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海賊マリー・パスファインダーの手配書  作者: 堂道形人
God Save the King

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53/107

トレバー「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひいいっ!? 何という大海賊じゃ……」

アンソニー船長を救った事を報告する為、コンウェイへ向かうフォルコン号。

ロブ船長とはここでお別れ。

 ロブ船長の入り江では老少の男達と女達が待っていた。

 皆さんはストームブリンガー号を返り討ち? にしたフォルコン号の出現に少し戸惑った様子だったが、ロブ船長が戻って来たのを見ると大層喜んだ。


「皆心配かけてすまねえ! だけど俺をプレミスの牢屋から助けだしてくれたのは、この大海賊マリー・パスファインダーだったんだ! 見た目は小さい女の子だけど、すげえ奴だったんだこいつは、まさに! 勇者タマーキンの再来ってやつよ!」


 私は赤面しつつ、彼等に挨拶をして入り江を去る。

 陽気で大らかなロブ船長は、入り江の集落では皆のヒーローだったみたいね。大海賊などという言いががりと語弊のある英雄の名前は勘弁して貰いたいが。



 プレミスからコンウェイ、ロブ船長の入り江に立ち寄るのを含めても100km足らずの海路を、フォルコン号は飛ぶように走る。

 コンウェイ港についたのはその日の夕方頃だった。



   ◇◇◇



 港の雰囲気は、私達が出掛けた時と少し変わっていた。何と言うか、奇妙な緊張感と共に静まり返っている。そして……湾内に何隻か、私達が来た時には居なかったような新しい船が停泊している。

 立派な船尾楼を持つ頑強で砲撃戦に強い軽ガレオン、内海で裕福な商人や大手の海賊が使う機敏な中型船ジーベック、そして小柄だが快速で頑丈なピンネース……どれも高価で高性能な船だ。

 どこか他所の商船団が入港したのかしら?


「船長、何か様子がおかしいぞ、このまま入港していいのか?」

「別に私達が気後れする事無いわよ、堂々と行きましょ……でも一応離れた所に泊めようかしらね」



   ◇◇◇



 港の西の外れに船を泊め、私達は再びコンウェイに上陸する……プレミスには降りるなと言われたけど、レイヴンのどんな港にも降りるなとは言われてないし、いいわよね?

 そこへ、誰かが走って来る。あれは誰だっけ。私達が勝手に接岸しても注意に来ない港湾役人のトレバーさんと以前話してた、筋骨隆々のペンドルトンさんだ。


「おーい、マリー船長、ちょっと待ってくれ、交易所に厄介な奴が来てるんだ!」


 船酔いでフラフラの私は真面目の商会長服を着たまま波止場に降りていた。まだあまり思考力が戻ってない。


「厄介な奴?」

「ああ、有名な海賊だよ……あいつはやべえ! 今は交易所に行かない方がいい」

「そんな人がコンウェイに何をしに来てるんですか?」

「野郎、プレミス海軍が動けないと聞いて、その隙にここに仲間集め(リクルート)に来やがったんだ! 海賊らしい生き方がしたいなら、ついて来いと……」


 聞き捨てならない。私は交易所の方に向かって早歩きで歩き出す。


「待てって、あいつらは本当にやべえから!」

「何がやべぇ(・・・)のか知らないけど、みんなが集まってるなら丁度いいですよ、アンソニーさんの事を報告しないと!」


 ペンドルトンさんは、私がアンソニーさんを連れていないのを察して言う。


「あ、ああ、だけど海軍に捕まった奴を取り戻すなんて、そんな簡単な事じゃないって、皆解ってるから……そこまで気にしなくても」

「その件は解決したんで! ペンドルトンさんもついて来て下さい!」

「は……はあぁ!?」


 折角堅気(かたぎ)に戻ろうとしているコンウェイの船乗り達を、再び海賊の道に引き摺り込もうとは、どんな悪党なのだ。自分が悪い事をするだけでなく、他人にも悪い事をさせようという奴は最悪だ。


「ちょっと! 降りて早々何処へ行くのよマリーちゃん!」

「俺も行くから! 待って姉ちゃん!」

「いや、俺はあの、自腹でエールを買いに行きたいから……」


 アイリとカイヴァーンも、近くに居た覆面男(不精ひげ)を捕まえて一緒について来る。



   ◇◇◇



 交易所には多くの船主達が集まっている様子だった。入りきれない水夫達は店の入り口の周りで中の様子を聞いている。


「かつてはレイヴン海軍にも男が居た。お前達の事を信頼し、お前達もそれに応えた。そりゃあいい時代だったんだろうよ、だが今やレイヴン海軍を支配してるのは男とは呼べねえうらなり(・・・・)野郎ばかり、そうなんだろう!? 最近もお前らの仲間が難癖つけられて捕まったそうじゃねえか!」


 中からは誰かが演説する声が聞こえて来る……


「だいたいローバー海峡なんざ狭過ぎるんだよ、やれあれは駄目だこれは駄目だとしがらみ(・・・・)は多いし、分捕ったもんだってすぐ()に召し上げられちまう……そんな事でお前ら、自由な海賊だって言えるのか? そうだろう? 海賊ってなぁな、海で一番自由な奴だ! 違うかい?」


 演説は熱気を帯びている。聴衆の反応も決して悪くないらしい。


「ちょっとごめんなさい、そこを通して!」

「マリー船長!? プレミスへ行ってたんじゃないのか」

「それを含めて話があるから!」

「や、やめとけよ、あいつは大変な大海賊(ワル)だぜ……」


 私は水夫達を押し退けて中へ進む。


「海賊の時代は終わっただぁ!? ヘッ! 冗談じゃねえ、海賊とは名ばかりの首輪をつけられた猟犬の時代が終わっただけよ、今はな、海賊が自分で自分の生き方を決める時代だ! 新世界は広い、広過ぎて正規軍の手がほとんど及ばねえ、総督共は自分達の農園を守る為なら平気で海賊の力を借りるんだ、本当の海賊の時代はこれからよ! 我と思わん者はついて来い! 真の海賊! このゲスピノッサがお前達を導いてやるぜ!」



 私はちょうど、水夫達の輪を潜り抜けて交易所の中に飛び出した所だった……


 間違いない、あれはゲスピノッサだ、マリキータ島のアジトで父によって倒されたが、サフィーラ沖で囚人輸送船を奪って逃走、再びヒューゴ艦長が追い詰めたもののパンツ一丁で泰西洋の真ん中に飛び込んで逃げた、あの怪物ゲスピノッサが……数十名の人相の悪い無法者集団を率いて、交易所のカウンターをどっかりと占領している!

 じゃああの港の三隻の船もゲスピノッサの海賊団なの!? 何という事だ。追跡を振り切って生き延びたゲスピノッサは、再び危険な勢力を回復していたのだ!


「待てって、姉ちゃん……うわっ!? ゲスピノッサだ!」


 その時、私を追って水夫達の人垣を潜り抜けて来たカイヴァーンが、ゲスピノッサを見てそう叫んでしまった!


 あ……あ……歯を剥いて笑うゲスピノッサが、私を見つけ、睨みつける……



―― ぷしっ



 ゲスピノッサの両方の鼻の穴から、長い鼻水が飛び出す。


「マリー・パスファインダー!!」


 さらにゲスピノッサは血相を変えて叫ぶ。ゲスピノッサの仲間達……身長2m越えの筋骨隆々の大男から、体中に短銃や爆薬を取り付けた小男まで、人種も様相も様々な数十名の部下達も、一斉に私を見た。



「うわああああああああ!!」



 ゲスピノッサは、叫び声を上げて交易所の床から2mくらいの高さにある明かり取り用の窓に飛びつき、外へ這い出す……!?


「ひっ、ひぃいい!?」「ひえっ、ひえええ!」「おた、おたおたお助けー!!」

「うわああ押すなああ!」「裏口だ、裏口から逃げろ!」「神様、神様ーッ!」

「親分ッ! 親分置いてかないでくれぇぇ!!」


 ゲスピノッサの子分達も、押し合いへし合い、慌てふためきながら、裏口や窓へと殺到し、消えて行く……



 数秒後。


 ゲスピノッサとその一味は、幻のように交易所から消えていた。彼らが注文したのだろう酒や食べ物も全部そのままに。剣やマスケット銃、船長の物らしい帽子まで残されている。


「あの……」


 私はカウンターの方に近づく。カウンターの向こうには、ゲスピノッサ一味の出現に怯えていたらしい給仕のおじさんが居て、恐る恐る私の方に近づいて来た。


「あの人達、お金払ったの?」

「いや……まだ貰ってない」

「じゃあ……この銃や剣や帽子をいただくしか無いわね……」


 私は奴等が残して行った手つかずのパスティを一つ手に取り、食べる。まだ暖かい。美味しい。今日は船酔いが酷くて少々のおかゆ(・・・)しか食べてなかったのだ。

 ああそうだ。折角皆集まってるんだから、言わなきゃ。


「皆さん、アンソニー・アランデル船長の嫌疑は解けました、アンソニーを捕まえたエバンズという男は不当逮捕で軍法会議に掛けられる事になりました。アンソニーもハリーもその証言をしないといけないんでもうしばらく帰って来れませんが、海老やロブスターの代金、それに未払いのパスファインダー商会の資材は返して貰えるんだそうです。プレミス港のプリチャード司令官が約束してくれたんで、間違い無いと思います」

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本作はシリーズ六作目になります。
シリーズ全体の目次ページはこちらです。

>マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
― 新着の感想 ―
[一言] タイトルは国歌?! あはは、今毎回ゲスピノッサ一が出ると私、笑い出すをたまんない。
[良い点] ゲスピノッサさん、逞しく生きてたんですねぇ。 素晴らしい逃げ足も健在でようございました!
[一言] ぶっちゃけピジョン船長が出てきたとき少しだけこいつかもとも思ってた
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