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海賊マリー・パスファインダーの手配書  作者: 堂道形人
God Save the King

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80/107

猫「お主が喰わねば捨てられてしまうだろうから、仕方なく食べたのだ。拙者、食べ物を粗末にする事は出来ぬ」

御覧頂いております小説は、マリー・パスファインダーの冒険と航海の第六作で御間違いございません(震え声)


さて、度々申し訳ありませんがまた少し時間を戻させて下さい、今度はマリーの一人称での回想から、現在のマリーの状況までの話になります。

 クロスボーン城には結局ロヴネルさんに行ってもらった。私が行ったらマカーティが大声で看守を呼ぶと言うのだから仕方ない。

 その間私はダンバーさんの家に居る事になった。もしかしたらハルコンの手下が仕返しに来るかもしれないのだから。

 ていうか、もしそうなったら(フレデリク)が一人で応戦するの? 怖い。逃げ出したい。だけど幼い女の子二人を置いて逃げ出すのは有り得ない。


 そして私が自分自身の恐怖心を誤魔化す為、まだ眠れないというエイミーちゃんに、ファルケの騎士見習いの勇敢なおじいさんの冒険譚を聞かせていると。


―― トン、トン、トン


 ぎゃあああああぁ!? 誰かが玄関の扉をノックした! だだだ、誰!? ロヴネルさんでしょ!? そうだと言って! しかしエイミーちゃんは恐怖に硬直する私を尻目に、さっさと玄関の方へ走って行ってしまった!


「はーい、どちら様ですかー」


 扉の向こうから返って来た声は。


「夜分遅くにごめんなさい! わたくしはストーク王国の王女、シーグリッドと申しますわ!」


 ええええ!? シーグリッド姫!? ちょっと待て、ロヴネルの「姉妹を保護する場所なら、私に考えがある」って王女様の事かよ!?

 そして私は同時に、ウインダムで出会ったシーグリッド姫の顔を思い出す。



―― やはりフレデリク様こそ! わたくしの夫となる方なのかもしれませんわ!



 次の瞬間、私は椅子からはりへ、はりから天井へと飛び退すさっていた。そして猿のように勾配のついた天井のさんを伝い、排煙用の小さな窓から裏通りの地面へと這い出す。


「フレデリク様は! フレデリク様はこちらにいらっしゃいますのね!?」

「あれ……おかしいわ、たった今まで、ここにいらっしゃったのに……」



 まさか自国の王女様を警備兵の代わりにする海軍提督が居るとは思わなかった。あるいは王女様が提督の御願いを拡大解釈したのか。

 まあ、さすがに王女様が一人でここまで来るはずもなく、表には他にも大勢のストークの人達が来ているようだ。近くの通りには大きな馬車も停まっている。ここの警備はもう大丈夫だろう……それで私は、一度宿に帰って休息を取る事にした。



   ◇◇◇



 部屋のベッドには何処から入り込んだのか、海タヌキ(シーオッタ)が一匹、まん丸の腹を丸出しにして仰向けで眠っていた。いやこれはぶち君だけど、一体何を食べたらそんなお腹パンパンになるのよ。



   ◇◇◇



 翌朝。私はまだ寝ているぶち君を置いて食堂に行き、マーマイトを控え目に塗ったパンをいただく。

 昨日相当歩いたのにほとんど疲れが残っていないのは、何となくこれのおかげのような気がする……やっぱりもう少し塗り足そう。他にも煮豆やベーコン、卵料理が豊富にある。レイヴン人は朝からよく食べるのね。



 ダンバーさんの家の方は、きっとロヴネルさんや王女様が守ってくれるだろう。今はやはりいつ処刑されてもおかしくないマカーティの事が優先だ。


 私は今度こそ海軍省を目指して歩いた。昨日の失敗を踏まえ、複数の人に道を尋ね、時には多数決を、時には平均値を駆使して海軍省を探した。

 まあ今日は昨日と違い霧もあまり出ていなかったし、日の出前後には晴れてくれたので七層六階のその荘厳な建物は難なく見つかった。

 ここがアイビス王国の宿敵、レイヴン海軍の大元締めですか。なるほど、何とも言えぬ威圧感のある建物である。



 さすがに正門を堂々と通る程大胆ではない私は、通用口を見つけてそちらに近づく。それでも、立派な身なりの海兵が四人も見張りをしている。私はそこを一旦通り過ぎて、物陰を伝いぎりぎりまで通用口に近づいて、しばらくその様子を観察する。


 少しすると、棒手振りを担いだ12、3の少年がやって来る。私は船酔い知らずの地獄耳を澄ます。



「止まれ! 何者だ」

「金融通りのパン屋です、マフィンの配達に来ました……って、おいら週に二度来てるんだから、いい加減顔くらい覚えておくれよ」

「余計な事はいいから、通行証を出せ!」

「はいはい通行証……あれ? おかしいや、いつも棒の真ん中に提げてるのに」

「通行証が無いだと? 怪しいな」

「いやおいら三日前にも来たじゃないか! もう、取りに帰りゃいいんだろ!」


 そんな感じでそのパン屋の配達の少年は、目の前で追い返されてしまった。私が隠れてる所にまで、焼き立てのいい匂いが漂って来るのに。勿体もったいない、戻って来る頃には冷めてるんじゃないの?

 しかし弱った。私は一応年老いた聖職者の恰好をしているが、この程度の芝居ではとても通れそうにない。


 そこへ今度は、黒い上着を羽織った背の高い男がやって来る。


「止まれ! 何者だ!」

「司法局のデニングだ。ホライゾンは今日は来ているのか? また仮病じゃ無いだろうな?」

「じ、事務次官殿は正門を通るしこちらでは解らん、ここを通るなら通行証を」

「ああ? 俺が誰だか知らないとでも?」

「……あいにく、小官は存じ上げない」

「よく聞け小僧。この国を治めているのは王国によって制定された法律だ。お前なんぞの主人がお前にどんな命令をしていようが、法の番人である司法局正保安官の俺には関係無いんだ。それとも小僧、俺と王国法に挑戦してまででも、お前のご主人様の命令を守ろうってのか?」


 デニングは、まあ彼よりは若そうな四人の海兵をギロリとにらみ回す。

 海兵達は当然この挑発に腹を立てたとは思うのだが。


「……解った。通っていい」

「そうかい。お役目ご苦労さんだ。ん? ああ、通行証ならここにあった」


 引き下がった海兵達に、デニングはポケットから何かをつまみ出して、さらに挑発するように海兵達の目の前で振ってみせる。



 デニングは悠々と通用口を通って行く。次に通用口へ向かおうとしていた御仕着せを着たおばさんは、鞄から丸いバッヂのような物を取り出して自分の番を待っていたが。


「ええい、今度は何だ!」

「ひっ……ああ、何でもない、また今度にするよ!」


 慌てて、その通行証らしいバッヂを鞄に戻して元来た道を駆け戻ってしまった。



 私は深く溜息ためいきをつく。私はどうしてこんなにも軽率なのだろう。長生きがしたいならこういう事は止めた方がいいんだけどなあ。

 だけど、たまたま。たまたま、あの通行証らしいバッヂはフレデリクの帽子の羽根飾りを止めているバッヂに、色合いや大きさが少し似ているのだ。



 付け髭とかつらをつけ外套を着た私は、聖職者風の扮装を少し崩して、一度物陰から道を戻り、そこから走り出して通用口に駆け寄る。


「止まれ!」

「司法局審査官のオーウェンじゃ!」


 遠くから必死で走って来た風を装った私は、「何者」を言われる前にしわがれ声でそう叫び、ポケットから例のバッヂ出してちらりと見せてから、息を切らすふりをして膝と手の間に挟む。

 海兵はそのバッヂを通行証だと思い込んだようだ。私は顔を上げて続ける。


「ここに黒い上着を羽織った背の高い男は来なかったかね!? 身長180cmくらい、年は四十前後、痩せ型で肩幅は広く顔は卵型、黒髪を短く刈り上げていて目つきが悪い!」

「あ……あんたは何の話をしているんだ?」

「こ、これを見てくれ!」


 私は海兵の一人にバッヂを渡す。他の海兵も集まって来てそれを見る。


「その暴漢はそれと同じ偽通行証を使う、指先でつまんでブラブラ揺らせば一瞬本物の通行証に見えるんじゃ! まさか……ここを通ってはおらぬか!? 奴の狙いはスペード卿かもしれぬ!」


「な……何だとぉォ……!?」


 ただでさえデニング氏の態度にいきどおりを覚えていた海兵達は、たちまち憤怒に顔を染める。


「あっ、あの男を、ひっ捕えろォォオ!!」「オォオ!!」


 海兵は()()()()を忌々しげに地面に叩きつけてから走り出したので、私はそれを拾ってポケットに戻す事が出来た。特別大事な物ではないが愛着のある物だし、もう返って来ないと思っていたので得をした気分だ。


 おっと、こうしちゃいられない。私は不用心となった通用口から、レイヴン海軍省の建物にお邪魔させていただく。

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本作はシリーズ六作目になります。
シリーズ全体の目次ページはこちらです。

>マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
― 新着の感想 ―
[一言] ルパン三世のテーマが頭の中で流れましたw
[一言] >そして勾配のついた天井の桟さんを伝い、排煙用の小さな窓から裏通りの地面へと黄金虫のように這い出す。 これまで猿だなんだと言われてたけど、自称ながらGは草 特に用意無かったのにさらっと老人…
[一言] この聖職者の扮装が成立するのもう魔法の域だよね マリーさんはもうこの種の力に溺れ切ってると思う
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