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海賊マリー・パスファインダーの手配書  作者: 堂道形人
God Save the King

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フレデリク「(ぎゃあああ)あの、止血はしてあるし今はそんな事してる場合じゃないから!」

再び三人称に戻ります……視点が多くなりまして申し訳ありません。迫るマカーティの処刑と、それを止めたい人達の話。

 マカーティは後ろ手に拘束された状態で拘置所の馬車止めに引き出された。周囲は八人の衛兵と四人の司法官が固めていて、官吏も装填された短銃で武装している。


「何故です、彼には最後まで神に祈る権利があるはずです」


 刑場まで同行するはずだった牧師はここで同行を断られた。マカーティの人柄に惹かれていた牧師は、再三約束の履行を求めたが。


「状況が変わったのだ! この男は速やかに処刑されなくてはならない!」


 マカーティは囚人輸送用の豚の檻のような荷車ではなく、司法高官の外出用の馬車に乗せられる。

 馬車の前には司法局直属の武装兵士隊が二十人ばかり、隊列を組んで待機していた。一連の流れを管理していた事務高官がうなずく。


「ただちに出発してくれ」


 総勢二十八人の兵士と四人の官吏、二人の馭者と二人の助手、三十六人の男達によって、元海軍艦長、マイルズ・マカーティは司法局から連れ出され、天蓋付きで黒塗りの馬車に乗せられ処刑場へと向かう……何もかもが異例の護送態勢だった。

 しかし。



「かかれぇエ!!」


 馬車の列は、司法局の敷地を一歩出るなり、左右からわら編みの泥だらけの外套を着た集団に、左右から襲撃された。


「展開ーッ! 不埒者ふらちものを近寄せるな!」


 まさかそんなにすぐ襲撃されるとは思ってもいなかった兵士達は馬車の後方からついて来ていた為、反応が少し遅れてしまった。先程かかれと叫んだ不審者の頭目と思しき者は早くも馭者席に飛び乗り、馭者一人とその助手一人を軽々と道へ投げ出してしまう。


―― ドォン! ドォォン!!


 馬車の前方に居た官吏二人は短銃を抜き頭目に向け発砲する。さらに馬車の客室キャビンからももう二人の官吏と交代の馭者、助手が飛び出す。


「おのれぇぇ!」「不埒者共が!」


 そこへ他の兵士達も順次追いつき、馭者席を乗っ取ろうとする不審者の集団に組み付く。不審者側も、何とか馭者席に取りつこうとしたり、兵士達を妨害しようとする。


「正義は我にあり!」「うおおお!」


 不審者は全部で八人だった。彼等はどうにかして馬車の制御を奪い取り、馬を走らせて奪取しようとしていた。しかし最初に投げ落とされた馭者と馬車の中に居た予備の馭者、その助手達が懸命に馬を抑えた為、それは成功しなかった。


―― ドォォン! ドォン!


 再び発砲音が響く。最初に馭者席に飛びついた頭目がって台から道へと落ちる。不審者達は武器も持たず、ただひたすらに馬車を奪おうとしていたが、このくわだては失敗に終わろうとしていた。


「何が正義だ、悪党共が!」「司法局の馬車であるぞ!」


 兵士達は不審者達を抑えつけ、捕えようとする。



「何の騒ぎだ!?」

「そこー! 何をやってるんだー!」「その馬車は何だー!」



 ちょうどそこへ、大通りの彼方から、馬車の居る方へ……いや、司法局の方へと人波が迫って来た。数百人の怒れる民衆が、列をなして大股おおまたに歩いてやって来る。

 それを見た、同行の司法官の一人が叫ぶ。


「そいつらは捨て置け! 護送隊は馬車の護衛に戻れ、群衆を馬車に近づけるな、急げ―ッ!」



 馭者は二人とも馭者席に上がり、助手達は馬の横につき、馬車は急ぎ足で出発する。兵士達は不審者を放り出し急いで馬車について行く。


 怒れる民衆の間からは、青いジュストコールを着た小柄な男が一人飛び出し、全速力で置き去りにされた不審者達の方へ駆けて来る。他にも何人かの男達が、小柄な男を追って走る。


「ここで何があった!? 大丈夫か!?」


 青いジュストコールの小柄な男は、最初に馭者席に取りつき数発の命中弾を受けて転げ落ちた、頭目の男に駆け寄った。

 小柄な男はどこかの貴族の子弟のような出で立ちをしていたが、その仕立ての良いジュストコールとキュロットには鉤裂きの傷がいくらか出来ていて黒く血の跡がにじんでおり、服も顔も真っ黒な煤だらけだった。


「君は確か……グレイウルフ号のワービック海兵隊長! 僕が解るか!?」


 上体を起こそうとする頭目の背中を支え、小柄な男、フレデリクはつけていたアイマスクを取り、袖で煤に汚れた顔を拭ってみせる。


「艦長を奪回するならここしかないと思いましたが……残念です。グランクヴィスト殿、どうか、艦長を……!」

「安心しろ、君に代わって、マイルズは必ず取り返してみせる」

「あ……ありがとうございます。噂の火傷やけどは……ございませんな……」

「……ワービック!」


 後から駆けて来た男達の一人が、意識を失くしたワービックの手当てを引き継ぐ。藁の外套を着て貧しい物乞いに扮した襲撃者達は皆、グレイウルフ号の元海兵隊員だった。彼等はワービックの指揮の元で独自に行動し、マカーティを実力行使で奪い返す機会を狙っていたのだ。


「彼等はマカーティ艦長の元部下なんだ、司直が立て直して来る前にかくまってやれないか」

「何て殊勝な奴等だ。皆! この人達もグレイウルフ号の英雄だ、必ず守らなくてはならない!」「その通りだ!」「逮捕なんかさせてたまるか!」


 フレデリクの呼び掛けに応えた男達は、さらに後からやって来た男達と協力し、衛兵に打ちのめされた元乗組員達を抗議の人波の後方へと連れて行く。ワービックも担架に乗せられて運ばれて行く。


 一度帽子を取って胸に当てたフレデリクはそれを被りなおし、アイマスクをつけ直す。


「さっきの馬車がマカーティを乗せているんだ。追い掛けなきゃ……司法局に抗議に来た意味が無くなってしまった」



   ◇◇◇



 少し前。クロスボーン城からどうにか脱出したフレデリクは建物の隙間で止血を済ませると再びブレイビス大橋を渡り、市街を北へ走った。そこでフレデリクは、群衆の指導者となったジョフリー・ダンバーと再会した。


 ダンバーは、自分の二人のめいをハルコンの手から救い出した上、自分にはロヴネルのような立派な人を差し向けて助けてくれて、更にはストークの王女様まで動かしてめい達を保護してくれたフレデリクに、崇敬すうけいに近い感謝を捧げていた。


「フレデリク、君は何故そんな怪我をしてまで一人で戦っているのだ! 一刻も早く治療を、誰か、誰か医者を!」


 裕福な市民、知識層の多いダンバーの同調者にはブレイビスで開業する腕のいい医師も多数含まれていた。ダンバーが要請すると、何人もの医師達がフレデリクの周りに駆け寄って来る。


「さあ、治療しますから上半身裸になって下さい」

「太腿も負傷しているぞ、キュロットも脱いで!」

「あの、止血はしてあるし今はそんな事してる場合じゃないから! マイルズが、マカーティ艦長が処刑されてしまう! ジョフリー、君はマイルズは何処に居ると思う!?」


 フレデリクは治療の手を必死で断りつつ、ダンバーに言った。


「……我々は君に聞かされるまでマカーティ艦長がクロスボーン城から移送されている事を知らなかった。だが、政府が法律通りに彼の処刑を進めているなら一旦司法局に移送したのだと思う。或いは市の郊外にある三か所の処刑場か」

「なんだって……じゃあそこへ行って来る!」

「待て、待ってくれ、君はもう一人じゃない! 我々はみんな君の味方だ」


 ダンバーがそう言うと、周囲の男達も力強く頷き、気勢を挙げる。


「そうだ! 俺達はお前の味方だ!」「英雄フレデリク!」「力を貸すぞ、フレデリク卿!」


「あ……あの……気持ちはとても嬉しいんだけど、僕は実はレイヴンでは指名手配されていて……」


 フレデリクは気まずそうにそう言ったのだが、ダンバーの支持者の中にはグレイウルフ号に乗っていた士官候補生のキーンという若者も居た。


「それが何です! 我々は貴方が艦長と共に海賊団を打ち破った英雄、フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストだと言う事を知っている!」

「フレデリク!」「フレデリク!」


 信じられないという顔で周囲を見回すフレデリクに、周囲の男達は更に気勢を挙げる。ダンバーは力強くうなずいて続ける。


「手分けして各所へ向かおう。政権への抗議と、実際の処刑の阻止を同時に行う、今の我々にはそれだけの力がある、君はここで治療を受けてくれ」

「いや、本当に止血は済んでるから! とにかく一刻も早くマカーティの処刑を止めよう!」

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[一言] マカーティさん助かって…(祈
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