209・「入学式といえば屋台のたこ焼きだよね!」的な。
皇立ラズール学園の入学式。
それは学生達にとって一大イベントであり、すなわち稼ぎ時であり――要するに「お祭り」の日であった。
折しも年明け直後。年末年始にちょっと休んで、「そろそろ稼ごうか!」というちょうどいい時期でもあり……
「……以前に私のいた世界でも、こういう光景をたまに見ましたねぇ……『夏祭り』とか『初詣』というイベントの時だったんですけど」
でっかい陸上競技場の外周を二重に取り囲む露店の列。
軽食だけでなく、射的(※おもちゃの弓)、宝釣り、変なお面の屋台まで出ている。
季節は真冬だというのに、水属性魔導師による「かき氷屋」さんまであるのだが、皇都ウォルテの現在の気温は体感で二十度前後。暑くもなく寒くもなく快適なので、お客の入りは上々である。シロップは麦芽糖や果汁を使用したもののようだ。香料でうまく香りをつけている印象。
あとは占い小屋、野菜の直売、花屋、古本屋、雑貨屋など、前世感覚だとちょっと珍しい西洋系の露店もある。定番の綿菓子はさすがにないか……あ、うどん屋がある。
それらの露店はほぼすべてが学生によって運営されており、どうやら学内のサークルが活動資金を稼ぐために出店しているようだ。
看板にも「船舶研究会の大漁たこ焼き」とか「スイール様直伝・魔道具研究会のベビーカステラ」とか「森林探索会の虫除け安心マスク」とか、サークルの宣伝、勧誘も兼ねた文言が書かれている。文化祭の模擬店に近いノリか?
さっそくたこ焼きを買ってもらい、リルフィ様に食べさせていただく。今日は学生だけでなく保護者や来客もOKなので、みんなでお祭り見物をしているような感覚だ。たのしい。
……ついでにさっきから、どこか見覚えのある猫さん達が、付近の女子高生どもに「かわいー!」と餌付けされているよーな気がしないでもないのだが……俺には関係ない。観測さえしなければ事象は確定していない。だから餌付けされながらシュレディンガー音頭を踊るでない。ψが猫の爪でΦが猫の目だとかそういうこじつけもいらぬ。
(……えーと。入学式ってどこもこうなんです?)
黒猫魔導部隊(数匹)の盆踊りを必死に無視してクロード様へメッセージを飛ばすと、「いやいや」と即座に否定が返ってきた。
「少なくとも士官学校はもっと厳粛でしたし、ちゃんと席について偉い人の話とかを聞きます。ここが特殊すぎるんですよ。なんでこんなお祭り騒ぎになってるんですか……」
案内役として同行してくれた在校生のベルディナさんが、「あはは」と気が抜けたように笑った。
「人数が多すぎるからでしょうね。大昔は敷地内に集まって、よその学校と同じように式典をやっていたらしいんですが……いつの頃からか、完全に集客系のイベントになっちゃったみたいです。あ、そろそろ放送始まりますよ」
随所に設置された魔道具のスピーカーが、軽いノイズの後に軽快なサウンドを流し始めた。
それをBGMとして、ラジオのパーソナリティみたいな女子の音声が続く。
『新入生の皆さーん! ラズール学園へようこそー!』
『この放送は第一競技場貴賓席、特設ブースからお届けしています。さぁ、まずは開会のご挨拶! 学園長、景気よくお願いしまーす!』
これに続くは、中年男性と思しきバリトンボイス。
『はい、どーもー。学園長のマードック・ホルト・マーズだ。新入生の皆さん、ご入学おめでとう! これよりラズール学園、第二百三十八回入学式を始める。在校生諸君は火の元の扱いに気をつけて! 新入生諸君と来賓各位は希望に胸を膨らませて楽しんでくれ! ではまず恒例の一曲目、ラズール学園校歌、「星と月の夜」だ!』
そして流れ出すバロック調の音楽。前奏からして装飾多めで豪華絢爛なミュージック!
屋台の学生達も手を止め、その場で一斉に歌い出した。
びっくりしているのは新入生、それもたぶん留学生組だけだな?
歌は二分も経たずに終わり、再びパーソナリティが喋りだす。
『はーい、マードック学園長、開会の挨拶と、開幕の曲紹介をありがとうございました! 今日は引き続き、よろしくお願いしますね!』
『さて、ここで本日のタイムスケジュールを軽くご案内! 十時からは特別ゲスト、皇弟ジュリアン様と、奥方のヴァネッサ様を交えた対談が企画されています。お二人はこのラズール学園で知り合い結婚された卒業生! そのラブロマンスは有名ですよね。そして十二時からは皇立吹奏楽団による特別コンサート、十四時からは一部サークル・部活動の紹介。閉会、放送終了は十六時の予定です。みんなー、最後まで聞いてねー!』
『なお、競技場の西側には保健委員会が救護所を用意しておりますので、もしも気分が悪くなったり疲れてしまった方はお気軽にご利用ください。また、会場の見取り図は簡易版が無料、イベントや屋台の紹介を含めた詳細版は新聞部の販売品となっておりますので、こちらも必要に応じてご利用ください。それでは、次の曲――』
…………これ、ラジオの公開生放送だな……? いかにも猫さんらしい真顔で「スン……」となった俺とは裏腹に、ロレンス様やクラリス様は目をキラキラさせている。かわいい。
「まさか、式典がこのような形で進むなんて……この自由さがホルト皇国の国民性なのでしょうか?」
ロレンス様に問われたベルディナさんが、うーん、としばらく唸る。
「どちらかというと、ラズール学園独自の校風ですね……皇都育ちの私達にとってはこれが普通なので今更なんですが、留学生の方々は大抵、びっくりされます。催しはだいたいこの競技場中央のスペースでやりますので、基本的には外周の屋台を回りながら、興味があったら見に行く感じです。皇弟夫妻のトークショーはお姿を見に行く学生が多そうですし、ちょっと混雑しそうですね」
いっそ猫カフェに入ってもらって、竹猫さんのカメラ越しに見るべきか? ……いや、ライブ感を重視するならやはり現場が一番か。とにかく人が多いので、気軽に扉を出すわけにもいかぬ。
しかし、今日の入学式は「椅子に座っておとなしくしている皆様を、こっそり見守る」的な行動予定だったのだが……思いがけず、屋台飯を堪能できる機会が来てしまった。あ、リルフィ様、そこのチーズパンも買ってください。そうそうそれ。焼き立てで香ばしくておいしそう。
つい先日、リスターナ子爵の伝手で琥珀を少し売却できたので、今は懐が非常に温かい。いきなりでかいのを売ると騒ぎになりそうだったので、手頃なものをいくつか……それでも充分な収入になった。
そもそも日々の食費がコピーキャットのおかげでタダ同然なので、お金の使いどころが割と少ない。
一番の出費になると想定していた家賃も、「廃墟同然だった屋敷の改築費用と相殺」という流れでほぼ無料になってしまった。これはオズワルド氏への忖度も影響してそう。
そのオズワルド氏、昨日は所用で不在だったのだが、今日は同行している。なんとファルケさんも一緒である。
「昨日は災難だったな、ファルケ。まさか警護対象のほうからルーク殿に接触するとは……くくっ、やはりルーク殿は、若い娘と縁があるな?」
やめてください不可抗力です。俺が毛繕いでごまかしていると、ファルケさんが商人っぽい微笑で一礼した。
「は。しかし、結果的には幸運でした。今後は双子の警護に関しても、ルーク様からのご協力を得られます。オズワルド様にも、追加指示の手間をおかけしました」
ファルケさんは俺のことを、正弦教団側に報告できないので……オズワルド氏から正弦教団に対し、「クロムウェル伯爵家の双子に関しては、平時の監視役はファルケのみとし、交代要員は不要」と指示してくれたのだ。
表向きの理由は単純に「双子がリーデルハイン子爵家と縁を結んだため、オズワルド氏当人も陰ながら警護につくから」というもの。
元々、夜間までつきっきりで見張るような二十四時間体制の契約ではなく、交友関係の把握を含めた巡回監視のような方針だったので、この指示は通ったようである。
またエンハンス商会は、クロムウェル伯爵家以外にも複数の留学生の警護業務を請け負っており、「無理なく人員を回せるならそれはそれで」という感触だった模様。
(ところでオズワルド様は昨日、何やってたんです?)
「ああ、別の国の支部から救援要請がきてな。もう片付いたから大丈夫だ」
オズワルド氏も、暇なようで実は割と忙しい人かもしれぬ。口では冷徹ぶっていても面倒見いいんですよね……
(どんな内容か、軽く聞いてもいいですか?)
「貴族を一家族、転移魔法でこっちに亡命させた。例のほら……『アロケイル』だよ。首都と王家は壊滅したが僻地の貴族は健在で、周辺国からの圧力を受けつつ、内乱が始まった。で、その煽りを食って滅びかけていた家の一つが、正弦教団と懇意だったものだから……まぁ、アフターサービスの一環だな」
あろけいる……いつの間にかナレ死していたあの国か!
なんかヤバげな弓を開発し、それで魔族の親族を知らずに殺害してしまったせいで滅ぼされたとゆー……
そういや昨日のガイダンスで見かけた生徒の中に、そこの出身者がいたよーな気がする。顔も見たはずだが、とにかく人が多すぎたのでいまいち顔とプロフィールの記憶が一致していない。双子ちゃんというイレギュラーへの対応を優先したせいもある。
露店を回っているうちに、あっという間に時間が経ち――
途中、「新入生からのおたより」とか「在校生からのおたより」を読んで、パーソナリティや学園長がトークするという伝統芸能も繰り広げられたが、ラズール学園にコレを定着させたのは明らかに俺の同郷者であろう。
そうこうしているうちに、公開生放送で本日の目玉っぽいイベントが始まった。
『さぁ、ここで本日のスペシャルゲスト! ご夫婦揃ってラズール学園の卒業生でもあり、この学園で出会って愛を育まれたことで有名な、皇弟ジュリアン様と奥様のヴァネッサ様! いよいよ登場です!』
『……その紹介、本人達はけっこう恥ずかしいみたいだぞ……? 質問のほうは少し手加減してな?』
マードック学園長の地味なツッコミがささやかな笑いを誘う。学園長も皇族らしいので、親戚を招いたような感覚なのだろう。
ベルディナさんがちょっぴりそわそわ。
「あ、あの、皆様。もしご興味がありましたら、そこの競技場までいけば、貴賓席にいるお二人のお姿を見れますが……」
案内役という業務があるため率先して動くわけにはいかないが、内心では自分が見たいやつ!
クラリス様やリルフィ様も、察してくすりと微笑んだ。
「ええ、ぜひ。ホルト皇国の皇族の方々には興味があります」
「ルークさんもお腹いっぱいになったみたいですし、行きましょうか」
まぁまだ八分目だが、昼飯の分は空けておかんとな?
ちなみにたこ焼きはソースが出汁系でパンチには欠けたが、なかなか美味しかった。ケチャップや胡椒がない分、塩とハーブと魚介・肉系の出汁で生地から丁寧に味を調えていた印象である。
麦芽糖で甘味をつけた疑似ベビーカステラは、看板からして明らかにスイール様発案のレシピのようだったが……このたこ焼きのほうはもっと歴史が古いようで、やっぱり転生者の影響を感じる。
というわけで我々一行はぞろぞろと移動。同じことを考えた学生は多いようで、人波もそっちに流れていく。
「あ、ルークさんとみんな!」
「やっと合流できました」
ポルカちゃんとマズルカちゃん! 「入学式が終わったら落ち合おう」とは思っていたのだが、まさかこんな状態とは思っていなかったため……まぁ、いざとなったらサーチキャットさんに頼るつもりだった。
クラリス様とロレンス様が、並んで出迎える。
「おはようございます。ポルカ様、マズルカ様」
「お二人も皇弟夫妻を見に行かれるのですか?」
「おはよー! うん! やっぱりヴァネッサ様は見ておきたいよねー」
「ジュリアン様とのラブロマンスは演劇にもなりましたからね。あっちはだいぶ脚色されているみたいですが」
存命中にそれをやられるのは割と恥ずかしいな……?
「初めて会う人達もいるね? えっと……」
俺を抱えたリルフィ様とアイシャさんが前へ出る。お二人は昨日、水ちゃんやスイール様と浄水宮でお茶会をしていた。
「あ……リルフィ・リーデルハインです……クラリス様とクロード様の従姉でして……よろしくお願いします」
リルフィ様、優しげで儚げな微笑が今日もお美しい……
「どーもー。アイシャでーす。メイドやってまーす」
アイシャさん、にこにこしてるけどうそくせぇメイドだな……?
マズルカちゃんも首を傾げてしまう。
「お二人とも魔導師ですよね? それも、かなり優秀な」
クロード様が自身の口元に指を添えた。
「マズルカ様、ここは人が多いので、その話はまた後日……」
リルフィ様はともかく、アイシャさんの正体はあんまり大っぴらにできぬ。
次いでベルディナさん(在校生の先輩)とオズワルド氏(親戚のおじさん)も軽く紹介し、我々は改めて歩き出す。
「ネルク王国からの留学生の方々って大所帯なんだねー!」
「ポルカ、私達みたいに僻地から姉妹だけで来ているほうが少数派です。特にロレンス様は他国の王族なんですから、護衛もそれなりに必要でしょう」
この言葉に、逆にベルディナさんが驚いてしまう。
「えっ? クロムウェル伯爵家のご令嬢ですよね? まさか姉妹だけでいらしたんですか!? 従者などは……」
「学生寮だからそんな余裕ないよ!」
「うちは基本的に人手不足なので。皇都までの旅路も、知り合いの冒険者に護衛を頼みました」
「その人達がちょっと怪我したから、途中の温泉地で何日か療養してたんだよねー」
治安の良いホルト皇国ならでは、であろうか。それでもいくら冒険者の護衛つきとはいえ、伯爵家の令嬢達が従者もつけずに移動というのは違和感がある。この子らもなんか事情がありそうだな……?
露店の脇を抜けて競技場の中央スペースへ出ると、観客席の高いところにある貴賓席に複数の人影が見えた。
ラジオのパーソナリティっぽい制服姿の女子生徒が二人と、学園長らしきガタイのいいスーツの中年男性。
そして白くて豪華な長衣をまとった、二十代後半~三十代の美形な男女……え? は? 実年齢は五十六歳と六十三歳? 『じんぶつずかん』、バグってない?
……片方は先祖に亜神がいるから、片方は魔族の親戚だから、という理由の違いはあるが、どっちも外見年齢と実年齢に倍以上の開きがある。すげぇ……
『新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皇弟のジュリアンです』
『その妻のヴァネッサです。よろしくねぇ。で、こっちが護衛のスイールちゃん』
『……どうも。宮廷魔導師のスイール・スイーズです』
どこからともなく結構な勢いの歓声があがった。これは告知のないサプライズゲストに対する反応!
スイール様は「……急な仕事が」ということで我々と同行していなかったのだが、仕事ってコレか!
『私はあくまでお二人の警護です。いないものとして扱ってください』
スイール様は淡々とそう言ったが、女子生徒がマイクに向かって前のめりになる。
『まぁまぁまぁまぁそう言わずー! ご卒業されてからまだ十年ちょっと、教職員の中には在学中のスイール様をよく知っている方も多いです! ぜひいろんな思い出話をきかせてください!』
『……あー。在学中の話はちょっと……なんか尾鰭と背鰭どころか、そこに手足と鎧兜までつけたようなデマが流れているみたいなので――』
スイール様、我々といる時と違って声が死んでいる……これは普通にクールキャラだな? つまりこれが水ちゃんの言う、『体裁を保っちゃう時のスイールちゃん』なのだろう。
ヴァネッサ様が少し高めの声をあげた。
『あ! 私、気になってたことがあるの。在学中のことじゃないんだけど……ね、スイールちゃん、遂に内弟子をとったって本当?』
どよめき。
そしてスイール様の戸惑う声。
『ヴァネッサ様……どこで誰から聞いたんですか?』
『新年会で陛下が嬉しそうに話してたの。今年から官舎を出て、しばらくはラズール学園の敷地内に住むって聞いたけど、そのお弟子さんのためなんでしょう? 単位が関わる講義はやらないみたいだけど、特別講義くらいならやってくれるのかしら?』
我々にとっては既知のことであるが、一般大衆にとっての爆弾を次々に投下していくヴァネッサ様。よもや水ちゃんの系譜か? 信者ってやっぱり信仰対象に似てくるのかな……?
学園長もこの話題に食いついた。
『特別講義にはぜひ私も期待したいが、それはそれとして、スイール殿が内弟子をとるとは驚いた。そんなにすごい才能の持ち主を見つけたのか?』
『……そもそも私は人に教えるのが苦手ですし、弟子をとれるような人間でもありません。内弟子というのは他国の魔導師でして……私が教える以上に、私の側が学べることが多いと判断したのがきっかけです。
ホルト皇国の魔導技術は近隣で最先端と自負してはいますが、他国には他国の常識と研究があり、異文化間でこれをすり合わせることで、新たに見えてくるものがあるのではないかと――そんな身勝手な理由のために、内弟子の仕組みを利用しただけです』
皇弟ジュリアン様が驚く顔を見せた。
『つまりその弟子というのは、スイール自身が「学ぶべきものがある」と判断したほどに優秀な魔導師か』
『他国からラズール学園に留学できる時点で上澄みも上澄みです。ただ、そういう余計なプライドは邪魔になることも多いので……プライドが向上心の裏付けになればいいのですが、大抵の場合、視野を狭める枷にしかなりません。私が弟子にとった子達は真逆です。自分の実力に自信がなく、だから慢心もなく、それでいて研究には真摯に向き合うだけの覚悟を持っている――
そういう子達だから声をかけました。新入生の皆さんも、もし余計な慢心があるようなら今のうちに捨ててください。これからの学びにおいて、それはもっとも不要なものです』
なんか意外と教育者っぽいこと言ってるな? そしてスイール様がこれだけ饒舌に喋るのは珍しいようで、貴賓席のみんなが「おおお……」みたいな顔してる……特に大人三名は「こんなに成長して……」って娘か孫を見るみたいな顔してる……
『念のため宣言しておきますが、追加の弟子はとりません。それからむやみに弟子達のプライバシーを探るのもナシで。彼女達はホルト皇国には仕官せず、数年後には自分の国へ戻る身です。外交問題を避ける意味でも、決して失礼のないように願います』
――スイール様はさすがである。
今の短い会話で、スイール様は「情報の開示」とあわせて、いくつもの「予防線」をきっちりと張った。
開示した情報は「内弟子は他国の人間」「複数」「彼女達、つまり女性」「外交問題を意識する相手なら、たぶん貴族」というあたり……
リルフィ様とマリーンさんがいずれ特定されるのは問題ない。というより、そんなもん隠せるわけがないし、隠す意味がない。お二人を「スイール様の庇護下にいれる」という目的もあっての弟子入りなので、むしろバレないと意味がないのだ。
ただし悪目立ちは避けたいので、最初はボカす。それでいて、憶測や特定の過程で発生するデマ、噂話の類を牽制するために、ある程度の事実も開示した。
他国の貴族ということで、「ホルト皇国内の権力争いには無縁」「就職の勧誘も無意味」と示し、複数、しかも女性ということで「スイール様とのロマンスを含むゴシップ的な興味」も向かぬようにした……つまり流れで口を滑らせたわけではなく、「効果的な情報」を「必要なだけ」、きちんと熟慮した上で意図的に広げたのだ。
最後にプライバシーに対する配慮まで求め、予防線を完成させた。以降、コレを破った者はスイール様から敵認定されるぞ、という警告である。
これは前世も含めた年の功と言うべきだろう。彼女は決して、米に目が眩んだだけの合法ロリではないのだ……
双子がキラキラと貴賓席を見あげる。
「すごい! 生スイール様だ!」
「なんてうるわしいお姿……これだけでも皇都に来た甲斐がありました……!」
さすがに言い過ぎでは?
しかしこの双子ちゃんも魔導師だけあって、スイール様は憧れの存在だったようだ。昨日は不在だったし、まだ顔合わせもしてないけど、同居してるとバレたらびっくりされそう……
「でもスイール様の内弟子かぁ……留学生組で新入生ってことだよね? どんな人達なんだろ?」
ポルカちゃんが無邪気に問う中、姉のマズルカちゃんがじっと俺を見た。
「……猫さん。あとでちょっと、確認させてもらってもいいですか?」
……にゃーん。
この場で問い詰めてこないのは周囲の耳を警戒しての気遣いだろう。でもスイール様の開示した情報、「他国出身者で貴族で魔導師」となると、その時点で候補はかなり絞られるので……まぁ疑われるのは当然だし、実際当たっている。
貴賓席からの入学式トークショーはそのまま和やかに続き、皇族のコイバナに盛り上がる人類を横目に、猫は何食わぬ顔で毛繕いに勤しむのであった。
いよいよ梅雨が明けてしまい、猛暑の季節。
皆様も熱中症等お気をつけくだ……カルストンライトオ実装!?




