188・いざホルト皇国へ!
年末には少し早いのだが、我々もいよいよホルト皇国へ(建前として)移動することになった。
外交官のリスターナ子爵に組んでもらった、今後の具体的なスケジュールは以下の通り。
オズワルド氏に頼んで、我々全員でホルト皇国の皇都ウォルテへ移動。これによりルークさんも宅配魔法で移動できるようになる。(はず)
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帰国したリスターナ子爵が、報告書(※捏造含む)とかいろいろを提出しつつ、クラリス様達のご留学の手続きを開始。我々も三日ほどはホテルに滞在して色々と対応し、その後はしばらくリスターナ子爵のご自宅に滞在……するふりをして、リーデルハイン領にとんぼ返り。
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その間にリスターナ子爵が、我々の本来の滞在先となるラズール学園内の賃貸一戸建てを確保。さらに滞在費となる「琥珀」の売却先を選定。
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一方の我々は、王弟ロレンス様や留学生のマリーン・グレイプニル嬢達をまじえて、のんびりとリーデルハイン領で年越し。社宅の空き部屋がたくさんあるので、この期間はそっちを使ってもらう。
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年が明けたら、ホルト皇国へ本格的に移動。学園編開始!
パーペキ(死語)である。
留学メンバーはロレンス様、クラリス様の年少組を筆頭に、御学友(警護)枠として士官学校から上手く逃亡したクロード様、その婚約者のサーシャさん。さらに魔導閥から、ルーシャン様のお弟子のマリーン・グレイプニルさん。ここまでが学生。
そして一行の保護者として、家庭教師のペズン・フレイマー伯爵が同行し、護衛役として女騎士のマリーシアさん。
癒やしのペットとして猫とウサギ。
女神リルフィ様も公式に同行はするが、現地での目的は特にないとゆーか、普通にリーデルハイン領でも日々のお仕事をする予定である。
とりあえず行くだけ行ってみて、なんか興味を引くものがあったらその都度、適当に……というスタンスだ。
もちろん俺にもトマティ商会の業務があって、ピタちゃんも領内でお昼寝と日向ぼっこをする大事な仕事があるので……
我々についてはほぼ連日、国家間を往復することになるのは間違いない。クラリス様もちょくちょく戻るだろうし、なんならウェルテル様とかライゼー様がホルト皇国をこっそり観光する機会もあるはずである。
そして迎えた「公式的な」移動日。
……わざわざ前日入りして、キャットシェルターでのんびり過ごしていたオズワルド・シ・バルジオ氏が、猫カフェの扉を開けるなり爽快な笑顔で「おはよう!」とご機嫌な挨拶を寄越した。
この金髪、朝から無駄にイケメンだな……(嫉妬)
リルフィ様に抱っこされて蝶ネクタイ(※正装)をつけてもらっていた俺は、軽く会釈を返す。キャットシェルターの基準点は俺なので、中から誰かが扉を開くと、基本的には俺の正面に出てくる。
「おはようございます、オズワルド様。昨夜はよく眠れましたか?」
「おかげさまでな。いや、純血の魔族は少しくらい寝なくても支障はないんだが、睡眠自体は大事にしているのだ。きちんと睡眠をとれば精神的に落ち着くし、不眠だと機嫌が悪くなりやすい。ルーク殿も徹夜はいかんぞ?」
……実際、ちょっとお仕事が立て込むとつい徹夜してしまうのは、ルークさんの悪い癖である……だいたい前世で培った社畜精神のせい。
さて、まずはロレンス様のお迎えであるが、これにオズワルド氏を向かわせるわけにはいかぬ。
リオレット陛下暗殺未遂(※狂言)の折に、オズワルド氏は当時の正妃ラライナ様と顔を合わせているのだ。
いま出向くと絶対変な誤解をされるし、今回の留学に関しても、正妃にはオズワルド氏の関与を知らせぬ予定である。
いずれ噂の形で伝わる可能性はあるが、その頃にはロレンス様からの無事を知らせる手紙が留学先から届いていたりするであろうし、現時点での面倒事は避けたい。
そもそも留学にも結構な勢いで反対されているのだが……ロレンス様の真摯な説得によって、不承不承、承諾……というより諦めに近そうだが、ペズン伯爵達も同行するということで、どうにか納得してもらったようである。
「この留学から戻り次第、ロレンス様を中央に復帰させる」という陛下からの通達も、たぶん効いたんだろうな……
というわけで、ロレンス様とペズン伯爵、護衛のマリーシアさんには、「まずは王都で魔導閥のマリーン嬢と合流する」という建前で、早朝から普通に馬車でオルケストを旅立っていただき――
手配しておいた宅配魔法で、たった今、リーデルハイン領に届いた。
巨大なダンボール箱が庭先へ唐突に現れて、箱が消えた後には一台の馬車。
御者はマリーシアさんで、見せかけの警護に雇ったケーナインズがこれに同行している。
ケーナインズは言い訳作り用の人員として、ガチですごく便利! そこそこ実績もあるのでギルドからの信用も高く、こういう護衛任務では優良冒険者としての肩書きが映える。
窓から見えた馬車の到着に、「お?」とオズワルド氏が反応。
我々もリルフィ様のおうちから出て庭先へ移動した。
「おはようございます、ロレンス様!」
「おはようございます、ルーク様。良い朝ですね」
まだ朝日がのぼったばかりの早朝である。たぶんクラリス様とかまだ寝てる。
ロレンス様はいかにも旅装っぽい外套を羽織っていたが、その下は軍服っぽい礼装である。
旅を前提にした動きやすさ、頑丈さ、精悍さをある程度まで担保しつつ、なおかつ外交の席にも対応できる服装となると、だいたいこんな感じになるらしい。
もちろん「移動中」はもっとラフな格好になるべきなのだが、今回は午前中のうちにはもうホルト皇国へ着いてしまうはずなので……マリーシアさんもすでに、騎士の礼装である。
挨拶もそこそこに、続いて人間サイズのダンボールが一つ、追加で到着。
中身は――
「本当に着いた……こ、これが……これが転移魔法……!?」
「宅配魔法ね。ルーク様のはちょっと違うっぽいから」
一つのダンボールに仲良く一緒に梱包されていたのは、二人の若い娘さん。
片方は魔導閥から選抜された留学生、マリーン・グレイプニルさん、十七歳である。ちょっと前まで十六歳であったが、先日、誕生日を迎えたらしい。
ルーシャン様の直弟子にして、グレイプニル子爵家のご令嬢だ。
長くつややかな金髪と、意志の強そうなキツめの目つきは、パッと見で「絶滅危惧種のツンデレ貴族令嬢だ!」という期待を抱かせるのだが……残念なことにツンデレではない。あくまで見た目だけである。
こちらのマリーンさんは俺の知る限り、王立魔導研究所で一番の常識人であり、あのアーデリア様からも「お友達!」とはっきり認定されるくらいに人付き合いの上手なご令嬢だ。
いつぞやの夜会の席では、ルーシャン様やアイシャさんと一緒にリルフィ様の話し相手も務めてくださった。
面倒見も人当たりも性格も良く、時にはツッコミまでこなしてくれる逸材である。重ね重ね、残念なことにツンデレではない。この見た目で。
なお、彼女のご実家のグレイプニル子爵家は、寡妃ラライナ様の派閥に属している。
そういう政治的配慮もあって留学にお誘いしたのだが、実は本人はその実家と折り合いが悪いという……
いや、春先の王位継承問題の時に、「お前がそこにいると外聞が悪いから、魔導研究所を辞めて実家に戻れ」とか言われたそうで。
でもこういう「どっちの派閥にも縁がある人材」って貴重だし、情勢の変化次第では命綱になったりもするので、この件に関しては俺もご実家の指示がアホだと思う。もしもライゼー様だったら絶対そんなこと言わない。
ちなみにロレンス様の護衛・女騎士のマリーシアさんとお名前が似ていて若干紛らわしいのだが、どちらもよくあるネーミングというか……前世でいうと「香織・詩織」とか、「春香・春美」みたいな違いなので、まぁしゃーない。マリーカさんとかマリーネさんとかマリールさんとかも普通にいっぱいいる。
「アーサー王伝説の魔術師・マーリン」っぽいお名前なのが魔導師のマリーン・グレイプニルさんで、「ロレンス様の姉」っぽいのが騎士のマリーシアさんという解釈で良かろうか。
そして、この魔導師マリーンさんと一緒に届いたのが……
「……あれ? アイシャさん? なんでいるんです?」
何故かメイド姿のアイシャさんであった。
何? メイド喫茶の練習? だいぶ偉そうなメイドだな?(※次期宮廷魔導師)
「あっ、ルーク様、おはようございます! リルフィ様、オズワルド様、ロレンス様も!」
「皆様、おはようございます。マリーン・グレイプニル、ただいま到着いたしました」
リルフィ様に駆け寄って手を握るメイドのアイシャさんと、その場で優雅にカーテシーを決めるマリーンさん。やはりおじょうさま……
予定外の追加人員に猫が首を傾げていると、マリーンさんが手紙を差し出してきた。ルーシャン様からである。
朝日に照らして読み進めるうちに、猫はそっと肩を落とした……が、元々撫で肩なのであんまり落ちてない。
アイシャさんがそんな俺を抱え上げ、わざとらしく頬ずりをする。
「私もマリーンのメイドとして同行させていただきます! よろしくお願いしますね?」
「あー……はい。だいじょうぶでーす……」
ルーシャン様のお手紙にはこう書かれていた。
・留学のことを知ったアイシャさんが、「マリーンだけずるい!」と駄々をこねはじめた。
・聞けば「学校とかはどうでもいいけど、スイーツチャンスは逃したくない」とのことであった。
・というわけで、よろしくおねがいします。
……だいぶ省略したが、つまりそういうことである。
元々、魔導閥からは二、三人の留学生を連れて行くつもりであった。
が、他の候補生達の個人的な都合や事情が噛み合わず、結局、マリーンさん一人になったという経緯がある。
アイシャさんの場合、次の宮廷魔導師候補でもあり、公式に国外へ、長期にわたって滞在させるのは難しく……また魔導研究所の本来の業務にも影響してしまうため、割と早い段階で「無理!」という流れになっていた。
しかしここで、アイシャさんの駄々が炸裂。
ルーシャン様は愛弟子に甘いので……「いずれ宮廷魔導師として多忙になるのは目に見えているから、今くらいは好きにさせてやりたい」という、孫を見守るよーな目線もあって、「……じゃ、メイドとして身分を隠してついて行って、頻繁に宅配魔法で往復する……?」という玉虫色の決着となった。
あとリルフィ様のお友達でもあるし……
将来のために、ホルト皇国を見ておくのはいい経験になるのも確かだし……
ホルト皇国で、猫がやらかした事象の報告係もいたほうが便利だろうし……
そして「マリーンさんのメイド」という立ち位置であるが、もちろんアイシャさん本人に家事をする気はない。こいつ……目に「食っちゃ寝」って書いてある……!
まぁ、「ホルト皇国滞在はちょっとした休暇」、「ネルク王国側でのお仕事もちゃんと続ける」ぐらいの認識で良かろう。
……あと実際には「猫の監視役」という側面もあるのだろうが、悪意はないので問題ない。
というわけで予定より一名増えたが、続いて宅配されてきたのは外交官のリスターナ・フィオット子爵。
彼はこれで帰国となるため、家族や友人へのお土産などもあり、少々大荷物である。
ネルク王国ではクランプホテルに滞在していたが、荷物だけで馬車一台。
通常ならば護衛や御者も同行するのだが、今回は『オズワルド氏による転移魔法』での帰国となるため、なんと一人だ。
いや、リーデルハイン家の面々とかロレンス様とかも同行するので、実際に一人というわけではないのだが、要するにホルト皇国側の護衛系の人員がいない。
彼がホルト皇国からネルク王国へと移動してきた時に、同行者はいなかったのか?
これはいた。いたのだが、その人達はまだ滞在予定期間の最中である。
ネルク王国に来る「爵位を持つ正式な外交官」はリスターナ子爵のみであるが、彼の下には当然、部下とか職員達がおり、この人達は定期的に本国とこちらを行き来し、数年単位で交代しながら業務をつないでいるのだ。
彼らの滞在先はホテルではなく王都の一軒家で、ちょっと大きめの商家ぐらいのイメージ。
要するに「大使館」に近いのだが、そういった用語はなく、また治外法権とかそういう法的特権もなく、単に「友好国の人員が交代で勝手に詰めている場所」である。家賃も普通にちゃんと払われている。
ただ、ここは設備が完全に一般の民家、もしくは商家レベルなので……お貴族様の滞在には不向きであり、リスターナ子爵が王都へ来た時には、彼だけはクランプホテルを常宿としている。
部下の方々が国家間の移動をする時には、隊商などと同行したり、あるいは行く先々で護衛を雇ったりもする。
彼らの業務は主に「ネルク王国内の情報収集」と「王侯貴族の親書の仲介」、「交易に関わる両国の商会の補佐と情報提供」、さらに「周辺国から来る情報の集積と本国への伝達」などであり、公的なスパイという見方もできる。そこは友好国同士なので、暗黙の了解があるようだ。
ぶっちゃけ、ネルク王国側としても助かっているのは事実で、彼らを窓口として、ホルト皇国側とのやりとりが密にできている。
そしてリスターナ子爵は、状況に応じて両国間を行ったり来たり……
「次にネルク王国へ来るのは、おそらく三年~五年後くらいでしょうな」とのことであった。
そして馬車ごと宅配されてきたリスターナ子爵は、宅配魔法の不可思議さにしばし呆然とした後……降りてきて俺の前に膝をついた。対応が重い。もっとファンシーに!
ちなみに先日の新入社員歓迎会の折にも宅配魔法を使ったのだが、あの時、彼はキャットシェルターの中にいた。さらに今回は「馬車ごと」というのもびっくり要因だったらしい。
「ルーク様、オズワルド様、このたびはお手数をおかけいたします。引き続き本国まで、なにとぞよろしくお願いいたします」
猫のほうは愛想よく軽めに応じる。
「どーもです! みんな揃いましたので、まずはリーデルハイン邸で朝ごはんにしましょう。クラリス様達もそろそろ起きてこられるはずです」
馬車はこのまま、いったん庭先に置いておく。
ちなみにクロード様は、士官学校の休学手続きが終わった三日くらい前に、先行してもうリーデルハイン領へ帰ってきた。
すっぱりと退学手続きにするか休学扱いにするか、ちょっと迷ったようであるが、教師陣から「できれば休学で」「留学から戻ってきたら、軽い試験と特別授業の後、単位認定して卒業扱いにする」と言われ、なんかそんな感じになったらしい。
……ルークさん知ってる。
これは「クロード様のために!」という気遣いではなく、「クロード様を(せめて建前だけでも)士官学校の卒業生ということにしたい!」という、学校側の世知辛い事情である……
クロード様は子爵家の跡継ぎで弓の名手であり、これからホルト皇国へ留学する超エリート。先日のギブルスネーク退治によって、はからずも王都での名声まで得てしまった。
留学の理由も、「王弟ロレンス様の護衛&御学友」という、貴族としてかなり栄誉あるものであり……こういう人材に「士官学校中退」みたいな肩書きがつくのは、士官学校のイメージ的にあまりよろしくない。
かといって、さすがに今の段階で卒業扱いにはできないので、「一時休学」にしておいて、留学から戻ってきたらうまい具合にいろいろ調整して「卒業おめでとう!」という流れにしたいのだ。
おとなのじじょう。
その後、みんな揃ってにぎやかな朝食となった。
オズワルド氏は割としょっちゅう来ているし、ロレンス様もリーデルハイン領には何度か来ている。ペズン伯爵やリスターナ子爵も先日の新入社員歓迎会に来たので、完全に初めてなのは魔導閥のマリーンさんぐらいか?
ちょっと緊張している気もするが、元々貴族育ちでなおかつコミュ強なので、特に問題なさそうだ。アイシャさんやリルフィ様とは仲いいし、クロード様やサーシャさんとも年は近い。
ヘイゼルさんに用意してもらった朝ごはんに加え、本日の朝どれトマト様と、スイーツとしてフルーツヨーグルトもご提供。
ヨーグルトは夕食時に食べたほうがカルシウムの吸収率が高くて良い……のだが、別に朝はダメというわけでもないので、好きな時に食べるべきである。むしろ朝晩と二回食べても良い。
朝食後のまったりとした時間帯に、俺は皆様を見回した。
「さて、本日いよいよ、我々はホルト皇国へ行きます。リスターナ子爵に帰国してもらい、それに同行する形で、外交筋の関係各所にちょっとしたご挨拶をする予定です。クラリス様とロレンス様には、すでにリスターナ子爵を通じて、ご挨拶の流れとかいろいろ把握していただきましたが……大丈夫ですよね?」
我が主とロレンス様が、そろってにっこりと頷く。優秀。
このお年頃のお子様の「だいじょうぶ!」はあんまり信用できないはずなのだが、このお二人に限っては「大丈夫だな!」という安心感がすごい。リルフィ様とかアイシャさんよりよほど安心でき……失言。失言である。ルークさんは心にチャックをした。
「公式には、我々は今日、ホルト皇国に着いたことになります。別に大々的に発表するわけではありませんが、リスターナ子爵が上層部に渡す報告書にはそう記されます。その後、三日ほどは現地のホテルに滞在し、入国に関する手続きとか入学の準備を進め――リスターナ子爵のお屋敷でしばらくお世話になるふりをして、またリーデルハイン領へ戻ってきます。で、リスターナ子爵に向こうでの住まいを探してもらい、こちらで年越し後に本格的に移動ですね。その間にもちょくちょく行き来する機会はあると思いますが、リスターナ子爵に窓口になってもらい、都度対応する予定です。あ、アイシャさんはこの期間、王都に戻りますよね?」
「……できればこっちにいたいですけど、お仕事もあるので、まぁ、何日かは……くっ……」
「そこまで悔しそうな顔しなくても……どうせ私もトマティ商会やダンジョンの関係で、王都へ行ったり来たりになりますので、むしろアイシャさんと一緒に行動する機会は多そうです。ナナセさんもちょくちょく往復してますし……年明けまでは、クラリス様とロレンス様には、ペズン伯爵を通じてお勉強を進めていただきます。クロード様には、久々に実家でゆっくりしていただくとして……マリーンさんはどうします?」
マリーンさんはちょっと困ったお顔。
「特に予定はないのですが……私が王都に戻ると、せっかくのアリバイ工作が破綻しますよね?」
アリバイってこっちの世界でも通じるのか……そういやミステリ小説とかもあったな……
「でしたらクラリス様達と一緒に、ペズン伯爵の講義を受けてはいかがでしょう? 税とか法律とか経済とか歴史とか、そういう一般教養系の内容です。マリーンさんにとっては復習のような形になりそうですが……」
「あ、それはたいへんありがたいです。私は魔法や魔道具の勉強ばかりしてきましたので、むしろ一般的な知識に疎くて――この機会に勉強させていただきます」
この向上心は好ましい。そして外見はツンデレなのにめっちゃ素直……なんかナナセさんとも相性良さそうだな? 実際、アイシャさんを通じて顔見知りではあるらしい。年内にお茶会とか企画しとこ。
「オズワルド様はどうします?」
「今は暇でな。この際だから、しばらくルーク殿と行動を共にしたい。特にホルト皇国絡みでは助言できることもあるだろう。向こうには、警戒が必要な貴族や官僚もいる」
皇家に嫁入りした魔族とかもいるっぽいしな……初めての土地でオズワルド氏に同行してもらえるのは、物騒ではあるが正直に言って心強い。彼がいれば『正弦教団』の諜報網も使える。
「わかりました! それではよろしくお願いします」
……リスターナ子爵がなんか必要以上に怯えている気もするが、大丈夫よ? この人、非公式にだけど、今までもちょくちょくホルト皇国には行ってたっぽいよ? ……いやコレ、逆に安心できない情報か。
そしてライゼー様、ウェルテル様、ヨルダ様、お屋敷の皆様、さらになんとなく集まってきた新入社員&ケーナインズにまで見送られ、留学関係者がキャットシェルターへ移動。リスターナ子爵やロレンス様の馬車も、大型車両用の別空間へとしまい込み――大元の俺は、オズワルド氏に抱っこしていただく。
「ルーク、気をつけてな」「クラリス達をよろしくね」これはライゼー様とウェルテル様。
「社長、ごゆっくり」「少しは羽根を……いえ、尻尾を伸ばしてきてください」これはアンナさんとジャルガさん。ここ数日、研修と事務の両立でまたずっと働いてたからな……(社畜)
「手伝えることがあったらいつでも呼んでください」「トマト様のお世話はお任せを」これはケーナインズのブルトさんとシィズさん。いつの間にかすっかり農民の誇りに目覚めて……
どうせ夕方か夜には、また報告のために顔を合わせるのだが、一応の節目としてみんなに肉球を振り――
俺はオズワルド氏をてしてしする。
「それでは、転移のほうお願いします!」
「ん。心得た」
一瞬だけ地面に沈む感覚。
次の瞬間に見えたのは――眼前に広がる、巨大な湖であった。
時差の影響か、空にはそこそこ高めにのぼった太陽があり、青空の下、清涼感のある壮大な青色が視界を埋めている。
ここがホルト皇国、皇都ウォルテ!
その湖畔であろう。
オズワルド氏と俺は、念のために姿隠しの結界で周囲から身を隠している。
……しかし湖、湖か……
話に聞いていた通り、めっちゃきれいな水である。白い砂浜まであって、もはや南の島かと錯覚するレベルの透明度。
しかも対岸が見えない。
……え? ほんとに湖? たぶん琵琶湖よりでけぇなこれ? でも確かに海ではないな? 潮の匂いもしないしな?
ここはどうやら湖に面した公園のようで、防波堤の下には広い砂浜がある。
そして振り返れば、白い土壁が目立つオシャレな街並み……地中海? イタリアとかスペインとかあっち系の文化圏? それなのにトマト様ないの? えっ。うそでしょ?
やや動揺する猫であったが、街からは先進的、かつ文化的な香りがする。
ネルク王国の王都だと「中世よりは進んでるし、ガラスも普及してるけど、やっぱどことなく中世感はあるなー」という印象だったのだが、ホルト皇国はなんというか……観光地? リゾート? だいぶ見栄え重視だな?
「さて、まず最初にリスターナの職場か。我々が城内にいきなり入るのはまずいんだったな?」
「ええ、ちゃんとみんなで、門から正規の手続きを経て入りますので、人目につかないところに一回移動したいです。そこで皆様を外に出して、あとは徒歩で移動します」
オズワルド氏は「城内」と言ったが、より正確には、我々が通る予定の「門」は中央官庁街への入口である。
その先にはお城へ入るためのより厳重な門もあるし、皇族の生活空間はさらに警備が厳重らしいのだが、そっちに用はない。あるわけない。絶対行かない。たぶんそこには皇家に嫁入りした魔族とかもいる……!
リスターナ子爵の職場、すなわち外務省に行くには最初の門を抜けるだけで良く、ここは一般人でも申請すれば通れるレベルだ。
ぶっちゃけこの中央官庁街だけで街として成立する広さがあり、内部には飲食店なんかも普通にあるらしい。しかし今日は食べ歩きはできぬ。
まずはキャットシェルターの扉を出しても人目につかない場所を探すべく――オズワルド氏は姿を隠したまま、猫を抱えて颯爽と飛び立った。
……この魔族、ほんと付き合いいいな?
いつも応援ありがとうございます!
三國先生のコミック版猫魔導師3巻、おかげさまで好評発売中のようです。
カバーをめくった裏表紙にもサーシャさんとルークがいるのでぜひご確認ください。
……猫って頭上運搬できるのか……(驚愕)
そして猫の日記念・ラインスタンプの第二弾もすでに発売中のようで、今回は年始の挨拶やハッピーバースデー、クリスマス等、季節の挨拶も組み込みつつ、超越猫さんも5種採用という豪華仕様となっております。
どの絵もめちゃくちゃ可愛いので、ぜひLINEのスタンプストアでご確認ください!
そしてショックを受ける超越猫さんがかなり好き……




