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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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141・当座の方針を決めよう


 ラケルさんはひどい猫さんであった……


(あの流れなら普通、飼い主のほうに行くでしょう!? なんでウェルテル様のほうに行ったんですか!)

(や、つい……なんですな。やはりあっしも猫ですんで、気まぐれと申しますか……居心地の良さそうなほうにふらふらと――)

(あああ……ほらー、トゥリーダ様、泣いちゃったじゃないですかー)

(はぁ。そいつはまぁ、いつものことですんで)


 こ、この毛玉……ッ! 悪びれた様子もなく……ッ!


 ……いやまぁ、猫さんらしい挙動ではあるかもしれない。

 俺だったらクラリス様やリルフィ様に手を広げられたら「にゃーん」と何も考えずに飛びつくが、世の猫さんはそうではない。主が仕事をしていたら躊躇なく邪魔しに行くが、構いに来たらするりと逃げる。それが猫という生き物である。


 ちなみに、この場にウェルテル様がいる理由であるが、「なんかおもしろそうだから」とのことで……

 クラリス様と一緒にいる時間を確保したい、という理由もあろうが、ペットの仕事ぶりにも興味を持っていただけたのだろう。

 猫カフェで待機中はクラリス様とも存分に話せるし、母娘の時間を確保するにはちょうど良い機会と俺も判断した。

 しかし、こんな状況下で他人様の飼い猫を無自覚に惑わすとは、やはり魔性……おそろしいお方である……ご本人が一番困惑してるけど。


 とりあえず、卓に伏して泣いてしまったトゥリーダ様の頭を肉球で撫でながら、俺は溜息を吐いた。


「トゥ、トゥリーダ様、すみません……ラケルさんはですね、ずっと貴方の傍で、貴方を見守っていたのですが……やはり猫なので、猫の習性とゆーか精神性からは逃れられず……」


「『猫の習性』を完全に克服していそうなルーク殿がそれを言うのか……」


 オズワルド氏に突っ込まれたが、ルークさんとて猫の習性からは逃れられぬ。世間一般の猫さんよりもほんの少しだけ労働の喜びに目覚めてしまっているが、それ以外はごく普通の猫さんである。


 お風呂に入ったりナイフとフォークを使いこなしたり農作業をしたりもするが、そんなのは誤差の範囲内。喉を撫でられればゴロゴロ鳴いてしまうし、肉球をぷにぷにされれば爪がにょっきり出てしまう。

 飼い主の枕元にネズミ(おみやげ)を置いたりはしないが、代わりにお茶のタイミングでスイーツをご用意している。これはまぎれもなく猫の習性である。異論は認めぬ。


 飼い猫の塩対応を受けて、仕事に疲れた独身OLのように落ち込んでいたトゥリーダ子爵であったが、俺が肉球でてしてしと慰めていたら割とすぐに復活した。


「うぅ……キジトラさん優しい……結婚して……」

「…………………………それはダメです」


 おや? いつの間にか背後に来ていたリルフィ様が、そっと俺を抱えあげてがっちりホールド。にゃーん。

 ……背中はあったかいけどなんか寒いな? エアコンが効きすぎているかもしれぬ……


 リルフィ様に抱っこされて(現実逃避の)毛づくろいをしていると、シャムラーグさんがトゥリーダ様の前へ麦茶を置いた。


「トゥリーダ子爵、これでも飲んで落ち着いてくださいよ。とりあえずルーク様がお味方になる以上、戦力のことはどうとでもなりますんで……国王軍でも反乱軍でもない、第三極――その旗頭になりそうな人材に、心当たりはないですか」


 トゥリーダ様は顔をあげ、力なく笑った。


「……そんな心当たりがあれば、私もそっちに身を寄せています」


 うーん……しかし、さすがに「人材が皆無」ということはあるまい。不世出の人材はいるだろうが、不世出ゆえにトゥリーダ様も知らない、と……そうであって欲しい。ガチでいなかったら第三極どころではない。

 そんな期待のもと、俺はなおも粘る。


「別に魔導師とかでなくてもいいんです。優秀な官僚とか、政治に見識がある賢者とか……あの、あんまり悪辣な人だと本末転倒ですけど、もういっそ『人格者である』とかだけでもいいです。むしろ魔導師じゃないほうが、体制一新という意味では好都合かもしれません」


 トゥリーダ様が考え込む。


「……一年遅かった、というのが本音です。私が思いつく唯一の人物、ハルベルム・ハルバートン侯爵……この方は去年、何者かに暗殺されました。現在の状況から邪推すると、犯人はフロウガ将爵の派閥の誰かかもしれません。次期国王の有力候補でもありました」


 ……出る杭は打たれるとゆー奴か。

 これはいよいよ、人材難が深刻かもしれぬ。


 シャムラーグさんが唸った。


「……ハルベルム侯爵ですか……トゥリーダ子爵、その配下の貴族達ならどうですか? 穏健派をまとめておられた方ですし、配下にも有力者がいそうですが」

「面識のない方がほとんどなので、私には判断がつきません。有為の人材はいるかもしれず、いないかもしれず――名を聞いたことがあるのは、アスワーン伯爵家、ゲンデル子爵家、カトラート子爵家くらいでしょうか。あ、でもカトラート子爵家は、確かついこの間、何か醜聞スキャンダルがあったような……」


 その『カトラート子爵家』という単語が出た瞬間、シャムラーグさんがピタリと固まった。

 ……おや? これは何かある?


 俺はリルフィ様のお胸に埋もれたまま、シャムラーグさんに肉球を振った。


「シャムラーグさん、シャムラーグさん。今、何か反応しませんでした?」

「えっ……あー……はい。そうっすね……カトラート子爵家とは、ちょっと縁があって……ですが、この非常時にわざわざお話しするようなことでもないです」

「いえ、できればうかがっておきたいです。今はとにかく、雑多な情報でもなんでも仕入れておきたいので!」


 半分くらいは好奇心であるが、とにかく俺はレッドワンドの内情に疎い。この国を理解するための参考情報は多く確保したいのだ。

 シャムラーグさんは苦笑い。


「……まぁ、あれですよ。俺がリオレット陛下の暗殺なんて任務を押し付けられた原因にもつながるんですが……そのカトラート家の令嬢を暗殺するようにと、ドレッド子爵から命令されたんです。なんでもその令嬢が、フロウガ将爵閥のとある伯爵との縁談を断ったせいで、面子めんつを潰されたとかで……」


 ルークさんの爪がにょきっと伸びる。

 これは無意識である。危ない。

 シャムラーグさんが肩を落とした。


「あまりに馬鹿らしい理由だったもんで、なんかもう全部嫌になりまして……命令を無視して、その令嬢と恋人の駆け落ちに協力しました。ネルク王国側に逃したんで、今頃はどこかに住み着いているか、あるいは冒険者登録でもして、さらによその国へ移動しているか……そこらへんは知りませんが、その後、しれっと暗殺成功の虚偽報告を出したら、命令無視がバレまして、懲罰的に例の『人質法』を食らって……あとはまぁ、ルーク様もご存知の通りです」

「フカー」


 怒りを向けた先はもちろんシャムラーグさんではなく、そんな酷い指示を出したその上官達であるが、やはりちょっと仲良くできない感じの人達か。

 トゥリーダ様が目元を覆った。


「思い出しました、カトラート子爵家の令嬢……そういえば噂になっていましたね。幼馴染の騎士と駆け落ちしたとかなんとか……逃げられたほうのアルガス伯爵は、五十代の色ボケ爺です。大方、若くて綺麗な子を後妻にでもしたかったんでしょう。おそらくドレッド子爵は、彼に媚びを売ろうとして……ハルベルム侯爵が死んで後ろ盾を失ったカトラート子爵家なら飛びつくだろうと侮って、仲介を安請け合いしたんだと思います。ところがカトラート子爵家が、この無礼な要求を突っぱねたものだから……それを逆恨みして、嫌がらせに暗殺者を派遣、と。よくあるパターンです」


 そんなのがよくあったらダメでしょ……

 怒るのを通り越して、もはや呆れ切った様子のトゥリーダ様。

 俺もげんなりしてしまう。


「……話を聞いていると、そのドレッド子爵という人は、ずいぶんと居丈高で理不尽な貴族みたいですねぇ……」


 シャムラーグさんが頷いた。


「典型的な小物です。弱い相手にめっぽう強く、権力者には媚びへつらう――本人は策謀家気取りですが、逆恨みや私怨に根差した小狡い策略ばかりで、大局を見る目はありません。兵を使い捨てにする非情さこそが将官に必要な要素だと勘違いしている手合いです」


 滅多斬りである。

 しかしシャムラーグさんの人物評は割と正確なので、たぶん擁護の余地はない……猫力も低そうだな……?


「そんな人を重用ちょうようしているフロウガ将爵というのも、だいぶヤバそうな人ですねぇ」

「……さすがに将爵は、ドレッド子爵ほど小物じゃないです。非情さって意味では似たようなものですが、私怨で動くことはあんまりなさそうですね。女にだらしないとか、贅沢にこだわるとか、そういうのもないんですが……『勝利』にはこだわりますし、政治的な嗅覚が鋭いです。今回、反乱を起こしたのも、『今なら勝てる』と判断してのことでしょう」

「いや、そう考えるのは早計だぞ」


 シャムラーグさんの判断に待ったをかけたのは、俺に第一報を持ってきたオズワルド氏だ。


「正弦教団からの報告によると、そこまで戦力差があるわけでもないらしい。むしろ、やむにやまれずの挙兵である可能性が高いと……そもそも反乱軍が挙兵を急いだ理由の第一は、我々にある」


 ん? 我々?

 ぐにっと首を傾げてしまった俺の代わりに、クラリス様が思案顔で呟いた。


「……オズワルド様が収容所を襲い、レッドワンドの国王に警告をした件――あれで、『魔族を怒らせてしまった国王』の求心力が低下したと聞きました。そしてあの時、収容所から救い出されたのはキルシュ先生ご夫妻。あの二人を『人質法』の人質として捕らえたのは、フロウガ将爵やドレッド子爵の兵……これは調べればわかることですよね。つまり王にしてみれば、『魔族を怒らせた下手人』は自分ではなく、フロウガ将爵達ということになります。だから王は、魔族への言い訳作りも兼ねて、フロウガ将爵にその責を問おうとした……その動きを察知した将爵が、捕縛される前に挙兵したという流れでしょうか?」


 ――我が飼い主の鋭い分析に、俺はあんぐりと口を開けて間抜け面をさらしてしまう。

 クラリス様……! やはり天才か……

 オズワルド氏もこの回答者は意外だったようで、手を軽く叩きあわせた。


「すばらしい。まさにクラリス嬢のご指摘通りだ。加えて言えば、国王にとってのフロウガ将爵は、部下であると同時に自分の後釜を狙う政敵でもあった。つまり、これを口実にして力をごうとした面もあるだろう。そしてフロウガ将爵も、『魔族を怒らせるような国王に、国を預けるわけにはいかない』と自分を棚に上げ、自身にとって不利な調査結果と王の根回しが諸方へ広まる前に、挙兵という形で先手を打った。これが今回の内乱の内幕だ。今から王がフロウガ将爵の失点をあげつらっても、真実を知らん連中からすれば、『反乱軍に対する中傷の一つ』にしか見えない。タイミングとしては、まさに今がギリギリだったんだろう」


 ……ば、ばたふらいえふぇくと……

 つまり、俺がオズワルド氏に依頼した工作が、巡り巡って今の事態につながっているとゆー話か……


 オズワルド氏が物騒な笑みを見せた。


「もしも『犠牲を問わず早期解決を』という話であれば、私が魔族の立場でどちらかに肩入れすれば決着はつく。おそらく大勢が死ぬが、これから飢餓が訪れることを考慮すれば、むしろ人口を減らしたいと願う者さえいるはずだ。しかし……ルーク殿は、違う結末をお望みなのだろう?」

「はぁ……そうですねぇ」


 ……まぁ、わざわざ精神的に病みそうな方向へ向かいたい理由もない。

 そもそも俺の真なる目的はレッドワンドごときの滅亡ではなく、いと尊きトマト様の覇道である。

 皆様の前では今もまだ猫をかぶって「こまりましたねー、どうしましょうかねー」みたいな顔をしているルークさんであるが、内心はもう「開墾! 植樹! 栽培! 収穫!」の大合唱であり、ここからどうやってその結論へ着地させるかを検討中だ。

 そして悪辣なルークさんは平然と嘘をつく。


「とりあえず、優先順位の第一位はネルク王国の防衛、第二位はレッドワンドの政治状況の改善ですね。いま必要なのは、『レッドワンドの今後を託せる指導者』です。その人物に我々が協力することで、人々が納得するだけの『手柄』を立ててもらい、このレッドワンドにトマト様の傀儡政権かいらいせいけんを……もとい、ネルク王国と平和的な交渉が可能な政権を作りたいのです」


「ルークはたまに本音が漏れるよね……」

「そして漏れた本音がファンシーなんですよね……」


 クラリス様とウィル君からツッコミをいただいたが、トマト様の傀儡政権ってファンシーか? 独創的ファンキーではある。


 しかし、人材探しにもあまり時間をかけるわけにはいかぬ。

 一週間後くらいには反乱軍がネルク王国の国境に集結するだろうし、指導者の発掘はできれば三日くらいで片をつけたい。


 逆に言うと、まだ三日くらいは猶予があるのだ。

 誰も見つからなかったらトゥリーダ子爵にお願いしたいが、本人があまり乗り気でないので、これは最後の手段か。できれば知力、統率、精神のうち、二つくらいはB以上になっている現地人材が欲しい。


「そういえば、さっきのハルベルム侯爵亡き後の『ハルバートン侯爵家』って、どうなったんですか? 当主が暗殺されたのなら、後継者が継いでいるはずですよね? ご長男とか……」


 シャムラーグさんが首を横に振る。


「いえ、ルーク様もすでにご存知かと思いますが、レッドワンド将国の爵位は、血縁では受け継がれないんですよ。『当主は魔導師であること』が貴族の絶対条件なので、だいたいは魔力のある養子をとります。ハルバートン侯爵家の場合、当主のハルベルム様がまだ若かったので、後継者を用意していなかったそうで……配下のアスワーン伯爵家当主が当座の養子に入って、伯爵家のほうも同時に代替わりしたみたいです」


 そーだそーだ、うっかりしてた。

 世襲制じゃない貴族ってちょっと不可思議な概念なのだが、所変われば文化も変わる、会社の代替わりと似たようなものか……?

 むしろ地方自治体の市長とか県知事クラスを、常に養子縁組で決めている感覚なのかもしれぬ。


「とゆーことは……トゥリーダ様も、この地域の方ではなかったり?」


「ええ、私も別の地方の出身で、両親は遠くの町で暮らしています。私は魔力があったので、魔導学校を出て、こちらのオルガーノ子爵家に養子として入りました」


 魔導師至上主義は、やはりいろいろ弊害のありそうなシステムである……

 王様も有力貴族の当主から合議で選ばれるって話だったし、その意味では「選挙君主制」に近いのだが、候補者もみんな「魔導師」であることが前提になっている。


 血統よりも実力(※魔力)重視という意味なんだろうが、これは裏を返すと、「実力で王位を奪い取っても良い」という思考が根付きやすい環境なのではなかろうか……?

 レッドワンドの国内が混乱しやすい理由……その一端が見えた気がする。


 血統で支配者層を固定すべき、という話ではない。

 文明・文化・思想の成熟レベル、また周辺環境や国民性、地政学的要因などにも応じて、必要とされる社会システムは変化していく。

 かつてのレッドワンドでは、おそらくこの仕組みが必要だったか、あるいは今よりはうまく機能していたのだろう。

 だが、どこかのタイミングでこのシステムは失敗し……いまや国としての劣化を招いてしまった。

 これは農業にも生かせる教訓である。

 一度の収穫成功に油断して、同じ場所で一つの作物ばかりを栽培し続ければ、連作障害で土が痩せてしまう。あらゆる事柄には、健全な変化と正しい対処、試行錯誤が必要なのだ。


「お貴族様の跡継ぎは、だいたい養子と考えたほうがいい感じですか?」


 トゥリーダ様が頷く。


「ほとんどはそうですね。たまたま親族に魔導師が生まれたりとか……いえ、その場合でも養子ではありますが、血縁関係があるだけでも珍しい例です。実子となるとさらに稀です」


 さらにシャムラーグさんが補足。


「貧乏貴族の場合、跡継ぎが見つからず、普通に取り潰しになる例も多いです。伯爵家以上なら、他の家の当主や後継者候補が来てくれますが、男爵家、子爵家クラスだとあっさり取り潰しになります。養子すら確保できない家ってのは、そもそもかなり困窮してますから……そんな家は潰して、功績をあげた魔導師に新しい爵位をやったほうがマシ、って判断です」


 せちがらい。

 これらに関して、クラリス様も別の質問をされた。


「魔導師じゃない実子はどうするの? 断絶まで追い込まれてもなお、爵位は継げないんだよね?」

「一応、役人とか下級士官へのルートはあります。あとは普通に、それぞれの裁量で働き口を探す感じですかね」

「他の貴族や新しい当主との結婚も有り得ます。私も本当は、オルガーノ家の長男と結婚するはずだったんですが……会う前に病死してしまって、話が流れてしまいました」


 割と哀しい話をあっけらかんと……いや、会ったこともないならしゃーないか。

 しかしそうなると、「魔導師ではない有能人材」が埋もれている可能性は大いにある。

 官公庁あたりを覗いてみるか? 現役官僚の大半は国王派か反乱軍側に分かれていそうだが、トゥリーダ子爵のように放置されている人材もいると思われる。

 旗頭になるほどの傑物がその中にいるかどうかはさておき、そうした不遇な人材を集めれば、数としてはそこそこの勢力になったりしないだろうか?


「トゥリーダ様、有力者でなくてもいいのですが、『国王派』でも『反乱軍』でもない、様子見していそうな人達に心当たりってありますか?」


 その人達をスカウトしつつ、第三極の「拠点」も決めてしまいたい。

 拠点を周知することで人材を集めやすくなるし、勢力として存在感を示せるようになる。何より、現時点で俺が思案中の「策」を実行するためには、広めの土地が必須なのだ。

 切り口を変えた俺の問いに、トゥリーダ様は眼をぱちくりとさせた。


「様子見勢ということでしたら……たとえばホルト皇国との国境沿いにいる兵は、おそらく動きません。国内がどうなろうと、国境の防御を最優先の任務にしているので傍観せざるを得ないというか……まだ反乱軍蜂起の情報も伝わってなさそうですが、仮に伝令がついても、のらりくらりと理由をつけて『勝った側につく』という判断をすると思います」


「ほう。国王がピンチでも動かない兵達ですか――?」


 情報の伝達に時間がかかるのは仕方ない。転移魔法が使える人材など魔族か亜神くらいなものだし、通信用の魔道具もめちゃくちゃ高価というか、まともに流通していない。

 正弦教団が使用している通信網などもオズワルド氏が貸与したもので、基本的にオズワルド氏の拠点を経由した報告しかできない。おそらくは、純血の魔族が維持管理しないとまともに扱えない特殊な魔道具である。


 そして、ホルト皇国との国境にいる兵達についてだが……自国の王よりも国境防衛のほうが大事とは、少々意外である。ホルト皇国って、話を聞く限りではそこまで好戦的な国でもなかったような?

 驚く俺を、シャムラーグさんからの追加情報が納得させてくれた。


「ホルト皇国との国境近くには、レッドワンドの生命線、『砂神宮さじんきゅう』があります。もしもあの迷宮をとられでもしたら、レッドワンドは詰みで――あ」


 その瞬間、ルークさんの猫目が爛々と光った。

 シャムラーグさんも自分の発言の重要性に気づいたらしい。


「……見つけちゃいましたねえ、急所……ククク……『砂神宮』、第三勢力の拠点に、実にちょうどよさそうです……」

「ネルク王国側からだと、かなり遠い位置ですが……ルーク様のお力ならば、いかようにでもできますぜ」


 わけがわからぬ様子で戸惑うトゥリーダ子爵をよそに、俺とシャムラーグさんは悪い顔でニヤニヤと嗤い合う。

 俺を抱っこしたリルフィ様が頭上で「……かわいい……」とか呟いてらっしゃるが、かわいさの基準ゆるくない? この悪辣フェイスちゃんと見えてます?


 ともあれ、この国の急所に「第三勢力」を出現させることで、まずはレッドワンドの国王軍と反乱軍、その双方にがっつり冷や汗をかいていただく。


 ククク……もはや内乱だの侵攻だの言ってられないくらいに、我が爪でしっちゃかめっちゃかに引っ掻き回してくれよう……

 そう、まるでおろしたてのトイレットペーパーのようにな!(猫的表現)


いつも応援ありがとうございます!

ニコニコ静画にて、コミック版の猫魔導師・第九話後編が更新されました。

リルフィ先生の誘惑授業……もとい称号講義からの、超越者さん再び――


何気に超越者さんの姿が出たのは初めてな気がしますが、なんという美人さん……これはギルドの受付嬢的な存在感……(なお性格)

ニコニコでは春のお祭りで4話まで再掲載中ですので、あわせてご査収ください。

あと三國先生、ツイッターの誤凍結解除おめでとうございます!(私信)

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― 新着の感想 ―
[一言] >我が爪でしっちゃかめっちゃかに引っ掻き回してくれよう…… そう、まるでおろしたてのトイレットペーパーのようにな! ヤメロ!・・・やめろ・・・。(でも可愛い)
[一言] トマト様も連作障害が起きるお野菜ですね…
[一言] あ、レッドワンドが貴族制の原因が視えた(気がする 元々は宗教国家になる予定だったけど近くに宗教が原因で滅んだ国が出たので急に方向転換からの迷走だな!
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