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海賊マリー・パスファインダーの手配書  作者: 堂道形人
God Save the King

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エレーヌ「何よ、私は関係ありませんわ! 何故私の姿を思い出してらっしゃるの!」

いろんな人が集まってしまった事に困惑するダンバーさん。

革命家にありがちな苦悩ですね。

フレデリクの一人称に戻ります。

 フルベンゲンの近くの森の中で海賊に撃たれた時。弾丸は私の肩にしっかりと食い込んでいた。取り出す事は出来たものの、あの傷はずっと残ると思っていた。

 ところが数日後に見てみると肩の傷はほとんど治っていた。あの傷があんなに綺麗に治るのはおかしい。恐らくこれも、船酔い知らずの魔法の効果なのだろう。

 アイリさんは、女の子のお肌を日焼けやり傷から守る為の機能だと言うかもしれない。


 しかし私はやはり、この魔法は本当は怖い魔法なのだと思う。

 この服を着ていれば怪我をしても跡も残らず綺麗に治る、そんな事を知ってしまった人間はどうなるか。恐らく、他の人間よりも怪我を恐れないようになる。

 だけどこの魔法は弾丸を跳ね返してくれる魔法でも釘や針から体を守ってくれる魔法でも無い。


 アイリさんの言う通りなんだ。だからこの魔法の服は給仕係の女の子が着てるくらいで丁度いいんだ。見習い水夫や貴族の四男坊が着ていてはいけない。

 今度時間が出来たら、この服はバラバラに刻んで丁寧に縫って、上等の雑巾にしてしまおう。海に捨てたり箱に閉じ込めたりするくらいでは手緩てぬるいのだ。



   ◇◇◇



 司法局の馬車は護衛をすり減らしながらも、ブレイビスの城壁を越えてすぐ外に隣接する、周囲を高い壁で囲まれた砦のような建物に飛び込んでしまった。


「その馬車待てェエ!」


 男達は砦の敷地の門に殺到するが、そこには武装した陸軍兵士が十数人、銃剣をつけたマスケットを手に、一歩も引かぬ構えで待ち受けていた。


「こっ、ここは陸軍コルベントリー師団指揮下の駐屯地である! 一般人の立ち入りは禁止だ!」

「陸軍! あの馬車には国王陛下の為に命掛けで戦って勝利した勇敢な王国海軍艦長が乗っている!」

「不当な処刑を止めるんだ! お前達は王国陸軍だ、国王陛下の為に戦う仲間なんだろう!?」

「まっ、待て! とにかく敷地内に入る事はまかりならん!」


 私がようやくその場に辿たどり着いた時には、馬車は完全に砦の中に姿を消して見えなくなっていた。


「まずいぞ、砦は城壁の外だ、その気になれば処刑はここでも行える」


 相変わらず私にはレイヴン語ははっきりとは解らなかったが、周りの男達の話し声から察するに、処刑は城壁内では行えないが、城壁外なら行えるのだろう。発展を続けるブレイビスでは、城壁外にだって街並みは続いているのに。


 私は砦を見上げる。恐らく、かつてここはブレイビスに迫る敵を迎え撃つ最終防衛拠点の一つだったのだと思う。窓の無い高い壁、屋上の銃眼……城壁外からここに入るのは至難の業かもしれない。

 だけど城壁内からならどうだろう? 砦の屋上は城壁の天辺よりさらに5m高いが、あのくらいなら船酔い知らずの魔法で登れるのではないか?


 ただし今の私にはカラカラの喉を潤す飲み水と、少しでも元気の出る食べ物が必要だ……私がそんな事を考えた、その時。


「ほら君、ビールと、マーマイトをたっぷり塗ったパンだ。これが必要なんじゃないのか」


 誰かに肩を叩かれて振り返ると、そこには先程走りながら声を掛けてくれた、身なりのいい若者が居た。栓をしてない1パイント瓶と二つに切られたパンを持っている。


「有難い、いただいていいのか」

「遠慮しないでくれ」


 私は有難く瓶とパンを受け取る。どこで手に入れて来たのだろう、二切れのパンの間には塩辛くカビ臭いマーマイトがたっぷりと塗り込まれていた。だけどこれは本当に元気が出るのだ。瓶の方は……薄めていない上等のビールかしら。正直水の方が良かった。苦い……濃い……


「君は外国人なのに本当にマーマイトが好きなんだな。僕には理解出来ないねえ」


 私がマーマイトパンをむさぼり食っていると、若者はそうつぶやきながら肩掛け鞄から、ローストした牛肉と野菜をたっぷり挟んだ別のパンを取り出して一口、かぶりつく……いや私もそっちの方が好きだよ!! 解ってよ!



   ◇◇◇



 私は人々の間からそっと離れ、城門の中に戻り、物陰から城壁に登り出す。城壁は途中までは階段で登れる……こういう城壁の多くは古代帝国の時代に造られた物で、千年以上前からあるそうだ。その後歴代の王朝により改造、拡張されているのだろう。

 太腿ふとももや上腕の傷は、とりあえずふさがっている。触れば痛いし服とこすれればチクチクするが、命に別状はあるまい。


 城壁の天辺から塔の屋上までは5mではなく7mくらいあった。だけど屋上の兵士達は城壁の外の、砦を取り囲む抗議者達の方を向いているのではないか? 城壁の内側から迫る私には気づかないのでは? こんな7mは普通の人間には登れまい。

 私は魔法のズルで煉瓦レンガの突起に足を掛け、壁面を登り出す。毎度の事ながらヤモリのような動きで、我ながら気持ち悪い。

 塔の屋上には木造の建屋が載っている。壁を漆喰しっくいで塗られたあれは、兵士の詰所だろうか? 良く解らないがそれは城壁の内側に隣接して建てられていて、その窓も城壁の内側に向いている。屋上に直接飛び込むよりは、その建屋の窓に忍び込む方がいいかしら。私はそんな事を考えながら壁面を登る。



「マカーティ艦長を、解放しろー!」

「王国の威信を守った英雄の、命を奪うなー!」


 城壁の外側ではそんな声を挙げるダンバーの支持者と、砦の守備兵のにらみ合いが続いているようだった。

 そして私が登りついた窓の中では、誰かの話し声がする……私は反射的に窓から離れる。


「どうするのだ、これでは刑場に辿りつけない」

「ここで救援を待つしか無いだろう……衛兵も半分しか残っていないのだ」


 おっと、誰かが窓辺に近づいて来る。私はさらに窓から離れる。


「君たち司法局の保安官は、陸軍軍人が大嫌いだったのではないのかね? 何故君たちに嫌われている我々が、君たちをかばわないといけないのだろうな……」


 窓辺に姿を現したのは、この塔に駐屯する陸軍の隊長だろうか。


「……保安官も人間で、個々に事情のある者も居るかもしれないが、少なくとも我々は貴方に感謝している。それでは不十分だろうか」

「ジョフリー・ダンバーは陸軍の人間だった。彼は手配書破りをしただけで、町の衛兵ではなく司法局の保安官に捕まったというのは本当かね?」

「本当だが、彼は別の窃盗犯の捜査中に偶然逮捕されたのだ、そしてその事が解ったのでその後は通常通り市の所轄しょかつに引き渡された」


 中で話している言葉はレイヴン語で、内容も難しく私にはよく理解出来ない。ダンバーさんの話をしているようだけど。


 私は砦の外壁の足場に立ち上がる。自分の姿が誰にも見られていないとは思わないが、陸軍の兵士には見られていないと思う。

 建屋の影から覗いてみると、砦の屋上にはさすがに複数の見張りの兵士が居て、砦を取り囲む人々を見下ろしている……だけどこれなら、こちらには気づかれにくいかもしれない。

 屋上には他に石造りのそう高くない尖塔もある。あれはさすがに遠くを見る為の見張り塔だろう。絵面えづら的にはお伽話に出て来る、お姫様が監禁されていそうな塔に似てるが。


 この状況、マカーティがお姫様で私が王子様なのだろうか? 嫌だなあ。やっぱり今からでもコンウェイに帰ろうか……もう私がやらなくてもダンバーさん達がやってくれるのでは?


 そんな事を考える度に。狼犬になった円らな瞳のマカーティが私の脳裏にちらつく。自分は主人の為に力を尽くしたのだから、主人が自分を捨てるはずがないと信じている純朴な狼犬が。


 馬鹿だなあ。これは馬鹿な小娘の妄想だよ? マカーティは純朴な狼犬なんかじゃないよ、下品でうるさくて、だけど洞察力に優れた海千山千の海軍艦長だ。私なんかと比べたら十分な分別のある、立派な大人だよ。



 砦の屋上へ続く廻り階段を誰かが上がって来る……パンとタンカードを一つずつ持って。外でお食事でもするのだろうか?

 あ……違う……あの尖塔に入って行く。何で? 尖塔でお食事をするのか? それにあれは兵士ではなく砦の世話係かな……高齢だし武装していない。


 やっぱり、マカーティはこの尖塔の上か。

 よし。一目見て、それから一言言ってやろう。そして帰ろう。

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本作はシリーズ六作目になります。
シリーズ全体の目次ページはこちらです。

>マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
― 新着の感想 ―
[気になる点] マリーちゃん、船酔い知らずの魔法におっかぶせてるけれど 気象制御やら変装術やらどう見ても強力な魔法を自前で使ってません? その治癒力も…… 竜に同族呼ばわりされてますもんね
[一言] 魔法、それで手放せるといいねえ
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