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王宮にある大広間で王立魔法学院の卒業パーティーが執り行われている。

会場には卒業生はもちろん保護者や婚約者がおり、各々食事したりグラスを手に持ち会話に花を咲かせている。

この後、王族が入場しパーティーのフィナーレを迎える。



そんな中、会場の中央でひとりの卒業生が大理石の床になにやら書きはじめた。

彼女は淡々と書き進め周りの目を気にすることはない。

周りの者も彼女の顔を見て納得し、再度談笑に花を咲かせる。





彼女はソフィア ガーランド。

男爵家の令嬢であり、学院に入学してすぐ魔法具の虜になり他の女学生が色事やお洒落に精を出す中、魔法学の研究に勤しんだ。


それが功を奏し、廃れていた魔法学を現代活用できるよう復活させ高い評価を得た。

そして今代の最優秀生徒に選ばれたのだ。

中でも魔法学を活用した魔法具は素晴らしく既に商品化もされ彼女に大いなる利益をもたらしていた。

彼女はその魔法具で莫大な利益を出しているのでは噂されていた。




そこへ壇上脇より真剣な顔つきをした一団が現れた。


この国の王太子アレクサンダーと側近である。

その傍らにはブラウンの髪を念入りに縦巻きにしたシーガソイ侯爵家の末娘エリザベスがアレクサンダーにもたれるよう腕に絡みついている。

少し後ろには控えるように男子生徒が両側に立っていた。





「ガーランド男爵令嬢、なぜ再三の呼び出しに来ぬのだ!」 


アレクサンダーの声は会場中に響く。

それを聞いた人々が左右に分かれソフィアの前までの道をつくった。



壇上から降り、怒りの矛先である女生徒の前まで来たアレクサンダーは彼女を諌めるように声を上げた。


「そなたの為に人目につかぬ場所を設けていたのに、呼び出しに応じぬ貴様が悪いのだ!」



ソフィアは自分よりも高位な貴族に膝を折り頭を下げる。




(ふっん、泥臭い田舎者め)


どこからか男の声が会場内にこだまする。

離れた場所にいる貴族たちも周りを見渡すように声の出どころを探しはじめる。



何も言わぬソフィアを見据えるアレクサンダーは罪人を罰するかのように声を発した。


「貴様はこの私と婚約している事を笠に悪質な商売をして金品を騙し取っているそうだな」


続いて後ろに控えていた宰相の息子ルワーメが眼鏡の真ん中を指で上げながら書類を読み上げる。


「商品の申請書類を見ると耕運機に複写機…他にも無用の長物ばかりですね。そんな物を王太子の名を使って売りつけていたとは……ソフィア嬢、もう少し頭を使ったら良かったのでは。これなら、この私で無くとも不審に思いますよ」



「ふんっ、そもそも魔法具と金額が見合ってないんだよ。法外な値段も罪になるぞ」


小馬鹿にするように嘲笑うのは騎士団長を父に持つカバーノ。



耕運機は馬か牛に繋げて田を耕す魔法具で隣国との小競り合いが続き働き手を兵に取られた農村部で大活躍している。領地を持つ貴族からは未だに問い合わせが絶えない。


複写機は白紙の紙を用意すれば書き写したい書類などと同一の物が出来上がる。

しかし写字生の仕事が無くなる恐れがあったため、かなりの高額で取引されている。

それにも関わらず王宮の文官仕事をする役所では相当な数が普及している。

最近では仕事に追われている大領地からも購入希望者がいる程だ。




(書類偽造するならもっとマシな魔法具を挙げれば良いものを……、下賤な百姓が使う魔法具などどの貴族が買うのか。なんとも幼稚な…)


会場内に再度こだまする声に不快感を表す貴族が出はじめる。




「私、この複写機などと言う魔法具は見たことも聞いたこともありませんわ。まぁ、こんな高値で⁉︎信じられませんわ」


さも驚いたように扇で口元を隠すのは、先程から王太子から離れようとしない侯爵令嬢。

しかし、この令嬢の父であるシーガソイ侯爵からソフィアは複写機を作ったことの賛辞を直々に頂いている。


(どう、この演技力。これで会場の貴族たちは、こちらに義があるとわかったはずよ)


(あぁ、俺様の発言の後押しをしてくれるなんて、エルザはなんて優しいんだ)





ルワーメが書類を捲り、更に読み上げる。


「ソフィア嬢、あなたの罪はまだあります。

学院において不正入学し、最優秀生徒に収まるなど成績を捏造、更には古代の魔法学を復活させた等の嘘を吹聴しましたね。その嘘を信じ込ませる為、学院の研究員を使った。その研究員も共犯として解雇するのが妥当でしょう」


(これぐらい言えば説得力があるでしょう。まったく、下級貴族が天才の私を差し置いて最優秀生徒になるなんてありえません)



「しかもお前はその研究員と恋仲だったそうじゃないか⁉︎婚約者がいるのに浮気だなんて罪が増えたな」


(地味な女なのによくやるねぇ。牢に入ったら少しかわいがってやろうかな)



「まぁ、汚らわしい!」


(あんたには私みたいに複数の男を手玉に取るなんて出来ないのよ)



「まあ良いだろうお前たち。こいつの罪など挙げたらきりが無い」


(ふん。これが上に立つ者の権力だ)



4人それぞれが自分に酔いしれ、みな熱弁している事で悦に入っているようだった。




会場に集まった人々は理解しただろう。声の主たちが誰かを。

声の正体がわかった貴族らは目立たぬよう論じ始めた。そして次第に会場内が不穏な空気に包まれはじめる。



会場内にこだまする声は、その主達には聞こえない。

そう声の主、アレクサンダー以下4名は魔法陣から出ない限り自分の心の声が会場中にこだましてしまうのだ。


4人が会場に現れる前、ソフィアが大理石に書いていたのは魔法陣だった。


それだけではなく魔法のインクを使用して書いた魔法陣は見えなくなっているため、後から現れた4人は魔法陣の上にいる事さえ気づいていない。


魔法陣を書いているのを周囲の者が黙認していたのはソフィアが毎年恒例の最優秀生徒による発表をするのだと思っていたからだ。



ソフィアは口に手を当て口角が上がるのをうつむきながら隠した。


ソフィアのその仕草はアレクサンダーには罪を悔いているように見えた。



「ふんっ。今頃後悔しても遅いわっ!」


(どうだエルザ、罪人を断罪するこの俺はかっこいいだろう)



「その通りです。ソフィア嬢あなたの罪は我々が全て暴きました。逃れる事は許しません!」


(詐欺罪は裏付けはまだですし、学園での事は推測ですが、どうにかなるでしょう。難しくても金で共犯者をでっち上げれば良いのですから…)




勢いに乗り王太子がソフィアに指をさす。


「男爵令嬢ごときが王太子である私と婚約など最初からおかしかったのだ。騙し奪い取った金で国王陛下の関心を引いたのであろう!」


(誰もが見惚れるこの私に下等で見栄えのしない者を隣に置くなどあってはならない事なのだ)


「まぁ、なんてこと!」


(何であんな地味な女が婚約者になれたのかしら。あなたなんか私のように体を使っても誰も虜にできないでしょうに)



アレクサンダーは勢いよく鼻から息を吐き宣言する。



「ソフィア ガーランド。この場をもって貴様との婚約を破棄する!そして隣にいるエリザベス シーガソイ侯爵令嬢を新たな婚約者とする!」


(決まったー!)



エリザベスは王太子から一歩離れてカーテシーをする。


「謹んでお受けします、アレクサンダー王太子」


(いいきみね。私がここに立つためにアレクの小さな息子を何回可愛がったと思ってるのよ!)


心なしか会場の女性の顔が引き攣っている。


「浅はかな知恵で王家並びに貴族たちを騙すからですよ」


(知能で劣る馬鹿なエルザは王妃になれないだろう。父に言って私が妻に召し抱えよう。あぁ、あの豊満な体をまた堪能したい)



「エリザベスこそ王妃にふさわしいんだ!」


(あー早く終わらねーかな。最近エルザとご無沙汰だし、今夜あたり誘ってみよーかな)



自分自身に酔いしれ高揚感に満ちている4人は周りからの目に気づかない。

呆気に取られていた人達はやがて軽蔑のこもった目で彼らを見ていた。



そこに、この状況に気づいていない夫婦が汗をかきながら王太子の前に平伏する。

ちなみに、この夫婦も魔法陣内である。


「殿下っどうかお許しを!この愚かな娘はなんて事を!娘ソフィアは今をもって勘当しますので、どうかっどうかっガーランド家だけはお助け下さい!」


ソフィアの両親であるガーランド男爵とその夫人は床に額を擦り付け許しを乞う。


(クソっ娘が大金を手に入れたらしいと聞いて今までの養育費や色んな名目で金をせびったが、そんな曰く付きの金だったなんて!)


(あぁ、せっかく巷で人気の男娼を手に入れたのに。手元のお金も返さないといけないのかしら……)



ガーランド男爵は手に絶縁の書類をもっていた。



(ルーカスがうまく誘導してくれたのね)


ソフィアは心の中で友であるルーカスに感謝した。



娘が最優秀生徒に選ばれなければ本日この会場にも来ていなかったであろう男爵夫婦は自慢話をするのが好きな傲慢な夫婦だった。

今日とて娘が選ばれたのは自分の教育の賜物だと触れ回っていたのだ。


しかし、娘が王族から断罪されているのを見て焦った夫婦は「罪に問われる前に縁を切られては」と男に唆され王宮内にある籍所へ向かったのだ。






今まで一言も発していなかったソフィアがアレクサンダーに発言の許可を得る。


ソフィアの横に来て「身の程を弁えろ」と吠える両親は視界にも入れず聞き捨てる。



「アレクサンダー王太子、恐れながら申し上げます。私は貴方と婚約はしておりません」


ソフィアの発言に4人の目が見開く。


「何を馬鹿な事を言っている⁉︎私は確かに父である陛下から言われたのだぞ!」


(俺の将来の妻になるかもしれないから、早いうちから優しくして親交を深めろと確かにパパは言っていたんだ!)



「苦し紛れに殿下の御前で嘘まで吐くとは!」


(どこまで浅はかなのでしょう。どうやって周りの目を欺いて来たのか…)



「見苦しいぞ!」


(俺様がさっさと終わらせてやる!)


カバーノがソフィアに近づこうとする。腕を取って拘束するつもりだった。





「そこまでだっ!!!」




壇上にある王座の方から会場内に大きな声が響いた。








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