294・畑作りは土作りだといつから錯覚していた?
畑作りは土作り⋯⋯そう思っていた時期が猫にもあった。
⋯⋯いや、間違ってはいない。前世感覚ではこれが正しい。
ただそれは「畑」用地が決まってからの話で、こちらでは「畑作り」といえばまず「開拓」、土木作業である。
具体的には石の除去と根の除去が大変で、産業廃棄物とかはせいぜい割れたガラスがたまに混ざっているぐらいなのでさほど大きな問題にはならぬが、なにせ「重機」がないので大仕事だ。
小型のパワーショベルや耕運機の代わりが「土属性の魔導師」であり、「とりあえず土属性は食いっぱぐれがない」と言われるほど便利使いされている。
火属性は鍛冶系、水属性は製薬系、土属性は土木系に向いていて、風属性はちょっと微妙なのだが、強いていえば歌とか演奏と関わる音響系、あとは鉱山での空気の管理や、他属性の補佐的な業務をやることが多いらしい。いずれにしても「魔導師ならまぁ、仕事に困ることはそうそうない」という認識で正しい。
今回、フリッツ卿の領地で新規畑の開拓をするにあたって、我々はピタちゃんというトマティ商会の秘密兵器を繰り出したわけだが、なんとアーマーン侯爵家も貴重な魔導師さんを貸し出してくれた。
キュリオ・ペイジさんという、三十一歳の青年魔導師である。
「三十一歳なら中年では?」というご意見もあろうが、見た目が若いし、何よりこの人、「侯爵家の家臣」という立場なので⋯⋯職場環境の都合で若手扱いされるのはしゃーない。
あの界隈は二十代は見習い、三十代で新人、四十くらいで一人前、五十くらいでベテランという感覚だそうである。ライゼー様だって四十歳近いのに、軍閥では「若手」扱いだ。ただこれは、かつて商家に養子入りしていたため、「貴族に戻ってからはまだ十年ぐらい」な点も影響している。
さて、キュリオさんという特別ゲストは加わったが、やることは変わらない。
オズワルド氏の転移魔法でブランフォード領へ転移し、フリッツ卿に現当主(息子)を紹介してもらい、トマト様の畑用地を確保する!
しかるのちピタちゃん無双である。
しかし先触れもなしにいきなり押しかけてしまったため、「息子達にちゃんと状況を説明する時間が欲しい」とのことで、今日のところは自由行動となった。
宿は伯爵邸に用意するとも言ってもらえたが、オズワルド氏が「私は自邸に帰って、また明日来るぞ」と気を使ってくれたし、ジャルガさん(&ピタちゃん)は「一般の宿で現地調査をしたいので」と言い、これを固辞した。
⋯⋯本音? みんなキャットシェルターでコピーキャットごはん&快適快眠ですが?
壁に耳ありとも言うし、伯爵邸では猫も気軽に喋れぬので、これは既定路線である。なのでキュリオさんだけ、伯爵邸に泊まることになった。
で、フリッツ卿とキュリオさんが領主への説明会をやってくれている間に、我々は「現地調査」の名目で領都を散策することに。
警護の申し出については、オズワルド様が「必要と思うかね?」とにっこり笑顔で拒絶してくれた。
向こうとしては「魔族のための警護」というより「領民が失礼なことをしないように⋯⋯!」という監視目的だったのだろうが、ジャルガさんも「私もここの地理は知っていますし、オズワルド様もたまには市井に紛れたいのですよ」と告げ、「私とオズワルド様は気心も知れておりますし、ご心配されているようなことは起きませんから大丈夫です」とまとめてくれた。否、これは猫が言わせた。
目撃者さえいなければ、俺も少しくらい不自然な動きをしても問題なかろう、という判断である。
散策メンバーはオズワルド氏、ジャルガさん、ピタちゃん、猫。ブラジオスさんやナナセさんは、王都から本社へ(宅配魔法で)もう戻った。
現在地は一応、「領都」なのだが、見た目は完全に「僻地の田舎」である。
伯爵領なので「土地としての広さ」はあるし、土地が広いゆえに人口もリーデルハイン領よりは全然多いのだが⋯⋯しかし人口密度は王都ネルティーグや迷宮のあるオルケストに遠く及ばず、他領と比しても決して栄えてはいない。
なんか、こう⋯⋯町にも活気がないというか、閑散としている。冒険者ギルドの支部なんてもちろんないし、我々が提携するブラン商会の店舗にも人影はまばらだ。
肝心の店内は道の駅の直売所みたいな雰囲気なのだが、建物の強度を得るために室内も柱と壁が多めで、少し手狭に感じる。上から見ると漢字の「回」みたいな形状、といえば伝わりやすいだろうか? だだっ広い空間ではなく、大きな倉庫の中に一回り小さな倉庫が内包されている、みたいな構造だ。
そして外周部には農作物や肥料、農具類が並べられ、中央部には服や布、日用品などがカウンター内で管理されている。ちょっとお高いので、防犯上の理由もあって、気軽に手に取れる状態にはしていないのだろう。会計もここでやっているようだ。
これはつまり、大型のコンビニというか、小型のホームセンターみたいな店か? 農協的な役割もこなしていそうだし、おそらく町の命綱だと思われる。
「ふーむ。こういうお店、リーデルハイン領にも欲しいですねえ」
俺の⋯⋯というか、ピタちゃんのマスク(音声伝達系の魔道具)越しの言葉に、ジャルガさんが小さく頷いた。
「ぜひトマティ商会で新設したいですね。ただ、私達だけでやると、今ある地元の個人商店が潰れてしまいますので⋯⋯彼らに売り場を提供する形での制度設計をしたいです。本社に戻ったら皆で検討しましょう」
うむ。冒険者ギルド支部や宿屋も新設されたことだし、その近くにこういうお店が一軒欲しい。
実はちょっと前まで、リーデルハイン領には「宿屋」すらなかった。旅人が少なすぎて採算がとれないからである。
ゆえに旅の商人などがたまに来ると、領主の管理物件になっている空き家を貸していたのだが⋯⋯迷宮発見に伴い、冒険者ギルド支部と併設する形で宿屋も開業した。
宿のご主人は別の商店も経営している人なので、要するに「副業として民宿を始めてもらった」という話である。家具や設備はトマティ商会から支援し、管理を委託する形で始めてもらったので、先方に開業資金はかかっていない。お客も少ないので、維持費も少しだけ出している。
どうしてそこまでして「宿」が欲しかったのかといえば⋯⋯
もちろん「旅人の利便性のため」というのが第一の理由だが、第二の理由としては、「野宿する不審者を生み出さないため」である。
仮にそうした野宿勢が常態化すると、トマティ商会の内情を探るスパイもその中に紛れ込みやすくなる。
「野宿に都合のいい場所を探していて」などの理由をつけて、本社にこっそり潜り込もうとする輩もいないとは限らぬのだ。
宿さえあれば、とりあえず「旅人が来た」ことをすぐに把握できるし、俺がその人を見れば『じんぶつずかん』で背景を探るのも容易い。
そして「宿があるのに野宿している不審者」は、もうほぼ確実に何かある人(もしくは無一文)なので⋯⋯それはそれで目立つから対処しやすい。
なお、以上の懸念は俺が思いついたものではなく、こちらのジャルガさんから得られた知見である。
「行商人をスパイ代わりに使おうとする貴族もいるんですよ」という、何気ない世間話の中でこんな話が飛び出し、「宿屋の新設はセキュリティ管理の一環として、そこそこ効果的」だと学んだ。
これ単体ですごく効果がある! という話ではないにせよ、「宿屋がないとスパイが入り込みやすくなる」というのはちょっと盲点だった。
さて、特に観光名所もない町を通り抜けて、我々は農地へ向かった。
ブランフォード領の「農地開拓しやすそうな場所」はすでに農地化されている。この点は前回の先行調査(ダンケルガ氏との遭遇時)でもざっと確認した。
残っているのは傾斜地、荒れ地、あと洪水に弱い川沿いと、土がほとんどない露出した岩盤層とか⋯⋯
岩盤層もコピーキャットすればいかようにも変換可能だが、さすがにコレは目立ちすぎる。土そのものへの変化は⋯⋯まあ一口ぐらいなら食ってもいいのだが、そこまでせずとも、水系の何かに変換しておいてどっかに流し、後からよその土砂を運び込む、みたいな荒業も可能だ。また雉虎組に任せれば、岩を建材として活用することも可能だろう。岩塩に変換して回収、少しずつ売っ払うというのも有りである。
そしてブランフォード伯爵家は、おそらく⋯⋯「新規の開拓ではなく、既存の畑の割譲」を考えている。これは契約交渉にあたったナナセさん達の体感だが、こちらの負担を減らしたい&こちらの開拓能力を理解していないのが原因だ。
一応、うちの側が「たぶんできます!」としつこく主張しているので、顔を立てて「ではその方向で⋯⋯」と話をあわせてくれているが、いざ現地に行って開拓が厳しそうなら「ちょうどよさげな畑を⋯⋯」という思惑があるはず。
将来的に「トマト様の畑が拡張される!」という流れでこれが進むなら良いのだが、やはり試験栽培や契約農場第一号は新規の畑でやりたい。そのほうが、既存の収入を確保した上で「トマト様による収支のプラス分」を明確に示せるからである。
トマト様は儲かる! トマト様はすごい!
その実例をわかりやすい数字として示し、今後の耕作地拡大につなげることも今回の目的なのだ。
で、やってきたのは町から程近い開拓困難地。
でこぼことした隆起の多い、下り気味の傾斜地である。今回はここを段々畑にしてみたい。ピタちゃんの地魔法は「ただ均す」だけではなく、「任意の形状への整地」もできるのだ。
精緻な模様をつけたり、彫像のように立体的な造形を維持したりはさすがにできないが、坂道にしたり階段状にする分には問題ない。そもそも「大地の斧」という「土砂を巨大な斧にしてぶつける」という技の前段階なので、「斧にするよりは階段状にするほうが全然楽」という感覚らしい。
斧は立体的な造形ながら、これは魔力を通して形を保つだけなので⋯⋯魔力を抜いた瞬間、元の土砂に転じてしまう。結果として自重で潰れる。
さて、こちらの斜面。
岩がゴロゴロ、根が長くて強い灌木がわさわさで、人力での開拓困難度はなかなかだが、傾斜そのものはとても緩いので⋯⋯地すべり、土砂崩れの心配はほぼない。一段ごとの幅も広めにとれるだろうし、見た目にはあまり「段々畑」っぽくはならないかもしれぬ。「高低差のある畑が何面かあるな?」みたいな雰囲気。
収穫物を馬車に積んで持ち上げるのも問題なさそうだが、むしろ斜面の下に加工場を作り、そこから道を整備して、いちいち領都に運ばずとも荷の搬入・搬出ができるようにハブ的な役割を持たせたい。
念のため、これは通行税逃れとかではない。通行税はもっと先の関所でちゃんと払うし、そもそもトマト様は今後数年間、税の優遇が約束されている。
理由の第一は、「領都と周辺の道路事情があまり良くない」ことで⋯⋯特に農繁期になると、場所によっては道幅が妙に狭く、複数台の馬車が通りにくそうなのだ。
おそらく「敵の進軍スピードを遅くする」などの目的でそうなっているのだろうが、建国時や群雄割拠の時代ならいざ知らず、現状のブランフォード伯爵領にとってはこの道路事情が足枷にしかなっていない。
トマティ商会からの出荷そのものはそこまで高頻度にはならぬだろうが、これからこの地域の経済そのものを発展させていくにあたって、現状の道だけでは利便性に難がある。
この際なので加工場には物流の倉庫や馬車の休憩所、レンタル厩舎なども併設し、ゆくゆくは町そのものを広げて領都の経済発展を支援したい。いわゆる物流のハブである。
そんな猫の思案を知らぬオズワルド氏は、灌木が根を張る岩だらけの傾斜地を見て目を細めた。
「ここに手を付けるのかね? しかし、ガイアキャットは使わんのだろう?」
あ。オズワルド様は、先日のピタちゃんの土木無双を見ていなかったか。
「今回の開拓はピタちゃんに任せます。詳しく話を聞いたところ、平坦な地面より少し斜めの土地のほうが、ふっ飛ばした岩を下に転がせて楽なんだそうで⋯⋯また分離させた石については、夜中にこっそり、私がストーンキャットさんにして動かして、擁壁として活用するつもりです。それでも石が余るようなら回収して、他の用途にも使えます」
オズワルド氏は納得しつつも「マジかこいつ」的な眼差しを俺に向けた。言いたいことはわかる。「そこまでする必要があるのか?」である。しかしこれは、十年、二十年先の発展を見据えた事業であり⋯⋯しかもトマティ商会・外部進出の第一例だ。ここは失敗したくない。
さて、傾斜地を平坦にする場合、「切土」といって掘削により平坦を確保する方法と、「盛土」といって斜面に土を盛り付けることで平坦をとる方法の二種がある。
この工法にはどちらもメリットとデメリットがある。
切土の場合、メリットは地盤が安定しやすいこと。デメリットは岩の除去などで工事が大変になりがちで、さらに残土の処理も必要なこと。
盛土の場合、メリットは切土より工事が楽な場合が多いこと。デメリットはよそから土を持ってくる必要があるのと、地盤が弱くなりがちで土砂崩れや地すべり、地盤沈下が起きやすいことだ。
実際には「切土で出た分の土砂を、下側の斜面に盛る」という、どっちも併用する形で平面を確保することが多く、これを段切り工法という。
で、今回はピタちゃんと俺がいるので⋯⋯まず初手は切土なのだが、ピタちゃんは「ふっ飛ばした土を引き戻して整地する」という荒業を使えるため、「切土→同じ面に平らに盛土」の流れがほぼ一ターンで済んでしまう。この過程で岩とか植物の根とか邪魔なものは外に弾き出される。
次の段も同じなので、いわゆる通常のような「斜面への盛土」はしない。
これでおそらく、かなり安定した地盤面が得られるはずだ。しかも吹っ飛ばした後に戻した盛土部分の柔らかな土砂は、トマト様が根を張るのにも都合が良かろう。
「ピタちゃんの地魔法はいくらでもやり直しができますし、こちらが想定していた以上に開拓向きな技でしたので、明日以降の作業については心配していません。ピタちゃん、調子はどうかな?」
「ぜっこうちょーです!」
冒険者スタイルのピタちゃんは、背負い袋の俺を振り返ってにっこり微笑んだ。たのもしい!
そんな感じで我々が予定地の下見をしていると、現地住民の方が不思議そうに近づいてきた。すかさず俺は背負い袋の中に隠れる。猫です。あやしくないです。わずかな隙間から外を覗いてます。
寄ってきたのは日焼けした農夫のおじいちゃん。
「おおい、もしかしてジャルガちゃんかね? えらいひさしぶりだなぁ」
にこやかな声とともに彼が麦わら帽子を上げると、ジャルガさんも目を丸くした。
「あっ! おひさしぶりです、ご隠居。お元気そうでなによりです」
お? どうやら、ジャルガさんが行商人時代の知り合いらしい。「ご隠居」なんて呼ばれ方をしているということは、もしや農民ではないのだろうか。
でも麦わら帽子に作業着で鍬までお持ちなので、見た目はもう由緒正しい農夫にしか見えぬ。
「いや、立派になって見違えたというか、正直、人違いかとすら思ったんだが⋯⋯合っていて良かった。行商で来たのかい?」
「いえ、実はリーデルハイン領のトマティ商会に就職しまして⋯⋯行商からは引退したんです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」
オズワルド氏もこのイベントを楽しむように目を細めた。
「ジャルガ、こちらのご老人は?」
「はい。こちらは⋯⋯」
聞けばこのご老人、木綿問屋のご隠居とのこと。
隠居したので暇はあり、自宅でぼんやりしていても健康に悪いし、人手はあって困らないからと農作業を日課にしているそうだ。
ジャルガさんの亡くなったご両親(※行商人)とも取引があり、ジャルガさんとは幼い頃からの顔見知りらしい。ネルク王国では褐色肌の人は珍しいので、印象にも残りやすかったのだろう。
「ご隠居、こちらは、私が働いているトマティ商会と取引のあるオズワルド様と、専属冒険者のピスタ様です。実は国王陛下の主導で、この地に新たな農地を作ることになりまして⋯⋯今、そのための土地を探していたところなんです」
ご隠居は首を傾げた。
「新たな農地⋯⋯というと、このあたりの畑を転用するのかね?」
「いえ。今ある畑はそのままで、あの⋯⋯許可がおりればの話ですが、この下りの傾斜地を、農地として開拓できないかと」
ご隠居はしばし、ぽかんとして⋯⋯やや青ざめた。
「こ、ここを⋯⋯? この斜面をかね? いや、そりゃ無理だろう、ジャルガちゃん! わしらも生活があるし、ここ数年は綿花の出来も悪くて⋯⋯」
あっ。これすげえ勘違いされてる! 戸惑い気味のジャルガさんに、俺は慌ててメッセージを送った。
「⋯⋯⋯⋯あっ。違いますよ、ご隠居! 開拓に人手は借りません。その後の畑の管理に関しては、地元のブラン商会とも提携して人を募集しますが⋯⋯そっちでもちゃんと働きに応じた報酬が出ますから、ご安心ください。あの、前陛下が指示してきたような、税としての労働ではありませんから」
ご隠居が露骨にほっとした様子を見せた。「陛下の主導で」と言ったせいで、新たな労役と勘違いしたのだろう。
先代陛下(と第二妃)の浪費&無茶振りのやらかしによって、僻地には不満が溜まっていると聞いていたが⋯⋯たぶんこちらでも、なんかいろいろあったものと思われる。
税としての労働、いわゆる労役は、前世日本にはもう存在していなかったものの、古代~中世には珍しくなかった。こちらの世界でも普通にある。
しかし時期を間違えると生産力の低下を招く上、負担感もすごいので、決して乱発していいものではない。
たとえば「洪水などの災害への緊急対応」とか、「敵国からの侵略に抵抗するための後方支援」とか、そういうやむにやまれぬ事態に切られるべき手札であって、「事業費節約のためにタダ働きさせよう!」みたいなのは論外である。
仮にこれを続けると不平不満が溜まり、僻地の豪族(※あるいは貴族)が離反したりして、国家としての寿命ががっつり縮む。
ネルク王国は去年まで、その一歩手前であった。
今回のトマト様布教政策はこれに対する慰撫という側面をもっている。そんな事業のために無償労働など、決してさせるわけにはいかぬのだ。
「こちらの冒険者、ピスタ様は、土属性の魔法を使えるんです。開拓は彼女の魔法とこちらの人員だけで済ませますから、皆様のご負担にはなりません」
「おお、魔導師の方でしたか。これはとんだ勘違いをして、失礼いたしました。あの、もしや、そちらのオズワルド様も魔導師で⋯⋯?」
「ああ。素人に毛が生えた程度だがな」
オズワルド氏はシニカルに微笑みつつ応じた。
毛が生えているのはむしろ俺の方なのだが(体毛)、それはさておき、まさか魔族がこんなところに来ているなどとは夢にも思うまい⋯⋯
ご挨拶と口コミ効果に期待して、袋入りのバロメソースを三つほどプレゼントし、こちらのご隠居とはここで別れた。
地元の警戒感を先に知れたのは良かった。ここから先は誤解を招かぬよう、改めて気を引き締め、きっちり事業を進めることを心に誓う。
あと、ピタちゃんも「人前ではなるべく喋らないでね!」という約束を守って、ちゃんと無言を通してくれた。言動こそやや幼女だが、実は頭もいいし指示も守れる優秀な従者なのである。
そんな感じで開拓地の暫定候補を決めて、翌日!
フリッツ卿の御子息、現領主様からの「えっ。そこでいいんですか⋯⋯? あの、本当に? 別の場所もご用意できますが⋯⋯」的な困惑気味の許可を得て、我々は新規農地の開拓を粛々とはじめた。
フリッツ卿とキュリオさん、領主様や木綿問屋のご隠居達が見守る前で、ピタちゃんが「ていっ」とかわいらしく地面を叩いた瞬間――
大地は鳴動し空が轟き、海は裂け火山が爆発して黙示録のラッパが高らかに鳴り響いた。比喩的表現である。
⋯⋯ピタちゃんは確かに「ぜっこうちょー」であった。
ちょっと好調すぎて、こう⋯⋯「ふふ、力加減とか間違えちゃったのかな?」と、優しい微笑(現実逃避)でそっと目を逸らしたいぐらいには一撃のインパクトが重かった。
あのオズワルド氏が「うわぁ⋯⋯」とドン引きしたレベルなので相当である。
⋯⋯これ、フリッツ卿とキュリオさんには「こっちの子も魔族だ!」って思われたんちゃうか⋯⋯⋯⋯?
ピタちゃんは意気揚々と「どかーん」「ばごーん」と整地を進めていき、あっという間に段々畑の一段目が完成する。ウサギの土木工事力、マジパねえ。
二段目、三段目の作業も順調に進む中、農地の新規開拓は思った以上に素早く完了しそうだと、猫もほっと胸を撫でおろすのであった。
⋯⋯人類がだいたいみんな青ざめてるのは気のせい。きっと気のせい。




