第二話 告白
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五月──
ゆるは、中学二年生
ここは…通う中学の女子トイレの個室
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「でも…私が悪者に襲われた日、リュシは怖いくらいに辛く当たってきましたよね?」
「えっと、その件については…本当に、ボクが悪かったです。ゴメンなさい。」
今日はリュシがやけに素直に謝ってくる。
普段であれば、最終的に私がリュシに謝る羽目になるのだが。
「あの日のボクは、自分で言うのも何だけど…冷静じゃなかった。だって、ボクよりも先に…悪者がゆるはの大事なところを悪戯してたんだ…。あんな光景…目の当たりにしてしまったら無理だよ。『魔法少女』状態の身体とは分かっていてもね?本当に…ボクはショックだった。」
まぁ、恋愛脳(仮)のリュシが自分で見初めた女が、用事で目を離している隙に…悪者に乱暴されかけていたのだ。
だから、リュシにとってショックなのも分からなくないが、あの時の私だって…肉体的にも精神的にもショックだったのだ。
決して、リュシだけが被害者だった訳ではない。
「もう、あの日のことは、記憶を消し去りたいくらいです。だから、リュシのことは許しますので、もう…その話は終わりにしたいです。」
「ゆるは!!ボクのこと…許してくれるんだね?!本当にありがとう…。」
こんな話をしているが、まだ変身の真っ最中だ。
先程確認した時から、二分程更に過ぎていた。
変身は、ようやくおへその辺りまで進んでいる。
実は…変身が完了するまでの間、宙に浮かんでいるスマホの画面に経過時間が表示されている。
私がスマホに顔を向けようとすると、スマホが動きを察知して、光を放つのを止めてしまう。
すると変身も一時的に停止してしまうので、出来るだけ顔を向けないように心掛けないといけない。
「もしも…私がリュシの恋人になったとします。その間のメリットって何かあるのですか?」
現実的に考えれば、人間と異生物のカップルの間にはデメリットが付き纏いそうだ。
もし、リュシが人間タイプの異星人だったなら、見た目的にも違和感がないだろうし、ラノベのような展開を期待しつつ…即答していたかもしれない。
ただ、可愛さという点では…リュシは群を抜いて百点満点なのだ。
ペットとして紹介するには良いかもしれないが、彼氏となると話は別で難しい気がする。
「うん!ゆるはがボクの恋人になったら、山ほどメリットがあるから安心して?」
リュシはかなり自信ありげに即答してきた。
だが、山ほどメリットがあるとだけ言われても、釈然としない。
「では…一つでいいので、そのメリット教えて頂けますか?」
「うーん、一つだけ選ぶのも悩むなぁ…。あ!これはどうかな?ゆるはの『魔法少女』としての能力を、パワーアップさせることが出来るんだけどね?そうすると、変身する時間も一瞬になるんだけど…。」
とりあえず、暫くは『魔法少女』の生活が続くことを考えると、変身時間の短縮は相当なメリットだ。
それに、告白を断ったことで、これまで以上にリュシから辛くあたられるようになっても嫌だ。
「えっと、じゃあ…宜しくお願いします。」
「こちらこそ…宜しくお願いします。ゆるはのこと幸せにするね?」
一度、口から出てしまった言葉はもう…戻せない。
今から私は…異生物の彼女になるのだ。
そう考えると、背筋がゾクっとしてきてしまった。
「り、リュシ…?早速なんですが、パワーアップしたいです…。」
私の言葉に対して、リュシはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
なんか知らないけれど、一杯食わされた気がした。
パワーアップする方法まで、聞くべきだった。
「実はね…?パワーアップは一時的なものなんだ。それに、パワーアップの持続時間は三つあってね?十分、一日、一週間の中から選べるんだけど…。」
「なら、一週間…。」
「まぁまぁ、焦らないで?ボクの話をよく聞くんだ。まず、ゆるはがパワーアップするには、ボクの体液をゆるはの身体に入れないといけないんだ。」
一気に血の気が引いて目の前が真っ暗になった。
リュシの体液を私の体内に取り込むという意味は、もう…あの行為のことしか頭に浮かんでこなかった。
だって、恋人になって十分も経たないうちに、もうあの行為をしないといけないかもしれないのだ。
「そ、そんな事したら…私、『魔法少女』じゃなくなっちゃいます!!」
「そう、『魔法少女』になる必須条件は“処女”だからね?でも、『魔法少女』に変身した後ですれば関係ないよ?」
あり得ない言葉を耳にして、私の呼吸は荒くなってしまった。
パワーアップさえ出来れば、『魔法少女ゆるは』として活躍出来る上に、人気者にもなれるだろうと安易な考えだった。
「そんなこと…絶対に嫌です!!警察に言います!!」
私はまだ中学二年生の女子で、未成年者だ。
実はリュシの年齢は知らないが、もし…私に手を出してきたら立派な犯罪だろう。
「えっと…。ゆるはは何か勘違いしていない?『魔法少女』に変身したゆるはの身体は、実は…二十歳まで成長した姿なんだ。」
「え…。」
リュシの衝撃発言に、私は思わず絶句してしまった。
確かに、つま先まで変身が終わると、スマホから放たれる眩い光に私の全身が包み込まれ、急成長を遂げていた。
リュシから近い未来の私の姿と言われた気がしたが、まさか二十歳の姿だとは思わなかった。
それに、『魔法少女ゆるは』の衣装は死ぬほど恥ずかしい。
基本は、テカテカとした素材で作られた、ハイレグタイプのスクール水着だ。
申し訳程度に、上半身部分には胸辺りの丈のレースのボレロ、下半身部分には腰の辺りからお尻側を覆うレースのスカートをそれぞれ身に纏っている。
あとは、腕には肘丈のレースの手袋、脚には膝丈のロングブーツだ。
全て白色で統一されており、歴代のリュシの『魔法少女』は、皆同じデザインの衣装で統一されているそうだ。
二十歳の身体と知ってしまうと、絶対に不釣り合いな衣装で、かなり際どい。
だから、あの日は悪者に襲われたのだと確信した。
「二十歳の身体だから…しても良いってお考えなのですか?」
「もしも、ゆるはがボクにそう望むならね?別に、ボクは無理強いはしたくない。それに、口でキスし合だけでも体液は取り込めるだろう?」
「あ…。」
この歳で、大人な知識を少しだけ得ていたのが災いしたようだ。
「全く…。ボクとキスするだけで、ゆるはは十分間もパワーアップ出来るんだよ?変身する前に、ボクにキスしておけば十分だよね?」
リュシを抱っことかはしたことあるけれど、キスしたことはまだない。
今まで、キスしたいとは全く思わなかった。
「あ、はい…。でも、もし…リュシとすれば、パワーアップした状態のままで一週間過ごせるんですよね?」
「うん。ただし、最後まで愛し合わなければダメだからね?でも、『魔法少女』に変身した身体へ受けるダメージ等は、変身する前の身体には一切影響しないから、安全なんだけど。」
遠回しにリュシは説明しているが、要するに…変身中にすれば妊娠する危険性はないということだ。
異生物とする勇気は、今の私にはない。
魔法少女系のアニメで、妖精がイケメンになったみたいに…もしも、リュシが私の理想の男性になれば話は別だが。
「き、キスで十分です!!」
それにしても、持続時間が一日の場合は何をすればいいのだろう?
ふと、気になってしまった。
「そうだ。今、ボクがゆるはにキスすれば、一瞬で変身終わるんだけどね?どうする?」
「はい!!リュシ、宜しくお願いします!!」
私の顔にリュシの顔がそっと近づいてきた。