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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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53・第三王子の意図


 さて、宿に帰り着き、午後の優雅なお昼寝タイムから目覚めたルークさん。

 本日のおやつは「葛餅(くずもち)」!

 旅の疲れも残っておられるだろうし、昼にはピザを食べたため、おやつは胃に優しめでヘルシーなものをチョイスさせていただいた。

 休憩もかねて、まずは皆様を「キャットシェルター」にお招きし、リルフィ様やピタちゃんと合流。


 がっつり和菓子系なので、西洋人風のクラリス様達のお口に合うかどうかは悩ましいのだが――

 そうはいっても、こちらの世界では「醤油」や「味噌」が普通に存在しているくらいなので、味の好みは割と日本人に近いのではないか? という感触も得ている。まあ、不評だったらまたコピーキャットで別のモノに切り替えればよかろう。


 キューブ状に切り分けた、ぷるぷるとした半透明の葛餅を見て――クロード様以外の皆様は、しばらく首を傾げた。

 あ、初めて『コピーキャット』を見たクロード様は、呆然としてまばたきを忘れてしまっている。


 ヨルダ様が、フォークの先で葛餅をつついた。ぷるんぷるん。


「……港町で見たことあるぞ、コレ。『くらげ』だよな?」

「違います。あ、きな粉かけちゃいますね。コレは大豆を粉末にしたものです」


 きな粉はこっちの世界でも実現可能だし、普及はしていないかもしれないが、既にどっかにありそう。


「くらげじゃないのか? となると……まさか、大なめくじの肉か?」

「そういうゲテモノではないです。(くず)という植物の根をですね、手間暇かけて粉末にしてから、それを水と砂糖……麦芽糖の仲間みたいなもので、煮詰めながら練り上げた高級スイーツです」


 と、これは関西によくある、本葛を使った葛餅の場合。

 一方、関東にも小麦粉を発酵させて蒸して作る、白くてぐにゃりとした食感の「くず餅」(久寿餅)があり、両者はよく混同されがちである。どっちも黒蜜+きな粉で食べることが多いので、よけい紛らわしい。

 そもそもの材料と製法が違うのでまったく別のスイーツであるが、ルークさんはどっちもすき。しかし高級品かつ地元には販売店がほとんどなかったので、食べた機会は数えるほどしかない。


「……煮こごり……のようなものでしょうか?」


 と、リルフィ様。


「そうですね、成分や味や舌触りは違いますが、方向性は少し近いかもしれません。一度加熱した後に冷やして固めるという意味では、工程もそこそこ近いです」


 スライム、という感想が出てこないところを見るに、どうやらこちらの世界に、モンスターとしてのスライムさんはいない模様。粘菌類はいてもおかしくないけど、まぁ食用ではあるまい。

 戸惑う皆様を前に、まずはルークさんがお手本として一口!

 濃厚な黒蜜をちょっぴりかけて、フォークで突き刺した欠片をぱくり。


 葛餅の、つるんとした食感と、優しく爽やかな甘み――

 ここに黒蜜の濃厚さときな粉の香ばしさが加わり、口の中で渾然一体となった時、浮かび上がる情景は涼やかな清流、小鳥の(さえず)り、青葉の木漏れ日、昼寝する野良猫――


 かつて婆ちゃんが言っていた。

 和菓子というのは、風情や景色、思い出も含めて味わうとより美味しい――と。

 そういう要素は他のお菓子にもありそうだが、和菓子はより詩的な裏付けが大きいとゆーか、四季の自然を感じたり、伝統や歴史に思いを馳せたり――むしろ「そういう思想性をより楽しむためのお菓子」という側面すらある。


 そんなお話とは無関係に、この葛餅はルークさんの大好物。この弾力! 歯ごたえ! ちょーどいい甘さ! ちょーおいしい。

 続いて皆様も、恐る恐るぱくり。


「……あ。おいしい……」とリルフィ様。

「ふしぎな食感……ふしぎな味……」とクラリス様。

「水を固めたもの……? でも、氷とも違う……柔らかくて、溶けなくて、なめらかで……」とサーシャさん。

「……むぅ。これは、なんといったらいいのか……脂身のような見た目ではあるが、まるで違うな――」

「作り方がさっぱりわからん。何をどうすればこうなるのか……が、美味いのはわかる」

 ライゼー様とヨルダ様も、困惑顔ながらご満足いただけている様子。

 ピタちゃんは無言の笑顔で、口いっぱいに頬張っている。詰まらせないように気をつけて!

 そしてここで注目すべきはクロード様。


「……初めて食べました」


 そう言いながら、首を傾げている。

 ふむ。つまりクロード様(前世)は、関西圏のご出身ではない可能性が高め?


「でも、くず餅って……いや、なんでもない」

 

 ……関東か! 本葛の葛餅に違和感を持つ=もう一方の、小麦粉使用のくず餅を食べ慣れていた、とも推理できる。

 ククク……このスイーツご提供が、クロード様の前世出身地推測を目的としたルークさんの罠とも知らずに……!


 ――推測してどうするのか? 有名な郷里の味とかあったら、なるべく頑張って再現して差し上げようかな、って――そんなペットなりの心遣い。


 みんなで和気あいあいと葛餅を食べていると、俺の脳裏にきゅぴーんと通信が入った。

 竹猫さんからの連絡だ!


 第二王子リオレット様の警護につけているロシアンブルーの中忍三兄弟、その中で諜報活動を得意とする竹猫さんと俺は、視覚と聴覚を共有できる。


「……ライゼー様。第二王子の護衛につけた配下の者から、たった今、報告が来ました。『にゃーん』だそうです」

「……いや、人間の言葉で頼む」


 はい。


 というわけで、コタツと隣接する窓をスクリーン代わりにし、そこに竹猫さんが見ている景色を映し出すとゆー小技に出た。

 たちまち広い窓一面に表示される……でっかいにくきう。


『えっ?』

「わぁ……!」


 戸惑いのお声は皆様、歓声はリルフィ様。

 ……リルフィ様は、肉球ならなんでも良いのですか……?(嫉妬)


「失礼しました! ちょっと映像が乱れまして――」


 松猫(まつねこ)殿、梅猫(うめねこ)殿、だから竹猫(たけねこ)殿の眼前でじゃれ合うでない!


「あの猫さん達が、今回の護衛兼監視役なのです。普通の人には見えません。えっと、ここはたぶん……リオレット様の執務室ですかね?」


 肉球が画面外に出ていき、かわって映し出されたのは調度の整ったお部屋。

 正面には、さきほどお会いしたリオレット様とアーデリア様。ウィル君は別室で待機かな?

 他には三人。

 ちょっと大物っぽい威厳ある軍人風のお貴族様と、金髪の可愛いメイドさん、あと……穏やかな顔立ちの少年が一人。


 竹猫殿を経由した映像なので、残念ながら『じんぶつずかん』は見られない。

 が、盗聴した声を聞く限りでは――


「……第二王子リオレット様と、第三王子ロレンス様の、直接会談だと……?」

「おい、ライゼー。正面にいるのはアルドノール侯爵だな?」

「ああ、まさか侯爵が仲立ちに動いたのか」


 傍観者たる我々の当惑をよそに、窓一面に映された竹猫殿の盗撮映像から、会談の様子がそのまま流れてきた。


『どういうことだ、アルドノール侯爵。なぜ、ロレンスがここに?』

『つい先程、ロレンス様から、「どうしても内々に話をしたいから、極秘に取次を」と依頼されたのです。正妃の周辺の眼を盗み、ここまでお連れする手段として、失礼ながらこちらのカートに隠させていただきました。事前にご連絡できなかったことは心苦しく思いますが、このような好機はもう二度とあるまいと――まずは、ロレンス様の話をお聞きください。リオレット様にとっても、決して悪い提案ではないはずです』


 俺とライゼー様達も、固唾(かたず)を飲んで次の言葉を待つ。

 ロレンス様はその場に膝をつき、臣下が王に対してするように、その頭を深く下げた。


『……兄上。まずは、このような調整なしの会談に至った御無礼をお許しください。今回の王位継承に絡んで、余人を交えず、緊急に、そして内々にお話しすべきことがあり、こうして参じました。母上の配下達の監視が厳しく、こうでもしないと、私の立場では兄上にお会いできなかったのです』

『それは……そうだろう。そもそも危険すぎる。もしも私に害意があったら、誰にも知られず、君はここで命を落としていてもおかしくない』


 リオレット様が険しい顔でそう告げると、ロレンス様は逆に微笑んだ。


『兄上はそういうことをしない方です。母上と違って、物の道理に重きを置いていらっしゃいます』

『…………確かに、やらないけれどね。だがそれでも、王位を目指す立場なら、こういう軽率な行動は感心できない。お互いに、決して信頼し合える関係ではないのだから』

『軽率は承知の上ですが、そもそも私に王位を狙う意志はありません。今日は、その話をするためにうかがいました』


 ……………………………………いきなりの爆弾発言!

 これには、ライゼー様とヨルダ様もぽかんとされている。

 もちろん映像先のリオレット様達も不審顔。


『いや、暗殺者まで差し向けておいて、何を馬鹿な――』


 膝をついたままで、ロレンス様ががっくりと項垂(うなだ)れた。


『……やはり母上は、そこまで暴走していましたか……たいへん申し訳ありません。母は「王」という地位に幻想を持ちすぎているのです。王とは本来、国を治め、民の平穏を守るために存在するもの。その王位を巡って内乱を招くようでは、本末転倒です。なんとしても内乱だけは防ぎたい――それが私の本音です。そのためならば、王など誰がなっても構わないとさえ思っています』


 十歳――

 これが十歳のおうじさま……?

 ルークさん(前世)が十歳の頃とか、やっとホットケーキが自分で焼けたかどーかって時期よ?


 クラリス様もそうだったが、この世界のお子様達は知能レベルがむやみに高い気がする。

 外見はふつーに人類なのだが、そもそも魔法とかがある世界だし、美形も多いし、スタイルもいいし、あるいは生命体として地球の人類を基準に考えてはいけないのかもしれぬ……

 あと一年が三百六十五日より普通に多いので、「地球上の十歳が、こっちでは八〜九歳程度」「こっちの世界の十歳は、地球上では実質十一〜二歳前後」という状況になっている感もないではない。


 この場合、十九歳のリルフィ様も実質二十一、二歳ということになりそうだが、もっと幼……若く見えるし、地球人類とはなんかいろいろ違いそう。

 でもウェルテル様に飲んでいただいている抗生物質はちゃんと効いてるんだよなぁ……


 たぶん生物的にはほぼ同じで、老化が遅めで(病気や怪我がなければ)寿命がちょっと長め、みたいな感じなのだろうか。もしかしたらテロメアとかが長いのかも。

 ――まぁ、一番有り得そうなのは「神々の加護」とか「魔力による影響」という可能性。

 現に俺も、その加護のおかげで猫なのに立って喋って好きに飲み食いしてと、快適に日々を過ごせている。


 それはさておき、ロレンス様とリオレット様の会談の続き。

 戸惑うリオレット様に、アルドノール侯爵が場をつなぐような言葉を向けた。


『リオレット様が困惑されるのも無理はありません。私もつい先程、ロレンス様からこの話を聞かされ、たいへん驚きました。しかし……しかし、これはロレンス様の御英断です。隣のレッドワンド将国などは、既にこちらでの内乱勃発(ぼっぱつ)を見越して、戦争の準備を始めております。また先々代の頃から冷遇されてきたホリィズ伯爵家や、正妃のご実家たるレナード公爵家などは、むしろ内乱を起こしてでも権力を得たいというのが本音でしょう。それが叶うなら、国境沿いの辺境くらいは敵にとられてもいいとさえ……いや、これは口が過ぎました』


 膝をついていたロレンス様が、その場で立ち上がった。


『ですが、アルドノール侯爵の指摘は事実です。担ぐ神輿(みこし)として、私の軽さはちょうどいいのでしょう。母上は保身のため、私に王位を継がせたいようですが……それで兄上やルーシャン卿を敵に回せば、国家臣民の平穏を乱すばかりです。国家とは王侯貴族のおもちゃではなく、臣民の生活を支える柱です。すべての貴族にその自覚を促すのは、残念ながら無理でしょうが……せめて王族には、その自覚が必要であろうと思います』


 まっすぐな。

 あまりにまっすぐなその眼差しは、理想を抱えた青年のようでもあり、あるいは達観した賢者のようでもあり……いずれにしても、「そこらによくいる幼い王族」とは一蹴できない、凄みすら感じさせた。

 竹猫さんを通じて盗み見ている我々でさえそう感じるのだから、直接相対しているリオレット様はさぞかし驚かれているだろう。


『兄上。数日以内に開かれるはずの諸侯の合議にて、私は兄上の王位継承を支持し、その場で臣籍にくだるつもりです。しかし、私の言葉でも母は止められません。むしろ真意を知られれば、私は軟禁されて動きを完全に封じられます。合議までは、私にものらりくらりとごまかすことしかできません。そしてその間も、おそらく母は躍起(やっき)になって兄上の暗殺を狙うでしょう。どうかくれぐれもご用心ください』


 縁が薄い弟からの、思いがけない提言に――リオレット様は、まだ唖然とされていた。

 しばらくして、その喉からかすれそうな声が出る。


『――ロレンス。二つ問いたい。内乱を防ぐという目的なら、正妃の狙い通り、私を殺して自分が王位を継ごうとは思わないのか? 私と君が生きているからこそ、内乱の危機が起きている。私が死ねば後は思うがままだろう』

『兄上を殺せば、母上とその派閥の専横(せんおう)が始まります。傀儡(かいらい)たる今の私にそれを止める才覚はなく、また母上の性格からして、ルーシャン卿を始めとする兄上の派閥の方々を冷遇するのは間違いありません。そうなれば、やはり国が乱れます。お恥ずかしい話ですが、伯父のオプトス・レナード公爵も……身内には優しいのですが、決して公正な方ではありませんので、歯止め役が見当たりません。一方で、失礼ながら、兄上は政治的に強いお立場ではありませんので――いずれの派閥に対しても配慮せざるを得ず、結果、幼い私が王位を継ぐよりも、国としては安定しやすいと判断しました』


『……合理的だね。二つ目の問いだ。王位の継承後、私は、君と正妃をどう扱うべきだろうか』


 ロレンス様のお顔が、わずかに曇った。


『……王族へ暗殺者を差し向けるなど、未遂であっても大罪です。許されるべきとは、決して思いませんが……それでももし許していただけるならば、アルドノール侯爵の領地にて数年の謹慎を経た後、政治が落ち着いた頃に、僻地に小さな領をいただければ幸甚(こうじん)の至りです。蟄居(ちっきょ)先が実家のレナード公爵家では、母はまた悪巧みをしますので』

『それは、アルドノール侯爵も承知のことか?』

『はい。むしろつい先程、私からロレンス殿下にそう申し上げました。今回の申し出をもしもリオレット様に受け入れていただけるようなら、その御身(おんみ)をこちらでお預かりしたいと――』


 リオレット様が頷いた。


『わかった。ロレンス、話ができて良かった。今回のことは、アルドノール侯爵が証人になってくれ。硬骨の士である貴方なら、私とロレンスの双方が信頼できる。ラライナ様と私の関係修復は、おそらく永遠に無理だろうが……ロレンスと私の関係までもが、それに引きずられる必要はないと今気づいた。ついでにもう一つ、教えてくれないか。君は誰を師として育った?』

『私の師は、書物の山と――昨年亡くなった、司書のカルディス殿です。直接、講義などを受けたわけではありませんが、書庫で暇な時に、いろいろなお話を聞かせていただいてました。こちらのメイドも、本来は私の護衛の騎士なのですが――カルディス氏の孫で、マリーシアといいます』


 紹介された金髪の真面目そうなメイドさんが、無言で楚々とお辞儀をした。この子も武闘派メイドか……!


『……なるほど、平民の師か。王侯貴族だけに囲まれていたら、その感覚は育たない。私も君も、良い師に恵まれたね』


 リオレット様のお師匠とは、宮廷魔導師ルーシャン様であろう。あのおじーちゃんのお弟子の割には、リオレット様の猫力は46とあんまり高くないのだが、これはまぁ「ふつう」の範囲である。


 ここで盗聴を切り上げた我々は、コタツを囲み、ひとまずお茶をすすった。


「………………驚いたな」と、ライゼー様。

「……あれで十歳か……」と、ヨルダ様。


 あ、やっぱり十歳であの賢さはこの世界でも異質なのか……ちょっとほっとした!

 当家の神童(仮)、クロード様も安堵の笑みを見せる。


「でも、これで何事もなく話がまとまりそうじゃないですか? 少なくとも内乱なんて馬鹿げた事態は避けられそうです」

「ふむ……正妃様が黙ってこれを受け入れるとは思えんが、一応の道筋はついたか。あとは、今のロレンス様の言動に妙な策謀が絡んでいないことを祈ろう」

「つーか、リオレット様はどうする気だろうな? ロレンス様とは和解できそうだが、正妃は……暗殺未遂が事実なら、普通は死罪だろう」

「いや、死罪にはしにくい。明らかな証拠もなしにそれをやると、正妃の閥が『陰謀だ』と騒いで、リオレット様を攻撃する材料にしてしまう。あえて断行するという手もあるにはあるが、遺恨が残りすぎるから、その後の統治に影響が及ぶだろう。政治の中枢から遠ざけて生かしておく――というのはロレンス様のご希望とも合致するし、リオレット様にとっては現実的な落とし所だ。『私怨による復讐などをしない、温厚で公正な王』というイメージ作りもできる」


 ライゼー様達が政治的なお話をされている間に、俺は『じんぶつずかん』のリオレット様近況をチェック。


 ……ふむ。リオレット様は、どうやらロレンス様の言を受け入れたっぽい。さすがに「全面的な信頼」というわけではないようだが、流れが守られる限りは助命して、ゆくゆくは味方に――という方針か。

 しかし正妃は暗殺を諦めないだろーし、リオレット様の危険は当面続く。

 ライゼー様が仰った通り、今後の見通しはついたが、それも「リオレット様の暗殺が未遂に終われば」という話だ。

 王位継承、及び正妃の自由を封じ、暗殺者の撤退を確認するまでは、警戒を続ける必要がある。


(……まぁ……戦力としては魔族のアーデリア様がついてるし、察知能力では中忍三兄弟の皆様も頼りになるはずだし、並の暗殺者じゃ返り討ちだろーけど……)


 むしろ、何も知らずにこんな依頼を受けてしまった暗殺者さんサイドに同情してしまう……

 今からでも教えてあげたら手ぇ引いてくれるかもだけど、魔族が傍にいると知られると、政治的に面倒な事態になりそうだし――逆に魔族狙いのヤベー奴とか来られても困るし、やっぱり伏せておくべきなのだろう。


 ルークさん、ここでちょっと思案。

 ……暗殺者。暗殺者かぁ……

 探れるようなら、ちょっとだけでも探っておいたほうがいいだろうか?

 幸い俺は猫であるからして、隠密行動には適している。

 万が一、姿を見られても「なんだ、猫か」で済むし、猫魔法のサーチキャットその他を駆使すれば、それなりの調査活動も可能であろう。その過程で、新しい便利な猫魔法も思いつけるかもしれない。


 あと……「暗殺者」とゆー人達に対して、ちょっとした好奇心もある。

 いわゆるゲームに出てくるアサシン的なプロフェッショナル集団なのか、それともやさぐれた無法者なのか、あるいは何か悲しい宿命とかを背負って、望まぬ稼業に身を投じている気の毒な人達なのか――

 相手がただの快楽殺人者やらクズの類であれば、どーなろーとあまり知ったこっちゃないのだが、なんか、こう――気になってしまうのだ。好奇心は猫をも殺すとゆーくらいだから、これは猫の宿業であろうか。


 手がかりとなるのは、正妃の「じんぶつずかん」に記載されていた「正弦教団(せいげんきょうだん)」なる単語。

 ライゼー様達が「キャットシェルター」を出てお仕事に戻った後で、俺はこの言葉について、リルフィ様に聞いてみることにした。



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― 新着の感想 ―
>『にゃーん』だそうです」 「……いや、人間の言葉で頼む」 にゃーんで通じぬとは人間とは不便な生き物よ|ω・)
[良い点] 「にゃーん」「なんだ、猫か」という様式美は隠密の基本(言い過ぎ)
[一言] 葛餅とかがすきならば、 羊羹で有名な虎屋がやってる喫茶店 虎屋菓寮 夏場限定の葛切りがお勧めです 出てきたときは透明の密のなかで見分けがつかないほど透明で、食べてる最中に少しづつ白濁して硬く…
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