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海賊マリー・パスファインダーの手配書  作者: 堂道形人
God Save the King

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98/107

デイジー「元気だして王女様。私も王女様がフレデリクさんに会えるように神様にお祈りするわ」シーグリッド「ありがとう……ありがとうデイジー……」

マカーティに一つ(・・)だけ言ってやりたかった事を、無事に言う事が出来たマリー。これでめでたしめでたし……とはなりませんよね、今までのパターンからすると。

 最悪である。

 一体誰がこんな男を助けようと言い出したのか。


「入るな! 外に居ろよ!」

「何で締め出すんだぁ? 男同志で遠慮なんか要らねえだろ?」


 奴はヘラヘラ笑いながらついて来て、ホテルの部屋にも上がり込もうとする。私は間一髪ドアを閉めたのだが、マカーティが足を挟むので最後まで閉まらない。


「足挟まってっからドア閉まらねぇぞ」

「ぶち君!」

「フシャー!!」


 後ろからついて来たぶち君はマカーティの背中を駆け上がり、後頭部から顔面へと食らいつく。


「ぐわあぁ!?」


 マカーティは仰け反り、扉から離れる。その間にぶち君が部屋の中に飛び込み、私は扉を閉めて鍵をかける。


―― ドンドン! ドンドン!


「おーい開けてくれよ、俺達は仲間だろー? いい加減この手枷を外してくれよー、恰好悪いだろー」


 本当に最悪だ……他の宿泊客がどう思うだろうか……いやもうそんな事を考えている段階ではない。

 私は扉の下の隙間から、脱獄用に用意していた細いやすりを差し出す。


「自分で切れ!」



 ブレイビスでやる事は全て終わった。後はコンウェイに戻ってフォルコン号に乗って逃げるだけだ。金輪際こんりんざいレイヴンには来ない。

 フォルコン号の皆が指示通りにしてくれるとしたら、明々後日(しあさって)の朝までにコンウェイに戻れば、私はフォルコン号でレイヴンを離れられるはず。そうでない場合は自力でロングストーンを目指す事になる。


 とりあえず着替えなくてはならない。キャプテンマリーの服はボロボロで、窓から逃げるのに使える服となると銃士マリー一択だ。私は素早く着替えて、必要な荷物を背負い袋に詰め直す。


「ぶち君も入って!」


 最後にジト目で私を見る猫を袋に詰めてかつぎ、予備のアイマスクをつけ、宿代はテーブルに置いて、私は窓から外に忍び出る。


「いくら海賊だからって、宿代まで踏み倒す事はねえんじゃねえかー? フレデリクさんよォ」

「うわああ!?」


 マカーティは、窓の外で待ち受けていた。



   ◇◇◇



「宿代はちゃんとテーブルの上に置いたんだよ! ついて来るなよマカーティ!」

「ついて来いって言ったのはお前だろフレデリク、俺はお前のせいで失業したんだぞ、可哀想だと思わねーか?」


 マカーティは凄みのある笑みを浮かべたまま、とことん追い掛けて来る。


―― ギャオオオー! ギャオアオアー!


 上空ではまだあのドラゴンが、好き放題に飛びまわっている。

 深夜だというのに街は人でいっぱいだ、あちこちに篝火かがりびが焚かれ、人々はランプを手に右往左往している。

 時折、衛兵や軍隊の一団も駆け抜けて行くが……


「王宮で火災が発生したらしいぞ!」「急げ! 急げー!!」


 誰も指名手配犯や脱獄囚に気づかず、駆け抜けて行ってしまう。


「それで、どうやってレイヴンを離れるつもりだったんだ?」

「フォルコン号はコンウェイに居るんだ。そこまで駅馬車を乗り継いで」

「こんな時間にそんなもんが出る訳ねーだろ。港に行こうぜ、何か使えるもんがあるかもしれねェ」

「あ、ああ……って! 君はついて来なくていい、一人で田舎にでも帰れよ!」


 そうは言いながらも、他にアイデアの無い私は、先行して走って行くマカーティについて行くしかなかった。



   ◇◇◇



 港にも結構人が居る。皆ドラゴンに放火された場合に備えて、自分の船の甲板などに水を撒いているらしい。


「頭の上をドラゴンが飛んでるのに出港してくれる船こそ居ないだろ、少なくとも朝を待つしか無いんじゃないか」

「スペードの野郎はお前がドラゴンに乗って飛び立つのを見てるんだぞ、時間が経てばお前はドラゴン騒ぎを起こした世紀の大悪党として途方も無い賞金で追われる事になる。一刻でも早く脱出するしかねえだろ」

「そんな事言ったって……」

小船(ディンギー)でも何でもいいじゃねえか、司直が混乱しているうちにここを離れるべきだ」


 マカーティはそう言って、桟橋のボートなどを物色し出す。


「待てって! レイヴンは僕を海賊と呼ぶけど僕は自分が海賊になったつもりは無い、海賊になりたいなら他所を当たれよ!」

「細けえ事はいいんだよ、そのボートはどうだ」

「マストが小さ過ぎる、こんなの渡し船じゃないか……そうじゃなくて! お前、国王陛下への忠誠はどうしたんだよ!」


 私はマカーティの肩を掴んでそう言った。マカーティは私の手を振り払う事もなく、振り返る。


「お前と同じだよ、俺は海賊になるけれど、国王陛下への忠誠を捨てるとは一言も言ってねえ。例えレイヴン海軍が俺を海賊と呼んで追い掛けようと、俺はいつでもレイヴン国王の為に戦う」


 ちょっと何を言ってるのか解らない。


 そこへ。


「面白い事を言ってるな、若いの……海賊になるだと?」


 近くに並んだ海軍のボートに、バケツで片っ端から川の水を浴びせていた、背の低いおじいさんが振り向いてそう言う……あれ? このおじいさんどこかで見たような……ああっ!? 思い出した!


「ああ? 気にすんなよ爺さん、若気の至りの冗談だよ」


 軽く酔っ払ったふりをして弁明するマカーティに、私は耳打ちする。


「まずいよ、この人は海軍省で働いてた掃除のおじいさんで、僕は前に顔を見られてるんだ、逃げないと」

「あー退役水夫か、そりゃ頑固そうだな……」


 何がまずいって、このおじいさん、胸像を倒そうとしたデニングさんにぶち切れてたよな……私はあの海軍博物館みたいな所から盗んで来たサーベルを、まだ腰に提げているのだ。ああっ、おじいさんが私の方を見た!


「ここに居れば会えるような気がしたぞ。グランクヴィスト。お前がここに居るという事は、この小僧がマイルズ・マカーティか。お前はまんまと、死刑囚を連れ出したんだな」


 おじいさんから、ただならぬ威圧感が漂って来る……何かこの人、滅茶苦茶強いんだよなあ。


「フレデリク。俺がこのじじいを押さえつけるから、その隙にボートを奪って離岸させろ。俺は泳いで追いつけるから」



 マカーティは掃除夫に組み付いた! 私はその隙にボートの一つに飛びつき、もやい綱を外す……そして振り向いた時には、マカーティは首を掃除夫の小脇に抱えられて()()()()いて、掃除夫はそのまま私が飛び乗ったボートに自分も乗って来た。


「こっ、このじじい強ぇえッ……」

「大人しくしていろ、小僧共」


 掃除夫はマカーティを私の方に投げ出し、ぶっきらぼうにそう言った。



 ボートは掃除夫の櫂捌かいさばきですいすい進み、50m程沖に停泊していた船の方へと向かう……ってあの船! ヘッジホグ号じゃないですか!


「どうするフレデリク? 飛び込んで逃げるか?」

「それがいい、そうしよう。マカーティ、先に飛び込んでくれ」

「……お前、飛び込む気無いだろ?」


 ヘッジホグ号の甲板の上に人影が現れる……ああ、ブライズ・エイヴォリー艦長ですよ。今もギャオギャオいいながら遠くを飛び回っている、あのドラゴンを見ていたのだろうか。


「あの! あの空飛ぶ怪獣は何なんですか!? 何が起きているんですか!?」


 エイヴォリー艦長はそう叫ぶ。艦長は自ら甲板に川の水を撒いていたらしい。どうしたんだろう、水夫の姿が見えないが。



 甲板に上がった私達を見て、エイヴォリー艦長は何故かドン引きしていた。


「かっ……」

「お嬢さん! そいつは……言いっこなしだ」


 何かを言おうとしたエイヴォリー艦長に、掃除夫のおじいさんはそう言った。

 マカーティは。


「お久し振りですブライズさん。ごめんなさいこんな時間にお邪魔して。あの空飛ぶ魔獣を見て、不安におののかれていたのでしょうか」


 まるで別人のようにお行儀良くなって、エイヴォリー艦長にそう言った。この二人は面識があったらしい。


「マカーティ艦長……あ、貴方は……処刑されたと聞きましたが……」


 そしてエイヴォリー艦長がマカーティを見ながら青ざめて震えているのはそういう理由だろうか。どうもそれだけではないようにも見えるのだが。


「処刑は色々あって中止になりました。大丈夫、私は幽霊ではありません、それに御安心下さい、あのドラゴンは敵ではないんです」


 マカーティが余裕たっぷりにそう言っても、エイヴォリー艦長は青ざめた顔で辺りを見回していた。そこへ……私が背負っていた荷物袋から、ぶち猫が這い出して飛び降り、エイヴォリー艦長の元へ駆け寄る……


「チャティ!」


 ああ。エイヴォリーさんは普通の女の子に戻ったかのように、駆け寄って来たぶち君に飛びついて抱き上げ、頬擦ほうずりをする……何だよぶち君、私にはあんな事絶対させないくせに。

 だけどエイヴォリーさんは、それで少し落ち着いたように見える。

 あと、マカーティはそんな可愛らしいエイヴォリーさんの仕草を見て顔を上気させてニヤニヤしている。


「この船は海軍艦だろう? 水夫共はどうした?」


 掃除のおじいさんが言う。


「きゅ……休暇を、海軍司令部から休暇をいただけたので、本当に久しぶりに、まとまった休暇をいただけたんです! だから! 皆が気兼ねなく休めるように、私、全員に下船命令を出したんです! ブレイビスに居るなら留守番なんか私一人で十分だと、私が判断致しました!」


 エイヴォリーさんは何故か、敬礼しそうな勢いでそう、掃除のおじいさんに言った。おじいさんは、深い溜息をつく。


「誠に申し訳無いが……お嬢さん。この船はたった今、ここに居る海賊、フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストが占拠した。貴女には人質になって貰う」


 おじいさんはそう言って、背中越しに親指で私を指し示した。

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本作はシリーズ六作目になります。
シリーズ全体の目次ページはこちらです。

>マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
― 新着の感想 ―
[一言] ははは、このおじいさん言い方とても面白いです。
[一言] ま、まさかエイヴォリーさんまで…この子どこまで人様を巻き込めば気が済むのかしら…wwwww
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