Chapter.1-1 一つ目鬼の足取り
翌日、大半の店が開き始める時間、開店直後を狙って、和華は行きつけの携帯電話販売店へ駆け込んだ。
もちろん、昨日の今日なので、ボディガード代わりに冴月と瀬凪を引き連れて、だ(桃太郎のお供とは全然違うのだが、一瞬それが頭をよぎらなかったと言えば嘘になる)。
最近は、各携帯会社で年数縛りの契約が撤廃されていて助かった。そうでなければ、違約金を払いながら、新しい機械を購入する羽目になっていた(万年金欠だというのに!)。
携帯の買い換えと言えば、大抵その日の内に細々とした手続きは済むものだが、和華は明日取りに来る旨をスタッフに伝え、次の目的地である時計屋へ出発した。
時計屋の検索や、そこまでのルート検索は、人間である瀬凪がしてくれた。
彼女のスマホには、一見、スマホに貼る為のおしゃれシールに見える透明のそれが貼り付けてあった。が、それはあの太刀川お手製の、妖気除けらしい。
「明日、携帯引き取りに行く時用に、和華ちゃんの分も妖気除け、頼んどくから」
「お願いします」
冴月以外の同行者が、最初は葛葉の予定だった買い物の道行きを瀬凪に代わってもらったのは、ひとえに彼女が『人間』だからだ。繰り返すようだが、今妖薬の案件に関わっているメンバーは、太刀川と瀬凪以外が全員妖か混血で、司令塔の太刀川を除くと人間は消去法で瀬凪しかいなかったことも理由である。
ある一定量以上の妖気に触れると、機械は破損してしまう。ゆえに、葛葉はそもそも端末を手に持つことさえ難しかった。
ちなみに、端末に妖気除けを付けていれば持てるのでは、という疑問が沸いたが、それを訊ねると、『ペースメーカーのようなものだ』と説明された。
人の心臓の動きを補助するペースメーカーも、電子機器に近付くと悪影響がある。近年のペースメーカーユーザーは、スマホを持ってはいるが、ペースメーカーが埋め込まれた位置とスマホ(もしくはほかの電子機器)を一定距離以上に近付けることは命に関わる。それと同じらしい。
つまり、いかに妖気除け符が優れていても、肝心の妖が、例えば手に持つなどしてぴったり張り付いていては無意味なのだ。
ゆえに、対妖セクションに所属している妖、及び混血たちは、連絡を端末代わりの呪符で補っているという。スマホのように、住所検索できるようなものは、今は開発中のようだ。
冴月の場合は、妖化しさえしなければ大丈夫なようだが、妖化する瞬間の妖気量が問題だった。彼曰く、『妖化の瞬間、爆発的に跳ね上がる妖気量は制御不能』であり、『自慢じゃねぇけど機械が壊れるレベル』だそうだ。
無論、ただの買い物で、そうそう彼が妖化する必要に迫られる事態にはならないだろうが、和華の日常はつい昨日、ひっくり返ってしまった。
悲しいが、最早『絶対の平穏』はない。少なくとも、妖薬の件が片付くまでは。
「……て言うか、一日くらいだったら時計要らなくねぇ?」
瀬凪が検索してくれた時計屋に向かう道すがら、その冴月がいかにも面倒臭いと言わんばかりの顔でぼやく。
和華も、携帯販売店を出る時には、同じ理由で迷っていたのだが、
「だって、時間確認の度に瀬凪さん呼ぶわけにいかないでしょ?」
というわけで、結局購入に踏み切ったのだ。
ちなみに瀬凪とは、時計屋の検索が終わったあとにはすでに別れていた。
昨日、チラと葛葉が言っていたが、瀬凪もどちらかと言えば事務要員らしいから、この場にいてもらっても却って危険に晒す可能性もある。でなくても、彼女には彼女が担当する仕事もある。
(……それにファントムに就職するなら、今後もスマホが壊れるかも知れないから、時計は買っておいて損はないだろうし……まあ、そうホイホイスマホに壊れられても堪ったもんじゃないけどね)
今回の件、上手くすれば父は投獄されるが、その後も拘束されていてくれる保証はない。札束ビンタと権威に弱い警官でもいたら、ジ・エンドである。
父がうっかり短期間で外へ出て来た時の為に、就職先を確保しておくに越したことはない。
(……ファントムに就職、したらしたで、あの二人がどう出るかってのは気になるけど……)
脳裏に昨日、喧嘩別れの形になった、汰樺瑚と昴の顔がよぎる。
(あんまり付き合いたい人種じゃないのは確かだけど、この際贅沢言ってらんないし)
妖薬の件がどうにかなったとしても、父が一度言い出した政略結婚の件を易々と引っ込めるとは思えない。
考えてみれば、妹の蕗華は五歳下で、もう誕生日を迎えているから今十三歳、中学一年生だ。いくら父が、基本法律をガン無視するタイプのバカでも、相手に良識があれば蕗華を政略結婚はさせられないはずだ。
適齢の、もう一人の娘である和華の顔が父の脳裏をよぎったとしても、何ら不思議はないのだが、こちらとしては傍迷惑極まりない。
はあ、と吐息を漏らした瞬間、不意に腕を取られて、和華は顔を上げた。
手首は、細く長い指先に握られていて、腕を辿ると整いまくった冴月の顔に行き着く。
「……ボーッとしてんなよ。昨日の今日だからわざわざくっついて来てやったんだからな。離れてたら守れるモンも守れねぇだろ」
「あっ……あ、うん、ごめん」
内容は、色恋のそれではないのは確かなのだが、守るだの何だのという台詞が極上の美貌から放たれると、状況も忘れてドキドキしてしまう。
(……まあ、あれよね。冴月君にしてみたら、あたしなんかうんと年下だし、それ差し引いても憎きサヤノさんの転生じゃ、恋愛対象じゃないだろうから無意識なんだろうけど……)
最大級に整った容貌で、ナチュラルに口説き文句を吐くのはやめて欲しい。年頃の乙女の心臓には、かなりよろしくない。
(てゆーか、この体勢が周りにどう見られると思ってんだろ。普通に考えたら、デートなんだけど)
やり場に困って俯けていた目線を上げると、彼の横顔が視界に入る。
(……いや、違う。この顔がすぐ男だって判断されれば、って但し書きがいるよね)
そう思ったタイミングで、冴月が目線だけをこちらに向けたので、自然視線が重なった。
「……何だよ。俺の顔、何か付いてる?」
「うっ、うううんっ、別に何も」
ブンブンと勢いよく首を横に振って、また目を外す。
付いているも何も、その顔は端正過ぎて、見たいと思わなくても視線が吸い寄せられてしまうのだ。性質の悪い磁石そのものである。
その自覚を持って欲しいような、だが実際にそうされると鼻持ちならないような複雑な気分のまま、和華は辿り着いた時計屋の入り口を、冴月に手を引かれて潜った。
***
時計屋で買い物を終えたあと、和華たちは昨日出会った街路樹の下までやって来た。
時刻は昼前で、駅前のその辺りの人通りも疎らだ。
「……行けそうか?」
「今やろうとしてんだから、話し掛けないでっ!」
憤然と言った和華は、しがみつくようにポシェットのショルダーストラップを握り締め、昨日一つ目鬼とぶつかりそうになった場所を、じっと見つめた。やがて、その場にまるでホログラムのように、映像が浮かび上がる。
和華にしか視えない、実物大のビデオ映像だ。
(これだけじゃだめだよね……えっと……どうしよう)
太刀川にはああ言ったが、実際に逆回しで残留思念を拾ったことなどない。しかし、時を戻すようイメージするだけで、その場に現れた過去の映像の一つ目鬼は、ゆっくりと後ろ歩きを始めた。
実際には前に歩いていたのだろうから、まさに逆回しだ。
その映像を、無意識に追い掛ける。
一つ目鬼は、やがて最寄り駅へ後ろ向きに入って行った。あまり人の迷惑を考えなさそうに見える割には、律儀にICカードを自動改札に触れさせ、通過した。
自動改札も電車も、妖気に触れれば壊れるはずだが、なぜかそれはなかったようだ。
和華は、自分もICカードを取り出し、後ろ向きに歩く一つ目鬼を追って、構内へ入った。
その瞬間、警告音がして我に返る。後ろを振り返ると、冴月がフラップドアに阻まれ、じっとりと和華を見据えていた。
「あっ、ごめん、えっと……!」
慌てて冴月に駆け寄るのと、「どうしましたか」と駅員が小走りに近付いて来るのとは、ほぼ同時だった。
駅員には、「彼のICカード、チャージし忘れてたみたいで!」と適当に誤魔化し、冴月を促して人の邪魔にならない場所へ移動する。
「お金、持ってる?」
潜めた声で問うと、冴月も同程度の声量で「一応な」と答えた。
「切符の買い方は?」
「分かる」
「じゃ、取り敢えず一駅分だけ買って入って来て! 待ってるから」
分かった、と言った冴月は、一旦改札を離れ、すぐに戻って来た。自動改札の、切符を入れる隙間に切符を通した冴月は、今度こそ構内へ続く。
和華も、深呼吸して息を整えると、改札の辺りに意識を集中した。
(……視えた。あいつだ)
また後ろ歩きの一つ目鬼の映像を追って、降りたホームから電車に乗り込む。
各駅停車に乗った一つ目鬼は、五つ目の駅で電車を降りた(実際には『乗った』のだろうが)。
それを追って電車を降りると、一つ目鬼は改札口を通過した。
和華もまた、それを追って改札を出る。
今度は改札の警戒音も鳴らなかった為、冴月がどうしたかは気にしなかった。というより、もう冴月と一緒ということも忘れていた。
一つ目鬼は、どんどん人気のない方向へ後ろ向きに歩く。やがて、路地裏へ入り込んだ一つ目鬼は足を止め、クルリと和華のほうへ背を向けた。
その向こうに、一人の男の姿が不意に現れる。
一つ目鬼の思念だけを追って来たので、相手の男が急にその場に沸いて出たように見えたのだ。
その男から、ボストンバッグのようなものを受け取った――ということは、実際には一つ目鬼のほうから男に渡した――一つ目鬼は、路地から後ろ向きに歩き、今度は住宅街らしき場所へ入った。
閑静なそれだったが、ここも人気がまったくない。過去の映像だから、そう感じるのかも知れないが。
一つ目鬼は、最初にとあるアパートの一室へ入った。その部屋の鍵は開いていたので、和華も実際に中へ入ると、過去の映像の中で、鬼は何かを調べていた。
だが、やがてアパートを出た一つ目鬼は、ある場所で足を止め、またも和華に背を向けると、バッグを地面へ置いた。実際にはそれを一つ目鬼が拾ったのだろう。
和華は、駆け寄って鬼の前方へ回った。
そして、目を見開く。
「ひっ……!」
思わず後退った。足がもつれて尻餅を突いてしまうが、目の前の光景から視線を逸らせない。
正午に近い太陽に熱せられたアスファルトは熱いはずなのに、それさえ気にならなかった。
鬼の腕は水平に伸び、その掌から何かが飛び出ていた。最初はよく分からなかったが、掌から飛び出たそれは、徐々に人間の形を取り始める。
そして、すっかり人間と分かるようになった直後、鬼は相手の喉元から手を離した。
(何これ……!)
喉元を解放されたのは、男性だ。細面で、一見人の良さそうな顔立ちの――悪く言えば、少し間が抜けて見えなくもない。
そして、いつの間にか、バッグは男のほうが手に持っていた。元々、そのバッグは、鬼の掌に消えた男のものだったのだ。
逆回しに視えたのは、そこまでだった。ショックで逆回しにするほうへ意識が向かなくなったのだ。
『――誰だ、あんた』
途端、逆回し中には聞こえなかった音声が耳に入る。
時間を遡って過去を視るのは初めてだったからあまり意識しなかったが、確かに普通に過去を視るだけなら、音声も一緒に聞こえていたことを思い出す。
どうやらこれも、ビデオの巻き戻しと一緒だ。
『薬を持ち出したのは、お前か』
あの一つ目鬼の声――ガラガラとザラザラの合間のような声音が、男には答えず、自分の疑問だけを解消しようとしている。
途端、男は怯えた表情になった。
『くっ……薬? 何のことだ、オレは』
『その手に持っているのがそうだろう。溝際組から捜して取り戻すように依頼されて来た。御卿事務所の者だ』
(……ミゾギワ組? オンギョウ……事務所? 何、それ。何の事務所?)
和華は、震える足を叱咤し、何とか立ち上がりながら、過去の映像のほうへ身を乗り出す。
男のほうは、完全に挙動不審になり、鬼から距離を取るようにして一歩退がった。
『……たっ、頼む! 見逃してくれ! 組だって、この薬を売りたいんだろう!?』
男は、ボストンバッグを抱き締めながら続ける。
『それで上納金は支払えるし、この薬の新客を開発することにだってなる! お互いに損はしないはずだ!』
『お前の都合は関係ない。薬を返すんだ』
一つ目鬼が、男が退がった分足を踏み出し、手を差し出す。
『早くしろ。地面へ置け。薬がダメになるだろう』
一つ目鬼は、銃などは持っていない。
だが、過去を垣間見ているだけの和華でも分かる。薬をこの場で渡さなければ、男は死ぬだろう。渡したとしても生きていられる保証などないが、渡さなければ確実に死ぬ。
無論、その場にいた男にも分かったようだ。
『わ、分かったよ、返すよ。だから、上納金はもう少しだけ待ってくれ。そう組に伝えてくれるだろ?』
一つ目鬼はそれには答えず、ボストンバッグの中身を確認している。
やがて、うっそりと顔を上げると、『聞いていた数と合わない』と言いつつ立ち上がった。
『これの倍はあったはずだ。どこへやった?』
『ど、どこって……』
『まあ、いい。お前の記憶を視れば済む』
一つ目鬼は、出し抜けに男の喉元へ手を伸ばし、握り込んだ。
「……ッッ!!」
和華は思わず口元を手で覆った。
『うっ……ぅあ、がっ』
男が苦悶の呻きを上げ、一つ目鬼の手を喉元から取り除こうと足掻く。しかし、鬼の手はビクともしない。
「やめてっ……!」
過去の映像にも関わらず、和華は思わず声を上げた。その瞬間、男の身体が霧散した。
逆回しの時は、掌から男の身体が徐々に生まれ出るように視えたが、実際には芥子粒が弾けるように消えたのだ。
それが何を意味するのか、和華には分からない。ただ、残された一つ目鬼は、舌舐めずりした。まるで、御馳走様と言わんばかりに。
それから、鬼は考え事をするように、頭に人差し指を当てて考え込む仕草をしていたが、やがてバッグを取り上げ、その場をあとにした。
***
「……視えたのは、ここまでです」
汗を掻いたグラスに手も着けず、和華は震えながら告げた。
あのあと、冴月の空間を使って対妖セクションの寮へ戻った二人は、太刀川に召集を掛けられた妖薬案件担当メンバーに食堂で報告をした。
と言っても、喋っていたのは和華だけだ。冴月には、和華が視たものは視えない。
彼女は、今日もコンクリートジャングルと化した東京都下にありながら、真っ青な顔をして震えている。無理もない。過去の出来事とは言え、一つ目鬼が人を食べる現場を視たのだ。
「あとは……視えなかった……どうしても、集中できなくて……」
吐息と共に言って、和華は両掌へ顔を伏せた
「もうよい、和華。そなたはよく頑張った」
隣にいた葛葉が、和華の肩にそっと手を置いて労う。
「出ました、部長。溝際組と御卿事務所は、どうやら繋がってます」
発言したのは、瀬凪だ。先刻から、小型のノートパソコンのキーボードを叩いていると思ったら、調べ物をしていたらしい。
そのパソコンにも、装飾シールのようなものが貼られている。あれも、妖気除けだろう。
「溝際組は、フロント企業として美容クリニックを開業していますが、それが綾小路グループの傘下です」
綾小路グループ、と聞いた和華が、ノロノロと顔を上げた。
「ですが、御卿事務所と綾小路グループの直接の関係はなさそうですね」
パソコン画面を見ながら、太刀川が言う。それに、瀬凪が頷いた。
「そうなんです。御卿事務所は裏の御用達便利屋として、裏社会では有名だそうです。表社会の客の依頼ももちろん受けていて、こうして普通にホームページも開設しているのですが……」
「御卿事務所の名なら、耳にしたことがある」
そこで葛葉が口を挟む。
「何でも、事務所の所長である御卿丞という男は、年齢不詳。聞くところに拠れば、あの事務所は戦後間もなくの設立らしいが、その当時から所長は替わっていないらしい」
「……待てよ。オンギョウって……」
ふと、冴月は呟いた。
「何だ、冴月。心当たりでもあるのか」
「……白々しいな。あんただって聞いたことくらいあるんだろ」
「何を」
「その昔、ある豪族に仕えてた四鬼の話だよ。本当にその四鬼が豪族に仕えてたかどうかは分からねぇけど、実在はしてる。俺の母親が、その内の一鬼、火鬼の末裔だからな」
「それで?」
「その豪族に仕えてたって言われてる残りの三鬼は、風を操る風鬼、水を操る水鬼、それと――」
「己の姿を隠す能力のある隠形鬼……まさか」
冴月の言葉尻を拾って、残りの一人の名を口にした途端、葛葉はハッと何かに気付いた表情で冴月を見た。
彼女の視線を捉え、冴月は小さく頷いて見せる。
「ああ。御卿事務所の名前は、隠形鬼の“オンギョウ”だ。恐らくな。所長が戦後間もなくから替わってなくて、しかも年齢不詳だろ? あんたは所長の顔、見たことあるのか?」
「いや、わたくしは……」
「載ってるわよ」
瀬凪が、パソコンの前に来るようにと二人を手招く。葛葉と冴月は、瞬時目を見交わし、太刀川の後ろへ回り込んだ。
画面には、『御卿事務所』というタイトルがデカデカと書かれたホームページが映し出されている。
デザイン的には古い。そのページは、どうやら代表的なスタッフ紹介と、その挨拶が掲載されたそれだ。
一番上に、『所長・御卿丞』の文字と共に顔写真が掲載されている。
見た目は普通の人間だ。容貌はごく普通――言うなれば、十人並みだった。ずば抜けて整っているわけでもなければ、取り立てて不細工というわけでもない。
年の頃は、なるほど不詳だ。三十代半ばと言われれば頷けるし、二十代後半と言われても納得できる。
プロフィールも、誕生日は月日のみで、生まれ年は書かれていなかった。
戦後と言えば、普通は太平洋戦争終了後を指すから、その年に生まれたとしても、八十近いはずだ。それなのに、その頃から所長が替わっておらず、尚且つこの写真の人物が本当に所長を務めているのだとしたら――。
「……十中八九、間違いねぇ。この御卿事務所は隠形鬼運営……」
「その上、子飼いに妖がいる事務所だな。実際、和華の話に拠れば、あの一つ目鬼は、御卿事務所の者と名乗ったのだから……もしかしたら、スタッフの大半を妖が占めていてもおかしくないやも知れん」
「――ほう。察しがいいな」
途端、それまでその場にいなかった者の声と、次いで次元の狭間が割れる音がした。
©️神蔵 眞吹2023.