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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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34・兎を見て猫を呼ぶ


 トリウ伯爵邸で一夜を明かし――さて、王都へ再出発!

 ……昨夜はライゼー様をデザートに誘おうと思って寝室にお邪魔したら、なんとトリウ伯爵までいらしてびっくりした。

 そのまま猫のふりをして事なきを得たが、後でライゼー様には少し笑われてしまった。怒られなかったのは幸いである。


 さて、中継地を後にした俺達は、王都に続く街道をのんびり進んでいた。

 馬車をひくお馬さん的には事故の危険がない適正速度なのだが、傍目(はため)にはとてものんびりである。

 道も舗装されているわけではないので、割とよく揺れる。町の中は石畳(いしだたみ)で整備されていたが、さすがに町の外の街道はそうもいかない。もっと王都に近づくと、どこかのタイミングで石畳の道になっていくものと思われる。


 がたん。ごとん。

 たゆん。たゆん。

 がたん。ごとん。

 たゆん。たゆん。


 …………………………………………落ち着かねえーーーーー…………

 クラリス様は車窓から見える外の景色に興味津々。

 一方、ルークさんを抱っこしたリルフィ様はとてもご満悦であるが、ルークさんは内心どっきどきである。


「リル姉様、大きな森が見えてきたよ」

「トラムケルナの大森林ですね……この旅で一番の……難所です」


 道は平坦っぽいけど、なかなか深そうな森である。左右の端がまったく見えない。

 正面に座られたライゼー様が、やや憂鬱(ゆううつ)そうに頷いた。


「ルークは初めてだろうから、少し詳しく話しておこう。トラムケルナの大森林は……厄介な場所でな。ここは端のほうだから通り抜けやすいが、森そのものは複数の貴族の領地にまたがるほど広大で、中心部は立入禁止だ。ネルク王国の国土の内側ではあるが、同盟関係にあるエルフ達の自治領となっている」


 エルフ!!

 いるだろーとは薄々思っていたけど、エルフ!! ひゃっほう!

 思わず眼をキラキラさせたルークさんであるが、語り部たるライゼー様は浮かぬ顔――


「この森に住むエルフ達は、優秀な魔獣使いでもある。そして森の中では、それらの魔獣を放し飼い……というか、群れごと好きにさせている。人間が犬を飼うような感覚とは異なり、距離のある共存とでもいうのかな……日頃は不干渉で、有事の際には協力するという間柄だ」


 ほう? エルフさんに魔獣使いのイメージはあんまりないのだが、まぁ、前世における各種創作物のエルフさんとは似て非なる存在なのであろう。


「彼らは自然の摂理を重んじるから、たとえばこちらが魔獣に襲われて、それを返り討ちにする分には問題ない。が、大規模な魔獣討伐となると互いの戦争沙汰になってしまうため、国からも許可されていないんだ。したがってこれから通る道は、“魔獣に襲われる危険”と、常に隣合わせとなっている。ヨルダ達もいるから、まぁ問題ないとは思うが……一応、警戒はしておいてくれ」


 …………………………ふーーーーーーーん。


 ルークさんは猫目で思案した。〈●〉〈●〉 こーゆー目である。


 ペットとして、飼い主のクラリス様達に危険が及ぶ可能性を看過するわけにはいかない。

 後ろを進む別の馬車にはアイシャさんが乗っており、何か魔法を使うと気づかれてしまう懸念はあるのだが、まぁ正体もバレているし今更であろう。


 俺は馬車の窓を少し開けて、外を覗くフリをしながら、小声で呟いた。


(猫魔法、メッセンジャーキャット……)

(……にゃー……)


 魔力でできた隠密姿の猫さん達が、ごく控えめに一声鳴き、道を逸れて森のほうへと散っていく。実に訓練された無駄のない動きである。

 彼らは獣にしか見えない、俺からのメッセージを携えた忍者の猫さん達だ。背中にはねこじゃらし型の忍刀を背負い、猫耳頭巾で頭を隠し、肉球の家紋が入った忍装束を着ている。でざいんど・ばい・ルークさん。

 サーチキャットのバージョン違いのよーなものだが、隠密性を重視したため、数はそんなに多くない。

 与えた命令は“捜索”ではなく“伝達”である。


『この馬車の列(後続の隊商含む)は、獣の王たる亜神ルークの庇護下にある。手を出しちゃダメ』


 そんな感じのメッセージ。

 これで一行は安泰であろう。俺ものんびり気楽にお昼寝ができるというものである。


 ――そんな魔法の使用から、およそ三十分後の森の中。

 馬車と並走する騎馬から、護衛役のヨルダ様が妙に緊張した声をお寄越しになった。


「……ライゼー、ちょっといいか? 道の様子がおかしい。左右の森に、鹿やら猪やら狼やら、やたらと獣が多いんだが……道には出てこずに、皆、木々の間にじっと固まってこちらを見送っている。中には平伏している奴までいるんだが……」


 ライゼー様がじっとりとした目で俺を見た。

 ……猟犬の皆様の反応を思い出したのであろう。

 でもルークさん知らない。“襲っちゃダメだよ”と警告しただけで、別にお見送りなんて要求してない……!


「……ルーク?」

「……………………ご挨拶だと思います」


 それ以外、どう言えっちゅーねん!


 ライゼー様が苦笑して、外のヨルダ様に声を返した。


「ヨルダ。それは気にしなくていい。おそらくルークに挨拶をしているだけだ」

「……ルーク殿絡みか。わかった。何もしない」


 “獣の王”のおかげで無用の争いを避けられて何よりである。が、やっぱりこの能力はちょっと重い……!

 内心で頭を抱えていると、不意に馬車が止まった。

 次いで御者さんの慌てた声が響く。


「ヨ、ヨルダ様! 前方に……前方に魔獣が現れました! 道の脇に、その、巨大な……!」


 俺もクラリス様と一緒に、馬車の窓から外を覗く。

 はるか前方にいたのは……一匹のウサギ。


「…………………………かわいい」


 ……クラリス様がぽつりと呟いた。同感です。

 が、サイズが尋常でない。

 熊よりでかい。

 馬車よりでかい。

 ぶっちゃけ象サイズ。

 あと角生えてる。やたら鋭い突撃槍みたいな一本角。

 それ以外はもっふもふでまんまるで、目つきもくりくりでとても可愛らしいうさぎさんなのだが、しかし圧倒的なサイズ感……!


 ライゼー様が目を剥いた。


「ト、トラムケルナのクラウンラビットか……!? まさか……最奥にいるという聖獣だぞ!? なぜこんなところに……!」


 聖獣……?

 御者さんはサイズに驚いて、つい「魔獣」と言ったようだが、確かに見た目は、ぜんぜん「魔獣」という感じではない……ほんとすげーかわいい。

 そして馬車の外ではヨルダ様も頬を引きつらせている。


「絵物語に出てくるアレか? 人前に姿を見せるような獣じゃないはずだが……」


 絵物語……なるほど、つまり伝説の聖獣……なるほど?


 ルークさんはすかさず「どうぶつずかん」を広げた。


------------------------------------------------

■ ピタゴラス(342) クラウンラビット・メス


体力A 武力A

知力C 魔力B

統率B 精神B

猫力72


■適性■

兎式格闘術A 風属性B 地属性B

雑食B 衝撃耐性A 防寒性能A


■特殊能力■

・穴掘り大好き ・大地の斧


■称号■

・大森林の守護兎

------------------------------------------------


 …………………………わぁ。うさぎさんつおい……この森の(ヌシ)ですやん、コレ……


 ちなみに普通の獣と魔獣、聖獣、神獣の見分け方についてであるが、「とりあえず全部ひっくるめて一応は獣」「魔力を持っているのが魔獣」「魔獣の中で神聖なものとして信仰されるのが聖獣と神獣」「聖獣の中で、人語を操れるのが神獣」という括りだそーな。

 つまり魔獣や聖獣は本質的にはほぼ同じで、人間側の印象と都合によって分類が変わる、という案配である。

 そしてたとえ人語が操れても、信仰の対象外だと魔獣扱いという世知辛さ――つまりルークさんもある意味、魔獣みたいなものである。あ。でも猫を神聖視する文化圏だったら神獣扱いか? それ以前に亜神だけど、まぁソレはステータス見ないとわからないですし。


 さて、目の前のかわいい聖獣ピタゴラス様。

 300歳オーバーとゆーことで、年齢を考えたらルークさん(前世含む)よりだいぶ目上の御方である。

 そんな御方が、ででん、と道の端に陣取り、お鼻をヒクヒクさせつつじっとこちらを見つめている。


 ……これはこちらもご挨拶しないとマズいだろう……


「すみません、ちょっとご挨拶してきますので、馬車を降りますね」

「だ、大丈夫なのか……?」

「たぶん……念のため、皆様はこれ以上は近づかず、馬車の中にいてください」


 ちょっぴり不安そうなライゼー様達をおいて、俺は窓からサッと飛び降りた。

 騎馬のヨルダ様が俺の後ろからついてこようとしたが、これは肉球で制する。


「ヨルダ様もこちらで。何かあったら、馬車の護衛をお願いします」

「……わかった。ルーク殿、気をつけてな。かわいいウサギとはいえ、野生の聖獣だ」


 止まった後続の馬車列には、何も知らん商人さん達も混ざっている。二足歩行はまずいので、ただの猫のふりをして、俺は巨大ウサギさんの元へ素早く駆けていった。


(こんにちはー)

(こんにちわー)


 ……おや? 割とフレンドリーな感じ? 脳内に響く声は甲高くてかわいい。


(はじめまして、ルークといいます。王都へ向かうため、森を通過させてもらっています)

(はじめまして、ぴたごらすだよ。ルークさまって、かみさま?)

(え? ……神様ってゆーか……亜神ですね。神様から力をお借りしている立場です)

(そっかー。じゃあ、おねがいがあります)


 ……なんか、こう……このウサギさん、年上のはずなのだが、小さい子と話しているよーな感じである。


(お願い? なんでしょうか)

(せかいじゅうのにんじんを、もっとおおきくしてください)


 …………………………そうきたか。


(………………う、うーん。ちょっとそういうのはできないですねぇ……)

(そっかー……ざんねんです)


 ふんふんと鼻をひくつかせ、ピタゴラスさんはさして残念でもなさそうに、ぱちぱちとまばたきをした。

 同じ獣だとゆーのに、猟犬のセシルさんとはえらい違いである。


(えっと……ピタゴラスさんは、この森の主なんですよね……?)

(ぬし? ちがうよー。ぴたごらすはくらうんらびっとなの)

(……あ。はい)


 やべぇ。これ普通にただの幼女(※342歳)な気がする……「珍しいもの(※亜神)が来たみたいだから、ちょっと見に来た!」くらいの温度感。


(じゃあ、えっと……前、通らせてもらいますね?)

(え? もういっちゃうの?)

(はぁ。旅の途中なので……)

(ついていっていい?)

(ええー……)


 この巨体のウサギさんを連れて旅……?

 道中で出会う子ども達は大喜びしそうだが、大人はドン引きして明らかにやべぇ事態になりそーな気がする……


(いや、ピタちゃん、この森の守護聖獣でしょ。森にいなきゃダメなのでは?)


 相手を小さな子供と見なし、ルークさん、ちょっと言い聞かせるような言い方をしてみた。

 ウサギさんはかわいらしくまばたき。


(あきちゃった)

(……あきちゃったかー……)

 

 ………………まぁ……三百年以上も森の中にいたら、それは仕方がない。


(にんげんにはついていっちゃダメっていわれてるけど、猫さんで、しかも神さまならいいかな、って)


 うーーーーーーーん…………


 先方のご要望とはいえ、幼女(※342歳)誘拐犯にはなりたくない。

 あとこのサイズのウサギさんはさすがに目立ちすぎるので、どう考えても連れて行くのは無理である。

 

(ごめんね。ピタちゃんみたいに大きなウサギさんは目立つから、人間の町に連れていくのは危ないよ。良い人ばかりじゃないだろうし、森で静かに暮らしたほうがいいと思うな……)

(ぴたごらす、ちいさくなれるよ?)


 ウサギさんが俺の目の前で、しゅるしゅると縮んでいった。

 象よりもでかかった巨体が……なんということでしょう! 大型犬くらいの大きさに! 危ない角も消えてる!


 ……いやいや、それでもじゅーぶんデカい。コンチネンタルジャイアント(ウサギの中ではかなりデカい品種)かな? ってレベル。

 びっくりではあるが、これでも目立つし、ペットを飼うとなるといろいろ大変である。そもそも俺がペットである。キャラがかぶる。


(にんげんにもなれるよ?)


 なんですと。


 次の瞬間、目の前に現れたのは……

 お約束の「バニーガール」だった。

 衣装は違う。さすがに違う。てゆーかハダカ! 隠して! ちゃんと隠して! 画面に謎の閃光いれて!


 でも頭に生えたウサミミは完全にバニーガールのアレである。

 そして幼女ではなく美少女。

 若干ぽわぽわした感じの、新緑のような髪色の癒やし系超美少女。

 外見年齢はたぶんサーシャさんと同じくらい。

 野生の影響か、腹筋が割れてたり手足がやや筋肉質ではあるが、ボディビルダー的な筋肉ではなく、フィットネストレーナー的なバランスの良い肢体である。ダンスの得意なアイドルとか、そんな感じ?

 ついでになかなかご立派なものをお持ちであるが、とりあえず隠して! まずは恥じらいをもって!


「ピ、ピタちゃん、とりあえず何か着て! え、えーと、えーと! ね、猫魔法! ニットキャット!」


 とっさの思いつき魔法であるが、魔力でできた毛糸玉にじゃれつく猫さん達をイメージし、その毛糸でセーターを編ませるという荒業に出た。

 見る見るうちに編み上がる魔力のロングセーター。急いだためにサイズはダボッとしてしまったが、初めての魔法にしてはなかなかの出来栄えである。アクセントの交差模様も美しい。

 ピタちゃんは目を丸くしたものの、すぐに破顔一笑した。


「わぁ、すごい! これなに? これなに? あったかくてふわっふわっ!」


 嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるピタちゃん。かわいいけれどこっちはそれどころではない。唖然呆然フレーメン反応である。


「……ま、まさか……まさか、獣が人間に変身できるなんて……!?」

「かんたんだよ? あっ……」


 何かを思いついたように、ピタちゃんがにっこりと微笑んだ。天使かな?

 

「いっしょにつれていってくれたら、“とっくん”してあげる!」


 小悪魔であった。

 ……うん。うすうす気づいてた……



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― 新着の感想 ―
そうか、現在進行でルークさんのペットやってるピタちゃんが初登場してからもう4年半ですか…月日が経過するのは早いですね。
四周目くらいで気づいたんだけど、ピタちゃんと人間になる特訓してるのかな??
[良い点] 忍者猫…!猫耳頭巾…!これは最強では? [一言] また女子が増えたか… いやこれで男だったら困るな…
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