273・猫神楽の夜
今宵の降誕祭の主役たる猫は、飼い主クラリス様に運ばれてお誕生日席(※祭壇)に案内されたわけであるが⋯⋯
規模がデカすぎて、「お誕生日会かぁ。わぁい!」などと喜んでいる場合ではなさそうである。
クラリス様いわく、今回は「横のつながり」を強化する目的があるとのことで、俺が積極的に挨拶まわりをする感じではなく、普段は会えない人同士が積極的に交流している。
実際、ラン様やセルニア様とポルカ・マズルカ姉妹とか、普通に生活していたらまともに顔をあわせる機会はそうそうあるまい。なんか盛り上がってるようだが、さすが陽キャである。
あとオーガス君とルーシャン様も意気投合しておられるが、猫力90台の会話はちょっとホラーな予感がするので気にせんとこ⋯⋯
あとはリスターナ子爵(外交官)&娘のベルディナさん(未来の外交官)が、シノ・ビのカエデさんやアズサさん達と話し込んでいるが⋯⋯あれは多分、カーゼル王国に関する聞き取り調査だな⋯⋯? ホルト皇国とカーゼル王国にはほぼ交流がないようなので、現地人から得られる情報は貴重なのだと思われる。
オズワルド様? 樽ごと持ち込んだワインを有翼人さん達にも振る舞いながら一緒にいい笑顔でご馳走を食べておられますけど何か? ⋯⋯だいぶ人生を楽しめていそうでなによりである。
あとトゥリーダ様も酒飲みながら、シャムラーグさんやクイナさん、ユナさん、ブラジオスさん達を相手にクダを巻いている。よくわからぬ組み合わせだが、「猫飼い」が集まった感じ?
そのテーブルの上には、トゥリーダ様の元飼い猫、現在は精霊化してぬいぐるみに宿ったラケルさん。
さらにソレッタちゃんのぬいぐるみに宿ったテオ君(※たぶん俺の分霊)がその上に乗っかり、左右にはガチ猫のアロエさん(ブラジオスさんの飼い猫)とクロスローズ工房のモーラーさん(長毛種)も寄り添っている。
四匹の猫さん(うち二匹はぬいぐるみ)達も、なんかこっそり意思疎通していそうなのだが⋯⋯
(人類、騒がしいですなぁ⋯⋯)
(ルーク様のお祝いじゃなければキレてるところねぇ)
(ZZZZ⋯⋯)
(にゃーん)
自由である。猫たるもの、かくありたい⋯⋯
さて、我々の目の前の広場には特設の舞台。
床用の板材を、畳よりちょっと大きいぐらいのサイズ感で複数のパネルにし、これを連結したもの⋯⋯
簡易ながらも精緻な骨組みの上にぴっちりと載せることで、きちんと水平も出している。組み立て式の簡易舞台としてはなかなかの加工精度だ。たった半年でこれだけの木材加工技術を身につけた有翼人さん達には改めて拍手をおくりたい。(ぺちぺちぺち)
そしてそんな舞台を一定の間隔で囲むのは、琥珀を加工して作った割と明るめの照明。
原料の琥珀は迷宮産だが、照明への加工に関してはルーシャン様やウィル君、アーデリア様が担当してくれたらしい。骨組部分は木で、琥珀の周囲にはクロスローズ工房製の薄い和紙っぽい紙を張り、提灯みたいな優しい風合いの光を発している。
琥珀の照明は火と違って火事になる心配がないので、台座が木製でも問題ない。これらの設計・加工はケーナインズのブルトさんやバーニィ君が主導してくれたそうな。
迷宮で死にかけていた彼らを保護してから、もう半年以上⋯⋯月日が経つのは早いものである。
舞台の上では今、ハズキさんがバイオリンの独奏をしてくれている。
カブソンさんから「ダンジョンボス討伐のお礼」としてもらったそのバイオリンには、「夜の猫」という銘があり、魔道具の一種⋯⋯効果は「音の広がりが抜群に良い」とかそんな感じ。
「単純に音がでかい」わけではなく、「風魔法によって音を遠くまで届ける」系統の魔道具であり、その旋律は伸びやかにして優しい。皆、思わず食事の手を止めて聞き惚れている。
一段高いお誕生日席(※祭壇)にて、猫もクラリス様とリルフィ様、ピタちゃんに寄り添われつつごちそうを貪っていたのだが、この演奏には思わず「ほああ⋯⋯」と圧倒されてしまった。
ハズキさんはオルケストでのコンサートデビューも済ませ、一流演奏家への道を着実に歩み始めている⋯⋯うちの店頭で流す「トマト様を讃える歌」の作曲も彼女に担当してもらった。
その完成度は素晴らしく、寝ても覚めても「トットットッ⋯⋯トマトさまっ⋯⋯」と脳内でリフレインする日々である。洗脳ってコワイっスね⋯⋯
なお作詞は猫なのだが、音楽系の著作権制度がないので印税は入らぬ。
演奏が終わると、ハズキさんはぺこりと一礼。そして周囲からは拍手喝采!
猫も笑顔で肉球を叩き合わせた。彼女は主な活動の場がオルケストの聖教会になるため、あまり頻繁には会いにくいが⋯⋯しかし「ケーナインズ」の一員であり、我が社の仲間である。
お給料が発生する関係ではないが、レシピ作りまで手伝ってもらっているし、優秀な外部協力者として商会からも支援していきたい。いわゆる「パトロン」というやつである。
司会進行のキルシュ先生が『続きましては、奉納神楽の準備をいたします。しばらくご歓談ください』と間をつなぐ。あのインテリイケメンなんでもできるな⋯⋯?
俺の隣にいたリルフィ様も「それでは私も、お手伝いに⋯⋯」と席を立った。具体的に何をするのかは知らぬのだが、今回の奉納神楽では魔法を使ったイリュージョン的な演出をする模様。
発案者が魔族にして転生者のヘンリエッタ様だけに、ちょっと大掛かりな仕掛けもありそうだが⋯⋯舞台脇には太鼓や笛を持った囃子方(※有翼人さん達)まで集まり始め、なにやら本格的な雰囲気である。あれ? もしやお遊戯会的なモノではない?
見守っていると、ウィルヘルム君とフレデリカちゃんが祭壇のそばに来た。
「ルーク様、このたびは御降誕一周年、おめでとうございます。私も感慨深いです」
「おひさしぶりです、ルーク様。兄や姉からたびたびお噂は聞いていたのですが、ご多忙とのよしで、なかなかご挨拶にもうかがえず⋯⋯失礼いたしましたわ」
フレデリカちゃんは前に会ったときよりも大人びた感じに⋯⋯今宵も黒のゴスロリだが、スカート丈がロングでおめかし感が高い。
「フレデリカ様、ごぶさたしてます! ウィルヘルム様も、私などのために準備を手伝っていただき、本当にありがとうございます。それこそご多忙だったでしょうに⋯⋯」
「いえ、主に準備をされていたのは有翼人の皆さんで⋯⋯我々魔族は、転移魔法などでサポートしただけなのです」
「でもヘンリエッタ様はたいそう張り切っておられましたわ。あの方はかわいい衣装作りがご趣味ですので」
知ってるぅー。それが今回の犯行動機だってことにもなんとなく気づいてるぅー。
「あ、クラリス様とフレデリカ様は初対面ですよね? えっと⋯⋯」
「ううん。準備中にお会いしたから、ご挨拶は済んでるよ。フレデリカ様、今日は来てくださってありがとうございます」
クラリス様がぺこりと会釈するのにあわせて、フレデリカちゃんもちょっと芝居がかったカーテシーをキメた。
「ふふっ、こちらこそ、お招きありがとうございました。コルトーナ家は姉様も含めて、ルーク様に大恩があります。領地こそ遠く離れておりますが、どうか今後も変わらぬご交誼のほどを」
話しているうちに、舞台のほうで動きがあった。
舞台の四隅にちょっとアレンジの効いた白装束+紅袴の巫女さん。肩の部分が露出しており、ヘンリエッタ様の趣味がうかがえる。
メンバーはその「すちゃらか魔族」ヘンリエッタ様に加えて、「腹ペコ宮廷魔導師」スイール様、「陽キャ偽装疑惑」アイシャさん、そして「いと尊き女神にして大正義」リルフィ様⋯⋯!
⋯⋯コレがヘンリエッタ様の野望、「巫女合わせ」か。こちらの四名は舞手ではなく、魔法でサポートする演出係らしい。
そして舞台の東西から静々と歩いてきたのは、可愛らしい巫女装束のソレッタちゃん(with猫耳ヘアバンド)とカティアちゃん(with熊耳ヘアバンド)。
⋯⋯しかし、なぜわざわざ幼女様を舞手にスカウトした⋯⋯?
メテオラに住む有翼人のソレッタちゃんはわからんでもないのだが、カティアちゃんに至ってはアロケイルからホルト皇国へ移住したばかりで、練習時間もさほどなかったはずである。
ヘンリエッタ様のことだから、あえてこの二人を選んだ邪悪な理由があるはずなのだ。
たとえばそう⋯⋯「かわいいのが見たかった!」的な⋯⋯答え出てますね。そうですね。悩むまでもなく明らかでしたね。
⋯⋯いやいやいや! そうではない! 単に「かわいいのが見たい」だけならば、ソレッタちゃんだけでも良かったはずなのだ。
そこにあえて新人のカティアちゃんを加え、コンビにした采配⋯⋯つまりこの神楽(偽)は「二人一組」でやらせることに意味がある⋯⋯?
そこそこの緊張感をもって猫が見つめる中、囃子方が太鼓と拍子木を鳴らし始める。神楽⋯⋯というよりは演芸のお囃子に近く、重厚ではなく軽妙、神秘性よりは親近感を覚える音色である。ハズキさんも得意のバイオリンから趣味の横笛に持ち替えて参加している。木製の簡易な、木を削って作った民芸品の笛である。
懐かしいこの旋律は⋯⋯「ねこふんじゃった」だな⋯⋯?(真顔)
この音色にあわせて、ソレッタちゃんはにゃんにゃんと猫っぽい仕草で可愛らしく踊りだした。カティアちゃんも落星熊っぽい威嚇のポーズでこれを追いかける。どちらもお手々には肉球を模した大きな手袋をつけており、傍目には遊んでいるように見える。
振り付けも、「ケモノっぽい動き」を優先しているようで⋯⋯割とてきとう。基本的には二人が向かい合って威嚇したり追ったり逃げたりをコミカルに演じており、まるでじゃれあう猫さんのよう! ⋯⋯いや、片方はたぶん熊さんなのだが、体格は同じなので⋯⋯
むしろどっちも俺より身軽だな⋯⋯?(敗北感)
その楽しそうなお遊戯に目を細めていると、やがて「ねこふんじゃった」の区切りが良いタイミングで、四隅に控え集中していた魔導師組の魔法が発動した。
猫、あるいはケモノっぽくケンカしていた舞手が、すすすっと左右の端に離れ、それと同時に舞台の中央にあらわれたのは⋯⋯
「おお⋯⋯おおおおお!?」
俺は思わず目を見張った。
水属性の優秀な魔導師が二人がかりで作成した、両手で抱えきれないほどにでっかい氷塊⋯⋯そう、見覚えのある丸みをおびた、なんとも優美にして存在感のある、まさに王冠をかぶったかのごときこの氷塊は⋯⋯
「あれは⋯⋯あれはまさか、トマト様!?」
興奮した猫が思わず歓声をあげる中、リルフィ様とアイシャさんの魔法によって出現した氷塊は、より精緻なトマト様の姿へと形を変えていく。
王冠のようなヘタ、つややかな曲面⋯⋯そしてヘンリエッタ様の手元から放たれた「赤い光」がトマト様の氷像へと飛び込み、夜の闇を赤々と彩る麗しのトマト様が爆誕した。
ソレッタちゃんとカティアちゃんがびっくりした顔(※演技)で、トマト様の周囲をぐるぐると巡る。お囃子の演奏はいつしかコミカルなものからやや荘厳な曲調へと切り替わっており、赤い光とともに「トマト様との遭遇」を印象づけていた。
感動に打ち震える猫。その背後でピザを貪りながら、「ルークさまがたのしそうでなによりです」とでも言いたげなピタちゃん(ウサギ)⋯⋯
最後にスイール様が、舞手に向けて身体強化&風魔法を発動させると、ソレッタちゃんが空へ舞い上がった。
トマト様が放つ赤い光に照らされ、白い翼をはためかせた巫女装束のソレッタちゃん⋯⋯なんて神々しい⋯⋯
翼による滑空はあえて使わず、スイール様の風魔法でゆっくりとその身が地上に降りはじめる。
降り立つ場所には、落星熊さんの威嚇ポーズで両手を空に掲げるカティアちゃん⋯⋯
さっきまで争っていたはずの幼女二人は、トマト様の正面でしっかと抱き合い、和解した。かんどうてき⋯⋯
あわせて夜空に大輪の花が咲く。アーデリア様が得意の火魔法で、オズワルド様が愛用の銃を用いて打ち上げた魔力の花火だ。
魔法なので形状も自在。赤い光が夜空にまぁるくトマト様を描き、星型の黄色い光がトマト様の花を描き出す。
拍手喝采が轟く中、猫も滂沱と涙を流して必死に肉球を叩き合わせた。
――これは「神話」である。
山で争う猫と熊を、トマト様がその恵みをもって仲裁し、この地に平和をもたらした⋯⋯そんな神話にもとづく荘厳な神楽なのだ⋯⋯!(※ただし捏造)
号泣しているのが俺だけなのはやや解せぬが、みんな楽しそうな笑顔なのでまぁそれは良い。
「すばらしいっ⋯⋯! すばらしい神楽でしたッ⋯⋯! こんなにも心揺さぶられる舞いが、この世にあろうとは⋯⋯ッ!」
「⋯⋯企画しておいてなんだけど、そこまで手放しで絶賛できるクオリティではないよ⋯⋯? ルークさんの感性って、トマト様絡みになるとちょっとぶっ壊れすぎじゃない⋯⋯?」
首謀者のヘンリエッタ嬢は何故かヒキ気味であるが⋯⋯
大役をやりきったソレッタちゃんとカティアちゃんは、手放しで喜ぶ俺を見て満面の笑顔である。そんな二人を見て、リルフィ様も保護者みたいな優しいまなざし⋯⋯猫力高い人同士の共鳴? それもあるかもしれぬ。
俺はアイシャさんやスイール様にも視線を向ける。
「皆様もサポートお疲れ様でした! かなり練習されたのでは⋯⋯!?」
「いえ、そんなでもないですね⋯⋯?」
「舞手やお囃子に比べたら全然だよ。練習やリハーサルでは、ピタちゃんもクッション担当で手伝ってくれてたし」
「たいきしていただけで、でばんはなかったです」
ピタちゃんも裏方で手伝ってくれたんだ⋯⋯? ありがとぉ⋯⋯
そのピタちゃんが、カティアちゃんの背中を鼻先でふんふんと押した。俺も察して声をかける。
「カティアちゃんもありがとう! 猫の精霊としては以前にご挨拶したけど、ちゃんと会うのは初めてですね。改めまして⋯⋯リーデルハイン子爵家のペット、ルークです! よしなに!」
「は、はい! よろしくおねがいします⋯⋯!」
ウィンドキャットさんのほうが神聖感はあるし、普通の猫(強調)にすぎない俺がこうしてご挨拶をしても、インパクトには欠けるだろうが⋯⋯しかし、これで彼女も身内である。
カティアちゃんには魔導師としての才能もあるので、おそらく将来的にはラズール学園に入学し、スイール様の弟子になりそう。
ところで⋯⋯ついさっき俺がご挨拶したばかりの、もう一人の幼女様もこちらにいらしている。
「たいへんすてきでしたわ! 斬新ですわ!」
おめめをキラキラさせてお褒めの言葉をくれたのは、公爵家令嬢のセルニア様。
「うちのクラリス様やソレッタちゃんやカティアちゃん達と揃ったら、すげぇわちゃわちゃしそうだな」などとは思いつつ、「そんな機会はそうそうあるまい」と油断していたのだが⋯⋯あっという間にフラグを回収してしまった。
「かぐら? というものを初めて拝見しました! お年も近いのにすごいですわ! とってもかわいかったです!」
セルニア様は、気に入ったものを真正面から絶賛してくれるので⋯⋯ソレッタちゃん達も照れつつ、嬉しそうにお礼を返す。
⋯⋯コレを「神楽」とか言ったら全国の古典芸能関係者様にぶん殴られそうだが、亜「神」が「楽」しかったのも事実であり、まぁ⋯⋯ご容赦願いたい。
ソレッタちゃん、カティアちゃん、セルニア様達は子供同士で仲良くなれそうだったので、年の近いクラリス様にもご参加いただき、後の交流を保護者役のラン様に託した。
一方で、俺はリルフィ様と一緒に祭壇で次の出し物に備える。
「おや? 今の神楽が最後というわけではないんですか?」
「神楽は実行委員会からの発案でしたが⋯⋯この後は、有志の自由企画になりますね⋯⋯」
前世ならカラオケ大会とか始まりそうな空気感だな⋯⋯?
そこに司会進行、キルシュ先生のアナウンスが響く。
『えー。続きましての演目は、リーデルハイン騎士団団長、ヨルダリウス様と、シノ・ビのリーダー、カエデ嬢による実戦剣舞となります』
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯こっちにも趣味に走ってる人達がいた! これはもう奉納じゃなくて、単に自分達がやりたいだけである!
有翼人さん達は初見だろうし、盛り上がることは盛り上がるだろうが⋯⋯ドン引きされないか心配。
ともあれ、楽しい祭りの夜はこうして無秩序に更けていき、みんなで飲んで食べて騒いで、まるで夢のような一時となった。
祭の終盤、ほぼ満腹になった俺を抱え込み、クラリス様が我が猫耳に囁いた。
「⋯⋯ルーク。よく憶えておいてね。ここにいるのは、みんなこの一年でルークが助けた人達。この光景はルークが作ったもの――」
⋯⋯せやろか? ウェルテル様のご病気快癒とかアーデリア様の狂乱阻止とか有翼人さん達の救出などはともかく、アイシャさんとかルーシャン様に関しては、むしろ俺が一方的に助けられた感もあるし⋯⋯
やや不思議そうな俺の顔色を読んだのか、リルフィ様がすぐ隣から囁く。
「間接的に救われた人も、大勢います⋯⋯ネルク王国の人間なら、王都にいた者は皆、猫の旅団に救われていますし、レッドワンドからの侵攻を防いだのもルークさんです⋯⋯何より――『これから』、ルークさんとトマト様によって救われる人達も、大勢いるはずです。もちろん、私も⋯⋯一年前、外の世界に怯えて、ただ閉じこもっていた私を導いてくれたのは、間違いなくルークさんでした⋯⋯」
「クラリスさま⋯⋯リルフィさま⋯⋯」
俺はつい首をかしげてしまった。むしろお礼を言うべきは俺のほうなのだ。
「それらすべては、不埒な野菜泥棒だった私をクラリス様が拾ってくださり、そしてリルフィ様がこの世界のことを丁寧に教えてくださったおかげでもあります。異世界からきて、右も左もわからなかった私は、リーデルハイン家の皆様によって救われました。そしてこの一年⋯⋯私もまた、クラリス様やリルフィ様、他の皆様に救われ続けております」
有翼人の皆様にはトマト様の栽培やトマティ商会の商品製造にも関わってもらっているし、うちに来てくれた社員達もそうである。
ルーシャン様やリオレット陛下からの支援だってたいへんありがたいし、敵だったはずのオズワルド氏でさえ、今は心強い味方だ。
今日の舞手だったソレッタちゃんやカティアちゃんも、「未来への希望」という形で、俺の活力につながっている。
ここにいる皆が、俺の恩人であり、トマト様の未来を担う有為の人材なのだ。
クラリス様は飼い猫の喉を撫でつつ、くすりと微笑まれた。尊⋯⋯
「ありがとう、ルーク。私達のところへ来てくれて⋯⋯そして一年間、おつかれさま。これからもよろしくね?」
「⋯⋯あの、でも、働き過ぎには本当にお気をつけください⋯⋯徹夜の作業はなるべく控えて、他の人にできる仕事は、ちゃんと割り振っていただければと⋯⋯」
りるふぃさま⋯⋯次の一年の課題は、ペットの働き方改革か。
「はい! トマティ商会の店も無事にオープンできそうですし、今年はお昼寝の時間をちゃんと増やせるかと思います!」
俺は肉球を掲げ、にこにこと応じた。
⋯⋯そう。この時の俺は、本気でそう思っていたのだ⋯⋯
なにかのフラグが大量に立つ音を自覚できぬまま、この夜の俺はただただ上機嫌で、メイプルシロップ風味の大学芋(別腹)に舌鼓を打っていた次第である。
いつも応援ありがとうございます!
サーガフォレスト版・猫魔導師、8巻の発売日が11/14に近づいてきました。
今回はゲーマーズ様にて、久々に特典SSのペーパーが!
掌編なので短いですが、機会がありましたらぜひ。
あと先般話題の「なろうチアーズ」にも参加登録しました。
広告が増えてましたら申し訳ない⋯⋯!
米代もしくはトマト様代に使わせていただきます m(_ _;)m




