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海賊マリー・パスファインダーの手配書  作者: 堂道形人
God Save the King

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マカーティ「何で肉団子にジャムをつけるんだろうな、あいつら」

度々すみません、また三人称で御願い致します……

今回はフレデリクが居ない場所でも色々起こっております。

 マカーティは寝つけずに居た。昨日までは問題無く熟睡出来たというのに。

 石の上よりはマシという簡素な寝台から起き上がったマカーティは、無駄と知りつつ窓辺に歩み寄る。もう何十回こうしているのだろう。

 フレデリクはもう来ない。自分が二度と来るなと言ったのだから。


 そう考えたマカーティが、微かにうつむいた時である。


―― カチャ


 静かに、錠前を回す音がした。


 この部屋には明かりなどないし光源はこの外側の窓だけ、月は出ていたとしても厚い雲の上である。扉も、開いたようだが……一体誰が開けたのか? マカーティはそのまま、窓の近くで身構えて待つ。


 来訪者は静かに入室し扉を閉め、持っていたランプのシャッターを開けた。


「失礼する」


 ランプから漏れた光が室内を僅かに照らし、その反射が照らし出したのは、マカーティには見覚えの無い男だった。看守でも衛兵でもないだろう、多分司法局の役人でも無い。そしてこの男()、仮面舞踏会にでも使うようなアイマスクで目元を隠している。


 男は悠々と近づいて来て、木の寝台の上にランプと包みを置く。


「こんな時間故、大した物は用意出来なかったが」


 アイマスクをした銀髪で長身の男が開いた布の包みの中からは、さらに葉の包みで小分けされた肉団子、ライ麦パン、林檎のパイ、それにニシンとキャベツのサワークラフトなどが出て来た。ふところからは瓶入りのビールまでも。


「貴方がダンバー氏だろうか」

「いや、ちょっと待ってくれ」


 アイマスクにこの早合点、相手がフレデリクが差し向けたストーク人である事を確信したマカーティは、単刀直入に切り出す。


「ダンバーは確かに今日の夕方までここに居たが、連れ出されてしまった。俺はマイルズ……マカーティ」


 普段の用心深いマカーティならそう簡単に口を開く事は無いのだが、今は事情が違う。ダンバーの事は気掛かりだしフレデリクと連絡がつくのならそうしたい。そして正直、そのダンバーの為と思われる差し入れの品々が、喉から手が出る程欲しい。


 一方。長身で銀髪のアイマスクの男、ロヴネルは、目の前に居るのがマイルズ・マカーティその人だと知って内心大変に驚いていた。

 そしてロヴネルもフレデリクの事となると軽挙な行動を取る事もあるのだが、それ以外の事については用心深い人物だった。


「すまない……私はまだ自分の名前を明かしていいのかどうか解らない、私を派遣したのはフレデリクだと言ったら、信じていただけるだろうか」

「間違いなくそうだと思っている、それよりどうやってここに入って来たんだ?」

「看守室の鍵をお借りした。無断で借りたので後で返さなくてはならない」


 マカーティは母国の牢獄の警備状況について、軽いいきどおりを覚える。

 次の瞬間、二人は同時にささやいた。


「ダンバーは何処へ連れて行かれた?」

「ダンバー氏は何処へ行かれたのだろう?」


 マカーティはかぶりを振る。


「俺も知らない。多分ここよりは厳重に警備された牢獄だろう。だけどあいつは無実だ、小さな子供が破いた手配書を衛兵に返しに行っただけなんだ、あいつは小銭欲しさに手配書を盗むような奴じゃない、陸軍の英雄なんだ!」

「すまないが声を控えてくれ」

「フレデリクはどこだ、まだ近くに居るのか? 俺が悪かった、話があると伝えてくれ、頼む、あとついでで悪いんだがこの差し入れを食べてもいいか!?」

「口に合うといいのだが」


 ロヴネルがうなずいた途端に、マカーティは飢えた狼犬の勢いで差し入れにありつく。この牢獄で出て来るのは一日一度、朝の一切れの固パンだけだ。今日は昼間にフレデリクが少量の差し入れをしてくれたが、マカーティの旺盛な胃袋には全く足りなかった。


 ジャムのかかった肉団子を手掴みで頬張ほおばるマカーティの横で、ロヴネルは片膝をつく。ロヴネルの身長はマカーティより20cm程高い。


「フレデリクに依頼する話を、私が伺う訳には行かないだろうか」

「モゴ……あんたを信用してない訳じゃないが、グビ、名前を明かせない奴に頼み事は、モッグモグ、出来ないだろ、美味いなこのパイは、それにあんたはストーク人だし、海軍の人間じゃないのか」

「ふむ、何故そう思われるのだろうか」

「このメニューはどう見てもストーク料理だし、葉包みのひもの結び方は海軍式じゃねえか、隠す気無いだろこんなの、なにせありがてェ、ストーク海軍はいい物食ってんな……」


 自分が持参したのは使節団に随行中のストークの主厨長が作った物なので、そちらは仕方ないが……結び目は完全に無意識であった。なるほど、こういう所で自分とフレデリクの力量には差が出るのか。ロヴネルはそう考える。


 一方マカーティは、腹が満たされるにつれて気が変わって来た。


「……あんたはダンバーの身の上も知っているんじゃないのか」

「うん。私は彼の二人の姪が人攫ひとさらいに連れて行かれる所を、フレデリクに救助された事を伝える為に来た」

「何だって……ダンバーはそれを知りたがっているに違いない。あいつ、何処へ連れて行かれたんだ……フレデリクは何か掴んでないのか?」

「……さすがの彼でも、ダンバーが移送された事はまだ知らないだろう」


 マカーティは立ち上がり、その辺りをうろうろと歩き始める。


「ここを出てフレデリクの元に行くのなら、案内するが」

「いや待て、待て! 脱獄するつもりは無いんだ、俺は」


 ロヴネルは内心舌を巻く。なるほど、これがフレデリクと共に海賊の大艦隊を寡兵で打ち破った豪傑かと。


 ロヴネルも海軍提督として、たくさんの力を誇る者を見て来た。或いは自分も意識はしてないが、力を誇る者の一人なのだと思う。

 しかし真に力のある者はこの通りだ。この男は母国の死刑判決を受けて独房に収監されているというのに他人の心配ばかりしていて、脱獄する気も無いと言う。自分がもし同じ立場になったら、同じように振る舞えるだろうか?


「レイヴン陸軍のグリーンラック師団に連絡を取れねえだろうか、コルベントリーという町に駐屯している、今の指揮官はヨーク将軍、五年前もそうだったはず……ジョフリー・ダンバーはそこの大尉だったんだ。すまん、さっきの事は撤回する、俺がグランクヴィストに会えたら頼みたかったのは、ダンバーがささやかな罪で何故か中央の役人に捕まり、過酷な刑罰を受けようとしているという事を、何とかしてヨーク将軍に伝えて欲しいという事だ、」


 マカーティは覚悟を決めて、ストーク人にそう話す。もしもこの男が実は司法局側の人間だった場合、ダンバーの立場はより悪くなるかもしれない。しかし今はそんなリスクを冒してでも何か手を打ちたかった。


 ロヴネルは、アイマスクを外した。


「私も気が変わった。私の名はマクシミリアン・ロヴネル、フレデリクにもヨーク将軍にも必ず連絡を取る。君に脱獄の意志が無いのなら、これで失礼する」


 マカーティはその名前は知っていたが、まさかこんな所にストークの海軍提督が居るはずはないので、同姓同名かただの冗談だと考えた。

 ロヴネルはマカーティが喰い散らかして飛び散ったジャムまで拭き取って、空いた弁当包みを集めて持って行く……やはりそうだ、海軍提督なんて人間がこんなに細かい所まで気が利くはずは無い、マカーティはそう思った。


 ロヴネルは最後にアイマスクをつけなおし静かに部屋を出ると、扉をきちんと施錠し直して出て行った。



   ◇◇◇



 同じ頃。ダンバーはブレイブ側北岸の郊外にある刑務所へと移送されていた。

 ここは強盗や詐欺師、殺人犯など、単純かつ刑の重い悪党が集められる場所だった。


 後ろ手に手枷をはめられたダンバーは保安官助手のボーガンに連れられ、やはり昔は城として使われていた円形の塔の階段を歩いて行く……そんなダンバーに、途中にある鉄格子の中から誰かが声を掛けた。


「お前も結局捕まったのか!? ヒッヒッヒ、最低のクズの掃き溜めへようこそ、ここが栄光の、アーリング城であるぞ!」


 檻の中に居たのはラディックだった。古い痛んだプールポワンを着た、あの貴族崩れの盗賊である。


「うるせえ! このイカレ野郎!」


 しかしラディックはたちまち同房の先輩囚人に地面に引き倒され、殴る蹴るの暴行を受ける……囚人達はこの新人が元貴族だというだけで加虐心を燃やし、既に度々暴行を加えていた。看守達は見て見ぬふりである。


「お前も元大尉だと知られたら、ああなるかもしれないな……ダンバー」


 ボーガンは、言われるがままに大人しく階段を歩いて行くダンバーにそうささやく。


「お前が何でここに連れて来られたか解るか? 知りたいだろうからな、教えてやるよ……ヨーク将軍が何と言っていたか……将軍はまず、そんな男が居たかもしれないが、思い出せないと言った。それから、ようやく思い出してくれたんだが……あれは酒と博打が好きなだけの小心者だと! 除隊してからは連絡も無いし、奴が今何をしてるのかも知らない、多分石炭運びの雑役でもして、週に一度の給料でも貰っているのだろうと! クククク……たいした陸軍大尉さんじゃねえか……!」

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>マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
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[一言] 「やはりそうだ、海軍提督なんて人間がこんなに細かい所まで気が利くはずは無い」 あはは、思っているとは逆!「海軍提督がはずは無い」って〜
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