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好きです、早瀬くん

作者: 一ノ瀬 葵

机の上にたくさんの白いティッシュと輪ゴムを広げて、せっせとそのティッシュを丸める。

 そして、出来た丸にティッシュを乗せて、かわいい顔を描けばてるてる坊主の完成だ。

 だが、私のてるてる坊主は必ず頭に日付を書く。ピンポイントでその日に晴れるように願っているからだ。


 『7/7』

 絶対に晴れてもらわなきゃ困る。そう願いながら私と紗里奈は一生懸命てるてる坊主を作る。


 「なんで今年はそんなに必死なの?」

 真剣に作る紗里奈へ話しかけてみる。

「去年は適当に作って、雨降っちゃって、後悔したから。七海は?なんで?」

「私は、雨を理由に逃げないようにしたいから。去年は雨降ったからって諦めちゃったから」


 時刻は午後4時。

 そんな思いで作ったてるてる坊主はちゃんと窓のところに飾ってある。

 1ヶ月前に作った大量のてるてる坊主は果たして、意味があったのかなかったのか、天気は曇り。今にも降りそうな天気だ。夜に晴れなきゃ意味がない。しっかり晴れてくれないと。

 不安な思いで、紗里奈に電話してみることにした。

『ねぇ、晴れるかな』

『大丈夫。絶対晴れるよ』

『でも、もう夕方だから雲がどいてくれたらそれでいいや』

 なんか不安を誤魔化すためだけに電話するの良くないなと思って、すぐに電話は切ってしまった。

 いや、それは違う。

 私は紗里奈の好きな人を知ってるから、紗里奈が告白しようとワクワクしてるのを聞いていられないんだ。

 

 私と紗里奈は小学校から今現在の高校に至るまでずっと一緒の学校で、好きな遊びも好きな食べ物も好きな芸能人も一緒だった。

 だから、もちろん一緒だった。好きな人も。

 そのことを紗里奈に伝えたことはなかったし、別に自分の恋が叶わなくても紗里奈がいつも恋人と楽しそうだったから別に良かった。

 でも、去年、私は好きな人がいることを伝えた。紗里奈は今までにないくらい嬉しそうに話を聞いてくれたから申し訳なくて、好きな人は紗里奈の知らない人だと嘘をついた。告白するつもりなんてなかったから。

 今年、てるてる坊主を一緒に作ったのは、一緒に幸せになろう的なそういう上っ面のものだったと思う。なれるわけないのに。

 てるてる坊主を見ながら、私が告白成功して紗里奈が悲しむ顔を想像してみる。

 やっぱり私には伝えられそうにない。

 仕方ないと諦めかけたその時だった。


トゥルルルトゥルン

トゥルルルトゥルン


 スマホの画面には紗里奈の文字があった。紗里奈も不安に駆られたのかと思って、電話に出ることにした。


『ねぇ、聞いて、あ、あ、あのね』

ひどく興奮して、声が震えていた。 

『どうしたの?落ち着いて』

『部活終わってから、帰ろうとしたらね、早瀬くんに告られたの』

嬉しそうでもあり、戸惑ってもいるそんな紗里奈の言葉に私は何も返せなかった。

『聞こえてる?七海』

聞こえてるよ、もちろん。

二人は七夕にロマンチックに付き合っちゃうわけでしょ。聞こえてるよ。

『おーい、七海?えっと、とりあえず付き合うことになったから報告でした』

『おめでと』


 何回目だろ。紗里奈におめでとう、って言ったの。

 何回目だろ。紗里奈にバレないように泣いたの。

 何回目だろ。早く別れちゃえって思ったの。


くそ。くそ。くそぉ。

一緒にてるてる坊主作った意味あったかな。


この気持ちはどこへ消えていくのかな。

消えないのかな。

今年こそは、ちゃんと告白して振られるなら振られても大丈夫だと思ってた。

告白もさせてもらえないなんて、そんなことあるんだな。いや、いつもか。

でも、諦めない。

今年は絶対諦めないと決めたんだ。



だから、だから、今年の短冊はこんな不思議なことを書いてしまったんだ。


『来年こそ告白出来ますように』


ねぇ、聞いて。


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