171・留学と留年は似ているようでぜんぜん違う
クラリス様の「私でも留学できる?」という質問に、まず反応したのはウェルテル様であった。
「ク、クラリス? 何を言ってるの? え、ちょっと待って! 貴方、留学とかに興味あったの!?」
せっかく肺火症が完治して家に戻ってきた矢先に、愛娘が「留学して家を出たい」とか言い出したら、そりゃまぁびっくりするであろう。
クラリス様は涼しいお顔で応じる。
「ううん。留学には興味なかったけど……機会があれば、学校には行ってみたいかな、って。士官学校の学祭に行ってみて、ああやって年の近い子達と、みんなで何かをやるのって楽しそうだなぁ、って思ったの」
なるほど、先日の学祭がきっかけか! 確かにあれは楽しそうであった。
「……あと、メイド喫茶もやってみたいし」
うちのお嬢に変な概念を吹き込んだのはどこのどいつだ! やろう、抜け毛まみれにしちゃる!
……い、いや、士官学校のメイド喫茶は決していかがわしい方向性ではなかった。正統派とも言い難いが、アレはアレで微笑ましい感じだったし、みんな楽しそうだったのも事実。落ち着け猫。
「まぁ、メイド喫茶はルーク相手のおままごとでも別にいいんだけど、学校そのものに興味が出てきたのは本当。留学にはこだわらないけれど、ロレンス様の警護役が必要だってことなら……私とルークが一緒に行くのは、良い案だと思ったんだけど」
ウェルテル様があたふたしている。
「で、でも……ホルト皇国よ? すごく遠いのよ? なにもそんなところに……」
「距離はあんまり気にしなくていいよ? ルークが一緒なら、領地からでも普通に通えるくらいだし。もちろんルークもお仕事があるから、毎日帰るようなわけにはいかないだろうけど、レッドトマト商国の支援中も、徹夜で作業をしていた日以外はちゃんと家に帰ってきてたでしょ?」
それはそう。そもそも俺はクラリス様のペットであるからして、主の送迎はペットの責務。渋谷駅で銅像になっているお犬様とか、ペット業界の英雄である。
……猫は送迎しない? いや、でも、玄関あたりまでなら……まぁ……?
なお、母娘の会話を聞くリルフィ様は呆然とされている。
「え? がっこう?」「いっぱい人がいるところ?」「クラリス様、正気ですか……!?」みたいな感じである。リルフィ様は人見知り属性もちだから仕方ない。そんなおそろしいところに好き好んで行きたがる人間の心理が理解できないのだろう。
学祭などはちゃんと楽しめていたようだが、それも俺やクラリス様がいたからだろうし、宿に戻った後はお疲れのご様子であった。人が多いところはやはり苦手なのである。俺より猫っぽいな?
さて、クラリス様のお膝から、俺は挙手して発言する。
「実際、往復は数秒なので、距離のことは気にしなくていいです。私はホルト皇国に行ったことがないもので、一度、ウィルヘルム様かアーデリア様に連れて行ってもらう必要はありますが……その後は宅配魔法でいくらでも移動可能です。あと向こうで寮生活をする場合、隠蔽工作のためにも、同室の生徒がいない個室をもらうのが前提になりますので……そうなればウェルテル様がそっちへ気軽に泊まったりもできそうですし、いわゆる普通の留学とはだいぶ違う感じになるかと!」
持ってて良かった、宅配魔法! この便利さはちょっと替えが利かぬ。ウェルテル様にもレッドワンドでの色々や王都への旅路(※数秒)で実感していただいたはずだが、「他国への留学」という語感にイメージを引っ張られたのだろう。
猫の説明を受けて、ウェルテル様はしばらくきょとんとし、「そういえばそうね……?」と、あまり釈然としないまま頷かれた。
クラリス様がウィル君に向き直る。
「それでウィルヘルム様。さっきの質問なのですが――」
「あ、はい。ええと……」
ウィル君がちらちらと俺を見る。「ルーク様のご意向は?」と聞きたいようだが、そんなん気にせず、普通に事実を教えていただければ!
「……まず、制度上は何の問題もありません。もちろんクラリス様だけでは護衛役に不向きですので、他の人員も募ることになりますが……あ、いえ、ルーク様がいれば実質的には充分なのですが、ルーク様の存在は貴族達には伏せざるを得ないので、いったん横においておきますね。あと、費用面の問題……は、手持ちの琥珀を現地で少し売れば充分でしょうか……? 食費についても、ルーク様がいれば一銭も……あれ? えっと、他の問題は……」
ウィル君が言葉に詰まってきた。特に問題を思いつかないとゆーか、まぁ、制度とか法律以外のあらかたの問題は、ペットの猫さんが解決できてしまうので……うん。
「……ご両親の同意があれば、まぁ、はい……特に問題はないかと思います」
そこが一番であろう。特にライゼー様はかわいいクラリス様を他国の学校に通わせるなど……いや、叱ったり怒ったりはしないだろーけど、「うちの王都の学校でもいいのでは……?」みたいには言いそう。
しかし、クラリス様がこんなことを言い出したのはもちろん……
「クラリス様、それはつまり、『ロレンス様と一緒に』、同じ学校へ通ってみたい、という意味ですよね?」
「……うん。それもある」
猫の指摘に頷きつつ、清らかな微笑をたたえるクラリスさま……
ウェルテル様が「あら。あらあら。あらあらまぁまぁ」と、何やら嬉しげな顔に転じた。娘の淡い恋バナとか母親がいちばん好きなやつ。しかもこのルートだとクラリス様が将来の王妃様……? またライゼー様の胃が一段と不安になるな……?
とはいえこれはさすがに気が早すぎる。クラリス様は僻地育ちゆえに、ロレンス様はお立場ゆえに、単純に、「年の近いお友達」が今までいなかった。
初めてできた良き友人と一緒に楽しく学校へ通ってみたいというのは、至極当然の流れであろう。
「もちろん、決めるのはお父様にもちゃんと相談してからだけど……行きたい、って思ったのは本当だから、制度としてそれが可能なのかどうか、先に確認しておきたかったの。ダメだったら諦めるつもりだったし」
飼い主の尊い思いに頷きつつ、俺はウィル君へ視線を向ける。
「さきほど、ウィルヘルム様が言いかけた『リスターナ外交官と接触する自然な理由』というのもコレですね? ロレンス様の留学に関する相談、という名目で先方に接触し……親しくなったら、『ロレンス様も一緒に、転移魔法で国元までお送りする』みたいな流れで、魔族であることを自然に明かし、アーデリア様の話にもつなげるとゆー……」
ウィル君が苦笑いを見せた。
「ご賢察です。ただ、これはロレンス様の留学を許可することが前提でしたので……悩ましいところでした。ルーク様やクラリス様が現地での警護役をしてくださるのであれば、陛下も安心でしょう。それから……ルーク様がもしもホルト皇国へ行かれるのならば、あの国の抱える秘密についても、事前にお知らせしておきたいことがあります」
きたぞ。
「……それはもしかしてアレですか? さっきルーシャン様からうかがったのですが、ホルト皇国の皇家は、亜神を祖にしているとゆー伝承があるとか……」
「ご存知でしたか。それは事実です。その亜神はもうこの世界から去りましたが、魔王様のご友人だったそうで……その縁で、ホルト皇国は今も魔族の侵攻から除外の指定をされています。それから数十年前にも、縁あって魔族が皇族と婚姻を結んでいますね。純血の魔族ではなく、私やフレデリカのようなその親族なのですが……つまり密接ではないものの、一応は魔族との関わりがある国です」
……毛づくろい毛づくろい。
やべぇ情報に触れた時は、とりあえず毛づくろいをしてまず精神を落ち着ける。猫ならではの特殊技能である。
「……それはつまり、下手すると私の存在が魔王さまにバレるきっかけになりかねない……とゆーことでしょうか……?」
「そうですね……皇族から漏れるのも怖いですが、そもそもホルト皇国は大国ですので、ネルク王国よりも周辺国の目が集まりやすい環境です。さきほどの留学の話からもわかる通り、他国から来ている者もそれなりに多いですし、各国の諜報機関なども目を光らせています。オズワルド様の正弦教団も大きめの拠点を構えています」
……あー。そういえば、レッドトマトでトゥリーダ様を補佐してくれている頼れる諜報系人材、パスカルさんも、正弦教団のホルト皇国支部から来たんだったか……
ついでに、「彼が抜けた穴埋めに」ということで、オズワルド氏がフロウガ将爵を持っていったはずだが……元気でやっておられるだろーか。
ロレンス様やクラリス様の留学がもしも実現すれば、現地で俺も顔をあわせることになりそうである。レッドトマトではバタバタしていてあまり交誼を結べなかったが、次に会う時は味方同士でありたい。
それはそれとして、現地ではなるべくおとなしくしておいたほうがよさそう。実際にそれが可能かどうかはさておき……
「トマティ商会のホルト皇国進出は当面、やめておいたほうがいいですかね……? 仮に進出する場合でも、留学の終了後にして、なるべく私は関与せず、自然な流れに任せるようにするとか……」
「それがよろしいでしょう。ただ私が気にしていたのはそっちではなく、リスターナ子爵にルーク様の正体を明かすかどうか、という点でして……」
ウィル君に苦笑いされてしまった。あ、そっち?
「ホルト皇国への旅路……もとい移動に関しては、ルーク様ではなく私が転移魔法を使う形でもカバーできます。ただ、現地でもリスターナ子爵を完全に味方へ引き込むつもりならば、正体を明かすのも一つの方策かと……『上にルーク様のことを報告をしない』という確約が前提になりますが。彼は口の固い人間でしょうか?」
「ふむ……あの人は『ネルク王国担当』の外交官の家系らしいので、そこそこ長い付き合いになるのは確定しているんですよね……まずはウィルヘルム様に接触していただいて……魔族のことを伝えて、留学に関するお話を済ませてから判断しましょう。その流れの中で、私が『この人は信頼できる』と判断したら、その時には改めて自己紹介をさせていただきます!」
何も今、決断することではない。しかし検討はしておく。
「わかりました。では、そのように……あ、陛下にもお会いになって行ってください。クラリス様のご留学の可否はさておき、ルーク様にロレンス様の警護を保証していただければ、迷いも晴れるかと思います」
「ご多忙じゃないです?」
「多忙は多忙ですが、ルーク様には会いたいはずですし、他のご相談もあります。具体的には、トマト様の交易優遇策に関して案をまとめましたので、ご確認いただければと……各派閥にとっても違和感がなく、ライゼー様へのやっかみが行きにくいように配慮してあります。反面、トマティ商会については権力者の後ろ盾を疑われるかもしれませんが……この点は実際、ロレンス様やアイシャ様が出資者に名を連ねておりますので、問題ないでしょう」
「なんと! ありがとうございます!」
即座に鰹節へと食いつく猫一匹。
ククク……陛下め……仕事がはやい。
そしてリオレット陛下+アーデリア様とも合流し、お茶菓子には以前からご要望のあった「豆大福」をご用意。
陛下は書類仕事の影響か、若干おつかれ気味であったが、しかし目つきには充実感がうかがえる。アーデリア様との仲も順調そうで何よりである。
「ルーク様、先日のメテオラの茶会ではありがとうございました。ロレンスもたいへん楽しかったようです。もちろん私にも、良い骨休めになりました」
「いえいえ! 陛下のお仕事が一段落したら、また何か企画してお誘いしますね!」
……メテオラ茶会の件はトゥリーダ様の外交デビューとして利用させていただいた感が強いので、今度は多忙な陛下のちゃんとした休暇につながるようなアクティビティを企画したい……楽しい遊覧飛行とか。風光明媚な温泉宿泊とか。とはいえ基本、インドア派な方なので、無人の図書館とかのほうが気が休まるかもしれぬ。
さて、お茶菓子の豆大福には、さっそくアーデリア様が食いついた。鰹節に食いつく猫より速ぇな……
「ほう、これがオズワルド殿の言っていた豆大福……まるで粉雪のような白さと、黒い豆の対比がなんとも鮮烈な……!」
和菓子はまず見て楽しむ、というのはよく聞く話だが、豆大福でそれやる人は初めて見たな……?
あんこ系はやはり問題ないようで、アーデリア様は満面の笑みで食べはじめる。リオレット陛下はさすがにトマト様のお話優先。
「トマト様とその加工品の通行税免除は、とりあえず十年ですね。十年後からは段階的に、他の商品と同程度にしていく予定ですが、これは状況の推移にもよります。たとえば、バロメソースが国民的主食になっていて、値上げによって悪い影響が危惧されるような事態になっていたら、そのまま据え置きということも有り得ます。おそらくその頃にはロレンスが王になっているはずですので、改めてご相談いただければと」
「ありがとうございます! 充分です!」
欲しいのは先行者利益ではなく、「初動のお得感」である。市価を安く抑えてお試し価格でご提供する上で、通行税の優遇はたいへんありがたい。あと出店コストとか、最初はいろいろ物入りですし。
また、下僕の目的は「トマト様の耕地侵略」であるため、今後は他領にも積極的に広げたい。
今回の「通行税の十年免除」は、トマト様とそれを主原料にした加工品全般に適用されるため、こうした優遇策があれば他領も栽培を検討しやすくなる。
ついでに、「リーデルハイン領&トマティ商会だけの特権」という形にしないことで、利益は減るだろうが、他貴族からの妨害をされにくくなるという利点もあるのだ。
……まぁぶっちゃけ、琥珀とかメイプルシロップとかサツマイモとか、次の弾が大量に控えているからできることかもしれぬが……あとライゼー様も「短期的な利益より長期的な信用を」という基本方針なので、その意味でもありがたい。
アーデリア様が二つめの豆大福をもぐもぐしながら、トマト様優遇策の書類を覗き込んできた。もう一個食い切ったの? はやいな……
「偽装対策は良いのか? トマト様を箱の上だけに並べて、その下を別の作物にすることで、通行税をごまかす輩も出てきそうだが」
「追徴金が恐ろしい額になるから、実際にやる商人は少ないと思うけど……そもそもネルク王国の通行税は、そんなに高くもないからね。あと、十年と期間を区切ったのは、そういった負の影響を見越してのことでもある」
うむ。仮に問題が起きたとしても、最初から期限付きの政策ならば対応しやすい。
俺もアーデリア様に向き直る。
「それに、実際にトマト様の普及が進むのは、当方のバロメソースが成功して世間に認知された後だと思われるので……広がるまでに、早くても四、五年はかかるでしょう。その頃に参入してくる他の商会にとって、通行税の優遇期間はせいぜい五年前後になります。トマト様の普及が予想より早いようならそのくらいで充分でしょうし、他領への普及速度がイマイチだったらもうちょっと延長、みたいな流れでお願いしたいですね」
「なるほどのぅ。通行税の優遇措置は、他領への普及促進も兼ねた振興策か。利益だけが目的ではないのだな」
アーデリア様も納得したようで、三つめの豆大福へ手を伸ばしながらうなずいた……え!? 三つめ!? それけっこうボリューミィなサイズでは!?
「ついでにもう一つ聞くが、『国外への輸出』を禁じておるようだな? これは何故だ? ルーク殿はトマト様を世界へ広げたいのだろう?」
これについてはちょっとややこしい説明が必要である。
「国外には広めます。しかし、『今』ではありません。ぶっちゃけると『解禁の時期』を操作し、他国におけるトマト様の価値を高めるための一策です」
まずは二、三年かけて、ネルク王国でトマト様をがっつり普及させる。
国外から来た人達がその噂を広め、「ネルク王国に新種のすごいお野菜様があらわれた! すごすぎて輸出禁止になってる!」と諸国へ広まったタイミングで、「外交上の贈り物」という形で苗や種をばらまき、外交にも活用する――すなわち「トマト様外交」である。たぶん歴史の教科書に載る。むしろそっちが目的である。
「産出国でぞんざいに扱われているお野菜」と、「禁輸措置までされている貴重なお野菜」――周辺国が、より「うちにも欲しい!」と思うのはどちらだろうか?
トマト様の耕地侵略を志すルークさんが「禁輸措置」などを国に進言するとは、一見すると矛盾しているようだが――これはあくまで短期間の限定措置。実際のところは、人間の心理をついたマーケティングの一環なのだ。
レッドトマト商国からも流出するだろうが、それはそれで別に構わぬ。「輸出禁止」はあくまで初期のイメージ作り・印象操作のためであり、四~五年以内にはどうせなし崩し的に解禁される。
また、レッドトマト側もトマト様を外交に利用できるので、これは遠回しなトゥリーダ様への支援策でもある。実際、ホルト皇国側には、レッドトマト商国からトマト様を贈呈する流れで計画を進めている。
「それにリーデルハイン領だけでは、とても他国に輸出できるほどの収穫量は望めませんから……品薄による転売価格の高騰などは避けたいので、他国へ輸出できるようになるのは、どのみち耕作地が国内にちゃんと広がってからですねぇ」
リーデルハイン領は、土地はあるけど人が少ない。これはもうどーしよーもない。短期的には猫さん達が働いてもいいのだが、そんなのを何年も続けるのはさすがに不健全である。
クラリス様のお手々から豆大福を食べさせてもらいながら、フンフンと鼻をひくつかせていたウサギのピタちゃんが、その時ふと呟いた。
「さすがルークさま……ぬけめがない」
よせやい照れるぜ。
「ぬけげはおおいのに」
換毛期ですからね。そろそろ冬毛の準備しないとですからね。
俺の体を櫛ですいていたリルフィ様が、その抜け毛を瓶にしまった。なんか手芸に使うらしい。短毛だけどモッサリ溜まっている……フェルト生地にして、猫用の手袋とか作ってくれるそうなのだが、前足だからむしろ靴下……?
「あの……私も一つ気になったのですが、振興策の中にある『トマト様基金の創設』というのは……?」
これもルークさんからの提言である!
「トマト様に由来する収益の一部を、孤児院の運営資金や、風雨等の災害に対する義捐金として活用する福祉政策です。国側にこれを主導していただくことで、『トマト様に関する優遇政策は、トマティ商会やリーデルハイン家への利益誘導ではない』と示してもらうのが目的ですね。もちろん我がトマティ商会が一番多く資金を投入する流れになるでしょうが、それも実際に利益が出た後の話になります!」
つまりはトマト様の売名と、トマティ商会&リーデルハイン領へのヘイト管理を兼ねた重要な計略である!
「さすがルークさま……あくらつ」
「……いえ、これは普通に良い慈善事業だと思いますが……?」
リルフィ様はたぶんよくわかってないな! ピタちゃんはこの策の本質を野生の勘で見抜いたか? ……ちょっと最近、変な方向に賢くなってきてない? 飼い主(俺のほう)に似てきた?
この基金の肝は、「トマト様は通行税が免除される」「でも利益が出たら基金にお金を入れる必要がある」という点。
つまり見方によっては、税金の払い方とその呼び方を変えただけなのである。
しかもこれは「農家」ではなく「商家」にのみ掛かるので、作る側は気楽にトマト様を導入でき、売る側も実際に利益が出るまでは気にする必要がない。
儲かったらその額に応じて金銭を収めるという意味では、法人税、事業税にも近いのだが、当然、それらは別にも掛かってくるわけで――通行税の免除にホイホイ飛びついて手を出したら、利益に応じて後から別の税金(っぽいモノ)がかかるという、実に悪辣な策である。
とはいえ額はそんなに大きくないし、利益が少なかった場合には払う必要もないので、赤字になることはない。
実は陛下も「……これはただの慈善事業なのでは?」と勘違いされている様子なのだが、猫が懇切丁寧にその効果を説明すると、「……なんのかんのと理由をこじつけていますが、要するにただの慈善事業ですよね?」という……あれ? 伝わってない?
……まぁ、導かれる結果だけを見れば「慈善事業じゃねぇか」となるのはわかる。だがこれに関しては、「結果」よりも「過程」が重要なのだ。
トマト様の普及のためには、プラスになる側面が大きいはずである。
アーデリア様が四つめの豆大福をもぐもぐしながら笑った。
…………四つめ!? 四つめだと!? その食欲でその体型維持してんの!? 化け物か!?(※魔族)
「ルーク殿はあまり利益に執着しないのだな。それは亜神だからか? それとも猫ゆえの性格であろうか?」
……まぁ、その気になれば金塊とか出せてしまいますし、コピーキャットで食べ物にも困りませんし……「衣食住足りて礼節を知る」という言葉があるが、ルークさんの場合、衣は毛皮で済むし、食はコピーキャットがあるし、住環境はお貴族様のペットという地位を獲得済なので、あまり利益に執着する必要がないのも事実。土木・建築工事すら、必要とあらば猫魔法で対応できてしまう……
「んー、亜神とか性格とかより、状況的な理由ですねぇ。ぶっちゃけこの体だと、お金の使い道もあんまりないというか……宝飾品や服も基本的には必要ないですし、食べ物も好きに出せますし、寝る場所はクラリス様達のお世話になっているので――」
リオレット陛下も頷く。
「それはそうでしょうね……特に甘味などは、王宮のものよりルーク様がくださるもののほうが格段に美味しいわけですし」
アーデリア様がくすくすと笑って陛下の頭を撫でた。髪に打ち粉ついてますけど。
「うむ、それはわかる。この豆大福という甘味も実に美味い! クラリス殿達は、いつもこんな品を食べられて良いのぅ」
そんなに刺さったか、豆大福……アーデリア様の好みの問題かとも思ったが、オズワルド氏もなんかハマってたし、魔族的に何かあるのかもしれぬ。あんことの相性か、もしくは求肥か?
検証のため、お土産に羽二重餅とくるみゆべし、温泉まんじゅう、羊羹、甘納豆、豆板の詰め合わせをご提供した。
どれが一番刺さるかによって、あんこか求肥か、あるいは豆か、判断の材料になるだろうと思ったのだ。
……結論から言うと「ぜんぶおいしかった」とのことで、だいたいなんでもいいらしいと後日判明した。
魔族さぁ……いえ、別にいいんですけどぉ……




