207・踊る猫に見る猫、同じ猫なら(略)
眼下で、おさかなさんが香ばしく焼けつつある……
その隣に、生のおさかなさんも並んでいる……
「どっちでも好きな方を食え」という意味なのはわかる……
わかるのだが、しかし……
「新入生ですか? こんなところで魚を焼かないでください。せめてあっちの公園とか……」
褐色肌の例の姉妹が、通りがかった若い警備員さんから注意を受けていた。
ポルカちゃんが目をうるうるさせて、指を組み合わせ懇願する。あざとぉい……
「見逃して、警備員さん! これは大事な儀式なの! 一見するとただの奇行に見えるかもしれないけど、ここじゃないとダメで、なおかつ必要なことなの!」
マズルカちゃんも伏し目がちに祈りを捧げ続ける。わざとらしーぃ……
「あと十分……十分だけ、時間をください。十分過ぎたら、ちゃんと片付けて撤収します……」
「えぇー……じゅ、十分だけ……? うーん……いや、でも……」
かわいい女の子二人から拝まれて、警備員さんも困惑気味である……おしごとおつかれさまです……
それでも頭ごなしに「問答無用! 撤収!」と強制しないのは、この世界に「魔法」や「儀式」の類が定着しているからだろうか。警備員の一存で何かやらかしてえらいことになったら……! という警戒感が透けて見える。
……まぁ、見るからに怪しい儀式だったらそれでも止めるのだろうが、ちっちゃな網の台で魚焼いてるだけですし?
あと、双子姉妹が貴族っぽいので尻込みしている感もある。
実際、僻地とはいえ伯爵家のご令嬢らしいので、警備員さん相手ならもっと居丈高でも不思議はないのだが……まぁ、悪い子達ではないのだろう。
そして猫のルークさんも、「……どーしたものか」と途方に暮れていた。
こちらの双子姉妹、どうやら「俺をおびき出す」ために、大講堂の近くで魚を焼くという作戦を選んだようなのだが……
まず、発想は子供っぽくて微笑ましい。実行してしまう行動力には懸念もあるが、飛び火しないように講堂からはちゃんと距離をとっているし、道路上ではなくその脇の空き地に陣取っているため、通行の邪魔にもなっていない。双方ともに優秀な魔導師のようなので、何かあっても対応可能だろう。
調理器具も、前世のキャンプ用品のような、折り畳み式の小さな一人用バーベキューコンロである。木炭を中に入れて、ポルカちゃんの火魔法で着火、火勢を管理……魔導師、やっぱ便利だな? 炭の状態を無視して、弱火も強火も思うがままに調節可能なようである。
そして学園内の人達も、毎年の留学生の奇行に慣れているのか、「なんだなんだ」と覗き込みはするものの、「魚を焼いているだけ」と知るとあっさりスルーしていく。
ぶっちゃけ、キッチンなしのワンルーム物件に住んでいる学生などが野外で調理する光景は、さして珍しくもなさそう。もちろん場所は選んで欲しい。
グルメなルークさんは、いかに炭火焼きとはいえ、素人の焼き魚程度に飛びついたりはしないし、今はおなかも空いていないのだが……なんか、こう……「自分のために用意してくれている」となると、心情的に放置しにくい。
かといって、わざわざ姿を見せてご挨拶するほど迂闊でもないので……現在、対応を考えながら様子見中である。なお、ステルスを強めに意識しているため、今は俺の姿も二人から見えていない。
「……マズルカ、猫さん、来ないね?」
「もうどこかへ行ってしまったのかもしれませんね……てゆーか、実体がない猫さんだった場合、こういうホンモノの餌には反応しない可能性も……」
「いまさら!? えっ、それは最初に気づこう? 私もだけど!」
仲の良い姉妹である。なごむ。
彼女らを放置しにくい理由は複数ある。
いたいけな褐色美少女という外見的理由は棚上げするとして、まず第一に高い猫力。猫力の高い人は猫にとって保護対象であり(※逆ではない)、猫たる俺も力になってあげたいとは思うのだ。
第二に火属性、地属性でBレベルの優秀な魔導師である点。さらに「隠れた俺を見つけられる」というヤバい能力。こういう人材は、騒動にならないうちに味方に引き込んでおいたほうがいい気がする……「校内に変な猫がいる!」と噂されても困るので、早めに接触して口止めしたい。今後、俺が校内に出入りしたタイミングで騒がれても困るし……
そして第三。これがもっとも大きな理由なのだが、「じんぶつずかん」から得られた厄介情報。
『クロムウェル伯爵家はホルト皇国の南端、内海に囲まれたクロム島を領地としている。現在はホルト皇国の国土となっているが、古来より交易の要所でもあり、近隣国との間には領土紛争を抱えてきた。
各国の貨物船を受け入れ、荷を仲介する交易港として栄える反面、多くの間諜が国際的な情報を仕入れる場としても機能しており、しばしば政治的暗闘の舞台となる。クロムウェル伯爵家の親族に取り入って情報や権益を得ようとする者は多く、年頃の姉妹がラズール学園へ留学した今、二人の動向は裏社会からも注視されている』
……ひらたく言うと、「国際的な交易都市として栄える孤島の利権を巡って、いろんな人達が暗躍をはじめてるよ!」というお話である。やめーや。ぜったいマフィア的なアレとか諜報機関的なソレとかが絡んでくる案件やん……
猫さん的には無関係である。放置しても別にトマト様の覇道に支障はない。
でもさぁ……なんかさぁ……こういうの、知ってて何もしないっていうのも、ちょっとホラ……アレですやん……
政治的な話となるとスイール様にも確認したいが、彼女は今、浄水宮にてリルフィ様、アイシャさんと一緒に水ちゃんとのお茶会をしている。すなわち女子会ッ! お茶菓子は猫が用意した。たぶん水ちゃんがすっごいツヤツヤしてそう。すこしふあん。
なお、マリーシアさんとペズン伯爵はピタちゃんと一緒に、新居の整理をされている。清掃はクリーニングキャットさん達がやってくれるが、それ以外の家事的なお仕事をマリーシアさんが行い、家計簿の作成とか事務的なことをペズン伯爵が行い、ピタちゃんは警備担当の名目で優雅なお昼寝を楽しんでおられる。ペットとして実に正しいムーブ。
……余談ながらペズン伯爵、実は事務要員としてトップクラスに優秀なので、思ったより頼る機会が多い……年末にはトマティ商会の新入社員向けに税務・会計系の特別講師もお願いしたが、猫よりわかりやすかった……俺もべんきょうになった……
特に素人同然だったアンナさん、カイロウ君夫妻が完全に事務の戦力として数えられるぐらいに成長したのがでかい。学ぶ機会がなかっただけで、やっぱり地頭の良い人達であった。
忘年会でシャムラーグさんと運命の再会も果たしたのだが、結論としては「戻る気? ないです!」とのことで……まぁ知ってた。
脇道にそれてしまったが、双子姉妹の件。
警備員さんが「しょーがないなぁ……」モードに突入したところで、マズルカちゃんが意を決したように立ち上がった。
「……仕方ありません。『召喚の儀』をとりおこないます」
「え。やっぱりやるの、アレ? ……まぁ、それしかないかぁ……」
体をほぐすように軽く跳びながら、ポルカちゃんも立ち上がった。
マズルカちゃんが手荷物の中から、ボックスティッシュぐらいの大きさの木箱を取り出す。
ルーシャン様の研究室で見たことがある。アレはこちらの世界の「オルゴール」だ。
基本的にはゼンマイ駆動なため、魔道具ではないものが多いようだが……一部の高級品に関しては、「音の広がりを良くする」とか「音階をより複雑にする」などの目的で、魔道具として改良されていたりもする。
ゼンマイをじーこじーこと巻いて……
流れ出した曲は、なんだか前世でも聞き覚えのあるクラシックである。
それこそ宮廷での舞踏会とかで流れてきそうな……だいぶ軽快にアレンジされており、曲名も思い出せぬが、オルゴールの箱には「とんぼ」の彫刻がなされていた。
聞き覚えがあるということは、転生者が持ち込んだ曲?
戸惑う猫の視界で、双子の姉妹が踊り始めた。
舞踏会のダンスではない。アイドル風のダンスでもない。ヒップホップとかストリート系でもなく、これは――
印象としては、神楽とか奉納の舞に近い。いわゆる儀式としての舞だ。
両者がシンメトリーに立ち、互いの腕を伸ばして指先を揃え――優雅なオルゴールの音色にあわせて、まるで浮き上がって滑るような華麗なステップを披露する。
魔力の光が青白い軌跡を描いて、とてもきれい……
思わずほうっと見とれてしまったが、異変はすぐに起きた。
姉妹のステップによって踏まれた地面に、肉球模様の光る足跡が残り始め……
「……にゃー」
「にゃーん」
「うなーぁ」
周囲の四方八方、そこらの茂みや建物の裏から、ぞろぞろぞろぞろと……十数匹のリアル猫さんが、こちらへ向かってきたのだ。
ネズミ退治を生業とする、学内の地域猫さん達である!
『学内猫管理委員会』によって、餌場、水飲み場、トイレ、寝場所の世話などをされているため、野良猫ではなく、あくまで放し飼いの地域猫さん達だ。こちらの猫さん達は寿命が長いせいなのか、繁殖力は前世に比べてそれほどでもなく、ちゃんと管理できていれば飼育環境は崩壊しにくい。
通行人、見物人、警備員さんが動揺して数歩退く中、猫さん達はしゃなりしゃなりと双子に近づいていき――おすわりしてじっと見つめる子、周囲を歩き回る子、一緒に踊りだす子に分かれ、それぞれ思い思いに……
「猫が……猫が踊ってる……!?」
普通の猫が! 立ち上がり! おぼつかない足取りで! 盆踊り風の動作を……!? もしや化け猫!?
動揺してワナワナと震える俺を見上げて、マズルカちゃんが踊りながら指をさした。
「あ。発見しました!」
「ほんとに寄ってきた!? うわ、すごいかわいい!」
踊る猫さんに見る猫さん、同じ猫なら踊らにゃにゃんにゃん……と、俺も無意識に前足でリズムをとり始めたあたりで見つかった。またステルスが見破られている!? 意外と安定しねぇな、この機能!?(※ほぼ俺のせい)
しかし警備員さんや通行人達にまでは見えていないようで、彼らは俺に気づかず、足元で盆踊り風のステップ(すり足)を踏む猫さん達にびっくり仰天である。だよね? 普通は猫さんって踊らないよね? この子達(※双子の技能)が特殊なだけだよね?
ポルカマズルカ姉妹は優雅に舞いながら、俺に微笑みかけて手招きをした。招き猫? 猫招き?
「おいで、猫さん! いっしょに踊ろ?」
「今ならおさかなもサービスします」
くっ……! いくらルークさんがクソチョロ段位認定戦の有段者だからといって、見知らぬ美少女にゴロゴロすり寄るほどでは……
『にゃーん』
ウィンドキャットさん!? 俺の深層心理には従わなくていいから! 上司の指示の言葉の裏とか読み解かなくていいから! ちくしょうコレがチート物によくある力の暴走かッ!(たぶん違う)
誘われるがままにあっさり低空へ降りていってしまったが、さすがにそれ以上は近づかない。いたいけな猫さんのふりをして「じっ」と見上げる。
俺は彼女達のことをある程度、理解しているが、彼女らの側は俺のことを『他の人からは見えない、空飛ぶ不思議な猫さん』としか認識していないはずである。この後の第一印象をどうするか……その選択肢は多い。
まずは初手トマト様、しかるのちご挨拶が鉄板か……?
いや、腹見せモフられで一気に距離感を詰めてからの雪崩式カミングアウト……もっと単純にスイーツ(賄賂)での口止め依頼という手段もある。しかしいずれにしても、周囲の人目がちょっと邪魔……大講堂のガイダンス(午前)も終わったようで、留学生達がぞろぞろと出てきている。
双子は踊りを続けながら俺の反応を見ていたが、肝心な対応を決める前に、我が背後で聞き慣れたうるわしきお声が。
「猫が……踊ってますね……?」
「わぁ……大道芸?」
「そうです」
「マズルカってたまに真顔で自然に嘘つくよね?」
ロレンス様とクラリス様、他三名! 見物人として現場にご到着である。
曲の切れ目でオルゴールを止めつつ、姉妹は周囲の観客達にしゃなりと一礼。そして心ばかりのおひねりが飛び、猫さん達がおさかなを食べ始める。
「どーもどーも。ありがとー、ありがとー」
「ご協力に感謝です。たーんとお食べ」
俺のじゃないのか……(困惑)
ポルカちゃんは笑顔で観客にお礼を言い、マズルカちゃんは地域猫の皆様にお魚をあげはじめた。地域でお世話されているだけあってみんなお行儀が良い。割とでっぷり太ってる子も多いのだが、そんなんでもネズミ狩れる? これネズミ駆除の名目で猫を外飼いしているだけでは?
見物人が散開していき、警備員さんも「こういうのは公園でやってね?」と口頭注意だけして去り……ポルカちゃんとマズルカちゃんが手を繋いで、俺の正面に座り込んだ。
「それで、猫さんはどこの子? 行くとこないならうちに来る?」
「あ、いえ。私はすでにリーデルハイン子爵家のペットです。ルークと申します」
小声でご挨拶すると、揃ってお目々をぱちくり。
「え、喋れる子!? わー、猫で喋れる子って初めて見た!」
「つまり歌って踊れるエンターテイナー……時代はここまで来ていましたか」
歌は鼻歌程度だな? あとそんなに驚かれてないな? やっぱ大講堂でラジオ体操(無音)してた時点でいろいろ予測されていたっぽい。
俺の姿はクラリス様達にも見えていなかったので、ここらでステルス解除。ウィンドキャットさんもまた後でー。
「……ルークさん? 何やってんです?」
「あ、猫達を踊らせていたのもルーク様ですか……?」
いち早く気づいたクロード様とサーシャさんが人目を遮るように立ち、クラリス様、ロレンス様、マリーンさんもそばに来てくれた。
皆様に囲まれた猫は、「いえいえ」と肉球を振る。
「さっきのは、私は何もしてないです。むしろ地域猫さん達が踊り始めたことにびっくりしてしまって……」
ポルカちゃんが「あはは」と笑った。
「アレはクロムウェル家に伝わる猫寄せの踊りだよー」
「大漁を祝って、港の猫さん達に振る舞い魚をする時の舞いです。本来は違う曲で舞うのですが、手持ちのオルゴールが『とんぼ』だけだったので」
箱の彫刻もとんぼだし、そういう曲名なのだろう。なんとなく聞き覚えもあるので、たぶん前世の有名な曲だと思う。クラシックとかぜんぜんわからない。猫は雰囲気で音楽を聴いている……
クラリス様が俺を抱え上げてご挨拶。
「はじめまして。今年からラズール学園へ通うことになりました、ネルク王国出身のクラリス・リーデルハインと申します。お二人は先輩でしょうか?」
「ううん! 私達も新入生! つい一昨日、入寮したばっかり!」
「クロムウェル伯爵家のマズルカです。こちらは妹のポルカ。本当は一週間前に着いている予定だったのですが、旅の途中でうっかり良い感じの温泉宿を満喫してしまい――」
ははーん、さては自由人だな?(知ってた)
何故かマリーンさんが目を見開いた。
「クロムウェル伯爵家!? 南方の、クロム島の……!?」
お? 「じんぶつずかん」には交易における重要拠点だって書いてあったけど、もしやネルク王国でも有名なレベル?
「マリーンさん、何かご存知なんです?」
クラリス様に抱っこされたままで俺が見上げると、マリーンさんはこくこくと頷いた。
「ネルク王国でも大ヒットした小説、『クロム島シリーズ』の舞台になった島です。『クロム島の殺人鬼』からはじまって、『クロム島のスパイ』『クロム島の猟犬』、以下、探偵、囚人、歌姫と十作以上あって、著者は伯爵家の方だとか……」
「あ、おじーちゃんの本だ」
「他国でも売れるから、いいお小遣いになるって言ってましたね」
領主しながら兼業作家やってたのか……あるいは隠居後の趣味かもしれぬが、十作以上が他国にまで流通しているということは、相当昔から書いていたはずである。
もちろんこっちの世界では「テキストファイルでデータ送信!」とかできないし、活版印刷となると相応の手間もかかる。
ネルク王国には魔道具を使ったカラーコピー的な「複写印刷技術」もあるのだが、アレはコストが……作業に従事する魔導師が必要で、専用紙も高価なので、カラーポスターなどの「一枚単位でそこそこの値段をつけられる」商材でないと採算が厳しい。数百ページに及ぶ書籍でこの技術を使うとえらい手間になる上、紙がめくりにくかったり劣化しやすかったりで書籍向きではない。
言語がほぼ統一されているこの世界では「翻訳」の手間がかからないというメリットもあるものの――この双子の祖父殿は、なかなかの人気作家と判断してよかろう。
読書好きのロレンス様も目をキラキラさせた。
「クロム島シリーズは、私も書庫にあったものを読んだことがあります。残念ながら全作は揃っていなかったのですが……」
ポルカちゃんがにこにことロレンス様の頭を撫でた。陽キャの距離感!
「わー、ほんとに!? ラズール学園の図書館なら全作あると思うよ!」
「そこは書店に誘って、おじーちゃんのお小遣いに貢献してもらうべきでは?」
マズルカちゃんはおじいちゃん思いの良い子だなぁ(白目)
ともあれ、このまま仲良くなれそうな人材でほっとした。
俺を抱えたまま、クラリス様が楚々と歩み出る。
「あの……ルークの言い訳……じゃなくて、話も聞きたいですし、どこかでゆっくり、お話しできませんか?」
……あれ? ごまかせない感じ? やっぱり俺のやらかしだってもうバレてる……?
まぁ、我が飼い主の知性をもってすれば、ペットの隠し事などお見通しであろう。ズタズタにされたトイレットペーパーの残骸とほどよく疲れてお昼寝する猫さんを前にすれば、大抵の飼い主は犯人(獣)に見当がつくというものである。私じゃないです。私の爪が勝手にやったかもしれません。ところでごはんまだですか、的な……
そろそろ俺も猫ムーブが板についてきたな?
「いいよ! 私達もお話聞きたいし!」
「新入生で、しかも猫好きの同志。ぜひ仲良くしましょう。あ、焚き火を片付けますので、少しお待ちを」
地域猫さん達がおさかなを平らげる姿を横目に、双子は猫寄せセットをさっさと片付け、我々に同行してくれた。
向かう先は新居、カルマレック邸。今日のところはまだ、空も飛ばぬし宅配もしないが……とりあえず留学期間中、この双子は我が猫魔法の常連になりそうな気がしないでもない。
あと、旅の途中で立ち寄ったという良い感じの温泉宿情報もぜひ共有させていただきたい。異世界温泉旅行とかぜったい解除しておくべき実績である。願わくばペット可であってほしい。
踊る双子(猫好き)との出会いに浮かれていた俺は、この時――やや遠くから我々を監視する視線に、まったく気づいていなかった。
その視線は決して敵意とか好奇心によるものではなく……平たく言ってしまえば、クロムウェル伯爵家が姉妹のために雇った「秘密の護衛」だったのだが。
楽しそうに飼い主達と喋る俺の姿は遠眼鏡でしっかり目撃されており、視線の主はこの時、こっそり頭を抱えていたようである――
§
「……どうして、『あの猫』が、こんなところに――?」
あのつややかな毛並みと丸々とした体型と思慮深い眼差しは、見間違えるはずもない。
かつてレッドワンドで軍を指揮していた智将――フロウガ・トライトン。
魔族オズワルドと猫に拾われた彼は、現在、「ファルケ・フローズ」と名を変え、「正弦教団」の一員となっていた。
トゥリーダ様「むちゃくちゃ忙しいんで、どうせならこっち手伝ってくれません……?」




