72・王都への帰還
「で、ルーク殿。次はどこに向かう? ネルク王国に帰れば良いのか?」
「そうですね。えっと……ネルク王国の、リーデルハイン領って転移できますか?」
岩場に背を預け、オズワルド氏が眉をひそめた。
「さきほど会ったライゼー子爵の領地か。地図はあるかね?」
「地図ですか? いえ、手元にはないですけど」
「では一度、王都に戻って、私の手荷物から地図をとってくる必要がある。魔光鏡も置いてきてしまったしな」
ほう? これは『転移魔法』の詳細を聞く好機かもしれぬ。
「転移魔法って、地脈を通じて移動する魔法だと聞いたのですが、地図も使うんですか?」
「地図を正確に把握しておかないと、どこに転移するかをイメージできないだろう? このイメージが曖昧なままだと、その範囲内のどこかにランダムで飛ばされる羽目になる。だから魔族は、転移魔法を覚えたらまず、年長者の指導で各国の首都や主要な都市を巡るんだ。こんな東方の田舎は対象外だが、私は正弦教団との関わりがあるから、拠点のある地は概ね頭に入っている。が……その『リーデルハイン領』というのは所在がわからん」
ふむ。これは……つまり転移魔法というのは、頭の中で地図を思い描き、「ここに移動する!」と指定する感じなのだろうか?
で、それが知っている場所ならより正確に転移しやすい、と――?
「たとえば王都の中でも、知っている建物ならピンポイントで移動できるけど、知らない施設だと誤差が出る感じなんですかね?」
「そうなるな。目視できる距離なら簡単に転移できるし、たとえば『壁の向こう側に』といった近距離なら、誤差も少ないから見えなくても問題ない。ただし、地脈のない土地、希薄な土地というのもたまにあって、そういった場所は我々にとっても禁足地のような扱いとなっている。そのリーデルハイン領とやらの場合、位置もわからんし行ったこともないから、無理に転移しようとすると、ネルク王国近隣のどこかへ出ることになるだろう」
……それはそれで気ままなランダム旅ができて楽しそうではあるが、今やることではあるまい。
「わかりました。では王都に戻っていただいて、その後は私の『ウィンドキャット』で移動することにします。ついでにライゼー様にも、シャムラーグさんと救出したご夫妻を引き合わせますので、王都に戻ったらオズワルド様は宿でお休みください!」
オズワルド氏がちょっとだけ残念そうな顔をした。
「しばらく同行させてもらってもいいか? 助言できることもあるかもしれんし、私も暇な身だ」
んー……まぁ、いいか。ここまでお世話になった以上、オズワルド氏の好奇心を満たすくらいの気遣いは必要であろう。
「いいですよ! シェルター内で待機していただくことになるかと思いますが」
「むしろありがたい。あの空間は、なんというか……非常に、興味をそそられる」
いかにも空間魔法の探求者、オズワルド氏らしいお言葉である。
なにはともあれ、まずはネルク王国の王都に転移!
あっという間に着いた王都ネルティーグも、夕暮れに染まっていた。
オズワルド氏が出た場所は、ルーシャン様のお屋敷の庭。
今は街のそこかしこで音楽が鳴り響いている。
そう、今宵は『舞踊祭』! どうやら、暗殺未遂で中止にはならなかった模様。王様は無事なわけだし、無用な噂を生まぬためにあえて決行したのだろう。
ここでふと、俺はちょっとした疑問を抱く。
「……あのー。ふと思ったんですが、レッドワンドの首都と比べて、『時差』があんまりなさそうな気がするんですが……」
「そうだな。このくらいの距離なら、時差はわずかだろう」
……思えばルークさん、ネルク王国と周辺国の地図はリルフィ様に見せていただいたことがあるが、この世界全体の地図はまだ見たことがない。
リルフィ様も「魔法」や「香水作りのための薬草」などに関する書物はけっこうお持ちなのだが、地理系はさほど興味がない様子だったし、元交易商人だったライゼー様も、「ネルク王国国内の詳細な地図+周辺国の地図」があれば充分というお立場だったと思われる。探せばどっかにあると思うが、俺も特に気にしてなかった。まぁ猫ですし。
しかしレッドワンドは隣国とはいえ、地図上では結構な距離感があったと思うのだが……
もちろん、緯度が遠くても経度が近ければ時差は少ないのだが、地図では東西方向にもけっこう遠かった気がするのだ。
この世界、もしや……星そのものが、想像以上にでかい?
別にいちいち調べようとかは思わぬが、トマト様が制圧すべき土地が大量にあるというのは、ひとまずは喜ぶべきことである。植えよ、増えよ、地に満ちよ。
さて、転移したここは、先程も触れた通りルーシャン・ワーズワース邸である。
とりあえず……ライゼー様はいずこかな?
護衛につけている竹猫さんに呼びかけると、まだお城におられると判明した。軍閥の会合とかかもしれぬ。家主のルーシャン様もお城であろう。
「では、オズワルド様はシェルター内で休憩されていてください。お茶菓子の管理はクラリス様とリルフィ様にお任せしています。おうちの方々へのお土産にはどれが良いか、味見しておいてください。あ、でももうちょっとでお夕飯にしますので、あまり食べすぎない程度に!」
「……………………ルーク殿は、あれだな……子守りとか得意そうだな……?」
そうでもないですけど。
むしろペットなので私のほうが面倒見ていただく立場なんですけど。
姿を消してウィンドキャットさんにまたがり、お城へ到着すると……ちょっとおもしろいものが眼下に見えた。
城の内庭。
人気のないバラ園の一隅にて、街から流れてくる音楽に合わせて、二人の若い男女がダンスをしていた。
社交ダンスほど優雅ではない。
軽快でちょっと雑な音楽にあわせ、戯れるように抱き合って、たまに振り回して、くるくると回ってみたり、転びそうになってみたり――それは「ダンス」というより「じゃれ合い」のようだったが、とても微笑ましく、楽しげだった。
もちろん、リオレット陛下とアーデリア様である。
庭に面した柱の陰では、ウィル君とうちのヨルダ様がそれを見守っていた。野次馬ではなく護衛だろう。
他にも騎士っぽい人達が、目立たぬように遠巻きに幾人か控えているようだが、中庭には他の人影はない。
お城の中でもあるし、そもそも最強の護衛役がアーデリア様御本人なわけで、まぁ充分ではあろう。
空の上からその様子を見守り、眼を細めるルークさん。
リア充爆発しろとお決まりの祝辞を述べたい限りだが、なんといってもお似合いであるし、うまくいきそうで何よりである!
リオレット様の女性不信にはそこそこ根深いものがありそうだったが、浮世離れしたアーデリア様とは相性が良かったのだろう。
コルトーナ家に良い婿養子を獲得できたウィル君も一安心、あとの問題は……弟君のロレンス様が順調に成長し、いいタイミングで王位を継いでいただければ言うことはない。
こちらについては今後、ルークさんも陰ながらサポートするつもりである。
ライゼー様がネルク王国のお貴族様である以上、この国には安定していてもらわねば困るし、今後はトマト様の市場であり産出国となる大事な国だ。
あとライゼー様も、今回の一連の騒動を経て、「軍閥の中でのロレンス様担当・連絡役」みたいな立ち位置を獲得された。
実際に王位を継いだのはリオレット様であり、傍から見たらこの立ち位置は「ハズレの貧乏くじ」なのだが――そのリオレット様が、「数年で退位して弟に王位を譲る」と決めている以上、逆に大当たりの出世コースである。
ライゼー様ご自身はあんまりそんなこと考えてなさそーだが、あの有能ぶりを把握されれば、ロレンス様やルーシャン様達のほうがほうっておくまい。
ルークさんもリーデルハイン家の飼い猫として、さらには栄誉あるトマト様栽培技術指導員として、今後はより一層の奮励努力を重ねる所存である。ただし昼寝の時間は断固として確保する。
城の庭先での、王と魔族の二人きりのダンスパーティーを眼下におさめつつ、俺は城の一隅へ潜り込んだ。
王様の執務室、その隣の控えの間に、ルーシャン様とライゼー様と……ついでにトリウ伯爵とアルドノール侯爵までもが揃っていた。
宮廷魔導師+軍閥の偉い人達の密談、という図式である。ルークさんはもちろん姿を隠している。
「…………にわかには信じ難い話ですな。あのアーデリア嬢が魔族で……その暴走を止めたのが、猫の姿をした精霊の加護だなどとは……しかも、陛下の暗殺を未然に防いだなどといわれても――」
アルドノール侯爵が威厳たっぷりな眉をぐっとひそめ、唸るように呟いた。
どうやら昼間の猫騒動について、ちょうどルーシャン様が説明を試みている最中だったらしい。
誤魔化し方の筋書きはクロード様に届けてもらったが、内容が内容だけに、この反応は仕方あるまい。
『じんぶつずかん』を見たところ――
あの上空で戦っていたのが、陛下と最近親しげなアーデリア様だと、一部の貴族は気づいてしまったらしい。遠目ではあったし髪の色も違ったはずだが、ドレスも特徴的だったし、遠眼鏡で見れば顔も確認できてしまう。
で、事情を知っていそうなルーシャン様に、トリウ伯爵達が面会を申し込んだという流れである。
「しかし、ルーシャン卿を疑いたくはないのですが……猫? いや、精霊とはいえ、猫がどうして魔族を圧倒できるのです? そもそも本当に魔族なのですか? あのアーデリアというご令嬢、私に挨拶をした時などは、実に優雅でほがらかで、人懐っこい印象の類まれな淑女でしたぞ? あのお嬢さんが魔族ならば、うちの家内など魔王以上の存在感です」
……意外と尻に敷かれてるのだろーか。アルドノール侯爵様、顔立ちは亭主関白タイプなのだが……?
トリウ伯爵も困惑顔である。
「……それに、そんな内容を公式発表するわけにもまいりませんからな。何をどうごまかすか……ええと、魔族の存在は絶対に隠すとして、上空で起きた事象は精霊同士のいざこざで……アーデリア様は優れた魔導師の資質ゆえに、精霊に憑依されて、依代となってしまい……そして街に危害が及びそうだったため、猫の精霊がルーシャン卿の願いを聞き入れ、陛下と街を守ってくれた、と――いや、民衆相手にはそれで押し通すとしても、貴族や教会は納得するかどうか……?」
上官達のこの言葉に、ライゼー様が控えめに口を挟んだ。
「それでも、納得してもらわねば困ります。調査をしたところで、人の身では調べようがないことも含まれますし――ルーシャン卿の語られた真実に辿り着かれるのも困るでしょう。リオレット陛下とアーデリア様の仲について諸外国に知られれば、我が国は魔族の属国とみなされます。実情が違うにせよ、『そう見られる』ことは避けられません」
ルーシャン様が深々と頷いた。
「少々、過激なことを言えば……説得力はさておき、『公式発表』をすることに意味があるものと考えます。王家としては、また政府としてはこう考えている――それを発表することで、一つの区切りとなれば良いのです。その内容の真偽を疑ったところで、諸侯には何もできません」
トリウ伯爵が困ったように嘆息した。
「何も? ……いえ、残念ながら、『何もできぬ』ということはありません。『疑う』ことができて、なおかつ『嘘の噂を流す』こともできてしまいます。『説得力』というのは、時に事の真偽以上に大切なものです。残念な話ではありますが」
……ふーむ。
ルークさん、ちょっと考え込んでしまう。
個人的には「そんな大層な話ではないのでは」とも思うのだが、目撃者が多い分、変な噂が流れるのはやはりマズいのか。新しい王様の即位直後、という時期的な問題もあろう。
というわけで、ちょっとだけお話に混ぜていただくことにした。
メッセンジャーキャットさん、出番です!
『あのー。ちょっといいですか?』
「なんだ? しばらく誰も近づけるなと――」
家臣の声と勘違いしたのか、アルドノール侯爵が扉のほうを振り返り、怪訝そうな顔に転じた。
もちろん扉は閉まったままである。ルークさんは姿を消したまま、窓の隙間からするりと侵入してこの場にいる。
「……今、誰か……」
『皆様の頭に直接、声をお届けしております。たった今、お話に出ていました「猫の精霊」です。ルーシャン様の加護をしております』
それっぽく、語尾に「にゃ」とかつけた方が良いのだろうか……? いやしかし、ルークさんにそんなあざとい真似はできぬ。
クラリス様とかリルフィ様がネコミミつけて「にゃ?」とか言う分にはかろうじて許されるかもしれぬが、ルークさんはダメである。
いくら「猫だから」といっても許せることと許せぬことがある。通常時の「にゃーん」は許される。語尾につける「にゃ」は許されぬ。この違い、おわかりいただけるだろうか……?
俺のこの乱入に、ライゼー様は頰を引きつらせたが、ルーシャン様は喜色を浮かべ、トリウ伯爵とアルドノール侯爵はびくりと肩を震わせた。
「猫の……猫の精霊ですと……?」
「ルーシャン卿、これは貴殿の魔法による悪戯では……!」
『もちろん違います。私のせいでルーシャン様に変な疑いが及ぶのは心苦しいので……今、姿をお見せします』
そして、部屋に現れたのは――
俺ではなく、ウィンドキャットさん(ステルスモード解除)。
この子、白くて羽があるから、なんとなく聖なる存在っぽい見た目なのである。
邪心にまみれた欲望の塊たるルークさんより、よほど説得力がある。「説得力は、時に真偽以上に大事である」と、トリウ伯爵もたった今仰っていた。
「なんと……」
「ほ、本当に……猫の、精霊が……?」
瞠目する高位貴族のお二人とは裏腹に、ライゼー様は目元を覆ってしまっている。いや、そんなに心配しなくても大丈夫ですから! これはただの助け舟ですから!
『はじめまして、アルドノール侯爵、トリウ伯爵、ライゼー子爵。私は猫の精霊……このたび、ルーシャン卿に加護をもたらした者です。ルーシャン卿は長年にわたる猫への貢献が認められ、「猫の守護者」という称号を獲得されています。今回の加護は、その功績によるものとお考えください』
ウィンドキャットさんはすまし顔で待機。よくできた子である。
『で、人間社会で私の噂がどー広がろーと、別に知ったこっちゃないのでどーでもいいんですが、リオレット様とアーデリア様の仲については応援したく思いますので、お二人にとって不都合がない形で発表してください。平たくいうと、「魔族」のことは隠蔽でお願いします。他に何か質問がありましたらどうぞ?』
アルドノール侯爵がごくりと唾を呑んだ。
「つまり、我が国は……猫の精霊に庇護されている、ということになるのか?」
『いえ、ルーシャン様だけですね。今回はリオレット様がルーシャン様の弟子という御縁もあったのと、あと王都にある猫の保護施設にも害が及びそうだったため、介入しました。国のことに関与する気はありませんし、戦争とかなら関わりません。魔族の狂乱は天災みたいなものですし、たまたま条件が揃ったのでうまくいきましたが、二度目はないと思ってください』
「……理解した。そのあたりの誤解が一番怖いのだ。精霊の加護をあてにして無茶をする貴族がいないとも限らない。精霊殿の戦いぶりは……あまりに凄まじすぎた。あの加護が王の元にあるなどと思われたら、その利用を画策する者も出るだろう」
『そういうのは良くないですねぇ。やらかしそうな人がいたら、ルーシャン様にお伝えください。こちらから警告――あるいは粛清に出向きます』
オズワルド氏を真似て、ちょっと強硬な物言いをしてみたが、やはり凄みが足りぬ。ぜんぜん足りぬ。
ルーシャン様が眼を細めた。
「これ以上、精霊様の手をわずらわせるなど恐れ多いことです。王都の民は、我々も含めて皆、精霊様の御手によって命を救われました。ここより先の些事くらいは我らでまとめねば、貴族たる者、官僚たる者の存在意義を疑われましょう」
『……わかりました。では、私は一旦、これで去りますね! 皆様、ごきげんよー』
代役のウィンドキャットさんが姿を消すと、トリウ伯爵とアルドノール侯爵が一瞬だけ言葉に詰まり、その後、深く頷いた。
この世界、精霊とか亜神とか魔族とか、そういった超常の存在と直に触れ合った経験を持つ人は少ないのだろうが――しかし、「それらが実在する」という事実は常識として扱われている。
ゆえに、そうした存在が実際に現れた時には、相応の敬意をもって対応するよう、知識層には心構えができているのだろう。
思えば、暗殺未遂直後のリオレット陛下もそんな感じであった。
その後、話し合いをまとめた上で解散となり――
トリウ伯爵とアルドノール侯爵は別の用事のために退室し、ライゼー様は、ルーシャン様の「公式発表草案」の作成を手伝うため、部屋に残った。
そしてそのタイミングで、ルークさんも改めて姿を現す。
ライゼー様が、やや疲労感のうかがえる目つきで俺を見た。
「……さっきは驚いたぞ、ルーク。クロードからの伝言で、レッドワンドに向かうと聞いていたんだが……」
「あ、もう行って帰ってきました! オズワルド氏の転移魔法に頼ったので、あっという間でした」
「……………………………………おかえり」
……脱力感がすごそうなのは気のせいだろうか?
まぁ、仮に徒歩だったら何週間もかかる危険な道のりである。こんな簡単に往復されては立つ瀬がないのだろう。
「それでですね。詳しい事情は改めてご説明しますが、リーデルハイン領で保護していただきたい人員が三人いるのです。有翼人のご兄妹と、魔導師が一人……街の近郊の空いている土地に、入植させていただきたいのですが」
「ああ、トマト様の栽培に従事させたい、という話だったな。それもクロードから聞いている。人が増えるのは歓迎だ。ルークが見定めた者なら、特に心配もあるまい。任せる。少し時間は必要になるが、山沿いの――うちの敷地の西側がほぼ空いているから、あのあたりを新たに開墾するか?」
……ライゼー様の俺への信頼感もえぐいな……!
奥方様へのお薬ご提供以降、猫力の上昇とともに、なんか信頼度のレベルが急激に上がった感じがする。
「しかし、魔導師まで確保できたのか。まさか、ルークが欲しがっている『魔道具職人』か? トマト様輸出用の容器を作らせる予定の……」
「あー、いえ。その方は、職人というより研究者っぽいです。詳しい話はまだ聞いていませんが、シャムラーグさんの妹さんの、結婚相手というお立場です」
そういえばルークさんの王都出張目的は、「缶詰の製造」であった……
缶詰製造機を作れる、または研究できる魔道具職人さんをスカウトするつもりだったのだが、何の因果か、想定外の厄介事に次々と巻き込まれてしまった。解せぬ。
しかし祭りも今夜で終わり。
明日からは「職人街」も通常営業に戻るはずで、いよいよ本番の人材探しができる!
………………できるよね? 大丈夫だよね?
やや不安に思いつつ、とりあえずライゼー様にシャムラーグさん達をご紹介しておこうと、俺はキャットシェルターの扉を出した。
「一応、移住予定者をご紹介しておきます。ついでに晩御飯もご一緒にどうですか? ルーシャン様もぜひ」
「ああ、じゃあ、ヨルダとウィルヘルム殿も呼んでくるか」
「アーデリア様と陛下もよろしいですか? ルーク様のことを口止めしないといけません。人数が人数ですし、ルーク様のお部屋では少々手狭でしょう。城の一室を空けましょうか」
それはありがたい!
というわけで、今夜はお城の一室にて晩餐とあいなった。
ライゼー様に抱っこされて移動しながら、俺は小声で問う。
「そういえば、クロード様とサーシャさんは?」
「もちろん街にいる。今夜は舞踊祭だ。しっかりエスコートしろと言い含めておいたが……」
ほう! これは後でニヨニヨできそうな名采配である!
……しかし、とうのライゼー様はため息。
「……まぁ、何もできんだろうがな。何か進展があったら祝杯だ」
「……もう少し信じて差し上げましょうよ……」
ペットとして、ここは誠心誠意、応援せざるを得ない。まぁ、応援以外にできることがないだけですけど。
クロード様、がんばって……!