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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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231・~ねこさんぽVS忍者~ 炸裂!忍法・猫隠し!


 唐突ながら、ここで「ペットを飼う時の注意点」を皆様にお伝えしておきたい。


 おいしい餌やトイレの世話といった最低限のご奉仕は当然として、それぞれの生き物の生態に応じたムーブが必要なのはもちろんであるが――

 ある程度、どんな生き物にも共通するマナーとして、「急な行動をして、びっくりさせない」というのがある。


 ペット側もそれをされると、自己防衛のためにうっかり噛みついたり引っ掻いたりといった反射的な行動をしてしまう例が多く、これは飼い主の安全のためにもよろしくない。

 特に爬虫類系の飼育者などは、この習性をよく熟知していることだろう。あの子ら、そもそもそんなに目が良くないので、餌と指を見間違えるとか日常茶飯事なのである。


 猫さんも同様で、急に扉を「バァン!」と開けたりしない、近づく時は控えめに足音や声を出して飼い主の位置をそれとなく気づかせる、いきなり飛びついて「猫チャン!猫チャン!」とか猫吸いして荒ぶらないといった、飼い主側の気遣いが必須である。すべての猫飼いさんはクラリス様の落ち着きぶりとかリルフィ様のおしとやかな発声を見習うべきなのだ。


 ……ルーシャン様? いえ、あの領域はちょっと人類にはまだ早いんじゃないかな、って――


 ともあれ「急な行動でペットをびっくりさせない」というのは、とても大切なことなのだ。


 人類聞いてる? お前らだお前ら。そこの急にロケランみたいなの撃ったヤツ×4組!


 ご丁寧に四方向に分散し、「どれか一本でも当たれば大惨事!」みたいな状況に持ち込んだ上で、タイマー的な魔道具で時間あわせてまで一斉射しやがって! 貴様らに猫を飼う資格はねぇ!(暴論)


 ……オーガス君が不審者に気づくのが、あと少しでも遅れていたら。

 クロード様の連絡が、ほんの数秒遅かったら。

 猫が『じんぶつずかん』チェックで『アロケイルの新兵器』『不帰の矢』『広範囲に瘴気を撒き散らす』あたりの記述を見逃していたら――


 どれか一つでも歯車がズレていたら、大惨事確定であった。


 ……むしろもっと早い段階で察知できていても良かったのでは? 猫はいぶかしんだ。

 なんか厚着している人類を見て「ふふ……寒がりさん♪」とかほのぼの見守っていた猫がいるらしいんスよ。

 ……俺だよ畜生ッ!


 ともあれ、群衆のどこに潜伏しているかわからない下手人どもを割り出す余裕すらないまま、競技場内のどこかから、階段状の貴賓席に向けて『不帰の矢』が四本、ほぼ一斉に発射され――


 猫は驚きつつも咄嗟の指示を出した。

 黒猫魔導部隊には魔力障壁を展開させ、サバトラ抜刀隊に不審人物の制圧を指示すると同時に、白猫聖騎士隊に防備を固めさせて、ブチ猫航空隊にスクランブルをかけて飛んできた矢を掴み取りさせた。あの「フギャーーーッ!」はすべての指示を内包した短縮言語である。悲鳴とも言う。


 …………ていうか、最後のよく成功したな? 猫さんの反射神経をもってしてもかなりの離れ業では?

 むしろそれに失敗することを前提に魔力障壁を展開させたのだが、あのトップガンどもはナイスガイにも程がある。成功率3%くらいのミッションを鼻歌まじりに成功させるエースパイロットか?


 いや、モノがモノだけに肉球ミサイルで撃墜とか爆発とかさせられず、かなり無茶な要求を出した自覚はあるのだが……彼らはあっという間に矢と相対速度をあわせて、起爆装置に衝撃を与えぬよう、横から掴み取った。にくきゅうすごい。


 人々の緊急避難に備えてキャットデリバリーも待機させたが、こちらは出番なく「にゃーん」と頭上の航空ショーに拍手喝采。それはブルー◯ンパルスを見上げる人類の挙動なんよ。


 矢を確保したトップガン達は「とったどー」と言わんばかりにトロフィーを掲げ、そのまま優雅に低速で旋回中である。まぁ……置き場所がないだけだ。どうしたらいいのアレ……? 風魔法による矢の推進力が切れるまでは、うっかり回収もしにくい。あと数秒はそのままで……すみません。


 とりあえず時限装置などはないし、先端が押し込まれなければ破裂しないようなのだが……まったく厄介なもんを持ち込んでくれたものである。


 さて。次の問題は……この(ほぼ)無差別的なテロをやらかしてくれた下手人どもへの対応か。


『不帰の矢』が発射された地点は、競技場内の四箇所。


 うち二箇所は作業着姿で計測器具を持ち、隅っこでなんらかの工事の準備をしているふりをして……分解し持ち運んでいた「魔導弓」をその場で組み立て、発射にこぎつけたようである。

 まったくの新兵器であるため、周囲の目撃者もそれが「兵器」とは思わなかったのだろう。弓にしては弦もないし、矢には鏃もついていない。その正体を知らなければ、とても人を殺せるような代物には見えないのだ。


 残る二組は一般客に偽装していた。

 露店の物資の傍や、あえて人が密集している場所などにゆっくりと陣取り、仲間内で「実は最近、ちょっとおもしろい玩具を手に入れましてね?」みたいな感じでいかにもほがらかに会話しつつ、堂々とロケランを組み立てて構えた。

 向けた先が「トゥリーダ様のいる放送ブース」ではなく「その真反対側」だったことも、周囲の人々が油断した一因か。

 

 これに加えて、警備の目を引きつけるための「あえて不審者感丸出し」の陽動班が一組いて、クロード様達が見つけたのはこの人達。もちろん彼らが背負っていたのはただのレジャーシートである。花柄のね……こう、けっこうファンシーなやつ……


 この総勢十数名の『水蓮会構成員』が、今回の下手人なわけだが。


 ……いや、陽動班がいなかったらホントにヤバかった……今回ばかりは、彼らの計画を覗ける『じんぶつずかん』さんの超ファインプレーでもある。いろいろな偶然が重なった末の、まさに薄氷の阻止であった……


 こんなクソみたいなQTE(※クイックタイムイベント)を仕掛けてくれた犯人どもは今、すでにサバトラ抜刀隊と白猫聖騎士隊によって制圧済である。


 魔力のゴザで簀巻きにしてぐるぐると拘束し、ホワイトタイガーがその上に「のしっ」と乗っかっている。

 サバトラ抜刀隊の峰打ちによって昏倒しているため、逃亡の心配はもうなかろうが……ラズール学園側の衛兵達へ引き渡すまでは、決して油断できぬ。他の仲間……は、いないっぽいが、そもそも決死の覚悟で突入してきた連中であり、気構えが違う。


 ひとまず犯人は確保したので、次は――さきほどからひっきりなしに届いているメッセンジャーキャットさん経由の悲鳴にも対処せねばなるまい。


『ルーク様……! ルーク様、聞こえてます!? なんですかコレ! なんなんですか!?』


 トゥリーダ様はマイクをオフにし、声を押し殺して囁くような美声を届けてくださった。ごめん。まじごめん。


『よくわかんないけど、もう終わった感じ? 何かやることあったら言ってねー』


 スイール様は全然動じてない……やはり大物である。


『……ルークさん、あの。こっちにも何か、指示はありますか……?』


 クロード様は諦めモードに入ってる。陽動班の不審者三人組も簀巻きになって転がされ、見えている猫さん達からペシペシされている最中なので……まぁ、察しはついているのだろう。


『あははっ。もしかして助けてくれたの? ありがとうねー!』

『ご褒美です。たーんとお食べ』


 放送ブースの傍で待機してるポルカちゃんは、黒猫魔導部隊の猫さんを猫可愛がり中。マズルカちゃんは常備のおやつで餌付けしないで? 必要以上に懐いちゃうから……


『あの、ルーク様……ひとまず、トゥリーダ様を通じて状況説明と……この場をおさめる仮説のようなものを放送してはいかがでしょうか……?』


 バロウズ猊下! ご指摘ありがとうたすかる! 猫としても「どうすんだこの空気!」と戸惑っていたので、このくらいの大雑把な指針でも助言がもらえると本当に助かる。

 実際、トゥリーダ様もかなり困っているようなので、お仲間には一括で事情説明と当座の緊急対応についてお伝えせねばならぬ。


『えー。お騒がせしてすみません! 実は「水蓮会」という組織の決死隊が、報復のために貴賓席の貴族を襲おうとしていたのです。かなり厄介な魔道具を使用されてしまったので、私の手勢に緊急の指示をだして取り押さえました。もう大丈夫とは思いますが……』


 俺が話している途中で、放送ブースが騒がしくなった。向こうの室内の声が、中忍三兄弟(放送スタッフ)経由で聞こえてくる。


『失礼いたします! 状況は不明ですが、緊急事態ですので……我々が安全な場所まで誘導しますので、トゥリーダ様とマードック学園長は、こちらへの避難をお願いいたします!』


 おっと。どうやら学園側の衛兵達が駆けつけたらしい。先頭は女性だが、はきはきとしたきれいな声である。

 ラズール学園において、女性の衛兵は多くはないが珍しくもない。そもそも女子の学生が多いので、いわゆる性被害やらセンシティブな案件にも対応する必要があるためだろう。いわゆる婦警さんみたいな立ち位置である。

 これは放送も一時中断やな……と思ったら、なんか様子が変。


『ちょっと待った。あんたら、ラズール学園の衛兵か?』


 ん? ヨルダ様のお声である。一兵卒のふりをして、何か起きない限りはおとなしくしておく、というお話だったが……


『は。そうです。所属は警備部、ペドロ部長の指揮下にあります』


 がちゃっ、と抜剣の音……


『なるほど、偽装用の調査も万全と……おい、ブルト。後ろの三人は任せる。俺はこいつを取り押さえるだけで手一杯になりそうだ』


『えっ……い、いや、ヨルダの旦那、どういうことです――?』


『こいつらは衛兵じゃない。どっかの誰かが雇った暗殺者だろう。特に目の前のこいつの腕前は、俺と互角かそれ以上だな。スイール様とパスカル、シャムラーグは要人の警護に集中してくれ。こいつらたぶん、飛び道具も使う』


 何やってんのそっち!?


 俺は北側の貴賓席から反転し、慌てて競技場を挟んだ南側の観客席、その中ほどに位置する放送ブースへウィンドキャットさんを急行させる。

 分厚いガラスの向こうでは、トゥリーダ様や学園長を背にかばい、ヨルダ様とケーナインズが数人の衛兵達(偽)と対峙していた。


「な、何をおっしゃるのですか! 我々は皆様の安全のために駆けつけただけで――」


「どうせ移動中に伏兵でも仕込んで、護衛と分断させる気だったんだろう? お前らだけでも充分な戦力だろうに、念入りなことだ」


 スイール様まで席を立ち、ヨルダ様の斜め後ろに立った。背は低いのにちゃんと威圧感がある!


「もしかして私を警戒したのかな? で、どこの人?」


 スイール様の左右をカバーするように、パスカルさんとシャムラーグさんも短剣を抜き放ち身構えた。魔導師の防衛には近接戦ができる壁役が重要。ちゃんとセオリーをわかっている!


 完全に戦闘準備が整ってしまい、四人の衛兵(偽)は無言……

 互いに隙を探る膠着状態が発生した。


 この間に俺も、衛兵の素性を緊急確認する。ヨルダ様の目を疑うわけではないが、本当に状況がわからなすぎる。

 水蓮会が狙っていたのはあくまで貴賓席にいるホルト皇国の貴族であって、彼らはトゥリーダ様のことなど眼中になかったはずなのだ。つまり、こっちの不審人物は水蓮会関係ではない。


 じんぶつずかん速読っ!


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■ カエデ・トレント (25)人間・メス

体力A 武力A

知力C 魔力B

統率C 精神C

猫力85


■適性■

剣術A 投擲術A 弓術B 鉄鎖術B

風属性B 火属性C 暗黒C 演技B


■特殊能力■

・瞬速

・幻刃


■称号■

紅河こうがの抜け忍

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 ……忍者じゃねぇか!(半ギレ)

 しかも魔法まで使えるからヨルダ様と互角以上ってのもガチじゃねぇか!(ガチギレ)


 そんな彼女らは『サクリシア』の商人貴族に雇われた抜け忍の集団である。


 今回は水蓮会に『不帰の矢』を盗品として横流しし、彼らを報復行動に駆り立てた上で、その騒動に紛れてあわよくばマードック学園長とトゥリーダ様を暗殺――その汚名を水蓮会側にかぶせ、魔族の怒りも彼らとホルト皇国に向けさせる算段だったらしい。


 あはははははは……


 ふざけんなよマジで!?(神ギレ)


「う、梅猫さん、加勢してください! アレほんとにヤバい子です!」

『ニャッ!』


 忍者剣豪梅猫さんも宙返りで姿を現し、ガンマイクから忍刀を抜き放った。

 たちまち先頭の偽衛兵さんが、目に見えて動揺し立ちすくむ。おそらく見覚えのある衣装(忍び装束)だったのだろう。


「えっ……ね、猫のシノ・ビ!?」


 ……まぁまぁ猫力もたけぇしな……そんな反応になるよね。

 そしてやる気満々のヨルダ様には悪いのだが、猫は今、とても忙しい! もう全部ぶん投げたい! 相手の足も思考も動揺のために止まっているし、足止め役の梅猫さんまで用意した。今ならイケる!


「猫魔法! キャットデリバリー!」

『にゃーん』


 四人の衛兵達(偽)は漏れなくダンボールに梱包され、そのままドラウダ山地に発送! しかるのち拘束!

 そのまましばらく落星熊(メテオベアー)さんに見張っていただくッ!


 この無体な勢いこそ猫魔法の真骨頂である。グリッチ系のRTAかな?

 発送と拘束の順序は逆でも良かったが、空蝉の術とか使われると厄介なので……とかく忍者は油断ならぬ。しかもメイジ・ニンジャとか絶対ヤバい相手である。


「あっ」


『卑怯忍法・猫隠し!』によって見せ場を完全に奪われたヨルダ様は、革兜を外して脱力……


「……おいおい、ルーク殿。そりゃないだろう……せっかく久々の、達人との立ち合いだったってのに……」


 これは周囲には聞こえぬ程度の小声だったが、もちろん俺にはちゃんと届いた。

 しかし残念ながら、猫さんは不意打ちへの対応でいっぱいいっぱいであり、そこまで配慮できる余裕はない!


 異国の地で急に勃発した「異世界忍者戦キジトラ」は俺の勝ちということで終了! 終わり! また来週ッ!


 ……せっかく登場した梅猫さんまで、なんか物足りなさそうな顔をしているのだが……とりあえずマイク係に戻ってもらっていい……? あ、すみません……なんか……はい……この埋め合わせは、後日必ず……


 自分が使った猫魔法を相手に、何故か下手に出るルークさん。

 中忍三兄弟からは「にゃーん」(いいよいいよ)「にゃーん」(大丈夫!)「にゃあー」(気にしないで!)と、逆に気を使われてしまった……みんなやさしい……NG(ねこゴッド)に寛容な熟練スタッフの貫禄か?

 

 かくして水蓮会によるお貴族様襲撃事件は未遂のまま終わり、その直後に起きたトゥリーダ様暗殺未遂も闇に葬られた。


 ようやく安堵した俺の猫耳に、飼い主たるクラリス様からメッセージが届く。


『……で、ルーク。どうやってみんなに説明するの?』


 眼下の競技場で、学生さん達と戯れつつ餌付けされる我が同胞達を見下ろし――俺はひっそりと、肉球で顔を覆うのだった。


その昔、世界忍者戦ジライヤという名作がありまして……

自分の忍者観はあれと真田太平記に培われているので、少々どころでなく偏ってます。ご了承ください。

具体的に言うと「真の忍者は磁光真空剣を使う剣の達人!」みたいな……?

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そのうち聖徳太子謹製の巨大ロボット登場でしょうか? あールークが作るならアニメ「キャッ党忍伝てやんでぇ」に登場した「ニャゴキング」あたりですかね?
ヨルダさん革兜を外して大丈夫? 身バレしない?
ジライヤ…名作ですよね。 電磁マンの、青梅としろう(デンジブルー)の人が主役で、リアタイで観たかったのに、当時の放送局の壁は地方人には高くて、涙を飲んだものでした。 串田さんの熱唱が耳に木霊する!カラ…
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