖父は、任務を受けてからはもちろん、その時間には在宅し、侵入者がないか、異変はないか、常に警戒レベルをマックスにしつつ、それを悟られないように細心の注意を払い、母娘の至福の瞬間を守っていた。


ぱみゅ代から得た情報に、心の中でガッツポーズをした。ぱみゅ子、良くやった。これで、なんとか、先が見えてきた。もちろんまだ油断はできない。だが、笑顔を守る。そのためには、何も惜しくはない。


期限の二週間どころか、一週間で目星をつけ、10日目には、確信に変わっていた。大丈夫。ぱみゅ代の、そしてぱみゅ子の笑顔は守れる。


 おじいちゃんは、彩代の無邪気な顔を見つめながら、ふっと目を細めた。


運命の朝。


その日の早朝、いや、まだ深夜の時間帯か、ぱみゅ代の深い睡眠を確認した。ぱみゅ子にそっと、あるものを渡す。

ぱみゅ子は、まだ不安が完全には払拭されないようだったが、もはやこれに掛けるしかない。


そこには、今まで長い年月をかけて培ってきた、確かな信頼感があった。


「大丈夫、完璧だ」満足げにうなずきながら、静かにぱみゅ代の部屋のドアを開けた。これを置くのは、母親である、ぱみゅ子の役目だ。ぱみゅ子はそっと部屋に入り、彼女の枕元に、用意したものをそっと置いた。そして、静かに部屋を後にする。


時が過ぎる。

ぱみゅ子はいつものように、朝食の準備に取りかかっている。それは、信頼の証のようでもあった。


深い満足感に包まれた祖父には、なんの不安も無かった。もう大丈夫だ。



うわ~~~~、ママ~~~。

そう言って、ぱみゅ代が飛び込んできた。


ママ~っ。サンタさんから、プレゼントきた~~っ。

わたしが、今、いっちばん欲しいものだ~~ん。

ママが言ったみたいなに、ほんとにサンタさんって居るんだなあ。


誰にも教えていないのに、ちゃんとサンタさんは知ってるんだ。



「そうか~っ。良かったな~、ぱみゅ代~」

そう声をかけながら、ぱみゅ子の方を向いた。


ぱみゅ子と目が合った。

ありがとう。

はっきりとその目に書いてあった。


この最&高の笑顔を見ることができた。ぱみゅ子、ありがとよ。

お前と全く同じ笑顔じゃったよ。


ふふふ。わしを信頼した、ぱみゅ子の勝利じゃ。ぱみゅ子の時だって、わしは一度たりとも、外したことは無かったじゃろ?


 ――サンタの代理人、おじいちゃん、今年も任務完了。

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