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海賊マリー・パスファインダーの手配書  作者: 堂道形人
強襲のパスファインダー
19/107

ランベロウ「わ、私を移送するだと!? 何を言う、私はまだ何も話していないではないか!」レジン「やかましい! 貴様も俺もお払い箱だ!」

とうとうやって来てしまったプレミス。

お調子者のマリーの冒険は続く。

 ボートが来たのは、フォルコン号が帆を畳んで小一時間経ってからだった。


「ロングストーンの商船でフォルコン号? 向こうの桟橋の好きな所に泊めて、書類は事務所に持ってってくれー!」


 港湾役人らしき人は一人でボートを漕いで来て、ボートの上からそう言って、そのままどこかへ漕ぎ去ろうとする。


「ちょっと待って下さいよ、こっちだって許可証にサインを貰わないと上陸出来ませんよー!」

「事務所でサインするから! 俺もこう言えって言われてるだけだから良く解んねーんだよ、後は自分で何とかしろー!」



 普段のフォルコン号なら好きな所に泊めろと言われれば喜んで波止場に泊めるが、今日の我々は念の為、岸から離れた錨地に停泊してボートで移動する事にする。


「ボートは俺が漕ぐよ。プレミスの案内も任せてくれ、最後に来たのは15年以上前だけど」

「……いいのか、ニック」

「はは、ウラドはやめとけよ、ここは危険過ぎるだろ」


 そう言って不精ひげ(ニック)とウラドは、少し声を落として、港湾施設や船を指差し、何かささやき合っている。この二人はかつてここに居た事があり、その時はレイヴン海軍の士官と水兵という関係だったのだと思う。


「今回は私も堂々と行くわよ。マリーちゃんをこっそり尾行するのは無理だって解ったもの」

「俺も行く! レイヴン語はもう解ったから大丈夫!」


 アイリとカイヴァーンもそう言ってついて来ようとする。


「あの……今回はロイ爺と太っちょだけついて来て欲しいんですけど」


 私がそう言うと不精ひげは階段でつまずき、アイリは静索(シュラウド)に頭をぶつけ、カイヴァーンは甲板のワックス溜まりを踏んで滑った。


「えぇ……」「なんで!」「どうして!」


「覆面男は怪しいしアイリさんも目立つしカイヴァーンはいきなりレイヴン語出来る訳ないでしょ、それに私、話し合いをしに行くんですよ、この組み合わせだと何か喧嘩しに行くみたいな感じだし」


「どういう事よマリーちゃん、私を何だと思ってるの!」

「俺、姉ちゃんが行けって言わなかったら行かないよ! 大丈夫だよ!」

「やっぱり俺は留守番がいい、留守番なら任せてくれ」


 抗議する二人と、これ幸いと後ずさる不精ひげ。私は構わずロイ爺とアレクの方を見るが。


「期待して貰えるのは嬉しいが勘弁してくれんかね、この歳で船長みたいに走り回るの無理じゃ」

「僕も商談以外の事はさっぱりだから……それに最低でも不精ひげは連れて行った方がいいと思うんだけど」


 ロイ爺とアレクはそう言って、他の三人を見回す。

 アイリはカイヴァーンの肩に手を回し、不精ひげの袖を掴む。


「私とカイヴァーンは船長に命を拾って貰ったんだから! 今日は何か起こる事が解ってるんでしょ、今度こそ役に立たせて貰うわよ!」

「俺もアイリさんも手配人になる心細さは知ってる! だからきっと姉ちゃんの役に立つ」


 私がお供をロイ爺とアレクに御願いしたかったのは、その二人なら何かあっても無茶はしないだろうと思ったからだ。

 アイリさんやカイヴァーンに、そんなテンションでついて来られるのはちょっと辛い。頼むから、私などの為に無茶はしないで欲しい。


「あの、船長もああ言ってるんで、俺は今回は留守番で」

「貴方も来なさいよ不精ひげ、覆面なんて取ればいいじゃない」


 船の事だからと言って、何でもかんでも私の思い通りにはならないようだ。私は皆さんに支えられて、どうにか船長の真似事をさせていただいているのだから。



   ◇◇◇



 私達はフォルコン号の小さい方のボートに乗り波止場に向かう。不精ひげは結局覆面を被ったままオールを取っていた。


 昔、こんな絵本を読んだ事があるような気がする。ある所に桃をよく食べる勇者が居た。勇者はある日、東の島に漁業や機織りをして慎ましく暮らす鬼達が居る事を知り、略奪の為の手下を集める。しかし近所の人々に好かれていない勇者の元に集まったのは、三匹の動物だけだった。

 まず赤い犬。今日のカイヴァーンは臙脂えんじ色の上着を着ている。それから黄色い猿。私のジュストコールは黄色っぽい。それから青い雉。アイリさんのコートはこん色だ。あの話、最後はどうなるんだっけ?


 とにかく我々は、何の障害も無く、誰かに追い掛けられたり指を差されたりする事もなく、プレミス港に上陸してしまった。



   ◇◇◇



 陸に上がった私は二角帽(バイコーン)を被り、ストラップ付きの片眼鏡(モノクル)を掛ける。本当は眼窩がんかに挟むタイプのやつが欲しかったが、彫りの浅い私の顔では掛けられなかった。


 プレミス港の印象は事前に抱いていたものと全く違っていた。美しい建物の並ぶ落ち着いた街ではありませんか。大きな港町にありがちな雑然とした感じが無く、歩いている人々も物静かだ。人相の悪い連中も居ない。


「見ろ、この有様だ、これは嵐の前の静けさだぞ」

「ねえマリーちゃん……いえ船長、今すぐ諦めるのでなければ、一旦宿を取ってちゃんと情報を集めた方がいいわ」


 だけど不精ひげとアイリはそんな事を言う。


「何で? 静かで平和な街じゃないですか。何がおかしいの?」

「静かで平和過ぎる。来る途中の錨地を見たろ。あれだけの軍艦が集まってるのに、大人の男は何処に居るんだ」


 不精ひげに言われて私もようやく気付く。平和に見える訳である、外を歩いているのは女性と小さな子供ばかりで、大人の男がほとんど居ないのだ。

 たまに現れる大人の男はどこかコソコソしていて、目立たないよう通りの隅を素早く歩み去って行く。


「とにかく、商人宿ならいいのがあるから」


 覆面の勇者不精ひげは犬猿雉の子分を引き連れて、妙に辺りを警戒しながら、足早に街中を歩いて行く。辺りはもう夕暮れだ、今日はもう情報集めに専念するというのは良い考えだと思う。


「あ、ちょっと」


 カイヴァーンがつぶやき、足を止める。私達が何事かと振り向くと、カイヴァーンが指差す先には掲示板があった。様々な手配犯の情報が掲載されている……

 私達四人は掲示板に歩み寄る。ううっ。嫌だなあ……だけど現状は確認しないといけない……それでも私はうつむき気味に立ち、掲示板から目を逸らしていた。


「船長の手配書、無いわよ」


 アイリさんの声に、私は顔を上げる。本当だ! 無い、私の手配書は無い!

 良かった。やっぱり私なんてたいした手配犯では無いのだ……別の手配書はあるけど。


『フレデリク・ヨアキム・グランクヴィスト。ストーク人で身長170cm、髪は金髪、航海者、剣士』


 それはコンウェイでも見た手配書なのだが、賞金の金額の所に後から×印が描かれていて、上からスタンプで新しい賞金額を押してある。


『賞金 金貨8,000枚』


 さらに赤いスタンプで。


『生死を問わず』


 そう、押してある。


「コンウェイで見たやつは金貨2,000枚だったのになぁ。海賊あるある。売出し中の期待の新星は次々と更新される賞金額が行き渡ってない事も多くて、各地で評価がバラバラ」


 カイヴァーンは目を細め、腕組みをしてそうつぶやく。


 私は背中に氷の粒が入り込んだかのように震えていた。

 生死を問わず? いや、ファウストの手配書には必ず描かれてるし、高額賞金の掛かった海賊には当然の事なのかもしれないけど……


「だけど、この似顔絵は確かにねぇ……」


 アイリさんが、私と似顔絵を見比べながら言う。そう。この似顔絵は全く私に似てない。


「言ったでしょ、これは私じゃないですよ。30歳くらいのおじさんです」

「やめてマリーちゃん、その台詞は私に効くわ」

「あっ……いえ、そういう意味じゃなくて……」


 不精ひげは道の先を指差す。


「とにかく、マリー船長の手配書は無いんだ、良かったじゃないか……だけど油断はいけない、早く宿屋に行こう」


 私は再び不精ひげについて歩き出す。カイヴァーンは歩きながら腕組みをして、少ししおれたように溜息ためいきをつく。


「俺の元親父ダーリウシュが30年真面目に海賊やってやっと賞金5,000枚だったのに。やっぱり姉ちゃんは凄いや」

「違うから! そのフレデリクは私じゃない誰かだから!」


 カイヴァーンに抗議する私。先頭を歩いていた不精ひげが振り返る。


「船長、声が大きい。あまり離れずについて来てくれ」


 すみません……気をつけます。

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本作はシリーズ六作目になります。
シリーズ全体の目次ページはこちらです。

>マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
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[気になる点] 覆面で桃太郎だと、にわのまこと先生のTHE MOMOTAROHが脳裏を過りました。もんがー!
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