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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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220・たのしい議会見学(白目)


 ホルト皇国の皇国議会は、制度そのものが複雑怪奇である。


 特定の議員などはいない。派閥、あるいは部署を代表する貴族や官僚が、議題に応じて交代で参加するため、まずそれぞれの派閥や組織の中で「該当する議会における代表者」を巡る政争がある。

 それに勝ち抜いた、あるいは派閥の論理や諸々の都合で選ばれた者が、皇国議会に参加し、ここで意見を述べたり賛成、反対の票を投じる。


 派閥の上位者が「今回は自分が出席する」と言えば概ね通るが、これが続くと『独裁的』と見なされて人心が離れる。部下や下位の貴族にも適度に花をもたせる度量が求められるし、この裁量次第で『上司としての有能さ』も判断されることになる。


 代表者の決め方も派閥・部署ごとに異なり、部下からの立候補とプレゼンを経て上位者の合議で選定されることもあれば、ある程度、持ち回りで順番に回すこともある。あるいは「派閥への寄付金」によって参加権を購入する例もあり、これは有力商人が都合の良い貴族を議会へ送り込むための手段となっている。


 こうした性質上、派閥に属さず役職も得ていないような貴族には、議会へ参加する方法もない。

 ただし、「事情説明のための呼び出し」を受けた場合はもちろん別である。


「発言者、ネルク王国担当外交官、リスターナ・フィオット子爵」


 議長を補佐する役人に名を呼ばれ、外交官、リスターナは証言台に立つ。

 別に罪を犯したわけではないし、これからするのは「弁明」ではなく「報告」と「質疑応答」なのだが……正直に言えば、胃が痛い。


「外務省のリスターナ・フィオットです。昨年末、出向いていたネルク王国より帰還いたしました。経緯については、すでにご存知の方も多いかと思いますが……ネルク王国では先年、ハルフール陛下が崩御され、第二王子のリオレット様が即位されました。そして、第三王子から王弟へと立場を変えたロレンス様が、将来の国政への寄与を目指し、我がホルト皇国への留学を希望され――その御学友として、軍閥の有力貴族、リーデルハイン子爵家の嫡男とご令嬢達が選ばれました。そして私も、この方々に付き添う形で帰国した次第です」


 議場から集まる多数の視線にたじろぎつつ、なるべく淡々と話すリスターナへ、外務省の上司たるヒッチャー・ブラッドリー伯爵が「台本通り」の質問を投げる。


「リスターナ子爵。貴殿からの報告書によれば、帰国の手段は『純血の魔族、オズワルド・シ・バルジオ』様による転移魔法とあった。相違ないか?」


 議場が固唾かたずをのむ。

 今日の報告には、きちんと台本がある。なんと魔族オズワルド本人の監修まで受けている。


「はい。相違ありません。オズワルド様は、旧レッドワンド将国とネルク王国の、国境線での戦争に介入し……その際、リーデルハイン子爵家が所持していた『トマト様』という新種の野菜に興味をもたれたそうです。その苗木を譲渡された謝礼として、今回の留学生の送迎を申し出てくださいまして、私も入学手続きと案内のために同行を許されました」


 議場がどよめいた。

 上位の貴族達はもうとっくに把握している情報だし、下位の貴族でも耳ざとい者ならば噂程度に知っていたはずだが――『皇国議会』という公の場で、記録に残る形でこの説明がなされた意味は大きい。


 上司のヒッチャーが予定通りの質問を重ねる。


「ネルク王国が、オズワルド様の支配下にくだった――というわけではないのだな?」


「それはないようです。あくまでリーデルハイン子爵家との、新種の野菜を介した取引だったと把握しております」


「しかし、オズワルド様は国境で旧レッドワンドの軍勢を倒し、ネルク王国側に味方したという事実もある。これはどういう意図によるものだ?」


「それはそもそも、レッドワンドの一部貴族がオズワルド様を怒らせたことが原因です。彼らはオズワルド様の友人を無実の罪で捕縛し、収容所にいれていたとのことで……もちろん、その人物がオズワルド様の友人だとは知らなかったようですが、それで魔族の怒りを買い、遂には国として滅びました。このあたりの経緯は、以前の皇国議会でも報告済みとうかがっています」


「確かに。オズワルド様が、新たな国家元首、トゥリーダ・オルガーノ様に味方した経緯についても、既に報告は終わっている。つまり、ネルク王国とオズワルド様の間には、現状、さほど強い結びつきはないと?」


「国としてはそうなります。ただ、留学生のロレンス様やその他の方々との間には、極めて親しい交流があるようで……彼らもまた、オズワルド様から『友人』として認められております。もしも彼らに万が一のことがあれば、オズワルド様の怒りは我々、ホルト皇国にも向くでしょう。その逆に、丁重にもてなして実りある留学生活を送っていただければ……オズワルド様から我々に対する心証も、良くなるものと期待できます」


 議場がざわつく。

「あまりに危うい」「かといって、拒絶するという選択肢はなかろうし……」「学園側の警備体制は大丈夫なのか?」「他国はこのことを……」


「静粛に」


 私語が増え始めたことで、議長が木槌をカンカンと叩いた。

 彼は皇族――皇弟のジュリアンである。今日の議会は皇が欠席しているため、その代わりといってもいい。議題が『厄介な話』の場合、皇の威厳を守るために、あえて別の皇族を参加させるのが慣例化している。


「ヒッチャー伯爵。質問を続けなさい」


「は。リスターナ子爵、ネルク王国から来た御一行は、ホルト皇国に対して好意的と聞き及んでいる。彼らの人柄はどうか?」


「極めて善良です。留学期間中、彼らが自ら騒ぎを起こすことはまずないでしょう。もしいざこざが起きたとしたら、それはこちら側の何者かが無体を働いた時です」


 その後も『他の貴族へ状況を知らしめるための確認』は続き、いよいよ台本は消化され、本当の意味での『質疑応答』が始まった。

 つまり、他の出席者達が自由に質問を行い、外交官リスターナと上司のヒッチャーがこれに応じるという流れである。


 どんな質問が飛んできても、冷静に、真摯に対応しなければならない。


 まず挙手があり、その中で特に無視できない上位者達を中心に、議長が指名していく。


「まず確認をさせていただきたい。ネルク王国では先年、王位継承の折に内乱の危機があったとも聞いている。王弟ロレンス様の留学が実質的には『亡命』で、将来的にはこのホルト皇国での仕官、あるいは定住を考慮している可能性について、確認しておきたい」


「それはありません。現在の王、リオレット陛下とロレンス様の関係は良好で、今回の留学もあくまで、ロレンス様のご希望によるものです。ホルト皇国に学び、その成果を持ち帰ってネルク王国の国政に生かしたいというその御心に嘘はありません。また、警護役として同行しているリーデルハイン子爵家も軍閥の有力者であり、王からの信任が厚く、数年以内の陞爵しょうしゃくも予定されております。おそらく留学が終わる頃には伯爵家になっていることでしょう」


 議場の空気にまた少し変化が訪れた。

(警護役は子爵家風情か)と侮る空気が消え、思案顔が増える。


 次に指名された貴族は、さらに踏み込んだ問いをしてきた。


「一部で流れている噂話を、否定する論拠をいただきたい。その噂話というのは、『オズワルド様はこの短期間に、ネルク王国、レッドワンド将国の二国と深く関わり、さらに関係者をホルト皇国へ送り込んできた。これはホルト皇国を含む東方一帯を支配下におくための事前準備だ』という内容だ。私自身はこれを信じていないが、噂に踊らされ、無闇に警戒感を強めている者達もいる。リスターナ子爵はどのように考える?」


 魔族に敵視されぬよう、「自分は違うが」と前置きすることも忘れない。なかなかしたたかなその貴族は、バルカン侯爵家の取り巻きの伯爵である。質問の指示も、隣に座る侯爵から出たと見て間違いない。


「支配に興味なし、という魔族の方針は、特に変わっていないものと認識しております。私もオズワルド様御本人と言葉をかわしましたが、目的はあくまで『旧レッドワンド領の正常化、及びレッドトマト商国の支援』のようで、ネルク王国との関わりもその流れの中での巡り合わせでした」


 議長たる皇弟ジュリアンが、これに補足説明を加える。


「オズワルド様は昨年末、レイノルド皇とも面会し、レッドトマトと留学生達の件もその場で説明してくださった。私はたまたま不在だったが、妻のヴァネッサと、宮廷魔導師のスイールもそこに同席している。その会談ではレッドトマトの新しい元首、聖女トゥリーダ様を高く評価した上で、友好的な外交の樹立を要請された。魔族の戦力を考慮しても……仮に支配が目的ならば、こんな遠回しな手段をとるとは考えにくく、むしろ『レッドトマト商国』を近隣の国家に認めさせ、ホルト皇国を中心とした諸国の経済圏へ、穏便に組み込むことが目的と思われる」


 ……魔族オズワルドが『正弦教団』という下部組織を抱えていることを、一部の上位貴族は知っている。彼には戦争を仕掛けるよりも簡単に、より平和的かつ確実に儲ける手段がある――とも認識できている。


 とうのオズワルドはいまさら金儲けなどに頓着しない性格なのだが、そういった「目に見える利益」を相手の動機だと誤解しがちなのは貴族のさがで、この誤解は亜神ルーク達にとって都合が良い。

 この誤解が、「今のオズワルドに、ホルト皇国と敵対する気はない」という方針の裏付けになる。


 次に指名されたのは、浄水教の神殿から来たバロウズ・グロリアス大司教だった。大物であり、また貴族の流儀が通用しない相手でもあり、リスターナも緊張の度合いを深める。

 傍目には穏やかに、そして目を底光りさせ、齢六十四の大司教は説法のように話しだした。


「ネルク王国からの留学生に関して、質問をいたします。御一行の中に、『猫』はおられますかな?」


 意図のわからぬ質問に、議場が呆ける中――リスターナの胃が、きゅっと悲鳴を上げた。


 §


 はい、どーもー。毎度、ルークさんです。


 えー、今日はですね! オズワルド氏やファルケさんと合流して、「ホルト皇国の政治情勢に関して、ちょっとお勉強を!」と申し出たところ、「ちょうど皇国議会が開催されていて、リスターナが報告のために呼ばれているぞ?」とのことでしたので……


 ……クックックッ……この機会に有力者どもを一網打尽で『じんぶつずかん』に登録してくれるわ! と勢いづき、ウィンドキャットさんと一緒にステルス盛り盛りで議場の天井付近にこっそり紛れ込んで議会見学とシャレこんだわけなんですが!


 あ、ファルケさんとオズワルド氏には、猫カフェで待機していただいてます。また豆大福食べてる……ファルケさんまで……他のスイーツもご用意したのに……


 しかしまぁ、ホルト皇国の皇国議会というのは、なかなか荘厳な雰囲気である。

 ネルク王国の議会は「テーブルを配置し直しただけの大広間」みたいなとこでやってたのだが、こちらはちゃんと議場というか……「議場以外の使い道? ないよ?」みたいな割り切ったデザイン。


 さすがに造作は違うものの、方向性としては日本の国会議事堂にだいぶ近い。議長とか有力者とか証言者用の席が底部中央にあり、それを見下ろすように議員、もしくは参加者用の机と椅子が半円のすり鉢状に設置されている。天井は高く、机と椅子は固定式で動かせない。なんと評決を表示するためのスクリーン? 的な魔道具まで設置されている。要するにでっかい魔光鏡なのだが、お値段すごそう……


 収容人数はだいたい五百人くらいか? もうちょいいけるかもしれぬが、とりあえず偉そうな人から『じんぶつずかん』に登録していくのに忙しく、いちいち数える暇はない。『じんぶつずかん』はちゃんと相手の顔を見て、「この人は、えーと……」と意識していかないと登録されぬのだ。


 いつぞや外務省でお世話になったヒッチャー伯爵や、いつもお世話になってるリスターナ子爵が台本通りのやり取りで頑張っている中、猫は適当に飛び回りながら眼下の貴族どもを観察していった。


 ……それにしても居眠りしている議員が一人もいねぇな? 割と緊張感のある議会である。

 来週あたり、トゥリーダ様もこの場に立って、演説という名のご挨拶をやらされるそうなので、ちょっと録画しておいて後で見せてあげよう。ちゃんと気構えができるか、「やですぅー!」って泣き出すか、どっちかな……


 まぁ、オズワルド氏とウェルテル様の指導で演技は上手くなったはずだし、レッドトマトでも最近は威厳がついてきた気がしないでもないので……ないので……でもアドリブには弱いまんまだな……?


 俺も来週はまたポップコーンを食べながらトゥリーダ様の晴れ姿を見物する予定なのだが、ちょっと不安なので予行練習はがんばっていただきたい。


 そんな具合に猫が悪辣な謀略を進めていると、議長の皇弟ジュリアン様に指名された大司教さんが「一行の中に、猫はおられますかな?」と口にした。


 いるよ! かわいいペットだよ!


 ……と、そんな感じで無邪気にご挨拶できたら、どんなに楽だったことか……


「ふえっ!?」と変な鳴き声を漏らした俺だったが、これはウィンドキャットさんの風の結界に遮られ、外にまでは響かない。あざーす……


 こちらのバロウズ大司教、年齢的にはうちのルーシャン様と同世代だが、ヒゲがなく髪も短めに整えているので、見た目はもうちょっと若々しい。背も曲がってないし、やや小柄だが、いかにも「聖職者」っぽい清潔感のある佇まいである。


 俺は大急ぎで『じんぶつずかん』を展開し、発言者たるこの大司教の素性を確認。


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■ バロウズ・グロリアス(64)人間・オス

体力E 武力E

知力A 魔力C

統率A 精神C

猫力58


■適性■

政治B 話術B 商才B 神聖C 風属性C


■特殊能力■

・夢見の千里眼

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 ………………!?


 見覚えのある特殊能力! これアイシャさんとおんなじやつ!?

『夢見の千里眼』とは、地脈を通じて、遠隔地での大きな異変の光景(記憶)を覗き見る能力である。


 発動は偶発的で、意図的に使える能力ではない。予知能力などとは違い、あくまで『過去(しかも最近)に起きた大きな異変』を見る力である。アイシャさんは「大地に残された記憶が云々」とも言っていたので、リアルタイムで見るものでもない。ゆえに数日遅れで把握、みたいなこともあるようだが、一年とか二年とかさかのぼることはない。


 つまりこの人も、俺が「ヤバめの猫魔法を使った瞬間」を、夢の中で見た可能性がある!


 特殊能力というのは極めて珍しいものだが、決して「自分だけの専用スキル」ではない。

 世界の広さを思えば、似たような能力を持っている人が他にいても当然だし……たとえば有翼人さん達の「植生管理」のように、いわゆる獣人や亜人の種族特性みたいな感じで所持している例もある。


 ルークさんもこの可能性を失念していたわけではない。「実際にそういう人物が現れる」までは対処の仕様がなかったというだけの話なのだが……

 何もこんな、『皇国議会』なんて場所でいきなり遭遇しなくても! 注視している偉い人が多すぎてこちらも接触対応ができぬ。

 いきなりどっかに宅配して発言を封じるという最後の手段はあるが、それはそれで大騒ぎになってしまう。


 リスターナ子爵……! なんとか! なんとか切り抜けて!


 猫が祈るよーな気持ちでハラハラしている間にも、質疑応答が続く。


 眼下のリスターナ子爵は、しばし戸惑う様子を見せた。

 周囲から見れば、「どうして急に猫の話を?」という意味で困惑しているように見えたはずだが……リスターナ子爵本人にとってはもちろん、「どうしてわざわざそこに触れた!?」というガチめの動揺である。


「猫……ですか? えぇと……リーデルハイン子爵家の方々が、ペットの猫を連れておいでですが……それが何か?」


 バロウズ大司教は、にこにことやべぇ感じの笑顔を振りまく。弓術のアークフォート先生よりこっちのほうがよっぽどこえぇわ!


「理由を申し上げると、少々、長くなりますが……昨年の春、ネルク王国の王都にて『精霊同士の喧嘩』が起きたと、風の噂に聞きました。なんでも火魔法を駆使する謎の精霊が、貴族の娘に取り憑いてこれを操り――宮廷魔導師ルーシャン卿を守護する猫の精霊が、それを制圧して王都を守ったという……まるでお伽噺とぎばなしのような逸話でしてな」


 猫は丁寧に毛づくろいをする。にゃーん。にゃーん。にゃああああーーーーん。(ほぼ悲鳴)


 見てた! この人、『夢見の千里眼』であの光景を見てた! 『じんぶつずかん』にそう書いてある! ついでにハイパーネコ粒子砲も見てた! ガイアキャットさんの農地開拓RTA(バグありAny%)も、その後のキャットトルネードによる敵軍宅配物流サービス(送料無料)もぜんぶ見られてた!


 ウィンドキャットさんの背でごろごろと悶える猫さん……もうやめて! かわいい猫さんをこれ以上追い詰めないで!


 しかしバロウズ大司教は、世間話のように質問を続けた。


「外交官のリスターナ子爵はあの時期、ネルク王国の王都におられたはずですな? 猫の大群が王都を救った、この噂は事実でしょうか?」


「は……実のところ、真偽を確認する手段がなく……王家の公式発表はそのような形でしたが、それも民衆の混乱をおさめるための方便かもしれません。ただ、猫のような何かが王都を守ったという点に関しては事実でして……それが精霊だったのか、神獣や聖獣の類だったのか、はたまた猫のような姿をしていただけの、もっと別の存在だったのか……それこそ魔族の幻術という可能性も含めて、詳細は不明なままです」


 ……う、うむ。リスターナ子爵は、ちゃんと答えてくれている。下手に全部隠すと「こいつは嘘をついている」とバレてしまうので、話せる部分はきちんと話し、肝心なところはボカすという作戦である。ただ……今回ばかりは、相手が悪い。こいつもういろいろ知ってる……


 バロウズ大司教はにこやかに頷きながら、指を(わざとらしく)祈りの形に組んだ。


「詳細は不明……そうでしょうな。真に神聖なる存在の御意思を、人ごときの身で推測することはとても難しい……最初の問いに戻りますが、私が『御一行の中に猫はいるか』と問いかけたのは、その『神聖なる存在』が、猫を配下として人々を見守っているのではないか、という推測に至ったためです。そう考えるに至った理由については、長くなるのでこの場では省略いたしますが……オズワルド様もまた、その存在と交流を得ている可能性すらあるのです」


 ……猫はもう、白目を剥いてピクピクと震えるのみである……

 リスターナ子爵も真っ青であるが、これどうしたらいいの……?


「私がこの場で申し上げたいのは一点。皆様、『魔族オズワルド様』のみを、当座の脅威と捉えておいでのようですが……我が国のみならず、もしかしたらこの世界そのものが、『それ以上の存在』と直面している可能性は、常にあるのです。年寄りの妄言と思われることは百も承知で、遺言代わりに申し上げる。確認された事実にばかり振り回されていると、まだ知られてない、思いがけない真実から足をすくわれることもあるのです。それこそ、ただの猫一匹が、上位存在とつながっている可能性さえ――どうか皆様、ゆめゆめご油断召されぬよう」


 バロウズ大司教は一礼して着席。

耄碌もうろくしたか?」と鼻で嗤う貴族がいる一方で、真顔で考えこむ貴族もいる。

 後者はおそらく――水面下のいろんな情報を得ている、警戒心が強い有能系の貴族である。

 実際、レッドトマト商国で俺が農業指導をしていた光景については、目撃情報がこちらにも流れている。現時点では『デマ』『誤情報』という扱いになっているものの、大司教からの警告がこれに関連したものだと気づいた人もいそう。


 さほど追及もなく話が終わったので、リスターナ子爵のほうには肩透かし感もあるが、それはそれとして顔色はよろしくない。後でスイーツを……お高めのスイーツをご提供せねば――


 ……しかし、さしあたっての問題はこの何食わぬ顔をした大司教殿である。


 この場に俺がいることには気づいてなさそうだが、俺の存在そのものは知っている。今日は、『リスターナ子爵と俺がつながっているかどうか』を確認するべく、かまをかけて……それが当たったと確信中、みたいな感じか? 下手をすれば亜神や魔族の怒りを買う事態だろうに、よく思い切ったものである。


 バロウズ大司教の近況その他を『じんぶつずかん』で読み込みながら――

 俺は「さて」と考え込む。


 バロウズ・グロリアス大司教。

 彼はその温厚なお顔に、柔らかな微笑を湛えつつ――心の内側では、何故か完全に「決死の覚悟」をキメていらした。は? なんで?


 ……ホルト皇国、なんかコワイひと多くない……?


会報6号(小説六巻)の発売日まであと10日ほど!

改めてよろしくお願いしますと宣伝しつつ、10月に入ったというのに室温が普通に三十度オーバーで戦慄しております。秋……秋はどこ……?


気温の上下が激しい日々ですので、皆様もどうか体調管理にはお気をつけて――

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― 新着の感想 ―
もう俺だったら喋ってる最中に猫魔法で口封じしてる事案だよ!白目剥いてないで止めてよルークさん!って思ったけど本人も決死の覚悟とは。 いやほんとに何で?猫力低めだし要らぬ警戒という名の敵対心というか反抗…
[一言] 猫力低いからなぁ・・・うん、そんなバロウズ司教に一言  『ネコと和解せよ』 上位存在が猫の姿の何物かを送り込んできてるのは間違いないが その上位存在がよもや超越猫さんだとは思うまい
[一言] 猫って猫魔法を使えるんですよね ルークさんが錬成した猫魔法を、猫に教えることが可能なのだとバロウズさんは認識したのでは 実際どうぶつずかんで魔法使いの素質ある猫をピックアップしてストーンキ…
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