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ボーラス「とんでもねえ張り紙だ、俺が剥がして捨てておいてやる」

(以下前書きは読み飛ばしていただいても結構です)


第二作でハマーム王国の王子の暗殺を目論むも、マリー扮するフレデリクとフェザント人艦長ジェラルドのコンビに阻止され、その後逃亡を図った所を、フレデリクと大海賊ファウストのコンビに捕えられた、レイヴン人外交官のランベロウ。


彼はフレデリクの正体を、ハマームのレイヴン商人に雇われていたストーク人の用心棒、オロフだと決めつけています。そうでなければフレデリクが自分の完璧な計画を見破れた訳がないと考えているのです。


ランベロウの証言を元に描かれた似顔絵はオロフそのものですので、本物のフレデリクとは似ても似つきません……いや、そもそもフレデリクに本物は居ないので……一方をマリフレデリク、もう一方をオロフレデリクとして整理してみました。


9月19日 レイヴン本土にランベロウが起こした事件の知らせが入る

     情勢に鑑みてただちに賠償を決断

9月26日 レイヴン本土に続報、レイヴン司法がフレデリクを尋ね人に指定

     この手配書にはまだ金髪で170cmのストーク人剣士としか書いてない

10月23日 レイヴンからハマームに賠償金到着

10月26日 マリフレデリクがサフィーラで自分の手配書にヒゲが濃いと書き加える

11月15日 マカーティ艦長とグレイウルフ号がスヴァーヌ海哨戒に出発

11月26日 独自に調査を進めていたマクベスがジェラルドに接近(今作第一話)

     場所は地球でいう地中海の真ん中へん、シチリア島シラクサあたり

     マリーとマリフレデリクの人相書きが誕生

11月28日 囚人ランベロウがレイヴン本土に到着

     ランベロウの証言によりフレデリクに賞金がかかる

     オロフレデリクの人相書きが誕生

     同日、スヴァーヌ海ではマリフレデリクがグレイウルフ号と遭遇

     共に巨大ダコと戦う

12月2日 何も知らないオロフがプレミスで目撃される

12月5日 フルベンゲン沖海戦

12月18日 マリーとマリフレデリクの人相書きがレイヴン本土に到着

     前回のブレイビスでの小会議発生

     マリー・パスファインダーが尋ね人に指定される

     マリフレデリクの人相書きは黙殺される

     マカーティとグレイウルフ号はスヴァーヌ海からの帰途の途中


周辺地図はシリーズ目次から「マリー・パスファインダーの冒険と航海 資料室」に掲載されております。


長々とすみません、本編を続けます!

 翌朝。夜明け前に起きた私は真面目の商会長服に着替えて船を降りる。

 不精ひげはまだ戻って来ていない。本当は夜にも捜しに行こうとしたんだけど、アイリに怒られた。


 波止場では、やはり半分海賊で半分漁師みたいな連中が、魔改造した一隻のコグ船の出港準備をしていた。

 甲板に大小様々なボートやいかだを乗せ、船尾にも小型艇をぶら下げていて、一本マストにはあるべき上帆桁ヤードが無くなっている代わりに、頼りない継ぎ接ぎだらけの補助マストを立てて三角帆を二枚、どうにかしてくくりつけている。


 船上から、眉間に傷のある怖いおじさんが笑顔で手を振って来る。


「マリーちゃんだったな! デカいロブスター御馳走ごちそうしてやるから待ってろよ!」


 あの人も昨日取引所に居たような気がする。むっつりとして、話なんか聞いてくれそうな雰囲気じゃなかったのに、仲良くなるとこういう感じの人なんだろうか。私も笑顔で手を振り返す。

 ただやはり改造コグ船からは、壊れそうな滑車テークルが酷くきしむ音や、ペキペキとかバキバキとかいう、本来航行中の船体からは聞こえてはいけないはずの音も聞こえて来る。早くあの人達にも工具や資材を買っていただかないといけない。



 港を離れて街中に歩いて行く……ここは小さな町だ。さすがの私もここでは迷子になれそうもない。

 港近くの一角には、古くなった樽や木箱が詰まれている。釘や金属を回収した上で、燃料にでもするのだろうか。

 住民は少しずつ目を覚ましている所だ。鉱夫らしい一団が宿から出て来る。ここから歩いて鉱山に向かい、夜にはまた帰って来るのだそうだ。

 不精ひげは居ない……ぶち君も居ないんだけど、一緒に行動してるのかしら?



 この小さな町にも中心には広場があった。


 さらにその中央にはとても立派な石碑が建っている。レイヴン語は最近やっと習い始めた程度だが、何かの戦勝の記念碑らしいという事は解る……良く見ると、広場の端にも別の記念碑、その向こうにも少し小さめの記念碑が。

 港湾の入り口にも立派な石造りの要塞が建っていたよね。不精ひげも言ってたけど、大いに栄えていた時期もあったんだろうな。


 ん? 広場のまた別の隅の掲示板に、誰かがいたずらをしようとしている……いやいや、あのおじいさんは確か港湾役人さんですよ。

 だけど何であんな、今から落書きでもしようとしている小僧のように、挙動不審なんだろう。却って目立つぐらいだなあ。


 私は大きな記念碑の影に隠れて様子を覗く。港湾役人さんは辺りを見て、誰も見ていないと思ったのか、懐から何かを取り出して……掲示板に打ち付ける……何であんなにビクビクしてるんでしょう、お上の仕事でしょうに。


 掲示板に何かを貼り終えると、おじいさん役人は脇目も振らず走り去って行く。

 私はしばらくその様子を遠くから見ていた。


 それであのおじいさんは何を貼ったのだろう。私は役人さんが十分離れてから掲示板に駆け寄ってみた。



『尋ね人 発見者と情報提供者には謝礼進呈

 マリー・パスファインダー

 航海者、剣士、銃士』



 ヒッ……ひえええええええっ!?



 ファウストさんやフレデリク君と違い物騒な賞金額などは書かれていないけど、いないけど……何この不気味にリアルな似顔絵!? この一枚だけ他の手配書と全然タッチが違うじゃん!

 それにしてもよく描けてるわねー、いやでも私こんな顔しないよー、目とかこんなパッチリしてないし、ていうか何だこの謎ポーズ、私こんなポーズもしないって。アハハ……そんな事考えてる場合か!


 私は慌ただしく辺りを見回す、幸い今は夜明け直前で人影はほとんど無い、今なら誰も見てない……本当にそうか? さっきの役人さんは実はどこかに隠れて見てないか?


 まずいよ、折角レイヴンまで逃げて来たのに、どうしよう、すぐ出港しないと、こんな手配書ばら撒かれて探されてたら、もうここには居られないよ!

 ああっ! だけど今フォルコン号出られないじゃん、だって港の人達と約束したじゃん、皆が資金を集めて必要な工具や資材を買えるようになるまで、ここで待ってるって……


 次の瞬間、私は自分の手配書をひったくり、懐に入れていた。

 やってしまった。手配書破りは普通に犯罪だよ。ああ……ますます地獄が近づいて来る……

 たった今落書きをした小僧のように。私は周囲に警戒しながら走り出し、船へと逃げ帰る。



   ◇◇◇



「姉ちゃんの手配書なんて無かったよ」


 日が昇り、起き出して来たカイヴァーンは私の代わりに水運組合の方の掲示板を見て来てくれた。良かった。そちらには私の手配書は無いらしい。


「町の広場にはあったの。見てこれ。私とうとう手配書破りをやっちゃったよ」


 私は懐から取り出した自分の手配書をカイヴァーンに見せる。


「うわっ!? 何この気合い入りまくりの人相書き」

「でしょ……? なんで私の手配書だけこんな不気味にリアルな似顔絵ついてんの? 私、そんなにレイヴンに悪い事したかなあ」


 フォルコン号の低い艦尾楼の上で、私はカイヴァーンと並んでパスティなる食べ物を頂いていた。取引所のおじさんがわざわざ持って来てくれたのだ。


「あんまり気にしない方がいいよ姉ちゃん。手配書なんてどうって事無いから。俺だって金貨2,000枚の賞金首だったけど、白銀の悪魔……ベルヘリアルも俺の事金貨20枚で見逃してくれたんでしょ」


 林檎とネギと羊肉の細切れの具を、薄くてサクサク、だけどしっかりとした、濃厚なバターの香りがするペストリー生地が包んでいる。この香りが朝の空っぽの胃袋を刺激して止まない。


「ああ……あの人はちょっと変わってるから……」


 これもこの辺りの名物料理らしい。スターゲイジーパイのやんちゃ振りと比べると、パスティは優等生だ。北大陸でこれが食べられない人はあまり居ないだろう。

 コンウェイはいい所じゃないか、こんな風に寂れてていい所ではない。どうしたら盛り上がるのかしら……海賊以外の方法で。



 それはさておき。


「おお、この臭いもしやと思ったらパスティか。焼きたてかね?」


 私が改めて不精ひげの事を考えようと思った瞬間、下層甲板からロイ爺が、アレクみたいな事を言いながら現れた。


「取引所の人が持って来てくれたの。まだ暖かいよ、ロイ爺もどう?」

「有難いのう、朝からこんな物を作ってくれるとは、本来は祝い事の時の特別な料理らしいがの」


 ああ……やっぱり毎日こんな御馳走を食べてる訳じゃないよね。実際、おじさんも特別に作ったと言ってたな。

 ちなみにスターゲイジーパイもパスティもきちんと代金は取られた。一応、お友達価格ではあったようだが。


「ねえ、不精ひげの事、探しに行かなくていいのかな」

「うん……あの男がレイヴン生まれなのはもう知っておるじゃろ? あの男に限ってレイヴンで迷子になる事は無いと思うがのう」


 不精ひげニックは体の大きな、経験豊富で働き盛りの船乗りだ。


 15年前、父がバルシャ船ハーミットクラブ号を購入し、リトルマリー号と改称して船長となった時。ハーミットクラブ号時代からの水夫としてロイ爺と他数人がついて来た。

 一方不精ひげニックとオークのウラドは父が船を買う前からの仲間だったらしい。アレクは当時12歳、新規に雇われた少年水夫だったのだと思う。

 それから……不精ひげニックは偽名で本当の名前はジャック・リグレーらしい。


「ロイ爺、不精ひげってレイヴンで何をしたの?」


 私は何も考えず、思った事をそのまま口に出してしまった。

 この港の掲示板には私やフレデリクの手配書はあったけれど、ニックだのジャックリグレーだのの手配書は無かった。あの男別に、レイヴンでは犯罪者という訳でもないのでは?


「わしも全てを知っている訳ではないんじゃ。船乗りは陸に居られなくなった男が、最後に選ぶ仕事という側面もあるからのう……お互い、仲間になる前の事はあまり聞かないのが仁義というものじゃ」


 ロイ爺はカイヴァーンからカットされたパスティを受け取り、一口(かじ)りながらそう言って目を細める……ああ……この優しい爺ちゃんも、船乗りなんだなあ……カイヴァーンも腕組みをして深くうなずいてるし。


「まあ、言われるがままにあんな覆面をしているくらいだから、レイヴンには会いたくない人間も居るんじゃろ。借金取りか……はたまた借金取りか……」

「二度言った!」

「いやいや、一方で会いたい人間も居るんじゃないのかね、もしかしたら。フォルコン号がこの港で数日過ごす事は知っておるんじゃし、水夫狩りに追われるついでに、内陸の知り合いの所にでも遊びに行ったんじゃないかのう」


 そのくらいならいいんだけど……

 不精ひげは船内ではいつも要領よく手を抜くし、休暇を与えて陸にやるとよく時間をオーバーして帰って来る怠け者だけど、私のような無断で居なくなる身勝手な愚か者ではないはずだ。

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本作はシリーズ六作目になります。
シリーズ全体の目次ページはこちらです。

>マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
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