魔王城を追放されたごましお 言い方が悪かった、謝ろうとしたけど、もう居ない!?
前作 『世界を護りしもの~魔王城のごましお』 の後日譚です。まだお読みでない方は、先にそちらを読んでくださいね~。
『ごましお、お前には魔王城から出て行ってもらう!!』
『うにゃん?』
魔王城に住み着いているネコがいる。白黒なので、名前はごましお。
暮れが近づき、現在魔王城は大掃除の準備に追われているが、ごましおが居ては掃除にならないのだ。
『ま、魔王さま!? いくらなんでも言い過ぎです!!』
『そうですよ、言い方ってものがあるでしょうに……』
四天王たちに責められて、それもそうだな、と反省する魔王。
『ご、ごましお、すまなかった……っていない!?』
そこにはすでに、ごましおの姿はなかった。
『ま、まあ結果オーライだ。さあ大掃除を始めようではないか』
しかし……夜になっても、ごましおは帰ってこなかった。
まるで明かりが消えたような、お通夜のような雰囲気の城内。
『グスッ……ひっく、ひっく……』
『魔王さま……もういい加減泣き止んでくださいよ。まだ出て行ったと決まったわけではないんですから』
『で、でも……今までこんなこと一度もなかったじゃないか?』
結局、朝まで一睡も出来ずに朝を迎えた魔王城の住人達。
今日は朝から魔王軍の威信にかけた捜索が執り行われることになっている。
「ピンポーン」
「ガタッ!?」
『も、もしかして、ご、ごましお!?』
ネコがインターホンを鳴らすわけがないのだが、今の彼らにそれを判断する余裕などない。
「やっほー! ごましおと遊びに来たぜ!!」
やってきたのは、勇者パーティ。最近理由をつけては、遊びに来ているのだ。
『ちっ、なんだお前たちか……ごましおはいないぞ。実はな……』
「な、なにい!? わかった、俺たちも探すのを手伝うぜ」
『すまんな……恩に着る』
「ふふっ、気にすんな。お前のためじゃない。自分のためにやるだけだからな」
「そうだよ、探し物ならこの盗賊マナさまにお任せだよ」
盗賊であるマナは、その絶壁ともいえるまな板を生かして狭いところでも侵入することができる。勇者パーティの最高戦力だ。
その後、魔王軍と勇者パーティによる共同作戦が始まったが、一向に見つかる気配はない。次第に焦りから諦めムードへと変わってゆく。
『魔王様、かくなるうえは、邪神がもつといわれる伝説のアーティファクトを手に入れるしかありません』
そのアーティファクトを使えば、時間を1週間戻すことができる。
「じゃ、邪神って、あの病気をばら撒いて、その特効薬を高値で売りつけて儲けているという、あの?」
勇者パーティも戦慄するほどの巨悪。それが邪神。
『だが、それしか方法がないのなら、我はそれに賭ける!!』
魔王の目に迷いなどない。それを見た勇者も口角を上げる。
「ふっ、熱いじゃねえか魔王。俺たちも乗ったぜ」
歴史上初めて魔王と勇者が手を組んだ。
最強チームの誕生であったが、いかんせん時間がない。アーティファクトが巻き戻せるのは1週間。残された時間は……多くない。
財布を忘れたり、乗り換えホームを間違えたり、想像を絶する困難を乗り越え、彼らは邪神が居を構える巨大な複合ビル群を目にしていた。
「こ、これが邪神の本拠地か……ずいぶん儲けていやがる」
『ふん……奴は強い。怖気づいたのなら、ここで帰ってもかまわんぞ』
「はっ、まさか! お前こそ震えているじゃねえか?」
『ククッ、これは武者震いだ。では行こうか……』
『はぁ……はぁ……何とか間に合ったようだな』
「ぐっ……あ、ああ、まさか本当に勝てるとはな……」
実際、危ないところだった。邪神がイヌ派であったことが幸いした。不幸中の幸いだ。
満身創痍で魔王城へ帰還した一行。
『よし、使うぞ』
「魔王、わかっていると思うが、言い方大事だからな?」
『わ、わかっておるわ……我とて同じ過ちはしない』
せっかく戻っても、同じことを繰り返したのでは意味がない。しっかりシミュレーションはしたのだ。
『うにゃん?』
『おお、ごましおか。離れていなさい、これから大規模な術を行うから……ってごましおおおおおおお!?』
「……なんか増えてるんですけど……!?」
美人さんなシロネコと、5匹の子ネコたち。クロネコ2匹、シロネコ2匹、ちっこいごましおが1匹。
『み、皆の者、受け入れ準備を急げ!!』
魔王の号令のもと、新しい家族のため、急ピッチで買い出しに急ぐ配下たち。
「なあ……魔王」
『なんだ? 勇者よ』
「1匹くれよ」
『……断る』
「……けち」
今日もごましおとその家族は魔王城の玄関にいる。
世界の平和と調和を護るため?
いいえ、少しだけ改築した結果、さらに日当たりが良くなったから。大きなひだまりが心地いいからね。
イラスト:ウバ クロネさま