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海賊マリー・パスファインダーの手配書  作者: 堂道形人
God Save the King

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クロムヴァル「提督、交渉の途中です」ロヴネル「すまない、どうにも気が抜けてしまって」

マリーが去った後のブレイビスにて。

第二作でレイヴンの外交官ランベロウが起こしたハマーム王室に対する陰謀から続く、レイヴンとストークの外交問題の話……わかりにくいと評判のエピソードです。

まあ物語の主役であるマリーも全く理解していなかった話ですし、作者もよく解ってないような話なのですが(汗)こちらも、そろそろおしまいのようです。

三人称で御願いします。

 ストーク使節団との交渉を牛歩戦術で回避していたレイヴン外務省は、ドラゴンの再襲撃への備えを優先する為、この交渉をさらに延期して欲しいと懇願こんがんしていた。


―― ドンッ!


 ストーク側代表団副団長にしてストーク王国宰相のエイギルは、机を叩いて抗議する。


「そもそもこの交渉を始めたのは我々であろうか、それとも貴国であろうか! 貴国が重大事だと言うから、貴国との長い友情にかんがみた我々はこのように誠意を示し、ブレイビスまで来ているのだ。これ以上、何を待てと言うのだね!」


 レイヴン側の席では外務卿のロータス伯爵と元々の担当特使であるダグラスが、恐縮したようにうつむき、苦笑いを浮かべている。


「まあ、しかし……」


 エイギルはそこで口調を緩め、ゆったりと立ち上がって窓辺へ向かう。


「大変珍しい物を見せていただいた事には感謝しています。レイヴンまで来た甲斐がありました……随分大きな鳥が住んでいるのですな、ブレイビスには」

「そ、その事ですが! エイギル殿!」


 この交渉にどうしてもと言って同席していた、レイヴンの司法長官が口を挟む。


「あのドラゴンは例のストーク人、フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストが呼び寄せたものだという証言があるのですぞ! 多くの者が目撃しているのだ、フレデリクがドラゴンに乗って飛び立つのを!」


 司法長官はどうだと言わんばかりに、列席した双方の代表を見渡す。しかしストーク側からはこれといった反応は無く、むしろレイヴン側の代表団から「黙っていろ馬鹿者」と言いたげな視線が飛んで来るばかりであった。


 エイギルは窓の外を見つめたまま答える。


「フレデリク・ヨアキム・グランクヴィスト……思えばその名前を私に教えて下さったのは、そこにいらっしゃるダグラス特使でしたな……アイビス人の小説家が書いた少女小説に出て来る、主人公の友人の脇役の名前だそうで」


 真冬だというのに、ダグラスはハンカチを取り出してこめかみの汗をぬぐう。


「し、しかしエイギル殿、フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストが偽名であるかどうかは別として、その人物はストーク人の英雄で間違いないと、シーグリット殿下はおっしゃいましたが……」

「ええ。今では私もそうであれば良いなと考えております」


 エイギルの鷹揚おうような返答に、司法長官が立ち上がって抗議する。


「貴方はそれを認めるのだな!? フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストはストーク人で、ドラゴンを呼び出しブレイビスに破壊と混乱をもたらした海賊であると!」

「失礼。麗しのブレイビスに何と?」

「破壊と、混乱だ!」

「申し訳ない。何をどうやって破壊と混乱なのですか?」

「だから! ドラゴンを……呼び出し……」

「果てさて、私の聞き違いでは無かったと。困りました……まさか外交交渉に来てドラゴンを呼び出したとなじられるとは思いもよりませんでした。レイヴンの皆様は誠に想像力豊かでいらっしゃる……その夢物語を、ファルケやレイガーラント、アイビスの皆様にも聞かせてあげたいものですな」


 エイギルは窓の外を見つめたまま、穏やかにそう答えた。


 しばらくの間、議場は静かになった。

 レイヴンとストークの力関係は、少し前までレイヴンが圧倒しており、レイヴンはその気になれば多少ならず無理を通せる立場にあった。

 しかしストークがまるで接点の無かったマジュドと条約を交わし泰西洋に足掛かりを得て力を増そうとしている一方、レイヴンはいくつかの失点がかさんだ所にこのドラゴン騒ぎで少し弱っていた。

 しかし、そうした微妙なパワーバランスについていつも考えている外交官と、いつも正義について考えている司法官では考え方が違った。

 司法長官は席から立ち上がり、エイギルに近づいて言った。


「ドラゴンはともかく! フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストは我が国の死刑囚、マイルズ・マカーティを略取したのです! 貴国の主張は、グランクヴィストはレイヴン海軍の元艦長マカーティの友人であり、レイヴン側の人間であるという物でしたな!? しかし海賊であり犯罪者であるマカーティはレイヴンの人間ではなく、」


 司法長官の発言に構わず、エイギルは議場の大きなガラス窓の一つを開けた。



「レイヴン海軍の英雄! マイルズ・マカーティ艦長を釈放しろー!!」

「釈放しろー!!」

「司法局は! レイヴン王国の法律を守れー!!」

「法律を! 守れー!!」

「枢密院は! 約束を守れー!!」

「約束を! 守れー!!」


 会議が行われているホワイトオーク宮殿の周囲は、抗議者で一杯だった。彼は一様に、約束を破ってマカーティを処刑しようとした司法に怒りを燃やしていた。


 抗議の声を上げているのはもはや中産階級の市民だけに留まらず、騎士達や軍人、地方地主達にも及んでいた。大きな領土を持つ上流貴族の一部からも、不満の声は上がっている。


「海軍は! マカーティ艦長の忠勤に報いろー!!」

「忠勤に! 報いろー!!」



 ロータス伯爵はてのひらで目を覆ってうつむく。ダグラス特使はてのひらで目を覆って天井を見上げる。


「スヴァーヌは我が国にとっても同盟国。そのスヴァーヌの都市を海賊から守った、レイヴン海軍の英雄は我が国にとっても英雄です。フレデリクと名乗るその親友もしかり。いやはや、さすがは世界最強のレイヴン海軍、素晴らしい人材をお持ちだと、私も感心させていただいていたのですが」


 エイギルは数か月分の恨みを込めた笑いを噛み殺しつつ、窓の外を眺めたままそう言った。


「そのような英雄を、何故処刑しなくてはいけないのか。私のような田舎者には想像も出来ませんな……まあ反対されている方も随分いらっしゃるようですが。司法長官殿でしたかな? 如何ですか、このような畑違いの場でドラゴンが出て来るお伽話をしている時間があるのなら、正々堂々、彼等を説得に行かれては?」



 そんなエイギルの一人舞台を他所よそに、ストーク側の名目上の代表団長のシーグリッド王女は、ずっと黙ったままぼんやりと窓の外を見つめていた。

 一方そんなストークの王女の正面には、レイヴン側の名目上の代表団長として、ジェフリー国王の長男のウォーレン王子が、真顔のまま黙って席についていた。


「殿下……ここはもう、何か理由をつけて退席された方が宜しいのでは」


 気性の激しい王子を心配しこの場に同席していた、侍従長を務める女官が、王子の背後からそっとささやく。


「黙れッ、そのようなみっともない事が出来るかッ」


 王子は声を落としつつも、苛立いらだちを隠さず侍従長にそう言い返す。侍従長はすぐ引き下がろうとしたが。


「待てアリアンヌ。私があの王女を手に入れるには、どうすればいいと思うッ?」

「……殿下?」


 アリアンヌと呼ばれた女官は必死に動揺を隠す。王子がこのような事を言う事は今までに無かった。

 王子の視線はここに着席した時からずっと、しとやかで美しいシーグリッド王女に釘付けになっていた。


 そんな王女が、ふとつぶやく。


「フレデリク様……」


 王女は何かの為にそう言ったというのではなく、ずっと考え事をしていて上の空で、思わずそうつぶやいてしまったという様子だった。


「あの、殿下、今のお話ですが」


 アリアンヌは気を取り直し、王子に何かささやこうとしたが。


「もういい、解った」


 ウォーレン王子はそう言って小さく手を振り、アリアンヌを遠ざけた。そして誰にも聞こえない声で、つぶやく。


「私がそのフレデリクという男を……倒せばいいのだな」



 真冬のブレイビスはこの日、小春日和に恵まれていた。

 ストーク側代表団の席には数合わせの為に使節を輸送して来た海軍高官も呼ばれていたが、陽当たりのいい席に座ってしまった若い長身の提督は、居眠りをしてしまい年上の参謀にたしなめられていた。

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本作はシリーズ六作目になります。
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>マリー・パスファインダーの冒険と航海シリーズ
― 新着の感想 ―
[一言] まためんどくさい絡まれ方しそうですね
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