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51・猫の用心棒


 …………気づかれなかった。

 気づかれなかった!!


 アーデリア様は結局、その場から立ち去るまで、俺の正体に気づかなかった。

 ルークさん猫擬態モード、その精度は明らかに以前より向上している! 今なら俺、アイシャさんに「犬?」とか言われても猫のふりを続けられる気がする!(※トラウマ)


 リオレット様とアーデリア様、ウィル君は王城に用があったようで、仲良く連れ立って向かわれた。

 正妃いるのに大丈夫か……? とは思ったが、父王が亡くなった今、城にすら戻らないとゆーのは後継者的に有り得ないムーブであり、それこそ正妃の閥を利することになる。

 さすがに城での宿泊は避けるようだが、堂々と城に戻り、臣下と会う――そんなポーズも必要であるらしい。


 正妃も白昼堂々の暗殺はしにくいだろうし……なんといっても、あの『護衛者』はヤバすぎる。俺が正妃の派閥でコレを知ってたら、即座に逃げ出している。

 もちろんこの国の人達は誰も――リオレット様本人とか、そのごく身近な関係者を除いて、誰も『アーデリア様』の正体には気づいていないはずだ。ルーシャン様はどうなんだろ……? 昨日の時点では何も言ってなかったし、まだ知らないかも。

 じんぶつずかんを覗けば確認できるだろうが、それは後回し。まずは『アーデリア』様の情報整理が先だ!


 ようやく馬車に乗り込んだところで、ライゼー様が襟元を緩め、大きく息を吐いた。


「……まさかこの場で、リオレット様にまで遭遇するとは……もちろん城におられるのが当然のお立場ではあるが、どうにも驚いた」


 …………リオレット様より、同行者のほうがヤバかったんですが……

 俺がそれを口にするべきかどうか悩んでいると、それまで黙りこくっていたヨルダ様が、やけに厳しい眼でぽつり。


「……ライゼー。リオレット様にも驚いたが……同行していたあの赤い髪の御令嬢。あれはやばい。弟君のほうもやばそうだったが、おそらくどっちも人間じゃないぞ――」


 ヨルダ様はお気づきになってた……!

 彼は初対面の時、俺にも何かを感じていた様子だったし、これぞ達人の貫禄である。

 それでいて対峙中は顔にも態度にも出さないあたり、適性に「演技」とかあってもおかしくないのだが……あ、でも「生存術」というのを持っていらした。生き残るスキル、という意味では、こっちのほうがより便利な感じもする。


 ヨルダ様の見解を受けて、皆様の眼が俺に集まった。

 ……うん。魔力鑑定でわかる程度のことはお伝えせねばなるまい……


「……ヨルダ様のおっしゃる通りです。あの子は魔族――それも、『純血の魔族』と呼ばれる、最高位の魔族の一人だと思われます……何かの御縁で、リオレット様とご交誼を結ばれたようで……敵意はありませんでした。それは間違いないですが……今後も絶対に、怒らせちゃダメな存在です」


 ライゼー様が掌で目元を覆った。

 これはさすがに一子爵様の手には余る事態……!


「ど、どういうことだ……? なんで魔族が、こんなところに……」

「あいつらは転移魔法を使えるから神出鬼没だ。その上で、あえて理由を推測するなら……祭の喧騒にでも興味を持ったかな」


 わー。ヨルダ様正解ー。

 ……昨夜、ウィル君から聞いた限りでは、まさに祭見物のための滞在らしい。でもって『じんぶつずかん』情報によると、昨夜、暗殺者に襲われかけたせいで、そこに『身辺警護』という目的も追加された模様。暗殺者さんは藪をつついて蛇を出した。


「……この件……トリウ伯爵にもお伝えするべきだと思うか?」

「……個人的には、知らぬ存ぜぬで放置したほうがいいと思うぞ。知ったところで誰にも対処できんし、『どうして知ったのか』と疑念をもたれて、ルーク殿の存在が露見してもつまらん。何より、知れば対応の必要に迫られ、その対応の仕方によっては……あの御令嬢の怒りを買いそうだ」

「……そうですね。宮廷魔導師のルーシャン様ならうまく対応できるかもですが、他の方達にはちょっと……まかり間違って世間に広まったら、リオレット様にも迷惑がかかるはずです」


 魔族の支援を受ける王族とか、そりゃもう普通に炎上案件であろう。

 黙っていることにも危険はあるが、今回ばかりは話してしまうことへの危険が大きすぎる。無知なお馬鹿さんが過剰反応して「魔族を追い出せ!」とか「退治しよう!」なんて動きを見せたら、それこそ国が滅んでもおかしくない。


「しかし……しかし、そうなると、リオレット様が王位を継いでも大丈夫なのか? この国が魔族の属国になってしまう懸念も……」


 あ。ライゼー様は「あの魔族は祭見物を楽しんでいるだけ」なんて知らないから、そんな心配をしてしまうのも当然だ。

 しかし俺はウィル君から大まかな事情を聞いているから、祭最終日の舞踏祭まで終われば、あの魔族さんは帰国すると知っている。

 その後も個人的な交友関係くらいは続くかもしれないが、属国扱いまでは……たぶん、大丈夫だと思いたいけど……しかし確かに、将来のことまではわからぬ。


 ここでクラリス様が、ほんの少し首を傾げた。


「……みんな慌てすぎ。魔族って、『亜神』よりも上位の存在だっけ……? 逆だったと思うけど」


 そう呟いて、俺の後頭部に唇を押し付け、頬を擦り寄せながら毛並みを堪能された。


 ライゼー様とヨルダ様は沈黙。

 え。何その無言。猫騙しは使ってないよ? 「そういや忘れてた」的な気づき? それとも「なんだ、魔族ってこの猫以下か」みたいな間違った安堵? もしくは「……ルーク、いざとなったら任せてもいい?」的な淡い期待?

 三番目だけはご勘弁いただきたい。ルークさん農業は好きだけど戦闘はちょっと……! いやまぁ農業も害虫・疫病・天候・市場価格との戦いではあるが!


 そしてクラリス様は、淡々と。


「子爵家に亜神がいるんだし、王家に魔族がいても別にいいと思う。さっきの女の人……悪い人には見えなかったから」


 …………………………我が主は、とても賢い。


 俺でさえ、「高位の魔族」というレッテルに眼が曇り、相手の本質を見ていなかった。ライゼー様やヨルダ様も同様だ。

 そんな猫と大人達に対し、クラリス様は「魔族の云々」に視点を囚われず、「相手の本質」を見極めるべきと、そう仰ったのである。


 ルークさん、これには心底から感心してしまった。

 負うた子に教えられて浅瀬を渡る、などという言い方はクラリス様に対して失礼であろう。飼い主に導かれて正道を知る、といったところか。こんな尊い飼い主に拾っていただいたことを、ペットとして改めて誇りに思う!


 それまで黙って聞いていたクロード様も、感心したように大きく頷いた。


「……クラリスは、ちょっと見ない間にすっかり大人になったね。ルークさんのおかげかな」


 いえ、クラリス様は初対面の時から賢かったですけど。


「そうだな……確かに、我が娘ながら利発さに磨きがかかったと思う。ルークの影響だろう」


 いえ、普通に前からですよ?


「ペットは飼い主を成長させるというからなぁ……それに以前に比べて、よく笑われるようになった」


 マジで? クラリス様ってそもそもあんまりはっきりとは笑わないよね? 高貴で穏やかな微笑はちょくちょくあるけど。


 見解の相違に俺が戸惑っていると、隣のサーシャさんがほんのわずかに「男どもはわかってねぇなぁ」的な嘆息を漏らされた。これに気づいたのはルークさんだけ。


 ………………クラリス様。俺と出会うまでは、おうちでも猫をかぶっていらしたな!


 側仕えのサーシャさんは気づいていたのだろう。

 俺が来たことで環境が変わり、その変化に適応した結果が、皆様の今の感想につながったものと思われる。クラリス様は状況の変化に即応できる恐るべき九歳児。改めて疑問なんですけどほんとに九歳? やっぱりサバ読んでますよね我が主?


 馬車に揺られて宿へ戻りながら、俺は再び考え込んだ。

 ウィル君の心配も虚しく、魔族のお姉様とうっかり遭遇してしまったが――しかし先方に俺の正体を気づかれなかったのは幸運であった。

 アイシャさんへの「なんでやねん!」、ラン様への「オス!?」発言を経て、ルークさんにもようやく自制心とゆーものが芽生えた模様。


 まぁ、今回はね……びっくりはしたけど、ウィル君という前フリもあったし――今度会ったら、ウィル君にはちゃんとお礼するとしよう。


「しかし、いよいよ……王位継承の問題が難しくなってきたな。順当に進めばリオレット様だが、正妃の様子を見る限り、あちらは仕掛ける気満々だ。ルーク、リオレット様について……何か気づいたことはあるか? 危険な徴候というか、あるいは能力についてでもいい。とにかく現状では情報が少なすぎる」

「そうですね……ちょっとお待ち下さい」


 再度、じんぶつずかん。

 アーデリア様の前にもチラ見はしていたのだが、あまりインパクトはなかった。


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■ リオレット・ネルク・トラッド(22) 人間・オス


体力D 武力D

知力B 魔力C

統率B 精神B

猫力46


■適性■

風属性C 暗黒C


-------------------------------------------------


「…………優秀、ですね。王様としては申し分ないと思います」


 ……乱暴に言うと、「武力が弱体化して、代わりに魔力を持ったライゼー様」みたいなステータスである。

 知力・統率・精神が三つともB評価なのは、王様として充分に優秀だろう。暗黒Cはさほど気にしなくていい。「暗黒魔法=悪」みたいな要素は皆無である。


 リルフィ様の講義によれば、「地水火風の属性魔法」は、精霊や自然の力に自身の魔力を結合させて発動させるものであり、「自然界」の状況とバランスによって威力が左右されるらしい。

 どーいうことかというと、「砂漠で水魔法は威力が激減」「氷原での火魔法も威力が激減」、「火山で火魔法は威力が増大」「海上での水魔法は驚異のパフォーマンス」みたいなお話。

 風魔法はあまり地形の影響を受けないが、代わりに「気候」の影響を受けやすい。地魔法は「大地」さえあればそこそこ使えるのだが、海上などではほぼ何もできぬ、というピーキーなバランス。床が邪魔になる屋内も苦手。


 そして残る「神聖魔法」と「暗黒魔法」は、方向性こそ違うものの、「精霊や自然の力を借りずに、自分自身の魔力だけで行使する魔法」である。


 聖教会は「神のご加護がー!」みたいなことを言いがちだが、ぶっちゃけ神様はいちいち人間ごときに力なんか貸してくれない。少なくともあの超越猫どもにそういう甲斐性はない。

 他の神様は知らんけど、要するに聖教会の神聖魔法とゆーのは「信仰心をトリガーにして自分の魔力を絞り出す」という仕組みであり、リルフィ様いわく、「信仰心がなくても、神聖魔法は使えますし……逆に、暗黒魔法にしか適性のない神官も普通にいます……」とのことであった。


 この二種の違いだが、乱暴に言うと「使った時に光るのが神聖魔法」「光らないのが暗黒魔法」という、冗談みたいな見分け方をリルフィ様からご教示いただいた。


『四属性の魔法の場合、発光の有無は使う魔法によって変わるため、判断基準になりませんが……自身の魔力だけに依存する神聖系と暗黒系は、光るか否かで、概ね判別がつきます……たとえば身体強化や治癒・解毒などの神聖魔法は、使用時にどうしても淡い光を発します……一方、暗黒魔法は黒い霧というか、煙のようなものを発する例はありますが……白く光ることはありません……これには、先天的な何らかの因子が影響していると思われ……両方を扱える人間は、基本的にはいないはずです……ただし上位の魔族、あるいは神獣の中には、両方が使える者もいるらしいと、書物で読んだことはありますが……』


 つまり亜神のルークさんは、両方に適性がある珍しい実例ということになりそう。適性があるだけで具体的にはまだ何にもできんけど。


 そんなわけで、リオレット様の「暗黒C」という適性は、別に悪いものではない。そーいやルーシャン様やアイシャさんも暗黒適性を持っている。

 これは、「神聖適性を持っている人は、その才がより優遇される教会系の進路に行ってしまう」ことが多いため、自然と魔導師系には暗黒適性の人材が集まりやすい、という流れらしい。例外ももちろんある。神聖適性があるのに軍閥のお貴族様なリルフィ様とか。


「リオレット様は、頭が良くて精神力も強めで、たぶん兵の指揮などにも才能をお持ちかと推測します。それに加えて、風属性と暗黒属性の適性もお持ちですが……魔力については、そんなに強くはなさそうです。ルーシャン様やアイシャさんには及びません」

「その二人と比べるのはさすがに酷だ。国内最高峰の二人だぞ」


 ヨルダ様のツッコミに、ライゼー様も深く頷いた。


「リオレット様の魔力の才については、研究者気質に寄っていて、実戦向きではないと噂話にうかがっていた。もう一つ聞きたいが……性格についてはどう見た? 正妃への憎悪は強かろうが、私の印象では――思っていたよりもずっと、穏やかな御方に見えた」

「そうですね。思慮深い方だと思います。私も印象の話になってしまいますが……正妃様より、精神的にも健全な方なのは間違いなさそうです」

「……あの方と比べたら、誰でも健全だろう。強さ以外の要素で寒気がしたのは久々だ」


 またしてもヨルダ様の的確なツッコミ!

 ……うん。正妃様の怖さはね……見た目が優しそうな分、闇が深いよね……


「あ。そういえばライゼー様。クロード様と一緒にこっそり聞いていたんですが、正妃様から第三王子ロレンスについて聞かれた時、ずいぶんと褒めていらしたようで……第三王子って、どんな方なんですか?」


 盗聴の件については、「安全のため」ということで、事前にライゼー様からきちんと許可をいただいている。

 ライゼー様は腕を組み、眉をひそめてしまった。


「お会いしたのは二度。いずれもほぼ挨拶だけだ。例の『ギブルスネーク』退治の件で、民を守ったことへの礼を言われたのが最初だな。当時のロレンス殿下は……まだ七歳だった。それから去年も、ごく短い時間だったが立食の席で挨拶をさせていただいた。人柄までは存じ上げないし、印象に残るほど深い話もしていないが……しかし、正妃に向けて言ったことは嘘ではなく、私の実感だ。利発にして高貴――王たる資質は、間違いなくあると感じた」


 ヨルダ様が精悍な眼をぱちくり。


「ほう? 意外だな。武人っぽさのかけらもないロレンス様を、お前がそんなに高く評価しているとは知らなかった」

「茶化すな。正妃の操り人形と揶揄する向きもあるし、実際その通りではあるが……そもそも十歳そこそこの、しかも第三王子などという微妙な立場の方だ。何か目立つ真似ができるはずもないし、あの危険な母親相手に、むしろ上手く立ち回っているとさえ思う。その上で懸念点としては、王位継承の順位が三位であることと、幼すぎる年齢と……何より、『母親が正妃ラライナ様』であることが大問題だ。あの困った母親さえいなければ……いや、その場合は次の王もリオレット様で確定だろうから、無意味な仮定ではあるんだが、しかし埋もれさせるには惜しい人材と感じている」


 ライゼー様にここまで言わせるとは……!

 え!? 第三王子ロレンス様ってそんな優秀なの? あの正妃のお子さんって時点で、油断できない系の腹黒キャラではないかと推測していたのだが……

 クロード様が首を傾げた。


「父上、その口ぶりだと……何か、第三王子を見直すきっかけがあったんでしょう? きちんと話してください」

「きっかけというか……私自身が話をしたのは、本当に挨拶程度だ。だが、商人達を通じて信憑性の高い複数の噂話を聞いている。正妃の怒りを買った平民の侍女を助命して、問題にならぬよう工作した上で王宮から逃したとか、御用商人に特権剥奪の危険を知らせ、対応を助言したとか、あるいはある官僚の不正を穏便な諫言によって正したとか……正妃の横暴を緩和するブレーキとして、結構な役割を果たされているらしい。貴族社会に出回るような話ではないが、事情を詳しく知る商人達からの支持はなかなかのものだ」


 これは意外。

 もしや第三王子ロレンス様は、母親を反面教師にしている感じなのだろうか……?

 クロード様が肩を落とし、やけに情けない顔へ転じた。

 

「二番目も三番目もちゃんと有能だっていうなら、臣下としてはどっちでもいいのに……なんて、言っちゃいけないんでしょうね。でも本当に、争っても周囲を混乱させるだけなんだから、適当なところで折り合ってほしいです……」

「同感だが、当事者にとっては命がけの話だ。負けたほうは蟄居謹慎くらいで済めば御の字、場合によっては暗殺沙汰だろう。ただ……リオレット様のほうは、そういう手段には出ないかもしれん。さっき話した印象では、あの方はだいぶ冷静かつ常識的な人物に見えた」


 ライゼー様も思案にお疲れのご様子。次いで、ヨルダ様が俺をちらりと見た。


「参考までに聞きたいが、ルーク殿ならどちらを推す?」

「ペットの猫に向ける話題ではないと思います……が、強いて言えばリオレット様でしょうか……王子様の人柄や能力がどうこうではなくて、『傍にいる魔族を怒らせたくない』という酷い理由です。あと、王位継承権の順番って、そんな簡単に無視して良いものではないとも思うので」

「……正論だな。そもそも皇太子に継がせた後で、第二王子を飛ばして第三王子に王位を委譲というのが無理筋だ。皇太子の次は第二王子。それが王の遺言ならば尚更だろう」

「……結局アレか……この後に考えられる最悪の展開は、正妃がリオレット様を暗殺、それに怒った魔族が暴走、結果的にネルク王国滅亡って流れか……なぁ、おい。もうめんどくさい子爵位とか返上して、一族で他国に引っ越さないか? お前の才覚なら商人として出直してもやっていけるだろ」


 半笑いのヨルダ様。口調で一〇〇%冗談とわかるが、王国滅亡の流れがやけに有り得そうな気がしてしまうのはフラグ効果であろうか……


「……あの。もし差し支えなければ、リオレット様の近辺を、私の猫魔法でちょっとだけ警護しておきましょうか? 何かヤバい事態が起きてからでは遅いですし、バレる心配はたぶんないので」


 でしゃばった提案かとも思ったが、ライゼー様は申し訳無さそうに俺を見つめた。


「それは……可能なのか? ルークの負担にはならないか?」

「私が常に見張るわけではなく、何か異常が起きたら察知する、みたいな魔法ですので、負担は気にしなくていいです。ただ万全とは言えないので、あくまで気休め程度ですが――」

「…………すまん。頼めるか?」

「承りました!」


 ……これは王位継承問題への干渉ではない。あくまで『純血の魔族』というイレギュラーへの対応である。リオレット様の警護期間は魔族が帰国するまで、つまり祭が終わるまでで良いだろう。なにせ今、王都を吹き飛ばされでもしたら、クラリス様達の身にまで危険が及ぶ。


(松竹梅、中忍三兄弟の皆様……お願いします!)

(なう……)(にゃ……)(ごろごろ……)


 忍装束のロシアンブルー三匹が、俺の前で一瞬だけ立膝をついて畏まり、すぐさま馬車の窓から城に向かって疾風のよーに飛び出した。

 彼らはもちろん、他の人達には不可視の存在である。何かあったら竹猫殿が知らせてくれるであろう。何も起きなければそれでヨシ!


 なお松猫殿の遁術と竹猫殿の盗聴スキルは実証済みだが、梅猫殿の戦闘力についてはまだ未知数。よもや体力D・武力Dの俺より弱いとゆーことはなかろうが、過度の期待はできない。まぁ所詮は猫ですし。


 中忍さん達が、お城のリオレット様を見守る態勢に入ったのを確認してから――俺はクラリス様のお膝で大欠伸を漏らし、気分転換のお昼寝を開始したのだった。



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― 新着の感想 ―
これ絶対、梅猫ちゃんが純血魔族並みに強いフラグでしょ
[良い点] 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た [一言] 予想外のトラブルによる巻き込まれ展開なのに、これほど話に整合性があり(今までの伏線含めて)、納得できる流れで主人公一行が事件の渦中…
[良い点] 見解の相違に俺が戸惑っていると、隣のサーシャさんがほんのわずかに「男どもはわかってねぇなぁ」的な嘆息を漏らされた。 あはははは。
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