230・~ねこさんぽ黙示編~ おろかなじんるいへの警句
感想欄よりご指摘いただいて気づきました。四周年! いつも応援ありがとうございます!
……いやいやまだ三年目ぐらいですよきっとたぶんぜったい……だって本当ならもうとっくに書きあがってなきゃいけないはずの某陰陽がまだ脱稿できてない……(震え声)
週連載を甘く見ていたつもりはなかったのですが、結果、見込みが甘かったと痛感してます(ノДT) あっちはもうしばらくお時間を……!
さて、トゥリーダ様の公開生放送のほうは、学園長を相手に順調に会話が弾んでいた。
会場となるのは、入学式祭りでも活用されていた競技場。
こちらの競技場は、南側と北側に階段状の広い観客席が整備されており、そこだけ見ると前世にあった陸上競技場並に豪華である。
貴族用の貴賓席は南北両方にあるのだが、今日は「トゥリーダ様の姿が見える、対面の北側貴賓席」が人気なようだ。
トゥリーダ様や学園長達がいる「放送設備」を備えた貴賓席(特設ブース)は、南側観客席の中ほど。
ここだけは前面がガラス張りの広い部屋なので、眼下の競技場、及び対面の北側観客席からよく見える。ただちょっと遠いので、オペラグラスを使っているお貴族様もちらほらいる。
そして競技場の東西には観客席の切れ目があり、利用者が入退場しやすいように、ある程度、空間がひらけている。イベントによっては馬車なども出入りするのだろう。
学生の露店も今日はこの付近に出ており、なかなか盛況。
入学式の時は競技場の外周まで回るほど出店数が多かったのだが、今日はやはり急すぎたらしく、さすがに数は控えめだが……その分、一店舗あたりの集客率が高い。
貴賓席に入れない学生さん達はそこで買い食いをしながら、思い思いの場所で今回の放送を聞いている。
そして学内に響くは、トゥリーダ様の猫をかぶった外交用ボイス――
『レッドトマト商国の命名の由来は、「トマト様」という、赤くつややかで美しい作物なんです。これはネルク王国のリーデルハイン子爵領で、昨年の春に発見されたばかりの新種のお野菜だそうで……オズワルド様が、ネルク王国との国境でレッドワンドの反乱軍を諌めた際に、リーデルハイン家のライゼー子爵からこの実をご馳走になりました。そしてそのあまりの美味しさに感動し、苗を譲ってもらえるようにお願いしたそうです。その後、両国の友好の記念にと我々にも種と苗を分けていただき、砂神宮で栽培を開始したところ、これが非常によく育ちました』
トゥリーダ様の涼やかな聖女ボイスで語られる、トマト様の来歴……
その説得力、及び洗脳力たるや推して知るべしである。
砂神宮の人々がトマト様を称える様子、国号を決めるにあたっての様々な思案、荒れ地にも強く根を張るトマト様のお姿に、国の未来を重ねた思い――
そして貴重な特産品を快く譲ってもらえた恩を、国としても決して忘れぬようにという報恩の志をもって、この名を国に冠したこと。
もはや涙なくしては聞けない感動の一大叙事詩であり、空から見守る猫は万感の思いでこの放送を拝聴した。
なお、泣いてるのはルークさんだけで、おろかな人類は「へー、そんなことがあったんだー」ぐらいの反応である。
……まぁ、トマト様を直に食せば彼奴らの認識も変わるであろう。
まだトマト様を食べたことがない者は幸いである。これからその美味しさを知れるのだから。
……ポップコーン食べてる猫カフェ勢もあんまり感動してなさそうなのだが、みんなおかしくない? 人生に疲れて感情が摩耗してる感じ? まったくこれだから人類は!
しかしお若いクラリス様やロレンス様、リルフィ様などはとても楽しげなのでさすがである。
……あ? 感動に打ち震えるキジトラの姿もワイプで同時中継してるせい? そういう不都合な真実は伏せとこ?
さて、トマト様の宣伝告知も一段落し、トゥリーダ様達の対談は『ホルト皇国に対する印象』とか『学園を視察して思ったこと』などの時間帯へ入った。
いわゆる現地の国民へのリップサービスタイムであるが、印象作りのためには有用なので、誠実にこなしていただこう。実際、旧レッドワンドに比べるとこっちのほうが遥かに文明国なので、学ぶべきところは多い。あと学ばないほうがいいところもまぁまぁ多い……
ちょっとね……内部の対立とか利権の構造とかいろいろ知っちゃうとね……「国はある程度以上、大きくなると、内側から割れやすい」なんて説も聞く。
その意味でいうと、ホルト皇国は「今すぐ危機的状況!」というわけではないのだが、数年、数十年単位で状況を悪化させていきそうな危うさを感じる。
たぶん皇族はもうそれに気づいているのだが、東西諸侯は我が世の春に酔いすぎて、盛者必衰の理をまだ知らぬのだ――
レッドトマトの今後の外交にとってもここは難題である。
ホルト皇国そのものとは平和にやっていきたいが、これから何かやらかしそうな貴族とは距離をとりたいし……俺も『じんぶつずかん』をよくチェックして、トゥリーダ様達のタメにならぬ人材には気をつけねばなるまい。
でも交易を考えると東西諸侯、特に国の西側にいる貴族との縁は、地理条件の関係で必須なんだよなぁ……そもそも彼らの領地を通らねば荷を運べぬ。もちろん空輸とかないですし。
眼下の競技場・貴賓席にいる某お貴族様も、まぁひどいもんである。
たとえばバルカン侯爵家当主……西側諸侯の中でも上位のお貴族様なのだが、例の非合法組織・水蓮会とベッタベタ、ズッブズブの関係で、政敵への嫌がらせや圧力なんかもやらせていた模様。
それでいて水蓮会に捜査が入るとさっさと切り捨てにかかり、現在、保身の真っ最中。
詳しい内情を知る水蓮会側の幹部を、自殺に見せかけて殺したり……だいぶ恨み買ってそうだな? 相手のほうもまぁまぁ悪党だったようなので因果応報感はあるのだが、やってることはもはやヤクザの抗争だ。
そのバルカン侯爵家当主の近くの席には、先日お友達になったバロウズ大司教猊下も来ている。
彼にはサバトラ抜刀隊と黒猫魔導部隊の人員……獣員が念のために張りついており、今もその足元でじゃれあっているのだが、周囲は誰も気づいていない。
部隊が違ってもうちの子達は仲良しさんで微笑ましい。最近は草野球でも親睦を深めてるのだが、アレもまたチームワークを鍛える訓練であり、決して遊んでいるわけではないのだ。
さらに昨今のサバトラ抜刀隊は野球賭博にも爪を出しており、これも勝負勘を鍛えるための――無理があるな? 前世だったら君ら逮捕されてんな?
とはいえ、そもそもお金を持っていないので金銭等のやり取りはない。あるわけがない。ゆえに一体何を賭けているのか、謎は深まるばかりである……
貴賓席の別の場所には、双子ちゃんのパパであるラルゴ・クロムウェル伯爵の姿もあった。こちらは年上の貴族と隣り合い、何らかの密談をしている。貴賓席の椅子は余裕のある配置なので、ラルゴ氏はわざわざ従者用の椅子を使い距離を詰めていた。
さらに周囲を従者で囲み、盗み聞きされないようにしている。
……ちょっとだけ盗聴したろ。
『……ラルゴ伯爵、なんとかならぬか? 今回ばかりは賄賂が通じぬのだ。役人達が皆、魔族の報復を恐れて、誘いに乗ってこない――それどころか、賄賂を渡そうとした罪で逆に告発された家まであるようだし……』
『……私のほうでも、情報は集めておりますが……下手に動くと、かえって義父上の立場を悪くしかねません。そもそも今回の件は、南側の諸侯にとっても寝耳に水でしたので……皇家がどのあたりを落とし所にするつもりなのか、その真意を確かめるまでは、軽挙を慎むべきかと存じます。爵位を落とされる程度で済めば良しとするべきでしょう』
『本当に南方諸侯の政略ではないのか? ペットの誘拐なんぞ、捜査のきっかけを作るための、スパイによる自作自演だったのではないかと言われているぞ?』
……まぁ、こやつらが直接、指示していたわけではないし、傘下の小悪党が組織への上納金を稼ごうとして勝手にやらかした軽犯罪なので……こやつらがそう疑う余地はある。
だが、同じペットたるルークさん的には一族郎党「フカー!」レベルの大罪であり、それを「捜査のための自作自演」などと言われるのは不本意極まりない! 飼い主とペットは家族であり、家族を誘拐されればキレるのは当然。奴らは猫の逆毛に触れた。
さて、そんな感じで会場警備と監視に勤しむ猫さんであったが――ふと眼下の競技場に、巡回警備中のクロード様とオーガス君がいるのに気付いた。
二人とも制服姿で学生さん達に混ざっているため、警備関係者には見えぬ。予備員は腕章とかの目印もつけていないので、うまく埋没している。
……のだが、そのお二人は今、トゥリーダ様とは関係ない方向に視線を向けていた。
本日の競技場内は立ち入り自由となっており、学生さんや一般客が歩き回ったり立ち見したり行楽シートを敷いて座ったりしている。
一般客には学内の職員、生徒の父兄、新聞記者、商人に加えて、皇都の人達も混ざっており、盛況ではあるが歩きにくいほどではない。今日の放送は、学内ならば他の場所でも聞けるので、むしろ屋内のカフェや食堂などのほうが混雑しているかもしれない。
そんな競技場内でクロード様達が視線を向けているのは、まだ二十代前半の一般客×3。
一人は細長い筒状の手荷物を背負っているが、レジャー用の敷物を持ってきている人は多いので、これは特に目立たない。慣れた様子の新聞記者などは、わざわざ折り畳みの椅子まで持ち込んでいる。
みんな長めのコートを着用、ハンチングみたいな帽子を目深にかぶり、首元にはマフラーを巻いて口元を隠している。皇都ウォルテは冬でも割と暖かいので、これはちょっと珍しいスタイル。寒がりさんなのかな?
特に怪しい要素はなかったので、俺はそのままスルーしたのだが――
『……ルークさん、聞こえますか? 不審者がいます』
メッセンジャーキャットさんが届けてくれたクロード様のお声に、「えっ」と遅れて動揺した猫なのであった。
§
クロード・リーデルハインは、友人のオーガス・ペシュクと共に、学内の見回りをしていた。
指定範囲は「競技場周辺」で、ここは最重要区画だけに、もっとも多くの人員が配されている。
他の学生にまぎれての警護なので、屋台での買い食いもできるし、適当なところで座りながら放送を聞いていてもいい。
が、二人とも生来が真面目な性分であり――友人らしい何気ない会話をしながらも、競技場内を歩きまわって監視していた。
「思ったより街からの来客が多そうだ。トゥリーダ様の公開放送をやるのって、つい昨日、皇国議会で発表されたばかりなんだよね? みんな耳ざといな……」
オーガスはやや驚いた様子だった。
ラズール学園の校内では昨日のうちに放送で告知していたし、今朝になって新聞記事なども出回ったようだが、人が多い要因はそれだけではない。
貴族や商人はもちろん、切実に新国家の――むしろオズワルドの情報を求めている。
浄水教の関係筋にはバロウズ大司教が、「レッドトマトの元首がどんな人物か、我々も把握しておくべきだ」と伝えて回った。
また魔族オズワルドやファルケの指示で、正弦教団もトゥリーダに対して肯定的な口コミ中心の宣伝をしている。
そしてもう一点――
新入生のクロードとオーガスは知らないことだが、「ラズール学園における突発的なイベント」はそもそもの集客力が高い。
皇都の人々はかなりの割合で同学園の卒業生でもあり、若いころから「貴重なイベント」に対する感覚が磨かれている。こうした機会に学園まで足を運んで学生時代を懐かしむ層が、そこそこ多いのだ。
ゆえに皇族も気を利かせて、トゥリーダにこの企画を提案した。これは他の貴族には不可能な支援であり――『不帰の香箱』を秘密裏に処理してくれたオズワルドに対する、マードック学園長からの「礼」でもある。
留学生のクロードはそこまで深く察していなかったが、少なくともオズワルドは、今朝も上機嫌だった。
ともあれ、想定よりも多い来客数に戸惑いながら、クロードとオーガスはイベント会場となる第一競技場周辺を見回っていた。
「……クロード、ちょっといいか? あれ……」
オーガスが視線で示した先には、コートを着込んだ三人の男がいた。
一人は細長い筒状の荷物を背負い、あとの二人はそれとなく周囲を観察している。
傍目には「シートを広げられそうな場所を探して移動している」だけなので、さほど怪しいわけではない。
だが、オーガスは声をひそめた。
「……家族連れでもない、年の近い男三人組で、こんな場所にわざわざレジャーシートなんて持ち込むかな……?」
……若干、世知辛い偏見も混ざっていそうだが、言いたいことはわかる。人を外見で判断してはいけないが、そんなほのぼのとした人相でもない。和気藹々とした様子もなく、むしろ三人とも妙に目つきが鋭い。
「……短弓……じゃないな。短めの槍か何か入ってる?」
クロードの推測に、オーガスが首を傾げる。
「ちょっとここからじゃわからないかな……もしも魔道具の武器だったら、形状にもいろいろ融通が利くだろうし」
学園の門は関所のような機能を持っているため、基本的に外部から武器の持ち込みはできないが――警備や講義のための武器類は学内にも普通にあるし、貴族や商人の護身用程度なら許可が出る。また敷地側と皇都側の双方に人員がいれば、ロープなどを利用することで、夜間に壁を越えて物品の出し入れができてしまう。
もちろん見つかれば罰せられるが、ラズール学園はその広大さゆえに、外周すべてを監視するのは無理があった。
「ちょっと待って。念のため、ルークさんにも知らせる――ルークさん、聞こえますか? 不審者がいます」
少し間をおいて『えっ』と驚くような声が返ってきた。居眠りはしていなかったようで、ひとまず安堵する。ルークさえいればどうとでもなる――という油断は命取りだと肝に銘じているが、頼りになる存在なのは間違いない。
『ちょ、ちょっと待ってください。今、調べ……ほわぁ!?』
脳裏に変な声が届いた。メッセンジャーキャットはちゃんと仕事してくれているが、こんな無意味な通信まで届けてくれなくても……とは少し思う。
『ス、ストップ! クロード様、ステイです! そやつらは「わざと怪しいふり」をしている陽動班です! もしも警備が食いついたら、その間に本命の四組が別に動……ああああああ! もう動い……!』
何をどう調べたのか、それこそ読心術でも使ったかのように、いきなり核心に迫る助言が飛び出したが――相手の動きを見破ったにしては、ルークがやけに焦っている。
『ッ! フギャーーーッ!』
慌てふためく猫の、けたたましい鳴き声とともに――
その『異変』は、クロード達の目の前で起きてしまった。
§
浄水教の大司教、バロウズ・グロリアスは、つい先日、宗旨替えをした。
高貴なる水精霊様への信仰を失ったわけではないが、新たに出会った本物の『亜神』の威に触れ、寛大にも不敬を赦され、信徒の末席へと加えていただいたのだ。
本猫が「信仰はしなくていい」「宗教を作る気はない」と宣っておられるため、そのご意思を尊重し、バロウズも当面は今の立場のまま活動することになったが――
これからは神の声を直接聞き、その意思に沿って働くことを赦される。
しかもその神は、旧き友の子息と縁を持っていた。
かの友は、すでに病でこの世を去ったとのことだが――四十年前に死んだとばかり思っていた彼らが、その後も他国で安息の時間を得て、なおかつ立派な子息まで残していたことに、今更ながら救われた思いがある。
その子息は今、一兵卒のふりをして、トゥリーダという隣国の国家元首の護衛を務めていた。
バロウズのいる貴賓席から彼の姿は見えないが、おそらく部屋の前あたりに待機している。
マードック学園長とトゥリーダの対話は、この国の貴族達にとっての佳境へ差し掛かっていた。
『……つまりオズワルド様は、レッドワンドの軍部に無実の罪で囚われた御友人を救出し――その御友人からレッドワンドの状況を聞いて放置できぬと考え、手始めに砂神宮を占拠されたのですな?』
『はい。そしてその目的の一つが、人材の発掘だったようで……魔族の強襲という危急の事態に対し、誰がどう対応するかを見定めたかったようですね。私はたまたま、飢饉の状況調査のために移動中だったのですが、近くを通りがかったタイミングで砂神宮が襲われたと知り、そちらへ向かいました。
初対面では、私の無謀さに対し、少し厳しいことも言われましたが――飢饉への対応が急務という訴えを聞き入れていただき、そのための支援を約束してくださったのです。
支援物資の多くは、砂神宮やその周辺地域からかき集めたものでしたが、それでも足りない分は、豊作だったネルク王国からオズワルド様が買い付けてくださいました』
もちろん嘘である。ぜんぶ亜神ルークの加護だと、バロウズは知っている。
他の貴族が知らない真実を知っていることに優越感はなく、むしろ身が引き締まる。
亜神ルークは『目立つ』ことを嫌っている。皇国議会で「猫」について触れてしまった過去の自分は、良かれと思ってとんでもない間違いを犯していたのだ。
ルークの存在を隠蔽し、彼にとって都合の良い情報操作に荷担することが、今のバロウズにとってはせめてもの罪滅ぼしであり忠誠の証となる。この認識は外交官のリスターナ・フィオットとも一致しており、今後は彼と連携する機会が増えるだろう。また宮廷魔導師のスイール・スイーズも心強い味方である。
『オズワルド様とトゥリーダ様のご関係について、質問がきておりますな。お話をうかがっていると、御友人といって差し支えなさそうですが……』
『さすがに友人は恐れ多いですね。私としては……師匠、もしくは先生といった感覚が強いです。貧乏子爵家の当主でしかなかった私に、国家観や国の在り方、元首の役割などを教え、レッドトマトの新たな道を示してくださったのがオズワルド様です。その叡智には深く感服しておりますし、不出来な弟子と笑われぬよう、今後とも精進を――』
『ッ! フギャーーーッ!』
聖女のお言葉を遮る猫の威嚇が、上空から唐突に響いた。
それと同時に、競技場と貴賓席を埋め尽くす勢いで、ぬいぐるみのような猫達が一斉に姿を現す。
細めの剣を腰に携えた異国の剣士風なサバトラ、白いトラにまたがって純白の甲冑を着込んだ威風堂々たる白猫――
さらに外套をまとってつばの広い帽子をかぶった黒猫達が、手にした猫じゃらしを勇壮に掲げ、広大な魔力障壁を頭上へ展開する。
その障壁の向こうでは、どこからともなく飛来した四本の……矢ではないが、矢のように細長い物体が、奇妙な飛行物体に乗り込んだ猫の前足によって捕まえられていた。
鏃の代わりに、金属製の細長い筒がついている。矢羽の後ろからは風魔法によるものと思われる気流が生まれ、それが推進力を生んでいるようだったが――猫のほうが力が強いようで、矢の中程できれいに掴まれていた。
真剣白刃取りならぬ矢掴みの妙技であろうが、なんでそんな状況になっているのかは、いまいちよくわからない。
「何事だ!?」
「何がおきた!?」
「ね、ねこっ……!?」
場が騒然となる中で、隣にいた貴族が顔面蒼白に転じ、バロウズに向き直る。
「猊下! 貴殿が議会で仰っていた『猫』のような上位存在というのは、まさか……まさか、これが……!」
ルークさま。
嗚呼、ルークさま。
…………なんて答えたらいいですか?
途方に暮れる内心を柔らかな微笑で覆い隠し、バロウズ・グロリアス大司教は、猫からの託宣をひたすら待つばかりであった。
(単語の解説・goo辞書より引用)
■ 黙示
1 暗黙のうちに意思や考えを表すこと。「—の意思表示」
2 隠された真理を示すこと。特に、キリスト教で、神が人意を越えた真理や神意などを示すこと。啓示。
---------------------------------------------------------
つまり普通の猫さんがよくやってるやつです。
下僕の顔をてしてしして「おきろ、えさのじかんだ」とかそんなの。




