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平凡でいて革新的なある朝

拙いですが読んでいただけると嬉しいです。

 朝、いつもなら鳴るはずの目覚ましが故障か何か起こしたのか鳴らなかった。だから、ずいぶんとゆっくり寝てしまっていたようで、母さんが下の階で「太郎、早く起きなさい!!」と叫ぶ声に飛び起きることになってしまったのだ。


 昨日、さとちゃんとずいぶんと遅くまで通話をつないでゲームをやりこんでいたからだろう、まだ少し眠気が残っていた。レートも昨日は負け続けだったから、随分と落ちてしまったしこんなことならさっさと切り上げて寝た方が、幾分かましだったのかもしれない。さとちゃんとFPSをするのは楽しいけれど、奴も俺も負けが込んでくると熱くなって引き下がれなくなるタイプだから、今度からはもうちょっとのんびりしたゲームで遊んだほうがいいのかも。


 寝ぼけた瞼をこすりながら、部屋を見渡すと目覚ましがないことに気が付いた。故障で目覚ましが動かなかったのかと思っていたけれど、昨日、どこかの部屋に移動させてそのまま置いてきてしまったのだろうか。どこかに移動させた記憶はないけれど、多分、何かに混ざって持って行ってしまったとかそんなところだ。


 下の階に降りると、母さんと父さんはもう支度をし終わって玄関から出ていくところだった。母さんは俺の寝ぼけた顔とぐしゃぐしゃのパジャマを見るなり、ため息をついた。


 


「あんたねぇ、今日からもう高校生なんだよ?入学式の日からそんな体たらくじゃあ、母さん、あんたがしっかり高校についていけるか心配だよ…昨日、言った通り母さんとお父さんは今日、仕事で入学式行ってあげられないんだから、しゃきっとしないと…ほら、もう髪もぼさぼさだし…」


 


「い、いや、大丈夫だよ、母さん。ほら、あれだよ。逆に考えてみれば昔と変わらず、初心を忘れてないってことでもあるわけだよ。初心を忘れず、いつでも子供の頃と変わらずに生活することが出来る。そう考えてみれば、母さんも自分の息子に誇りを感じられるでしょ?」


 


 俺の必死の自己弁護に母さんはまた、ため息をついた。その隣を見てみれば父さんもため息をついている。なんだろう、肩身が非常に狭い。


 


「あんたねぇ、それは初心を忘れてないんじゃなくて、ただ単にあんたが成長しないってことだろう?屁理屈だけは無駄に上手くなって、それ以外は全く変わってないじゃないか...向かいの里中さんちのお子さんを見てみなよ。あんなに立派に成長してこの町内じゃあ、里中さん所の子供はしっかりしてるって有名なんだよ?それに比べてあんたは…」


 


 これはまずい。母さんは中学最後の成績で俺がお隣の里中さんちの息子、つまりはさとちゃんにダブルスコアをつけられた頃から、随分と長い間根に持っているのだ。そして、それ以来、何かと理由をつけてはさとちゃんと俺とを比べたがるのである。この話は長引く気がする、何とか止めないと早朝スペシャルお説教タイムに突入することになってしまう...


 


「か、母さん。そのことは置いといてさ、そろそろ行かないと仕事間に合わないんじゃないかな?ほら、母さんいつもこのくらいの時間には出てるよね?俺も朝飯とか今日の支度とか、いろいろ用意しなくちゃいけないこともあるしさ。」


 


「その用意が出来てないって言ってるんじゃないの。ほんとにあんたはいつもいつも...あんたは素直に頑張ればちゃんとできるんだから、人の言うことをしっかり聞いて...そもそもあんたは昨日だって...」


 


 母さんの無差別爆撃が止まらない。あぁ、このペースだとあと二十分は続く予感がする。我が父よ、偉大なる我が父よ。どうか、怒りに震える母から我を救いたまえ。どうか、どうか、我をこの苦痛から救いたまえ、というか救ってください。もう、なんでもするから救ってください!


 


「ま、まぁ、奈美子、そこまでにしてあげたらどうだ。太郎も反省しているようだし、確かにそろそろ行かないと仕事に間に合わない。また帰ってきたときにでも言い聞かせればいいじゃないか。それに、太郎も高校初日からこっぴどく叱られては気分も上がらんだろうさ。」


 


「源次さんは太郎にいつも甘いんだから...もっと厳しくしないと太郎は成長しないと私は思うんです...まぁ、いいでしょう。太郎、あんたが帰ってきたらきっちり言い聞かせるからね。しっかり反省しておくんだよ!」


 


 流石の母さんも父さんの説得の前では無力にならざるを得ないということか。俺の全力の念が通じたのか、フォローを入れてくれた父さんはナイスプレイだ。帰りにでも酒に合うつまみでもスーパーで買って献上しておこう。チーカマ一週間分くらいでまからないだろうか...


 


「太郎、僕たちはもう出発するけどすぐに朝ご飯を食べてしまって、出来るだけ早く用意を済ませておくんだよ?ほら、母さんも言った通り今日から高校生なんだから、太郎も高校初日は余裕をもって登校しておきたいだろう?」


 


「そうだね、父さんが言うことももっともだし出来るだけ早く学校に向かうようにするよ。心配してくれてありがとね、父さん。」


 


 母さんが「私もさっき同じこと言ったじゃない!」と叫ぶ声を聞き流しつつ、俺は二人を見送った。しかし、その去り際、父さんになだめられつつ玄関から出ていく母さんの一言だけが記憶に残った。


 


「太郎、今日学校に行く時だけど、何日か前に一緒に取りに行った定期が家の前に来るはずだから、ちゃんと里中さんちの息子さんと一緒に待ってるんだよ!乗り遅れたら学校に行けなくなるんだから、餌も忘れずにね!」


 


 そう言って母さんは父さんに引きずられて出ていった。先週の月曜に確かに俺と母さんは定期を取りに行ったはずだが、それは電車の定期のはずだから、近くの駅にまでいかないと乗れないはずなのだ。国会議員とか大企業の社長の家なんかは自宅の前に駅を作ることだってできるのだと聞いたことはあるけれど、我が家は普通のサラリーマンの共働きだから、そんなザ・ブルジョワジーみたいなことは出来ないのである。それに餌やら何とかっていうのも俺の聞き間違いでなければ意味が分からない。


 まぁ、母さんはちょっと天然な所があるから、よく意味不明なことを言って俺と父さんを困惑させる。その殆どがテレビか映画の影響をもろに受けてしまってという残念な事情なのだが、今回もその類いなのだろう。母さんの意味不明な行動について俺が唯一得た教訓は「時に人間は考えるのをやめた方がいい」ということなのである。


 俺は今回も思考をとりあえず停止させて、朝飯へと向かうのであった。


 


 


 

ご読了有難うございました。

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