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地球に優しくなった我が家

こんにちは

 どうも、我が家は可笑しくなってしまったのではないだろうか。両親を送り、朝飯を食べにリビングに向かった俺だったのだが、母さんにひどく怒られたからか目が覚めたことで、この家が昨日よりも随分と違っていることに気が付いた。


 どこが可笑しいのかといえば、どうも我が家の電化製品という電化製品、いやもっと簡潔に言ってしまえば電気で動くようなものがことごとくなくなってしまっていたのだ。


 はじめにその事実に気づいたのは、朝食用のパンを取りに向かったキッチンでのことだった。普通ならそこにあるはずの冷蔵庫やオーブン、レンジや食洗器にいたるまでその全てがなくなっていたのだ。


幸いなことに食料棚にパンを発見することが出来、無事朝食にありつけたのであるが、しかしこの惨状は一体どういうことなのだ。随分前のバラエティで出来るだけ地球に優しく、電気やガス、プラスチックなんかの科学的なものを使わないという家族の実態を見たことがある。


 確か、その家族は宗教的な教義で科学的な生活を送ってはならないように決められているから、そう言ういわば「地球に優しい」生活を送っているらしいのだが、いつからうちの家はその宗教に加入したのだろうか。うちは父さんも母さんも無宗教を貫いているし、いや、中学の頃同じクラスにいたアレックスによれば、日本人は無宗教といっても実際は寺にもいくし神社にもいくし本質的には無宗教でもないんじゃないかということらしいのだが、しかしそうとは言っても神様なんていたらいいけどいなくたってどうとも思わないような信仰心しか持ち合わせていない一家なのだ。そんな宗教がらみで何かあるはずもない。


 可笑しいことは他にもあって、それは我が家から電化製品が消えた代わりに謎の器具が大量に現われたことだった。昨日、冷蔵庫があった場所には謎の扉があって、その扉はどれだけ力を込めて引っ張ったってまるで頑丈に鍵がかかっている様に開かない。


 家中のLED電灯の代わりにそこかしこに提灯みたいなものがつるされてはいるが、椅子に上ってその提灯の中身を見てみても何も入っていない。不思議な文様の描かれた札が一枚貼ってあるだけだった。他にも、意味不明な箱や札、扉などいかにも怪しいものが右を見ても左を見ても置いてあるのである。


 もう訳が分からない。宗教がらみでないのだとしたら、これはいったい何なのであろうか。いつから俺の家は万国オカルトグッズ大博覧会の会場になってしまったのだ。しまいには覆面の集団でも表れてUFOでも呼ぶというのだろうか。やめてください、やめてください!我が家にはお宅のUFOにあげられるような供物はありません!


 


「それにしても、一日で我が家がこんなオカルトマシマシアヤシサマシマシの意味不明な欠陥住宅になってしまうとは...人生ってのは分からないもんだよなぁ」


 


 ひとしきり驚いて、十分慌てふためいたからか何だかこの状況を受け入れてしまっている自分に気が付いた。いまだにこれは何事だという考えは拭えないけれど、それとは別にこんなこと考えてもしょうがないのだと気が付いたのだ。何といっても、人間生きていく中で重要なことは考えるべきことについて考え、考えてもしょうがないことには首を突っ込まないということなのだ。かの有名な哲学者、ヴィトゲンシュタインは素晴らしい格言を残している。語りえぬものについては沈黙しなければならない。俺もその格言に乗っ取り、ここでは沈黙しなければならないだろう。いいか、これは決して「よくわかんないし、俺、意味わかんないから諦めよう。」なんていうことではないのだ。そう、これはいわば戦略的撤退。いつか花開くための苦渋の一手なのである!


 一連の困惑を乗り越えた後、朝飯を食べ終えた俺は何処が食洗器なのかもわからないから適当な謎の鍋に食器類をほっぽって、学校に行く準備を始めた。花の高校生になる日の早朝がこんな朝になるとは露ほどにも思ってはいなかったけれど、嘆いていてもしょうがない。我が家が宗教の総本山になろうとも全国オカルト大博覧会になろうとも、そんなことにかかわらず俺の高校生活は幕を開けるのだ。今、俺がすべきことは素晴らしき高校生活の幕開けのために十全に準備を行うことなのである。時計を見てみれば、さとちゃんとの集合時間までもうそんなに時間はない。歯磨きをして、顔を洗って、カバンに必要な物を入れてとやらなければいけないことはいくらでもある。折角の入学式なのだから髪のセットもやっておくべきだろう。えっと、ワックスってどこに置いたんだっけ…


 リビングの机の上には学校のまだ真新しい制服と学校指定のカバンが置いてあった。その隣にはこの丸文字からして母さんの文字だろう「入学式頑張るんだよ!持っていくものは入れてあるからね!」という書置きが置いてある。もう、俺も高校生なのだからそんな過保護にならなくてもいいんじゃないかと思うのだが、母さんは今でも俺のことを自分一人では何も出来ない子供だと思っているのである。制服に袖を通すと我が家の柔軟剤がふわりと漂った。バニラとアロマの香りが混ざった独特の柔軟剤、父さんがこの柔軟剤を買ってきたときはちょっと匂いが強いかなと思っていたけれど、慣れ親しんだ今ではこの香りがすると安心するのだ。


 カバンを手に持つとやけにずっしりとした重みがあって、体がちょっとぐらつく。入学式にそんな必要な物ってあっただろうか、特に筆箱と書類くらいしかいらなかったと思うのだけど...まぁ、いいや、きっとこれが高校生の重みというやつなのだ。


 


「たろーう!早く来てくれないと僕たち遅刻しちゃうよぉ...」


 


 さとちゃんが玄関の方で呼んでいる。俺は「今、行くから待ってて!」と返事をして、意気揚々と玄関に向かうのであった。


 

有難うございました。

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