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梅雨

作者: ナダ

曇天の下、重苦しい空気感

あじさいが綺麗な日本の六月


毎年この時期には思い出す

桜桃忌

若かりし日の私は、太宰治の熱心な読者だった

誰もが一度は通る若者のカリスマ的存在


6月13日は太宰治の命日

桜桃忌とは太宰さんの作品『桜桃』にちなみ名づけられた

入水して遺体が発見された6月19日が桜桃忌にあたる


私がまだ独身の頃、確か太宰治生誕90年記念の年に、青森の生家、斜陽館へ行った

初めての一人旅だったと思う


昔からおひとり様行動は好きだったので、一人で日帰りで出かけることはあったけれど、旅行は友人や家族としか行ったことがなかった

一人で旅の手配をして、飛行機に乗った


ジメジメとした気候ではあったが、快晴でとても暑かったのを覚えている

津軽鉄道を降りて、斜陽館へ向かった

道中、お婆ちゃんに道を尋ねるも、言葉が通じない


ここは異国の地か?

老婆の言語が理解できない

太宰さんの旧家は、観光スポットとして開放されていた


小説に出てきた場面と照らし合わせ、ワクワクと見て回った

修治少年が実際に暮らしていた日々を想像して感動したものだった


近くの宿を予約していたので、金木町で一泊した

古い旅館で、宿泊客は私以外居ないようだった


しげしげと女主人に見られて、お風呂場に行こうとすると、なぜかついてくる

気にはなったけれど、仕方なく体を洗い湯船につかる

その間ガラス越しに脱衣所からずっと、こっちを見ている

結局お風呂から上がるまで監視されていた


若い女性が一人で北国の薄暗い旅館に桜桃忌に泊まる

そう、死に場所として利用されるのではないかと警戒されていたのである

そのことに気がついて、部屋で一人で笑い転げた


翌日は小説『津軽』に沿って五所川原から弘前城など太宰さんの足跡を辿った

うろうろと行きたい所を見て歩きまわるだけだったけど、本当に楽しかった



当時、生きることを決意した私の、死ぬまでにやりたいことリストの一つだった

二十代前半くらいまでの自分は、太宰さんと同じようにこの世から消えることばかり考えていた


自分の存在価値なんて何もない

親も友人もこの世界にも必要ない自分

夢も希望もなく、体調も悪く、自分を責めて嘆いてばかりいた


人生のどん底でヤケクソ根性みたいなものが湧いてきて、ノートにやりたいことを書き殴った

どうせなら、やりたいことをやろう


そんな私に太宰さんの生誕祭の情報がどこからか、もたらされた

太宰さんの没年の年齢を越えた今の私

太宰さんの好きだったさくらんぼを食べる度に思い出す、あの旅


生きて、今ここに、幸せに存在している自分

感謝の思いばかりだ

あの日の自分に、これまで歩んできた過去の自分に感謝している


ずっとがんばってきた自分

大好きになった

この宇宙に自分はひとりだけ


皆、そう

同じ人なんて一人もいない

大切なかけがえのない存在

大事なあなた、大事な自分

生きている今日に感謝











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