265・猫と初めてのおつかい(※公爵家)
「まず最初の注意点ですが、貴族への挨拶回りに関しては、『順番をあえてランダムにする』という慣例がありまして⋯⋯割と大事なことです」
馬車の中で、猫はナナセさんからそんなご講義を受けていた。あ、他国から来たブラジオスさんも生徒側である。
「偉い人から先に、とかではないんです?」
「それをやると、『この商人は、自分よりもあっちの貴族を上位に見ている』と解釈する余地が発生しますので⋯⋯王都の商人達が結託して、『順不同でランダムに回る』という慣例を、過去に必死で根付かせました。この慣例は有用なので、トマティ商会でも守って欲しいです」
つまり公爵家→公爵家→侯爵家→侯爵家→伯爵家→伯爵家みたいな、爵位に準じた回り方をしてはいけない。たとえ地図上でご近所だったとしても! あえて別方向に行ってでも! ひたすらランダム(っぽく見えるよう)に回るというのがお約束らしい。
特にうちは僻地に本社を構える新規の商会なので、ちゃんとそういう法制化されていない慣例を守れるかどうかも注視されそう⋯⋯
商人ギルドに登録していればこのあたりの助言も貰えるのだろうが、うちにはナナセさんがいるから大丈夫! この社長、新卒社員に全力で乗っかる気満々である。まぁ猫ですから。人間様の背中とか割と暖かくて居心地良いし。
で、真っ先に出向いた先は、ライゼー様のお知り合い。
ルッコラ・バーブル子爵という、野菜っぽいお名前の軍閥のお貴族様のお屋敷である。家名が「ルバーブ」だったらもっと明確にお野菜だった。惜しい。ほんと惜しい。でも種としては全然違うから実はそんなに惜しくない。
こちらのお屋敷、御当主は領地にいるため不在が確定している。が、御子息が王都側で暮らしており、軍の官僚を務めている。
今日は平日なのでこの御子息も不在だろうが、お留守番はいるはず! ということで、初手はこちらにした。
お屋敷はちょっと大きめの民家みたいな雰囲気。子爵家の「王都別邸」ぐらいだと、貴族感はあんまりないようだ。シンザキ邸のほうが全然でかい。
執事さんもおらず、いたのは御子息の奥様とメイドさん。あとちっちゃな子が二人。
メイドさんと奥様に、商会からの挨拶状とお土産のバロメソースを渡してあっさり終了である。お子様二人にはルークさんからの握手もサービスしておいた。トマト様をよろしくね!
⋯⋯⋯⋯なんの⋯⋯なんの突発イベントもない! 素晴らしい! 年末に取引先へ来年度のカレンダーを配るかのごとき淡白さである。
ナナセさんもブラジオスさんも商人としてしっかり口上を述べ、奥様も「しかと伝えます」とそこそこ丁寧なご対応。
⋯⋯これがいきなりやってきた新規の商会だったら、もっとぞんざいに扱われるはずなのだが、トマティ商会は現時点でもちょっと特殊な立ち位置だ。少なくとも「軍閥の貴族」の中では重要な新規商会として認知されている。
これには、軍閥内部における「ライゼー・リーデルハイン子爵」の存在感も影響しているが⋯⋯
後援者に名を連ねるのは宮廷魔導師ルーシャン様と王弟ロレンス殿下。しかも社外取締役には次期宮廷魔導師のアイシャさんまでいる。
また、昨年のレッドワンドからの侵攻時に、これを追い払ったオズワルド氏がトマト様を激賞した、という逸話まで揃っている。
そもそも去年の時点で、ライゼー様やアイシャさんが各所へ「来年からこれを売り出します!」と瓶詰めの試供品も配っていたので⋯⋯むしろ「出店を待ちかねていた!」というファンをもう獲得しているのだ。こちらのお子様達もバロメソースの追加に「あの美味しかったやつ!?」と大喜びであった。
ククク⋯⋯人類よ、トマト様の美味に思うさま溺れるが良い⋯⋯
「いやぁ、想像以上にあっさりでしたね! これなら余裕でしょう」
馬車に揺られて早くも油断する猫さんの顎を撫でながら、ナナセさんがしんみりと遠い目をした。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯次はペルーラ公爵家ですか⋯⋯ふふっ⋯⋯生きて帰れるといいですね⋯⋯」
⋯⋯ナナセさん⋯⋯? 目が死んでいらっしゃいますが⋯⋯?
猫さんが「えっ」とそのお顔を振り仰ぐと、彼女は慌てて首を横に振った。
「い、いえ、失礼しました! 別に危険なところではないんです。ええと⋯⋯あのですね。ペルーラ公爵家は軍閥ではなく、税務閥の長で⋯⋯今、ホルト皇国で皆様の後見人をやっている、ペズン・フレイマー伯爵の遥か上の上司、と思ってください。商人にとっては一番恐ろしい相手で、その怒りを買ったら商法、税法関係で追い詰められます。いきなり理不尽な攻撃はしてこないと思いますが、たとえば評判の良くない悪徳商法でのし上がった商会などは、いくつか実際に潰されていまして⋯⋯」
ヒエ⋯⋯商人特効のおうちだ⋯⋯!
「⋯⋯ついでに、これは噂なのですが、最近は軍閥との関係強化に動いているみたいです。昨年の王位継承騒動で直接のダメージは受けていないにしても、どちらかといえば正妃側の閥だったので、将来的な影響力の低下を懸念しているみたいで⋯⋯それから、基本的に領地経営を親族に任せていて、公爵本人とご家族は王都で暮らしていますから、おそらく今日もご在宅です。宮廷政治に強く、王都での政治力をしっかり保持しているタイプの高位貴族ですね。正直⋯⋯ペルーラ公爵家は商談をする場合でも手強いというか、怖い家です」
ナナセさんの説明を聞いて、ブラジオスさんも表情を引き締めた。猫は「ほへー」ってしてる。
「ペルーラ公爵家⋯⋯そういえば聞き覚えがある気がしますねぇ」
公爵家は王家に次ぐ権威であり数も少ないため、家名に聞き覚えがあるのは当たり前なのだが⋯⋯そういう意味ではなく、なんかのイベントに絡んで、リルフィ様の講義以外の場でも名前を聞いた気がする⋯⋯
あと昨年の王位継承問題の折、お城での会議にも出席していた要人なので、じんぶつずかんにも登録済なのだが⋯⋯それとは別に、どっかで名前を聞いた。
「もしかして、去年の士官学校の学祭にもいらしてました?」
「御本人は来ていないはずですが、ご家族がいらしていましたね。私が接客していたメイド喫茶にも、ご令嬢と護衛の方々がお寄りになられて⋯⋯ちょっとした騒ぎでした」
やはりか。士官学校におけるクロード様の親友、ラン様から聞いたお名前だ。
確か弓術試技を見て「すごかったですわ!」と感動した公爵家の令嬢がいたとかなんとか⋯⋯四女で七歳とかだったと記憶している。名前まではちょっと忘れた。
高位のお貴族様達には、もう『リーデルハイン領の近所で新規のダンジョンが見つかった』話も把握されているので⋯⋯次の訪問先ではその話題も出そうだ。確かに油断はできぬし、ナナセさんとしては胃が痛いところであろう。
「⋯⋯いっそアイシャさんに同席を頼んでみます?」
「いえ。社外取締役ですので、それも不自然ではないのですが⋯⋯私達だけなら『わかりません』『存じ上げません』で切り抜けられる質問も、アイシャさんのお立場だと答える必要がでてきます。たとえば⋯⋯『ルーシャン様とトマティ商会の社長はどういう関係なのか』とかですね。ここはあえて我々だけで行ったほうがいいでしょう」
ナナセさんがイケメンに見えりゅ⋯⋯こんなにかわいいのに⋯⋯
やがて到着したのは豪邸。紛うことなき豪邸。
敷地を囲む塀は高く、その向こうには広大な庭、立派な西洋建築⋯⋯
一応は郊外とはいえ、王都にこれだけの土地を持っているのはすごい。
ただ無意味な広さというわけではなく、「王都で内乱やらクーデターやらが起きた場合には、兵の駐屯地として活用する」という目的があるらしい。むしろ公爵家がクーデターを起こす側⋯⋯? 去年はそんな可能性もありましたね⋯⋯(遠い目)
でかい門もあっさり通された。
新興商会の挨拶程度なら文字通りの「門前払い」でもおかしくないのだが、ナナセさんが商会名を名乗ると、門番がリストを確認した後に簡単な身体検査を行い、「どうぞ邸内でお待ちください」とのことである。
⋯⋯事前に要接客リストへ名前が載ってる! こわい!
馬車は門の傍に置き、御者さんはその場で待機⋯⋯この御者さん、実はシノ・ビの一人である。カエデさんではないのだが、馬の扱いに長けている子を連れてきた。ヨルダ様ほどではないが、そこらの衛兵くらいでは太刀打ちできない程度には強い。
俺のほうは姿を消し、ウィンドキャットさんに乗ってこっそり上からついていく。
当方の社員二名が応接室に通されてすぐ、メイドさんがお茶とお菓子を持ってきた。
ナナセさんはお礼を言って軽く一口。お菓子には手を付けない。
その間にも、応接室の左右にある空き部屋へ、護衛っぽい人達が入っていった。
客の会話を盗聴しつつ、いざという時には壁をぶち破って突入するのが彼らの役目⋯⋯これもまた、ネルク王国のお貴族様の慣例である。
本来は片側に「ホスト側の護衛」が、もう片側の部屋に「客側の護衛」が入るのだが、これは貴族同士の場合であって、普通の商人には適用されない。ここに来ているのがシンザキ会長ぐらいの大物だったら話も変わってきそうだが、こちらはあくまで新規の商会、挨拶に来たのもただの社員である。
⋯⋯というか、そもそも論で言うならば、こんな部屋に通される立場ではないはずなのだが⋯⋯
ナナセさんも内心では緊張しているのだろうが、表面上はあくまで怜悧なまま、凛として背筋を伸ばしている。すごい立派⋯⋯本当に新入社員? 頼もしすぎりゅ⋯⋯
一方、ブラジオスさんのほうは、そもそもあんまり緊張してなさそう。
他国の侯爵家に仕えていた人だし、その前は「不帰の矢の量産を停止するよう、上層部に求めた」というレベルの硬骨の士。だいぶ覚悟がキマってそうである。
あとヘンリエッタ嬢という「純血の魔族」あたりと比べたら、高位貴族もそんなに⋯⋯怖くないとまでは言わないが、対処可能な範囲ということであろう。
落ち着き払ったブラジオスさんの様子は、ナナセさんから見ても心強いものだったらしく、ややもすると肩から力が抜けていった。
それから数分後にやってきたのは、身だしなみを整えた五十歳ほどの、身なりのいいお貴族様⋯⋯総白髪ながら、「老人」というにはちょっと若めな気もするので、たぶん元から銀髪なのだろう。
体つきは小柄、顔つきはちょっと険しめで、第一印象からして厳格な雰囲気。ちょっと怖い。「じろり」と睨まれたら竦み上がってしまいそうな迫力がある。
⋯⋯新入社員に対応してもらう相手ではなさそうだが、出てきてしまったからには仕方ない。
ナナセさん、がんばって! 猫が後ろについてるよ!(背後霊のごとく姿を消した状態で)
声を出さずにこっそり応援する社長をよそに、ナナセさんとブラジオスさんがソファから立ち上がり、無言で深々と一礼する。
「⋯⋯来訪ご苦労。公爵家当主のピルクード・ペルーラである。楽にしたまえ」
「恐れ入ります。トマティ商会より、新規開業のご挨拶にうかがいました、ナナセ・シンザキと申します」
「同じく、社員のブラジオス・オルディールです。お会いできてたいへん光栄に存じます」
公爵様の第一声を待ってから、ナナセさん達が口を開いた。ここまでの高位貴族相手になると、まず「発言の許可」に類するお言葉を貰ってからでないと、挨拶すら恐れ多い⋯⋯ということらしい。
仮に貴族の立場で来ていたら、むしろ直立不動で出迎え、「◯◯家の◯◯です。ピルクード公爵閣下におかれましては、ご機嫌うるわしく⋯⋯」みたいな感じで対応する。TPOが難しすぎる。
「にゃーん」と鳴いて擦り寄れば良いだけの猫は気楽なものである。
ピルクード・ペルーラ公爵がソファに座り、目線で着席の指示を出すのにあわせて、ナナセさん達も背筋を伸ばして浅めに腰掛けた。このあたりの挙動は前世とあんま変わらんな⋯⋯
俺も姿を隠したまま、背筋を伸ばして床に正座しておく。気分の問題である。
ナナセさん達と公爵様の会談は、こうしてある程度の緊張感をもって始まった。
§
――ピルクード・ペルーラ公爵はこの日、若干の「恐怖」をもって、新規商会からの使者を迎えていた。
通常ならば、公爵自身が新しい商会からの使者に対応することなど、もちろん有り得ない。
だが今回ばかりは⋯⋯あらゆる前提となる情報が、あまりに不穏すぎる。
トマティ商会。
僻地に本社を構えるその商会に関して、得られている情報はさほど多くない。
書類上の社長は正体不明のルーク・トマティなる人物だが、おそらくは偽名である。正体は王族か、貴族か、魔導師か⋯⋯いずれにせよ、只者ではあるまい。
出資者には、魔導閥の秘蔵っ子、次期宮廷魔導師の「アイシャ・アクエリア」と、昨年、内乱を防いだ功績でその人格を讃えられた王弟「ロレンス・ネルク・レナード」が名を連ねている。
もうこの時点でただの商会ではない。
当然、アイシャの背後には後援者としてルーシャン・ワーズワースがいるだろうし、ロレンスの背後にはおそらく現国王のリオレットがいる。
そもそも国王のリオレットは魔導師であり、ルーシャンの弟子でもある。
妹弟子のアイシャ、実弟のロレンスがともに「一つの商会」を支えようとしている⋯⋯つまりは国策企業と見ていい。
去年の時点では「王弟ロレンスを囲い込むつもりか?」程度に捉えていたが⋯⋯年末から今年にかけて、状況が大きく変わった。
「リーデルハイン騎士団が戦地に持ち込んでいた『トマト様』なる野菜を、魔族オズワルドが激賞し欲した」
「その縁で、王弟ロレンスとリーデルハイン子爵家の子女らのホルト皇国留学を、魔族オズワルドが転移魔法で支援した」
「リーデルハイン子爵領で、新規の迷宮と有翼人の集落が発見された」
「主な産品は魔導閥の利権となる貴重な『琥珀』で、王の指示により冒険者ギルドも支部を設置する方向で動いている」
⋯⋯すべての流れがつながった時、多くの貴族が戦慄した。
無論、ピルクードも例外ではない。
高位の貴族達は、世間には知られていないいくつかの情報を知っている。
正妃ラライナが、第二王子だった頃のリオレットの暗殺を正弦教団に依頼したこと――その暗殺計画が優秀な護衛達に阻まれ、正弦教団のトップである魔族オズワルドが自ら対応に入ろうとした矢先に、ロレンスが会議の席で「リオレットを支持する」旨を表明した。
当人から梯子を外されたことで暗殺計画は頓挫、さらにはこの計画がどこからか高位貴族達に漏れたことで、ラライナも政治的に失脚した。
因果関係の前後は推測するしかないが⋯⋯
おそらくこの時点で、「宮廷魔導師ルーシャンとリオレット、ロレンス」達は、「魔族オズワルド」との協力関係をもう結んでいたのだ。(※ピルクード公爵の推論です)
そもそも純血の魔族が一王族の暗殺に手こずるなど有り得ず、つまりは「暗殺依頼を請け負った上で、わざと見逃した」としか考えられない。
新規の迷宮発見もおそらく偶然ではない。
こちらの発見者はライゼー・リーデルハイン子爵ということになっているが、落星熊が生息するドラウダ山地の探索など容易にできることではない。ここにもおそらく、魔族オズワルドが何らかの形で関わっている。(※関わってません)
時系列を整理した上での「もっとも有り得る流れ」として⋯⋯ピルクード公爵をはじめとするネルク王国の上位者達は、以下のような推測を立てている。
昨年の春、正妃ラライナから「リオレットの暗殺」を依頼された魔族オズワルドは、逆に宮廷魔導師ルーシャンや暗殺対象のリオレットとの縁を結んでしまい、当時の第三王子ロレンスをも説得して味方に引き込んだ。
その見返りとして、ロレンスがこの時点で『ホルト皇国への留学』を希望していた可能性もある。(※ない)
その後の情報を精査することで、「この両者を結びつけた存在」にも行き着いた。
これがおそらくは、ライゼー・リーデルハイン子爵――
オズワルドとライゼーの出会いは、戦地でのトマト様を介したやり取りが最初だとされている。
しかしながら、もしもそれが『トマト様を宣伝するための茶番劇』でしかなく、「リオレット陛下」「王弟ロレンス殿下」「宮廷魔導師ルーシャン」「魔族オズワルド」の間に、早い段階から交流があったと仮定した場合――四者間の「連絡役」、あるいは「調整役」をライゼー子爵が担っていたと考えれば、すべてがスムーズにつながるのだ。
昨春、ライゼー子爵は王都に来てすぐ、「宮廷魔導師ルーシャン」からの招きを受けた記録がある。
この時は「トマト様」なる作物のサンプル提供という名目で、これはまぁ、薬草などの研究もする魔導研究所にとっては、特に不自然ではない話だが⋯⋯今にして思い返せば、「この時」に何か、重要な話し合いがあったものと推測できる。
その後のライゼーは、正妃からも呼び出しを受けて軍閥と正妃閥を結ぶ連絡役となり、軍閥内部では「正妃とロレンスの助命」を強く主張し続けた。
さらに王位確定後のパレードでは、王弟ロレンスの護衛を行い、オルケスト移住のための送迎までおこなった。
この時、わざわざペズン伯爵と馬車を共にしていたことから、道中でなんらかの密談をしていたと思われる。
そしてホルト皇国の留学には、ロレンスと歳の近い娘クラリスに加え、次期領主となる息子のクロードまでをも同行させ⋯⋯魔族オズワルドが、『トマト様の礼に』という建前で、その送迎を担当した。
留学には魔導閥からも人員が加わっており、もはやロレンスとルーシャンとライゼー、オズワルド達の蜜月ぶりは疑うべくもない。
事実をこうして並べ立てるだけで、見えてくるものがある。(※だいたい猫のせい)
結論として――
(トマティ商会の設立には、魔族オズワルドが深く関わっている⋯⋯)
ピルクード公爵はそう確信している。
問題は、その関係性が『どの程度のもの』なのかだ。
それこそオズワルド自身が社長なのか。あるいは単なる友人なのか。はたまた、商会は正弦教団の下部組織として設立され、国王やルーシャンも魔族を恐れてこれを黙認せざるを得なかったのか⋯⋯
いずれにしても、「新規のダンジョン発見」という利権に喜んでばかりはいられない。その「利権」の根っこが、魔族によってもう握られているとすれば⋯⋯下手な介入をすれば、こちらが粛清されてしまう。
⋯⋯いや、介入せずとも、「不要」「無用」「邪魔」などと断じられれば、ペルーラ公爵家は自分の代で絶えるだろう。
それでも新規の迷宮は、国の財政を立て直すのに必要だ。税務閥を率いる立場として、これをみすみす捨てるわけにはいかない。
迎合はできない。対立もできない。必要なのは「交渉」で⋯⋯しかも相手には、前向きに納得してもらわなければならない。強制や威圧はその背後にいる魔族を怒らせ、我が身を滅ぼすことにつながる。
ゆえにピルクード公爵は、この日、極度の緊張感をもって『新規商会からの使者』を迎えていた。
⋯⋯まずは「相手の出方」を見る。
そのつもりで心労を隠し、無意識のうちに相手を睨みつけた時。
彼は自分の胸に、唐突な激痛を覚えた。
まるで心臓が焼けつくような、喉を締め潰されるような⋯⋯そして呼吸が詰まり、冷や汗がぶわりとわいて、視界が大きく揺れはじめる。
極度の緊張とストレス、加齢、高血圧、それら諸々の複合要因によって――あるいは何の前触れもなく唐突に引き起こされることもある、突発的な病変。
すなわち、「急性心筋梗塞」である。
いつも応援ありがとうございます!
三國先生のコミック版猫魔導師・五巻の発売日がいよいよ近づいてきまして、アイシャさんにサンドイッチを振る舞う書影も出たようです。9/12予定ですのでまだ二週間ほどありますが、店頭でお見かけの際にはよしなにー。
そしてニコニコ漫画の十周年企画、「コメント秀逸まんが」特集でも取り上げていただきまして、23話までを期間限定一挙公開中!
いつもコメントくださってる皆様に感謝です。でも猫のお風呂シーンであんなに盛り上がるのはいろいろ想定外でした(冷静)




