179・社員が増えるよ!
オズワルド氏の面接乱入という予想外の出来事はあったが、トマティ商会の採用面接は無事に終わり、事務員の確保にも成功した。
社員が増えるよ! やったねルークさん!
……おう、無意味に不穏な気配を演出するのやめーや。
これにより来年以降、猫の労働環境は劇的に改善される予定である! ……そもそも猫が算盤片手に帳簿とか事業計画書とかまとめてるの、おかしいと思う……(いまさら)
で、お茶会のお話はクラリス様達の留学案件へ。
「ほう? ホルト皇国への留学か。ラズール学園はなかなか良い環境だぞ。正弦教団のホルト皇国支部には、あそこの出身者がそこそこ多い。単位制だから、興味のある授業だけ受けてさっさと卒業することもできるし、パスカルも通っていたはずだ」
……やべぇ情報出てきたな……パスカルさんは、レッドトマトでトゥリーダ様を補佐してくれている裏番である。オズワルド氏がわざわざ連れてきてくれた諜報関係の逸材であり、じんぶつずかん上の評価も非常に高かった。
とはいえ、あんな人材を学校教育で作り出せるとは到底思えないので……これは「通っていた人がたまたまヤバい人だった」というだけの話であろう。
現時点で入手している情報を整理すると、ホルト皇国は国単位で水ちゃんを信仰しており、皇家は亜神の血をひいていて、数万の生徒を抱える皇立ラズール学園はパスカルさんの母校……やっぱりやべぇ国だな? ちょっと油断できる要素がないな?
「留学となると、ルーク殿の魔法で移動するのかね?」
「実際にはそうなりますが、対外的にはどう誤魔化したものか、まだ検討中です。陸路で移動したふりぐらいはするべきか、とか……主にホルト皇国側への言い訳作りですね」
オズワルド氏が不思議そうに首を傾げた。
「それなら私が送ったことにすればいいんじゃないか? トマト様の苗木を譲ってもらった礼を、まだできていない。あれについては現場にいた諸将からも話が広がるだろうし、クラリス殿が留学するのであれば、礼としてちょうどいいはずだ。もちろん大々的に発表する必要はないが、向こうの上層部だけに報告がいくようにしておけば、私の行動が『義理と気まぐれ』によるものだと補強できる。トマト様が結んだ縁、となれば不自然ではあるまい」
ほう!
魔族にとっては転移魔法の使用なんて「安上がり」なお礼だし、リーデルハイン家にとっては旅費の節約と旅路の安全を確保できるわけで、これはなかなかの妙案では?
ライゼー様のお顔をうかがうと、「問題ない」とでも言いたげに頷かれた。むしろここらで「礼」を受け取っておいたほうが、後々、周囲から変な勘ぐりをされなくて済みそう。
「実際、ルーク殿はまだホルト皇国にも行ったことがなかろう? 同行者はこの空間にいれておくとして、移動日になったら私がルーク殿を現地へお連れしよう」
なんて頼れる親戚のおじさん!
また一つ案件が片付いたところで、移動時期は「年末」に確定した。「年明け後、すぐ」という案もあったのだが、どうせ我々は宅配魔法で移動できるので……少し早めに動いて、リスターナ子爵にも「年越し」を家族で過ごしてもらいたいと思ったのだ。
そもそも春先の猫騒ぎがなければ、彼も年内に帰国できていたはずなのである。
で、建前上、現地への移動だけは年末前にしておいて――クラリス様達にはもちろん、リーデルハイン領で普通に年越しをしていただく。ロレンス様達も領地のほうにご招待する予定である。
この留学関係の手続きについては、もう猫にできることはあんまりない。基本的には外交官のリスターナ子爵に丸投げで、ネルク王国側での書類・手続き等はライゼー様やペズン伯爵のお仕事。外交閥への連絡事項など面倒事もあるが、基本的にはリオレット陛下からの指示によって動いているお話なので、変な横槍とか露骨な遅延などは発生しないはずである。
その後もお茶会は続き、お茶菓子(水ようかん)を食べながら、オズワルド氏が話題を転じた。
「で、今日採用した五名について、そろそろルーク殿の見解を聞きたいな。なにせ私を落としてまで採用した五人だ。さぞかし有能な人材なのだろう?」
ニヤニヤと冗談まじりに言われてしまったが、さすがにオズワルド氏は雇えぬ……普通に組織ごと乗っ取られそうだし、寄せられたクレームへの対応が「狙撃」だったりしそうなので……ウチはあくまで健全な商会であり、非合法組織の類ではない。
「優秀さもですが、真面目に長く働いてくれそうな人材を選んだつもりです。ナナセさんはシンザキ商会のご令嬢だけあって、商才もありそうですし頭の回転が速く、理路整然とした語り口も好印象でした。一番若いですけど、幹部候補ですね。それからカイロウ君とアンナさんのご夫妻は、うちへの就職より『移住』がメインの目的だったようですが、それはそれでありがたいので採用しました。ちょっと事情がありそうな雰囲気でしたが、真面目そうな方達でしたし、若いので成長の余地もありそうです」
「うん。そこまでの三人は、なんとなく『ルークなら採用するだろうな』ってわかる感じだった」
我が主、クラリス様が鷹揚に頷く。
そしてヨルダ様が首を傾げた。
「わからんのは四人目だな。正直に言って意外だった。あんな人相の悪い大男……山賊が来たのかと思ったぞ」
四人目の採用予定者、グレゴールさん(三十一歳)。
ヨルダ様を超える巨漢で、顔は傷だらけで筋骨隆々たる見た目がおっかない人である。
声は低く、口数も少なく、あまり自己アピールもなかった。
……その採用理由は、「めっちゃいいひと」だったから。
いやもう、『じんぶつずかん』の半生記が……涙なしには読めないと言うか……人が良すぎて大損をかましてきた苦労人であり、強面の外見に似ず、本当にいい人だったのだ。
目立つ顔の傷は、馬車の事故から見ず知らずの子供をかばって負った怪我の跡だし、全身の筋肉は日々の肉体労働を真面目にこなしてきたせい。猫力も82と充分な数値。
いろいろ不器用な雰囲気ではあったが、それは本人が『自分の外見は人に怖がられる』と萎縮しているせいでもあり――またその外見から来るイメージのせいで採用試験も不合格になりがちで……それでも腐らず真面目に生きている、ちょっと「なんとかしてあげたい!」と猫が親身に思ってしまう人だったのである。
あと外見に似ず、なぜか事務系の適性があった……適性があるのに、外見のせいで肉体労働にばっかり回されるという……まぁ、うちではちゃんと事務員をやってもらう予定である。
が、皆様はそんなことまで知らぬので、猫は適当にごまかす。
「グレゴールさんについては、猫の直感でピンときたのです! あとまあ、いざという時に強そうな人がいると心強いですし、交渉事なんかで相手に舐められないとゆー利点もありますし」
ライゼー様も頷いてくれた。
「ふむ……見た目は確かにいかつかったが、話した印象では、真面目そうな男だと私も思ったな。嘘をつくのが下手というか、口下手ながら、受け答えそのものには誠実さを感じた。私は自分の眼力にさほど自信を持っていないが、ルークが言うなら大丈夫だろう」
ライゼー様の猫への信頼感があいかわらずエグい……しかしまぁ、グレゴールさんに関してはたぶん大丈夫である。『じんぶつずかん』さんの精度を舐めてはいけない。
ヨルダ様が最後の採用者に関する書類を手に取る。
「で、五人目がケーナインズからの紹介で応募して来た元行商人、と。ジャルガ、というのは珍しい名前だな。肌も浅黒いし、南方の出身だろう」
ジャルガさん。お名前の響きがちょっと異国風なので、名前だけ見た時は男性かとも思ったのだが……アラビアンナイトの世界観とかが似合いそうな、銀髪褐色の神秘的なおねえさま!
なんでもケーナインズの知り合いらしい。
狩人のウェスティさんから、「王都で求人を出すなら、知り合いの行商人にも教えていいですかね? もちろんルーク様のことは黙っておきますが、めっちゃ優秀な子ですよ!」とご提案されたのが、およそ一週間ぐらい前。
猫はもちろん「ぜひ!」と応じたが、ここまでの美人さんとは予想外であった。かわいい系ではなく、妖艶なまでのキレイ系。言動まで神秘的で、ちょっと雰囲気のある方である。
……実は彼女に関しては、『じんぶつずかん』に気になる記述があった。
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■ ジャルガバウル(23)黒狐人・メス
体力C 武力C
知力C 魔力C
統率E 精神C
猫力84
■適性■
棍術C 火属性C 算術C
■特殊能力■
・身体変化 ・狐火
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黒狐人……すなわち獣人! 初めてお目にかかる獣人さんである!
ネルク王国の国内にはほとんどいないと聞いていたのだが――獣人さん達の多くは、基本的には自分達だけの集落で暮らしているらしい。
旧レッドワンドの有翼人の方々はそもそも移動の自由が認められていなかったため、少し事情が違うのだが、それぞれの理由としては排他的だったり生活習慣の都合だったり信仰のためだったり……ちょっと珍しいところでは『人間のにおいが苦手』とか、そういうケースもあるとか。
こちらのお姉さんには、きっと狐耳もついているのではないかとひそかに期待しているのだが……特殊能力に「身体変化」があるため、たぶん人に化けているのだろう。褐色肌なので異国風ではあるが、見た目に獣人感はない。
この「身体変化」という能力はウィル君も持っていて、彼の場合、たとえば「女性に化ける!」とかはできないようだが、「ちょっと大人っぽいor子供っぽい姿になる」といった外見年齢の調整ができたり、あと『蝙蝠的な羽を生やして、空を飛ぶ』という、いかにも魔族っぽい変化もできる。あとは定番だが、爪を伸ばしたり腕を強化したり……
なお、飛翔には風魔法との併用が必要らしいが、羽があるのとないのとでは空中における姿勢制御の難易度が段違いだそうで、ウィル君の場合は羽なしでは飛べない。
だから魔族の中でも身体変化ができない人は、特殊な魔道具などで対応することもあるとかなんとか。
閑話休題。
こちらのジャルガバウルさんは、ステータス通り火属性の魔法も使えるのだが……諸々のステータスはCでの安定という印象で、他を圧倒できるような強みはお持ちでない。統率がEなので、たぶん人付き合いも苦手と思われる。魔導師として就職してないのもそのあたりが理由かな……?
でも美人なので採用したい(本音)
あと亡くなった御両親も行商人をしていたようで、ほぼ天涯孤独の身で故郷なども知らず、安住の地を求めておられる様子なので……猫力も高いし、ちょっと手助けして差し上げたい(建前)
黒狐人というのが世間から迫害されていたりとか、そういう厄介系の話は特にないようで、ぶっちゃけネルク王国内では「何それ」「知らん」「へー」レベルの扱いである。
そもそもかなりマイナーな種族らしく、リルフィ様に「黒狐人って知ってます?」と聞いたら「?」と首をかしげてしまわれた。かわいい。
後日、ルーシャン様に聞いたところ「南方の少数民族だったような気がする」「北方の白狐人についても一部の伝承などに記載があるものの、そちらもあまり知られていない」「人目を避けてひっそりと暮らしているようで、非常に謎が多い」とのことであった。
なんか幻術的なモノで里を人目から隠しているという説もあるとか……つまり有翼人さん以上のレアキャラである。
改めて、新入社員の皆様をまとめると……
士官学校卒業見込みのナナセさん。(幹部候補)
旧レッドワンド出身のアンナさん、カイロウさんご夫妻。(とりあえず一時保護)
こちらの三名に加えて、強面だけどいい人のグレゴールさん、美貌の獣人、ジャルガさんの五名が、我がトマティ商会の初期メンバーに内定した!
あ、あと冒険者との兼業だけどケーナインズもいる。事務・書類系の仕事には向いていないが、力仕事や雑務において頼れる仲間である。
「一気に(社畜)仲間が増えそうで、私も楽しみです! トマティ商会はホワイトな職場環境を目指していますが、軌道に乗るまではやはりいろいろ大変だと思うので……頼りにできそうな方々が来てくれたのは幸いでした!」
ライゼー様が苦笑い。
「ルークの目を疑うわけじゃないんだが……若者が多いし、頼り甲斐という意味ではちょっと不安かもしれんぞ? 当たり前の話だが、よその商会ですでに成功しているような、ベテランからの応募はなかったわけだし……」
確かに経験者は少ない。しかしナナセさんのステータス上の実力はそこらのベテラン以上だし、強面グレゴールさんや獣人ジャルガさんも見た目以上に頼れる逸材だと猫は思っている。アンナさん、カイロウさんの若夫婦はいろいろ未知数だが、伸び代はありそう。
そして、さらにもう一人……!
やべぇ人材がいることを、ライゼー様はお忘れである!
猫はにこにこと飼い主(のパパ)を見つめた。
「経験者が不在とは、またまたご冗談を。もちろんライゼー様も手伝ってくださいますよね!」
「えっ」
元商人! 現役領主! 領内の交易・産業・税関係はもちろん、兵の指揮や兵糧の調達にまで才を発揮し、いろんな差配ができる上に貴族としての信用・人脈までお持ちである。
こんなつよつよ人材が身近にいるという時点で、この商会はもはや勝ち確……ククク……ライゼー様め……猫の狡猾さを甘く見たな?
「もちろんご多忙でしょうし、実務関係まで押し付けるつもりはないのですが、相談役、助言役としてたいへん頼りにしております!」
猫さんがキラキラのおめめで、肉球をあわせて「おねがい♪」すると、ライゼー様はひきつり笑いで頷いてくださった。なんでちょっと引いてるんですかねぇ?
「……ま、まぁ、領主としてできる範囲のことはするが……あまり期待はしないでくれよ?」
かわいい飼い猫(自称)に頼まれて、嫌と言える飼い主はそうそういないのである。やはり時代は猫。これが犬だったらこうは……いきそうだな。犬もまぁまぁ強いな……?
ともあれ、トマティ商会もいよいよ本格的に始動できそう。
残る懸念は……
「……で、ルークはいつ、みんなにご挨拶するの?」
コレである。
クラリス様からのご指摘に、俺はうやうやしく一礼を返した。
「面接の時にもライゼー様から皆様へ説明してもらいましたが、明日の朝、採用の合否を商人ギルドに掲示してもらい、明後日の昼に、案内とご挨拶を兼ねた食事会を開催する予定です。私のご挨拶もそのタイミングですね。その後は、引っ越しの準備や周囲への挨拶も必要でしょうし、それぞれの必要な日数をおいてから、改めて私がお迎えにあがろうかと思います」
ナナセさんだけはまだ卒業前なので、その後になる。年末は家族で過ごしてもらって、移動は年明けかな……
他の面々は、せいぜい一日~三日程度で移動できるだろう。レッドワンドから流れてきたカイロウ君ご夫妻はそもそも荷物が少なく安宿暮らし、ジャルガさんは行商人なので、貴重品をギルドに預けて他は手持ちの馬車にぜんぶ積んでいる。独身のグレゴールさんも賃貸生活なので、物件の解約が済んでしまえばすぐにも移動可能なはずだ。
そして荷造りと運搬はキャットデリバリーにお任せできるので、さして手間もかからない。
オズワルド氏が顎を撫でた。
「明後日の昼か。場所を聞いてもいいかね?」
「八番通りホテルに集まってもらって、その後にこちらのキャットシェルターへ移動ですね」
「それならぜひ、私も参加したいな。リーデルハイン領で働く者達なら、どうせちょくちょく顔を合わせることになるだろう。なんなら偽名を使っても良いが」
「そうですねぇ。いきなりだと怖気づいてしまうかもしれませんし、『魔族』という事実は、仕事に慣れてからお話ししましょう。オズワルド、という名前だけを名乗っていただいて、家名のほうは伏せておく流れでお願いします!」
……バレたらたぶんビビられてしまうので、まず逃げられない程度に絡め取ってからだな……(悪辣)
ウェルテル様が、改めて採用者達の書類を眺めた。
「結局、男性二人に女性三人ね……ルークのことだから、採用者はみんな女性になるかと思ってたわ」
「とはいえ、一組は夫婦での採用だからな。意外だったのはグレゴールくらいだろう。ナナセ嬢とジャルガ嬢は当然という感じだし……」
ウェルテル様もライゼー様も、俺に対する認識がびみょうに歪んでない……? かわいい女の子に弱いのは認めますけど、さすがに社員をその基準で選ぶ気はないよ……?
猫が「えー」と不満な顔をしていると、クロード様がフォローしてくださった。
「ルークさんはちゃんと人を見てますよ。ナナセ先輩はそもそも群を抜いて優秀ですし、あのジャルガさんもケーナインズの推薦みたいなものですし……むしろ、一番最初に来たベテランっぽい商人、あの人が不採用だったのが意外でした。人当たりも良かったですよね?」
俺が不採用の理由を言う前に、ライゼー様が薄く笑った。
「ギブルスネークを仕留めた以上は、もう一人前かと思ったが……やはりまだまだ甘いな、クロード。あいつはおそらく、よその商会から潜入調査を命じられたスパイだぞ。そもそも新興の商会に来るような人材じゃない。ナナセ嬢は『トマト様』の将来性に気づいていた。ジャルガ嬢はケーナインズからの紹介で、グレゴールはこれまでが不遇、若夫婦は移住目的だったわけだが……最初の男は、そもそもの目つきが違った。愛想こそ良かったが、こちらを常に値踏みして、出し抜くつもり満々だった。仮にああいう輩を引き入れるなら、誤情報を掴ませて逆に利用するくらいの気構えが必要になる」
ライゼー様は気づいていらした……! さすがは元商人、『じんぶつずかん』なしでこれだけの分析ができるのに、「自分の眼力にさほど自信がない」とは、謙遜にも程がある。
「ええー……それは全然わからなかったです。クラリスは……気づいた?」
クロード様の問いに、クラリス様は平然と首を横に振った。
「ううん、ちっとも。でも、『不採用だろうな』とは思ってた」
「それはどうして?」
「なんとなく。『この人、嘘ついてるな』って」
……クラリス様のこれは、ただの『勘』ではあるまい。御本人もうまく言葉では説明できないのだろうが、そもそも我が主は「交渉B」という適性をお持ちである。
相手の真意を見極めるのは、交渉術の第一歩。実はそこそこレアな適性であり、クラリス様の非凡さを裏付けるファクターとなっている。
「……あと、もう一人。ジャルガさんっていう人も、何か隠し事がありそうだけど……悪い嘘じゃないだろうから、大丈夫だと思う」
くらりすさましゅごい……
好奇心に駆られて、俺もつい質問をしてしまう。
「どんな隠し事か、予想はされていますか?」
「……本当はすごい猫好きだけど、テーブルの上のルークをなるべく見ないように、必死に我慢してた感じ」
そっちかー。猫力は84だし、たぶんそんなに間違ってはいないけど、そっちかー。隠し事っていうか一般的なマナー方面だなぁ。
「……それとたぶん、ルークの正体にも薄々、感づいてる気がする」
………………は?
慌ててジャルガさんの『じんぶつずかん』を再確認した俺は、猫目を見開きワナワナと震えた。
そこにはこう記載されている。
『面接の場に同席していた猫から「獣の王」の気配を察し、戸惑いつつもその場を取り繕うことに成功。ただの猫からわけのわからない威圧を感じたことに、自身も困惑している』
……獣人さん……そっか……『獣の王』って、人間や有翼人さんにはバレないのに、獣人さん相手にはバレるのか……?
しかしせっかくの美人な有能人材から怖がられてしまっては、社長としてもペットとしても本末転倒である。明後日の食事会では誠心誠意、かわいさをアピールせねばなるまい……
悪辣フェイスで考え込む猫社長を抱きかかえ、クラリス様は我がネコミミをぴこぴこと押すのであった。




