第四話 同意
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五月──
ゆるは、中学二年
ここは…どこかのベッド
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「えっ…!?」
衝撃の光景を目の当たりにすると、咄嗟には声が出せないようだ。
なんと私は自分の部屋のベッドの上で、見知らぬ男性に両脚を抱えられていた。
しかも、男性は何を身につけておらず、股の間からは棍棒のようなものが聳え立って見える。
どう考えても、私はあの行為をこの男性にされる寸前だった。
「今の時代、相手の性的同意を得られないと、訴えられるみたいだからね?ボクは、ゆるはが起きるのを待ってたんだよ?」
そうかも知れないが、この国の法律では…性的同意年齢は十六歳以上だし、児童福祉法は十八歳未満が対象だ。
でも…よく考えてみれば、今の私の身体は『魔法少女』に変身したままなのだ。
さっきもリュシが言っていたが、二十歳まで成長した姿なので、法律の適応についてはグレーゾーンだ。
自分はリュシだと名乗るこの男性、先程からずっと私に向かって微笑みかけてきている。
普通に考えれば、好意もない男性にそんなことされたら、嫌悪感しかない。
だが…その外見が、私の推しの俳優やアイドルの良いとこどりで、まさに理想の彼氏像そのものだった。
予想外の展開に、私も興奮を隠せずにいる。
「あ、あの…!!ほ…本当に…リュシなのですか?」
「うん!!ボクね?ゆるはの恋人になれたのが、凄く嬉しくて。ゆるはが好きな人間の姿になれば、喜ぶかなって思ってね?いつも、ゆるはがインスカで見ている人間の姿をいくつか参考にしてみたんだけど…。ダメだったかな?」
いやいや、この私がダメなんて言うわけがない。
毎日、私はインスカの画像や動画を眺めては、こんな彼氏が居たら…と妄想に耽りながら自淫を繰り返し、寂しい気持ちを紛らわしていた。
そんな私の姿を、リュシは目撃してきたはずだ。
「ダメじゃないです!!でも、いつものリュシの姿も…私、大好きなんです!!」
「良かった!!これから毎日、ボクがゆるはのこといっぱい悦ばせてあげるからね?」
私の言葉に対し、リュシは屈託のない笑みを浮かべると、そう言い切ったのだ。
「あ…。えっと…。」
「ん?どうしたの?」
あの行為については、興味がないわけでも、嫌なわけでもないが、一つ困りごとが出来た。
それは、私の目の先にある、リュシの棍棒のようなものだ。
もし、リュシとあの行為をするには、それを全て受け入れなければならないからだ。
流石にそんなこと、リュシ本人の前では言えない。
「い…いえ、何でもないです。」
「そうなの?ゆるはの顔、真っ赤だけど…身体の調子はどうかな?」
私は緊張したり、恥ずかしい気持ちになると、顔や耳が真っ赤になってしまうのだ。
リュシに指摘されて、余計に恥ずかしくなってしまい、顔や耳が脈打つように熱くなっていくのを感じた。
「えっ…!?か、身体の調子は良いですよ?」
もうこの話については、これ以上詮索されたくないので、サラッと受け流して話を終わりにしたかった。
「ゆるは、ゴメンね?怒らないで聞いてほしいんだ。今、ゆるはの身体の疼きが治まってるのは、ボクが魔法で一時的に抑え込んでるからなんだ。」
あれ…?
私が想像していたのとは、全く別次元の話だった。
少し拍子抜けしたが、こっちの話は重大だった。
「やっぱり…そうですよね。少し寝て起きただけでは、流石に無理ですよね。」
「うん。ぬか喜びさせてしまって、本当にゴメンね?ゆるはの身体の疼きを治められるのは、恋人のボクしかいないと思ってね?ゆるはが起きるのを待ってたんだ。」
リュシが導き出した最適解が、私の部屋のベッドの上でのこの状況だったのか?
でも、本当にあの行為でしか、私の身体の疼きは治まらないのだろうか?
「あ…あの!!ほ、他には、方法はないのですか!?」
「うん。何かいい方法があれば良かったんだけど…。」
ふと、私はリュシの言葉を思い出していた。
確か…”変身した身体へ受けるダメージ等は、変身する前の身体には一切影響しない“と言っていた。
「あの…。変身を解除するのはダメですか?」
「うん。最初にそれは考えたんだけどね?話してなかったんだけど、変身途中で受けたダメージ等は、変身する前の身体に影響を与えてしまうんだよ。」
確か、私が『魔法少女』になりたての頃のことだ。
その日も、リュシから悪者が街に現れたと言われ、慌てた私は変身しようとスマホを構えた。
すると、凄い剣幕のリュシから、周囲の安全を確保してから変身するようにと注意された。
今ようやく、変身途中に襲われることの危険性が理解できた。
もし襲われれば、人生終了の可能性が高い。
話を戻すと、リュシの言わんとしていることが理解できた。
変身途中に、パワーアップしようとリュシとキスを行い、その副作用ともいえる影響で、私の身体は疼き始めてしまっていた。
「変身を解除したら、私は人生終了なのですね。」
「うん…。ゆるは自身の身体が疼き始めてしまうからね?」
私は『魔法少女』に変身すると、二十歳の姿まで成長する。
その姿でリュシとあの行為をすれば、間違いなく処女喪失は魔逃れない。
変身解除しても、本当に影響は無いのだろうか?
「これから、身体の疼きをリュシに治めてもらうじゃないですか?その後で、変身を解除すれば影響は残らないんですよね?」
「うん。ゆるはとの契約は継続されるから心配しないでね?じゃあ、いくよ?」
──ググッ…!!
リュシが脇に抱えている私の両脚を、更に自分の身体の近くへと寄せると、体勢を作った。
「ちょっと!!待って…待って下さい!!」
「大丈夫だよ?ゆるは。痛くないように、和らげる魔法かけてあるからね?」
そう言うと、リュシの棍棒のようなものが、ゆっくりと私の身体に押し当てられ始めた。
もう、身体の疼きを治める為に、覚悟するしかなかった。
「私が嫌って言ったら止めてくれますか?」
「うん。ゆるはのことが一番だからね?」
あとは、リュシが体重を棍棒のようなものに乗せれば、あの行為が始まる状態だった。
「ありがとうございます。では、宜しくお願いします。」
私の言葉にリュシは頷くと、一気に体重をかけてきた。
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五月──
ゆるは、中学二年
ここは…ゆるはの部屋のベッド
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人間の身体というものは、本当に怖いものだ。
一度受け入れてしまえば、その後は慣れてきてしまう。
私とリュシがあの行為を始めてから、三十分程経っている。
今はすっかり身体の疼きも治まって、ベッドの上でリュシに腕枕されている。
「ゆるは、よく頑張ったね?偉かったよ。」
「ありがとうございます。最初は、凄く…痛かったです。でも、リュシの気持ち…いっぱい伝わって来ました。」
早くお風呂に入って、身体をスッキリさせたい。
色々慣れない感触が多くて、身体中が気持ち悪い。
「今日は、ゆるはの身体の疼きを治める為だったけど、今度は、ゆるはと愛し合う為にするからね?」
「と…当分は、だ…大丈夫です!!わ、私の身体…壊れちゃいそうなので…。」
こういうデリケートな内容は、その場の雰囲気に流されたら絶対ダメだと思っている。
だから、ハッキリと今の自分の気持ちをリュシに伝えた。
「うん。今度、ゆるはがしたくなった時、ボクに教えてね?無理強いは、ボクの主義じゃないからね。」
案外、まともな返事がリュシから聞けて、少しホッとした。
──ヴィィィィン!!ヴィィィィン!!
「あれ?ゆるはのスマホが鳴ってるみたいだね?」
ベッドの枕付近に置かれた私のスマホが着信して、マナーモードにしてあった為に振動していた。
スマホを手に取って画面を見ると、私のお母さんからだった。
「え?!お母さん…から!?」
「あぁ…。ボクは何となく分かった気がする。」
恐る恐る、私はスマホの画面に表示された受話ボタンに指を伸ばした。