表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/280

【番外編】 ルークと猫の日

【※ こちらは2022/02/22・猫の日記念の番外編SSです。本編の流れとは関係ありません。】【短いです】



「……猫の日……ですか?」


 リルフィ様が、不思議そうに首を傾げた。

 王都滞在中のある日。

 ルークさんは宮廷魔導師ルーシャン様の元へお邪魔し、お茶会にかこつけて他愛もない雑談をしていた。

 同席者はクラリス様とリルフィ様、ピタちゃん、アイシャさん。場所はお屋敷ではなく、お城の敷地内にある王立魔導研究所の応接室である。


「はい! かつて私のいた世界では、いろんな国々で、猫の記念日が制定されていたのです。国ごとに日は違っていたのですが、私の国では毎年、二月二十二日が『猫の日』として認知されていました。こちらの世界には、そういう記念日ってないのでしょうか?」

 ルーシャン様が驚きに眼を見開く。

「『猫の日』とは、なんと素晴らしい! つまり、人類が猫様に感謝と祈りを捧げ、猫様にお仕えできる喜びを祝う一年でもっとも重要な祭日ですな!?」

 ……………………そこまで重くないな? 「ねこかわいいー」ってでるだけの日だな?


 クラリス様が、本日のおやつ・プリンアラモードを召し上がりながら首を傾げる。

「お祭りなら、その日は何か特別なことをするの?」

「いえ、特には。一部の商人が、猫関連の商品のセールをやったりはしますけれど。あとはまぁ、猫の写真がツイッ……インス……い、いろんな界隈に、大量に出回ったりはしますね」


 インターネットに関する説明はさすがにめんどい……しかもこれは、猫の日に限らず一年中起きている事象やもしれぬ。

 お猫様の被写体レベルは超一流。悔しいが、あの御方達は猫初心者のルークさんごときでは到底及ばぬ高みにおられるのだ……

 お猫様と真っ向勝負できるフォトジェニックな被写体など、犬、タヌキ、アザラシ、ウサギ、カピバラ、カワウソ、ラッコ、エゾモモンガ、シマエナガ、雪豹、ハムスター、シマリス、ウォンバット、チベットスナギツネ、スレンダーマンぐらいなものであろう……並べてみるとけっこういるな? まだいそうだな?


 アイシャさんが、プリンと生クリームの甘さに眼を細めながら笑った。

「猫の日があるなら、犬の日とかウサギの日とかもあるんですか?」

「ありましたねー。猫ほど定着はしていませんでしたが、他にもトラの日、クマの日、カニの日……リンゴの日にミカンの日、もちろん『トマト様の日』もありました! なんでもかんでも、とりあえず記念日を制定する風習みたいなのがありまして――その流れでほぼ一年中、毎日が何かの記念日になっていた感じです」

「それ……全部憶えるの?」

 クラリス様が首を傾げた。「ルークさんの頭でそれは無理」と、すでに見透かされてそう……

「いえ、まさか。猫の日はけっこう世間に浸透してましたが、大半の記念日はあんまり話題にはならない感じでしたね」

 ちょっと乱立しすぎたからしゃーない……むしろ「猫の日」は、祝祭日でもないのによくぞ世間に浸透したものである。

 超越猫さんも猫だったし、やはりあの毛玉どもには何か秘密があるというのか……?


 そしてルーシャン様が思案顔。

「……なるほど、『猫の日』……よくよく考えてみれば、むしろ猫様を讃える祭日がこの国に存在しないことのほうが不自然……それは当然の如くあって然るべきものです。早急に我が国でも制定するべきでしょうな」


 ……ルーシャン様、猫的には良い人なんだけれど、やっぱりちょっと頭おかしいと思うの……


「あー。それでしたら、この間、ルーク様が猫軍団を召喚した日とか良さそうですよね。あれだけのインパクトがあった日なら説得力抜群ですし、春の祝祭の最終日にも重なって、『猫祭』とか同時開催できそうです」


 アイシャさんも煽るでない。ルーシャン様が本気にしちゃうでしょ。


「うむ! それは良い案だ。すぐ陛下に進言を――!」

「しないでください。やめてください。猫の日自体は作ってもいいので、せめて他の日にしてください」


 ――審議の末、あえて制定する場合には、こちらの世界でも2月22日を『猫の日』としていただくことに。

 そもそもこちらの世界には、我が前世からの流入文化が割と多い。そこに猫の日が加わったところで、いまさらさして影響はあるまい。とりあえずルークさんがいろいろやらかした日を記念日にされるのはちょっと勘弁である。


 おやつを食べ終えたところで、ピタちゃんが俺を抱えこんだ。

 

「ルークさま、『そふとくりーむのひ』って、あった?」


 ……………………あったな。7月の……確か、3日だったか?

 なぜ憶えているかといえば、スイーツ店巡りを趣味としていた前世のルークさんは、スイーツのセール情報などをある程度チェックしていたため、記憶の片隅に残っていたのである。確か『アイスクリームの日』は5月9日であった。

 他にもケーキの日は1月6日、ショートケーキの日は毎月22日、アップルパイの日は5月12日で、チョコレートの日は7月7日――しかし日本では、お菓子メーカーの陰謀により『バレンタインデー=チョコレート』にされてしまったため、2月14日がチョコレートの日とされている。陽キャめ……!(ゴゴゴ……)


 そんな豆知識はどーでも良いのだが、ピタちゃんの問いにはなんと答えたものか。


「あったよー。7月3日だったかな?」

「そのひは、そふとくりーむがたべほうだいですか?」

「……………………そういう日ではないかな?」


 ピタちゃんの赤い眼がらんらんと光っているのを察して、俺はそっとコピーキャットで錬成したソフトクリームを差し出した……流れで一応、皆様にも。カロリーオーバーだけどしゃーない。

 アイシャさんがしみじみと嘆く。


「……これ、なんとか王都でも再現できないですかねぇ……ルーク様がリーデルハイン領に帰っちゃった後、禁断症状が出そうなんですけど」

「うーん。アイスクリームはこっちにもあるんですよね? ちょっと工夫すれば、近いものは作れるかもしれませんよ。ただ、このとろりとしたなめらかさまでは難しいと思いますが……」


 アイシャさんも水属性の魔導師さんなので、「氷を作る」とか「ものを冷やす」系統の魔法は得意である。撹拌かくはん用の道具さえ確保できれば、アイスクリームは普通に作れるだろう。

 そしてソフトクリームは、「冷やしすぎない」点に気をつければ……しかしやはり、砂糖をはじめ、各種の添加物がなければ完全再現は難しい。


 あと……アイシャさんは口にしないが、考えていることはわかる。

 こちらの技術でソフトクリームを再現できれば、ルークさんの存在を伏せたままで、孤児院の子供達にも、折に触れてコレを食べさせてあげられるだろう。

 一回限りなら俺が直接行って配っても良いのだが、求められているのは「一回限りの贅沢」ではなく、「日々を豊かにしてくれる、幸せの味」なのだ。つまりある程度、容易に手に入るモノでなければいけない。


 この場合、ソフトクリームだと少々難度が高いが……

 今日食べた「プリン」ならば、牛乳と卵+麦芽糖でも製作可能である。砂糖に比べて甘さは少し控えめになるが、充分に美味しいスイーツになるであろう。


「あのー、アイシャさん……さっき食べた『プリン』でしたら、かなり近いものを、こちらにある材料だけで再現できそうです。卵と牛乳、麦芽糖があればなんとかなるので――ただ、これだけではちょっと物足りないので、香り付けに使えそうな植物も検討してみましょう。ぜひ、リルフィ様も協力してください!」

「は、はいっ……!」


 リルフィ様は食い気味に頷いてくださったが、アイシャさんはちょっとびっくりされている。

「えっと……あの……もしかして、それで一儲けしてもいい……ってことですか!?」


 ……そういうルートもあるか。自分でスイーツ店をやる気はないが、プリン専門店は商売としておもしろそう。


「レシピの扱いはアイシャさんにお任せします。孤児院の子達に店をやらせてもいいですし、高級路線にして貴族相手に大儲けしても……まぁ、あんまり悪どい真似とかされたら困りますけど、常識的な範囲ならいいかと思います」


 アイシャさんの表情が、ぱっと輝いた。

 牛乳はともかく、卵と麦芽糖はそこそこ高級品であり、安く売るにも限界があろう。理不尽な暴利は避けて欲しいが、ある程度の高級路線は致し方ない。

 つまるところ、『トマト様を売り出す前の露払い』といったところである。


 ……ククク……優秀なアイシャさんに先行して新製品の販売ノウハウを模索してもらい、その成果を、本番となるトマト様の販売戦略立案につなげようというこの深慮遠謀……自分の狡猾さが恐ろしい……!

 いー感じに悪巧みをしていると、ルーシャン様の手がそっと俺の背を撫でた。


「……ルーク様。我が弟子のことをお気遣いいただき、ありがとうございます――孤児院の運営費は、アイシャにとって一番の懸念材料でしてな。現在はそれなりに運営できておりますが、決して懐具合が良いわけではありませんし、将来を思えば、彼らには自力で稼げる手段が必要です。ルーク様のお慈悲を、アイシャは決して無駄にはせぬでしょう」


 ……そこまで深刻には考えてなかったです。なんかごめんなさい……


 その後もご歓談は続き、リルフィ様がふと、こんなことをお聞きになられた。


「あの……ルークさんのお誕生日って……いつなのですか?」


 む。若干、答えに詰まるルークさん。

 ここで前世の誕生日を言うのはなんか違う気がする。

 現在の姿の誕生日ということなら、超越猫さんによって山中に放り出されたあの日だが……

 やはりここは、別のお答えが良かろう。


「クラリス様に拾われて、『ルーク』というこの名前をつけていただいた日ですね!」


 『ルーク』としての誕生日は、まさにこの日がふさわしい。

 クラリス様が微笑み、俺の喉元を撫で回してくれた。ごろごろごろ。

 ルーシャン様が何かメモをとっておられるが、この時、俺はこの動作の意味をまったく理解していなかった。



 ――後年、ネルク王国には、三種の記念日が定着することとなる。

 由来がよくわからないまま2月22日に決まった『猫の日』。

 毎月25日に割引セールや限定品の販売が行われる『プリンの日』。

 そして、トマト様の恵みに感謝し、これからなんかいろいろやらかすことになるどこぞのペットを各種イベントのダシにする『亜神ルークの降誕祭』――


 ……つまるところ、ルークさんは、「人類の商魂」(猫への信仰心)を甘く見ていたのである……

 

                         おしまい

できれば22時22分22秒に投稿したかったのです_(:3」∠)_ムリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
スレンダーマン!?
てーことは最終的にルークがデミなゴッドな事は周知になるのか<生誕祭
完結 おめでとうございます|ω・)ノ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ