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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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159・開業、メテオラ温泉


 お茶会の主要なゲスト勢のうち、スケジュールが詰まっている多忙な方達には、先に「宅配魔法」でお帰りいただいた。

 具体的には、リオレット陛下とアーデリア様、トゥリーダ様やシャムラーグさん。

 あとウィル君は砂神宮側から来たのだが、帰りはネルク王国側へ転移した。姉のアーデリア様やリオレット陛下に、いくつか業務報告があるらしい。


 そしてメテオラに残った面々も、既にサツマイモスイーツや秋の果物でおなかいっぱいなため、追加のオヤツはもうないのだが……それでも残ったのは、この機会にいくつかの連絡と相談を済ませてしまうためだ。


 まず、ライゼー様とヨルダ様、リルフィ様+宮廷魔導師ルーシャン様、アイシャさんの組。

 こちらは『禁樹の迷宮』絡みである。琥珀の流通経路には魔導師ギルドの影響力が強いため、いざこざを避けつつ有利な条件を得るには事前の根回しが必要なのだ。

 またリルフィ様からも、迷宮やドラウダ山地でとれる薬草関連の報告、相談などがあり、ちょっと専門的な会合になっている。


 それからロレンス様とクラリス様。こちらは普通に雑談である。ウェルテル様とサーシャさん、マリーシアさんも加わり、楽しげに近況報告やらレッドワンドでの諸々やら、なんかいろいろ話している。女性陣は話題が豊富である。

 トゥリーダ様も時間があればここに混ざりたかっただろうが……今はガチで忙しい。


 あ。レッドトマト商国への物資支援の件でたいへんお世話になったケーナインズと有翼人の方々には、このまま打ち上げの酒盛りへ突入していただく。

 酒、料理、つまみ、すべてルークさんのおごりである! オズワルド様も満腹ながらこっちの輪に入ってる。いろいろお世話になりましたー。

 ……ピタちゃん? 人間に化けて普通に追加で大量に召し上がってますけど何か?

 立食形式の宴会なので、獣のままだと取り分けに難がある。


 そして肝心のルークさんであるが、俺は今、有翼人の幼女様、ソレッタちゃんに抱っこされて、村長のワイスさん他数名と一緒にメテオラの視察中。

 ここしばらくはレッドトマト商国にかかりきりだったため、メテオラのほうがちょっとおろそかになっていた。反省……

 

 とはいえ畑とか果樹園は、複数の有翼人さん達が持っている特殊能力『植生管理』によってしっかり守られているので、さして問題はない。トマト様の季節は終わりつつあるが、小麦やリンゴをはじめ、その他の作物も大豊作である。


 今日、主に視察するのは、彼らに建設を頼んでおいた「冒険者用の簡易宿泊所」とか「宿屋」とか――

 みんなの打ち上げ慰労会(屋外)もその周辺でやっているので、まぁ視察といってもダラッとしたものだ。お皿を片手に食べながら歩いている人もいる。


「やー、立派な建物ができましたねぇ!」


 建てられていたのは、屋根付きの一階建て、長方形の細長い建物が二つ。


 俗に言う「ウナギの寝床」であり、構造は単純だが、シンプルイズベストを体現したような無駄のない作りだ。

 天井を高めにして通気性を確保しつつ、内部には簡易的な仕切りを設置できるようになっており、パーティーごとの分割にもある程度は対応できそう。


 ソレッタちゃんの腕から簡易宿泊所を見上げ、俺はぺちぺちと拍手。

 有翼人さん達も心なしか誇らしげ!


「ブルトさんの設計と指導が的確だったんですよ。俺らは石材加工ばっかりやってきたんで、木材はどう扱ったらいいのか、最初は戸惑ったんですが――やってみたら、なんとかなりました」


 ハチマキ巻いた職人風の有翼人さんが、へらっと照れたように応じてくれる。ソレッタちゃんのパパである。

 特産品戦略で採用した木彫りの落星熊メテオベアーや猫の像を彫った経験も、木材加工の習熟につながったのだろう。


 窓ガラスは後日、リーデルハイン領から搬入予定だ。

 ネルク王国は鉱物資源に乏しいものの、珪砂に関しては産出地域があり、瓶詰めなども広く普及している。

 このガラス系の発展にも、転生者か転移者が絡んでいるのではないかと疑ってはいるのだが……火属性魔法とか魔道具とかがある分、前世の中世よりも技術レベルが高めなのも事実であり、なんでもかんでも転生者の手柄にはできぬ。

 特に窓ガラスの製造に関しては、魔力を込めて強化ガラス的なモノを作るなど、前世には存在しなかった技術もある。


 ちょっと面白いのは「組み立てガラス」という製品シリーズがあり、これは格子状の枠に、一辺が15センチの小さな正方形のガラス板をはめていくとゆー……一部が割れても交換しやすく、また現地で組み立てる前提なので輸送もしやすい。なんと隙間を埋めるシーリング材まである。

 格子を変えるだけでいろんな大きさの窓枠に対応できるし、値段もそんなに高くないので、メテオラではコレを中心に購入していく予定だ。


 また、少し離れたところには新築の宿屋もできており、こちらは大きめの二階建てログハウスで食堂や個室もある。内部の見学は後日にするが、外観はなかなか立派!

 玄関先にはちょっと大きめの木彫りの落星熊+猫が「招き猫」のポーズで設置されている。集落全体で推していくのか……


「それと材木置き場も整備できました。今年使う分は、乾燥作業もルーク様のお世話になりましたが……来年以降は、こちらの木を使えるようになると思います」


 村外れにできていたのは、簡易な屋根付きの材木置き場。

 ドラウダ山地には大量の木材資源があるわけだが、切り出しただけでは材木にできない。

 本来は半年から一年程度、乾燥させる期間が必要なのだが、今年の分だけは猫魔法の雉虎組に速攻で乾かしてもらった。

 これから来る冬に備えた家具作りのためにも、材木は多めに必要だったのだ。


 そして各家庭には「コタツ」も準備中!

 布団は布に藁を詰めた簡素なモノで、今は内部に熱源もなく体温のみで暖まる形式なのだが……「琥珀」を熱源とした安全な魔道具を安価に作れないかと、現在、ルーシャン様に相談中である。実現すれば、今冬の防寒対策として実に心強い。


 ドラウダ山地の冬は平地よりも厳しいはずであり、特に一年目の今年は強めに警戒したほうが良かろう。

 ……とはいえ、より高地のレッドワンドよりは厳しくないのが確定しているのだが……まぁ、快適であるに越したことはない。豪雪地帯ではないが雪も降る。


 そしてもう一つ、猫からのプレゼント。

 今回のレッドワンド支援で、馬車の御者役や荷下ろしを手伝ってもらったお礼に……大きめの『琥珀』を一つ活用し、村の水浴び場に「露天風呂」を併設した! 観光系のホテルとかにありそうな、とても立派な岩風呂である。


 こちらの設計・工事はブルトさんと雉虎組に、琥珀をセットして水を温める魔道具の手配はルーシャン様にお願いしておいた。

 今日はその魔道具を持ってきてもらったので、最終設置工事も兼ねている。

 この給湯魔道具、見た目はでかい「猫の頭」で、内部に琥珀と水を溜めるタンクが内蔵されており、後ろから水を流し込むと口からお湯が出てくる仕組みだ。


 ……見たことあるな? これ本当はライオンの口からお湯が出てくるヤツだな?


 ともあれ、数ヶ月に一回程度、琥珀へ魔力を注ぐ必要はあるが、コレは俺以外の……たとえば冒険者の魔導師さんとかでも使用可能。

 リルフィ様とかシィズさんならもちろん対応できるし、実は有翼人の中にも「魔導師」の素質がありそうな人が何人かいるので、その才を伸ばせば自分達で管理できるのでは、と検討中である。


 そしてこの琥珀式温泉、実は温度管理がとても楽。

 魔道具としての性能の問題で、水を沸騰させたり高温にはできないのだが、「だいたい40度~50度前後にずっと温め続ける」みたいな処理が得意なのだ。

 琥珀の発見時、アイシャさんが「温泉作りましょう!」と主張したのも、この性能と特性を知っていたからであった。

 瞬発力、あるいは瞬間的な火力はないが、持続力に優れた熱源ということである。


 でかい琥珀がないと作れないので魔道具としてはかなり高価、『禁樹の迷宮』様々だ。

 そしてお湯を沸騰させるほどの高火力も望めないので、蒸気機関とかタービン発電機とかには流用できない。産業革命はおあずけ。


 噴出口付近で43度前後になるように調整してもらったが、これから稼働させてみて問題点があれば洗い出し、いずれはリーデルハイン領にも住民向け、冒険者向けの温浴施設を作りたいものである。もちろんレジオネラ菌とかが怖いので循環型にはせぬ。

「排水の熱で温室作れないかな……」とかはちょっと考え中。


 でかい金色の「猫の頭」を設置し、露天風呂へ無事にお湯が溜まり始めると――見ていた有翼人の方々から歓声があがった。

 ただこれは「よくわかんないけど凄そう!」という歓声であって、彼らはお風呂の真価をまだ知らぬ。


 有翼人さん達がメテオラに移住して大感動したポイントの一つが「水浴びができる!」という部分で、以前にいた里では、そんな大量の水の無駄遣いは有り得ぬ話であった。


 彼らが「温泉」というものにつかるのはコレが初めてであり――しかし、今宵は酒が入るし、まだお湯も溜まっていないのでダメである。一番湯は明日以降であろう。

 各種の入浴作法と「水分をしっかりとる」「酒を飲んだら入らない」「湯あたりに注意」などの基本事項も、村長のワイスさんからみんなに伝えてもらうように要請した。最初はいろいろ戸惑うだろうが、じきに慣れると思う。


 その村長のワイスさんも大興奮であった。


「ルーク様、すばらしい設備をありがとうございます! これからこの地へ来る冒険者の方々にも、きっと喜ばれるでしょう」


 山奥の秘湯、メテオラ温泉(※元がただの湧き水なので、厳密には温泉ではない)が遂に実現したのは俺も感慨深い……

 住民は無料として、冒険者からは入湯料とって集落の現金収入にしよう。よく冷えたフルーツ牛乳も売ろう。扇風機も設置して、十分百円のマッサージチェアも――いかん。発想が商業主義に毒されている。


 ついでにもう一点、ご報告。


「ルークさま、おふろ、ありがとーございます!」


 舌っ足らずな声でお礼を言いながら、俺の後頭部にもふっと顔を押し付ける幼女様。

 ――有翼人のソレッタちゃんは、このたび、なんと「特殊能力」に目覚めた。

 どういう機序なのかはさっぱり不明なのだが、たとえば有翼人の方々は、日々の農作業を通じて特殊能力『植生管理』を獲得している節がある。そんな感じに、特殊能力を後天的に獲得する例はたまにあるらしい。パスカルさんの『隠者の切り札』もこの類だと思われる。


 で、ソレッタちゃんが目覚めた特殊能力であるが……


■特殊能力

・猫探知


 ………………使い道、せっっっっま。

 いや、予兆はあった。

 俺がメテオラに来ると、ソレッタちゃんはいつもどこからともなくふらりと現れる。気づかれなかったことは一度もない。


「お仕事があるからごめんね!」


 と言えば素直に解放してくれるが、そうでない場合はだいたい俺を抱えあげ、そのまま指示するほうへと移動してくれる。


 いろいろ楽なものだから、俺もつい甘えてしまっていたが……もしかしたら能力のリソースを無駄遣いさせてしまったのではないかと、ちょっと困惑していたりする。

 とはいえ特殊能力獲得と一緒に魔力もDからCへ上昇してたし、猫力は85だったのが91まで上がってるし……なんなの。なにがあったの。成長? 栄養状態の改善? でもさすがに90台は危なくない?


 ルーシャン様に相談したら、「親元を離れる年齢になったら、ぜひ弟子に欲しい!」とまで言われてしまったので、もしかしたら将来、アイシャさんの妹弟子みたいな感じで仕官するかもしれぬ……もちろん本人の意向が最優先だ。


 まぁ、そうは言ってもまだ六歳児……いや、先日が誕生日だったので七歳児である。進路を決めるのなんて当分は先のお話なので、今はすくすくと元気に育って欲しい。健全な成長のために猫力はもう少し下げても良い。


 さて、打ち上げの宴会が本格的に始まると、お仕事の話を終えたライゼー様やルーシャン様達もこちらへ合流してきた。

 雑談していた女性陣もやってきて、おなかいっぱいではあるものの、立食形式のパーティーに加わる。目的は有翼人さん達との交流である。


 クラリス様とロレンス様も、年の近い有翼人の子供らに囲まれ、楽しげに会話されている。マリーシアさんがちゃんと護衛もしているが、有翼人はそもそも女性の出生率が高く、子供も女の子のほうが多い。男児どもはむしろ料理のほうに夢中であり、集まっているのも女の子がメイン。危険はなかろう。


 ――ちなみに有翼人の方々は、以前の里で炊き出しをした当初、クラリス様とリルフィ様を『ガチの女神』だと勘違いしていた。

 その後、猫からの説明で誤解は解けたが、命の恩人であることにはかわりなく、そのゲストであるロレンス様にも丁重に対応してくれている。

 またロレンス様も、有翼人の子達が答えやすい話題――日々の生活とか山の食べ物とか『禁樹の迷宮』のこととか――を振っているので、会話がうまく弾んでいる。


『ネルク王国の王族が、メテオラへ視察に来る』と聞いて緊張していた大人達も、この様子を見て安堵したのだろう。また、レッドワンドの貴族達との違いも実感していただけたはずである。

 移住してきた彼らに、こうして国に対する信頼感をもってもらうのは、とても大切なことなのだ。


 そんな中、木工技能を持つ女性の職人さんが、リルフィ様に小声で囁いた。


「……リルフィ様、先日お約束したルーク様の神像の追加分ができておりますので、帰りにでも……今回も良い出来です」

「…………ありがとうございます。お代は、次に輸送する日用品の中に、別途追加する形で……」


 ………………猫の知らぬ商談が水面下で進んでいたようであるが、ルークさんは関知しない……最近、リルフィ様の寝室や仕事場に見慣れぬポーズの俺が増えているよーな気がしないでもないが、そういうのも気にしない……猫好きが猫グッズを集めてしまうのは不可抗力である。


 前世で猫型土偶とかが出土した時も、世の猫好きの多くは驚愕よりも「やっぱりあったか……」という納得感を得たはず……いやまぁ、実際には猫なのかどーか不明らしいですけど。


 宴の追加メニューとして冷たいデザート類を錬成していると、ほろ酔いでごきげんなライゼー様と、素面しらふのルーシャン様が俺の傍に来た。


「ルーク、今日はお疲れ様。リオレット陛下もロレンス殿下も、たいそうお喜びだったな。しかし、あのサツマイモという野菜……満腹感がすごい。今は酒ぐらいしか入らん」


 それな。

 特に焼き芋とかは見た目以上におなかが膨れる。

 基本的にサツマイモ系は一口サイズにして、いろんなメニューをお出ししたのだが、他にもメロンやリンゴや柿、梨など、たくさんの果物の試食をお願いしたので……さっきまで雑談していたお嬢様方などは、おなかが苦しくて動けなかっただけなのではと邪推している。

 ルーシャン様も楽しげだ。


「甘みにも素晴らしいものがありましたな。そのままで菓子に加工できるほどとは……また陛下は、『保存性の高さ』にも注目しておいででした。飢饉に対する備えとしてももちろん、将来はぜひ軍の補給物資としても活用したいところです。特に石焼き芋と干し芋……あれは人気が出るでしょう。特別な調味料や調理用の魔道具なしであれだけの甘みを実現できるとなれば、庶民にも爆発的に広まります」


 …………あれ? おや? あれれ……?

 もしかして……トマト様より、評価が高い……?


 ……オーケー、落ち着け。クールにいこう。Be Cool。否、この場合により適切なのはStay cool、もしくはChill outとかJust chillとか……

 おっ、英検一級(※詐称)らしいツッコミだぞ!

 

 ……………………はい。また上がりました。『英雄検定』が一級になってます……英語は関係ないヤツです……おめでとうございました……(ハイライトオフ)


 猫を交通事故から助けて三級、アーデリア様の狂乱から王都を救って二級、古楽の迷宮のボス討伐と有翼人さん達の移住促進で準一級、そしてこのたび、禁樹の迷宮攻略、レッドワンドの飢餓救済とフロウガ将爵の反乱軍鎮圧、レッドトマトの建国で遂に一級――


 まぁ、知ってた。今回はちょっと規模が大きかった。やはりコレ、救った人間や倒した敵の数が多くなると問答無用で上昇していくヤツである。

 一級より上はもうないと思いたいが、ここから段位認定戦が始まる可能性も捨てきれず、あんまり気にしないことにした。

 英検初段……前世にはなかった概念だな……?


 ――それはさておき、サツマイモは幸いにもご好評だったが、このままだとトマト様の覇道をおびやかすほどのお野菜になりかねぬ。また、トマト様と違って連作障害も出にくく、農家にとっては育てやすい。

 江戸時代の偉人、青木昆陽あおきこんよう先生の推し野菜だけあって、そのポテンシャルは決して侮れぬ。


 ここは先行するトマト様の普及促進時にも、前もってテコ入れが必要か……?

 もちろん、ポテンシャルでは決して負けていない。バロメソースは自信作であるし、生食トマト様や普通のトマトソースの汎用性、その旨みの素晴らしさも、仮に俺が何もせずともいずれ世に広まるであろう。


 ……しかし狡猾なルークさんは、ここで『メディア戦略』という、前世に氾濫はんらんしていた策謀へとはやくも舵を切る。


 ククク……王都ネルティーグや領都オルケストで広げておいた人脈は、すべてこの時のため!


 貴族階級にはリオレット陛下とルーシャン様が、一般庶民向けには拳闘士のユナさんが、聖教会とその信者向けには演奏者のハズキさんが、それぞれ広告塔になってくれるはずである!

 また先日のオズワルド氏のステマ……もといガチマによって、アルドノール・クラッツ侯爵をはじめ、軍閥の一部のお貴族様達にも生のトマト様を召し上がっていただいた。あの布石もこれから生きてくる。


 折しも季節は収獲の秋――王都でも再び社交の季節が始まる。

 今のうちに施策を検討して根回しと下準備を整えておき、ペーパーパウチ工房が本格稼働する来春頃を目処に、メディア戦略もスタートさせる。

 ここが……ここからがトマト様のメインステージだ!


 有翼人さん達の宴を横目に、大いなる野望を胸に秘め、クックックックッと邪悪に低く嗤うルークさん――

 そのネコミミをふにふにと揉みながら、ソレッタちゃんも俺の真似をしてきゃっきゃっと笑う。かわわ。


 …………真似にはなってないな? 普通に猫よりかわいいな?


 §


 ネルク王国、王都ネルティーグ。


 ――ホルト皇国の外交官、リスターナ・フィオット子爵は、春から一夏を越えてなお、この王都に滞在し続けていた。

 そこそこ高級な宿での長期滞在には容赦なく出費を強いられたが、これは必要経費である。いざとなればツケも利く。


 彼は本来、先代の国王であるハルフールの容態だけを調べて帰国する予定だった。

 しかし滞在中に王が急死し、王位の行方を見定めようと滞在期間を延ばしたところ――その王都で、思いがけぬ異変を目にする羽目になった。


 純血の魔族、アーデリア・ラ・コルトーナの狂乱。

 その暴虐から王都を守りきった、謎多き猫の大群――


 あまりに不可解な、信じ難い光景を目の当たりにした彼は、当初の予定よりも滞在期間を大幅に延長し、可能な範囲での調査を開始した。


 有力な情報は、いまだ得られていないが……

 その一方で、この国で『何か』が起きていることは確信した。


 一時は狂乱した魔族のアーデリア・ラ・コルトーナが、王妃の地位を得ようとしている。

 そのコルトーナ家と敵対しているはずのバルジオ家当主、オズワルドが、国境付近でレッドワンドからの侵略軍を追い返した。


 噂によれば、オズワルドは参戦の理由を「レッドワンド将国が自分の友人をおとしめたから」だと告げたらしい。

 理屈は通る。通るが、しかし……納得はできない。


(見方を変えれば、オズワルド・シ・バルジオの動きは、ネルク王国を守護する結果になった。しかし、リオレット陛下の恋人はコルトーナ家のご令嬢……対立するバルジオ家がこの国を守る理由はないはず。レッドワンドからの侵略軍にも、コルトーナ家が対処すれば良い――まさか、コルトーナ家とバルジオ家が和解したのか……? ……わからん。水面下で、いったい何が起きているのか……)


 ……公式には認められていないが、ホルト皇国もまた、『魔族』の影響下にある。

 といっても属国ではない。

 ホルト皇国の皇族には、魔族から分かれた血脈が混ざっており、遠い親戚のように扱われている。

 この事実を知る者は国家の中枢にも多くないが、フィオット子爵家は外交官の家系であり、過去には魔族への接待をこなしたこともあった。


 リスターナは、自身が臆病者であると自覚している。

 ゆえに、魔族を正しく恐れ、警戒し、同時に不敬をなさぬよう細心の注意を払っている。


(深入りは禁物――しかし、何も知らぬままで放置すれば、いずれはそれがホルト皇国の国難へとつながる可能性も否定できん……)


 生真面目なこの外交官は、異国の王都にて痛む胃を抱え、本国へ送る『滞在延長への言い訳』を必死に考え込んでいた。


 これらの異変に関与する「獣」の存在に、彼はまだ、辿り着いていない――



気温が高すぎて赤外線式のセンサーライトに無視される今日この頃、皆様いかがおすごしでしょうか

……あつぅぃ……


そんな暑気真っ盛りですが、コミックポルカとピッコマにて、三國先生の漫画版・猫魔導師・12話後編が更新されました! ご査収ください。

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― 新着の感想 ―
トマトとサツマイモは相性悪いと言われているからね(食べ合わせで) ルークの警戒も納得? トマト煮にすればワンチャンあるかもよ(迷走してます)
サツマイモが普及したら次は焼酎ですね
一同平和にお茶会という名の顔合わせが済んで良かったですね。初期から出ているリスターナさんが 未だ真相に近づけず言い訳作るのに胃を痛めているのがちょっと気の毒ですね~
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