第五話 家族
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五月──
ゆるは、中学二年
ここは、ゆるはの部屋
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「もしもし…。」
「ああ、良かった!!ゆるは、身体の具合はどう?」
耳に当てたスマホから、お母さんの心配そうな声が聞こえてきた。
凄く久しぶりにお母さんの声を聞いた。
どうして、私の体調が悪い事になっているんだろう?
「うーん…あんまり調子良くないかな…。」
とりあえず、話の辻褄を合わせるしかない。
「そっかぁ…お母さんそっちに行ければ良いんだけど…。」
「お母さん、忙しいんだから…無理しないで?私なら、一人で平気だから。何とかするから…ね?」
実を言えば、私の家族のことについては、会話に上がらないように細心の注意を払っていた。
でも、今日は色んな事が重なってしまって、お母さんから電話がきてしまった。
そうなると、必然的に家族の話題になってくる。
お母さんの話をすると、私は話しているうちにどんどんと自分が惨めになってきてしまうのだ。
どうしてかと言えば、私のお母さんは誰もが見惚れる容姿の持ち主で、控えめに言っても上の中は下らない。
それは、私のお姉ちゃんも同じことが言えるが。
当然ながら、そんな容姿の二人を周囲の大人は黙って見ている筈もなかった。
まず声が掛かったのはお姉ちゃんで、小学生の頃に買い物中に大手事務所にスカウトされた。
それからは、有名ファッション誌の専属モデルをしている。
そのファッション誌がキッカケとなり、あるTV番組でお姉ちゃんの密着取材を受けたことがあった。
撮影時には、お母さんと私も一緒に居たのだが、どういう訳か放送時には、お母さんだけが家族として紹介された。
恐らく、私が未成年と言うこともあり、紹介するのは避けたのだと皆で言っていた。
番組放送後瞬く間に、ネットやインスカ上で美人すぎると話題となり、番組の担当プロデューサーからお母さんの下へと連絡が入った。
そんなお母さんは、今では全国ネットで放送されるTV番組に引っ張りだこで、多忙極めている。
勿論、お姉ちゃんの大手事務所に所属している。
ここまでの話を聞いて、そんな二人についてお父さんは、何も口を出さないのかとお思いになっただろう。
言いにくいことなのだが、そのお父さんは私が幼い頃、仕事で出張中に大災害に遭い…未だに行方知れずだ。
だから、今の私が路頭に迷わず生活できているのは、二人のおかげなのだ。
私が小学生の頃はまだ、お母さんとお姉ちゃんと三人で外出する機会があった。
だけど、迂闊に二人と並んで歩こうものなら、公開処刑の目に遭うことが多かった。
特に二人の熱狂的なファン達は、ネット上で私を攻撃対象としていた。
主に、私が写り込んでしまった画像を加工し、インスカ上に投稿してきたのだ。
大抵、画像が投稿されると、コメント欄には私の容姿に対する辛辣な書き込みが多く寄せられた。
その時、私は自分の容姿はダメなんだと悟った。
暫くして、一般人の私への攻撃行為が問題視され、今は二人とも外出する機会もない為、沈静化してはいる。
だから、顔の見えない相手から容姿のことを聞かれたら、中の下〜下の上と伝えている。
大抵の場合、それを聞いた相手からの連絡はプツリと途絶えてしまうが、それで良いのだ。
リュシには、容姿がダメな私が『魔法少女』を続けていても、本当に大丈夫なのかと問い続けていた。
だが、そんな私の心配をよそに、そのリュシから愛の告白をされてしまったのだが。
恐らく、異生物だから美的観点が違うのだろう。
まぁ、そんな私を尻目に置いて、二人の人気は衰えることを知らず未だに鰻登りだ。
そういう背景も重なり、お姉ちゃんが昨年末に生活拠点を都会へと移す為、家を出てしまった。
そして、お母さんも二ヶ月前に生活拠点をお姉ちゃんの所へ移してしまった。
二人とも事務所からの意向と言うことで、断り切れなかったようだが。
そうなると私についてなのだが、事務所側は食指が動かないようで、一緒に生活を等の話は一切出なかった。
なので当初はお父さんの生家のこの家で、私一人で生活していた。
先月リュシに『魔法少女』にされた為、一人と一匹での性活を一ヶ月程していた。
その矢先、リュシと付き合い始めた今は、この生活は私たちにとっては好都合だった。
「そうそう、一時間前にね?ゆるはの中学からお母さんのスマホに着信があったみたいなの。丁度、番組の収録中で出れなくて、さっき折り返しの電話してみたら、担任の先生からで、ゆるはが授業中に教室に荷物置いたまま早退したって聞かされて、お母さんビックリして電話してみたの…。」
え…?
お母さんの言葉に、一瞬自分の耳を疑ってしまった。
ベッドの上で、私を腕枕しているリュシの方を見たが、首を横に振るばかりだった。
耳で思い出したが、そう言えばまだ『魔法少女』に変身したままだった。
電話越しで、お母さんには珍しく音声通話だったので、私はバレずに済んでホッとしている。
「うん…。驚かせるつもりは無かったんだけど…。ゴメンね?」
それにしても、何故なのだろうか?
いつの間にか、私が早退したことになっていた。
担任の先生に、誰かがそう伝えてくれたのか?
だとしても、私は女子トイレの個室に居た訳で、鍵が締まっていれば、誰もがそこに居ると思うだろう。
「電話で担任の先生が、“ゆいなさんが授業中に、ゆるはさんの状態を確認しに行ってくれたみたいで、昇降口まで付き添ってくれたようです。”って言われたの。」
犯人は、ゆいなちゃんか…。
ゆいなちゃんは、クラスの中で唯一の私の友達だ。
私とゆいなちゃんの出会いは、中学一年まで遡る。
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十月──
ゆるは、中学一年
ここは、ゆるはの通う中学校
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その頃の私は、お母さんとお姉ちゃんが芸能人と言うことで、クラスの女子達からイジメを受けていた。
そんなある日の休み時間、隣のクラスの私が憧れていた男子から、放課後に体育器具庫裏へ来て欲しいと言われた。
放課後になり、私は喜び勇んで指定された場所へ向かったが、そこに男子の姿はなかった。
早く来すぎたと思い、暫く待ってみたが結局姿を見せず、諦めて帰ろうとした時だった。
学年内でも素行不良で有名な男子達がやってきて、私は取り囲まれてしまう。
大声で叫ぼうとすると、男子達はカッターナイフを取り出し、“今すぐ身に付けているもの全て脱げ”と脅してきた。
あまりの恐怖に私は抵抗することも出来ず、男子達の言いなりになるしかなかった。
あられもない姿を晒してしまった私に対し、男子達は追い打ちをかけるように、様々な体勢を取るように脅してきた。
その様子を男子達は、指を差して笑いながらスマホで撮影してきたのだ。
男子達の脅しはエスカレートしていき、しまいには地面に仰向けに寝転ぶように言われた。
その瞬間、これから何をされるかを私は悟ったが、カッターナイフを顔等に押し当てられていた為、声を殺して涙を流しながら従うしかなかった。
すると、リーダー格の男子が近づき、私に向かい罵声を浴びせてきた。
そして、私の両脚を脇に抱えると身体を寄せ、制服のズボンをおろした。
そんな状況にパニック状態となった私は、手脚をバタつかせ始めたけれど、他の男子達に押さえ込まれてしまった。
丁度、そこを通りかかったのが、ゆいなちゃんだった。
当時、ゆいなちゃんは隣のクラスで、しかもスクールカーストの頂点に君臨しており、私との接点などは一切無かった。
それなのに、乙女の危機から私を救い出してくれたのだ。
その足で、私はゆいなちゃんの家まで招待され、何故か友達になる事を許されたのだった。
その日から、私がイジメを受けることは無くなっていった。