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127・下僕の決意


 およそ三百人分の炊き出しは順調に進み、割とすぐに場は落ち着いた。

 おかわりが欲しい人には二杯目、三杯目もご提供するつもりだが、みんな指示に従ってゆっくりと召し上がっている。どうやらキルシュ先生もお医者の立場から念押しをしてくれた模様。


 我々も手を休める程度の余裕ができたところで、村長さんとの話し合いが始まった。

 目の前にいる、村長むらおさのワイスさん。

 痩せ型で精悍な印象のおっさんである。

 村長ではあるが、まだ高齢者ではなく、お年は四十六歳。それでも、平均寿命が短いこの集落では年長者扱いである。

 ステータス的に突出した要素はお持ちでないが、里の長だけあって、割としっかりしたお方っぽい。


「ルーク様。私めはこの村の長を務めております、ワイスと申します。このたびは、村人のシャムラーグとエルシウル、その夫のキルシュ殿をお救いいただき、まことにありがとうございました――さらには、困窮していた我々にまでこのような慈悲をたまわり……」


 ……地面にあぐらをかいた状態で深々と頭を下げられてしまい、俺は困惑した。

 シャムラーグさんが何をどう説明したのかはだいたいわかっているのだが、それにしても反応が重い!

 猫! こちとらかわいい猫さんである! もっとファンシーに扱って! なんならモフっていいから!


「いえいえそんな! あの、まず最初に申し上げておきますが、私はこちらの里で信仰されているよーな猫神様とは別モノです。確証はないんですけど、たぶん違うと思います。で、それはそれとして、シャムラーグさんやキルシュ先生には、我が飼い主の領地で生活してもらっていまして……」


 ワイスさんにも野菜スープを召し上がっていただきながら、俺は現状をご説明した。シャムラーグさんからもすでに大まかな話は伝わっているようだったが、「遺跡」の説明に関しては少々の食い違いが……


「ご提供できる土地は、なにせ山の奥深くですし、道は作りましたが交通の便もよくはありません……野生動物も多いですし、住み暮らしていくのは決して楽ではないかと思いますが……」


 横で聞いていたシャムラーグさんが苦笑い。


「村長、ルーク様の言を額面通りに受け取るなよ。俺に言わせりゃ、あんな良い環境、どんなに願ってもそうそう手に入るもんじゃない。水が豊富で、土が肥えてて、しかも『野生動物が普通にいる』んだぞ? それがどれだけすごいことか――」

「……だよな? あの、ルーク様……獣すら痩せ細ってまともに暮らしていけないこちらの環境と比べたら、『多くの獣が生きていける』という時点で、それはむしろ素晴らしい環境だという証明のように思いますが……」


 感覚の違い……いや、これはワイスさん達のほうが正論か。

 農業をやっていると害獣が悩みのタネだし、町暮らしが長いと山の獣の危険性にばかり気が向いてしまうが、そもそも「きれいな水と豊かな土」は、決して「どこにでもある当たり前のもの」ではない。


 ネルク王国は農業に強い国だし、俺も前世が日本人ということで、つい感覚が麻痺しているところはあるが……世界の国々へ目を向ければ、この「大量の水」と「良質な土」の確保に四苦八苦している例が非常に多い。


 水がなければ植物は育たず、植物がなければ草食獣は生きていけず、草食獣がいなければ肉食獣は生きていけず、ついでに肉食獣がいないと植物が草食獣に食い尽くされて砂漠化・荒れ地化してしまったりもする。

 そうなると草食獣も生きていけなくなり……あとに残るのは、この有翼人の里みたいな不毛の土地だ。


 このサイクルを破綻はたんなく支える水と土が、ドラウダ山地には充分にある。

 先日、竣工しゅんこうした古代クマ遺跡(※偽装)にも、きれいな湧き水を導く水路が整備済みであり、近郊の雨量もそこそこ。

 旱魃かんばつの地と比べれば、さすがにイージーモードであろう……「水がない」というのは、本当にどうしようもなくヤバいのだ。


 少し話は逸れるが、たとえば生活レベルが過酷だった古代、各種の文明は大河によって成立してきた。川があれば飲料水の確保はもちろん、灌漑かんがいによる農業で多くの人々の生活を支えられる。

 エジプト文明ではナイル川が。

 インダス文明ではインダス川が

 メソポタミア文明ではティグリス川とユーフラテス川が。

 大阪文明では道頓堀川と淀川が。

 それぞれ、大きな役割を果たしてきたのである。


 ……最後だけ新しい? いうてもルークさんが生まれる前の話ですし、人類史の数千年とか宇宙規模で見れば誤差の範囲ですし(暴論)


 なお、某サン◯ース氏が暴徒によって投げ込まれたことで有名な道頓堀川は、東横堀川から木津川へと合流する人工の河川であるが、この工事に私財をなげうった偉人、安井道頓が地名の由来となっている。

 彼は商人でありながら、この川の工事中、大阪夏の陣に巻き込まれ、豊臣秀頼に味方して大阪城内で討ち死にをした。なんとも気合いの入った商人である。


 この道頓堀川は水運を目的とした「運河」であり、農業用水とかではないのだが――

 実はクマ遺跡の開発計画に際しては、ここを少しだけ参考にさせていただいた。

 現在の道頓堀川には「とんぼりリバーウォーク」なる遊歩道が整備されており、クマ遺跡の縁取りとなる水路にもこの案を採用。将来的には映えるデートスポットになりそうな、ステキな遊歩道が完成した。

 ちょっと凝りすぎて予定よりも工期が長引いてしまったが、その素晴らしい出来栄えをぜひ、こちらの有翼人の方々にも見ていただきたい。


 ちなみに現場監督をしてくださったブルトさんは「……ここまでやったら、逆にリーデルハイン家の関与とかまったく疑われないですよ……どう考えても一子爵家の経済規模でできる工事じゃないですから……」と、(諦めたように)太鼓判を押してくださった。そういう効果もあるのか!


 ついでに視察をしたライゼー様もどこか遠い目をして、「……ルーク……領内開発事業の入札に参加しないか……?」などと冗談を言っておられたが、ルークさんが社長を務めるのはトマト様の交易加工会社&ペーパーパウチ工房であり、建設会社・雉虎組きじとらぐみではない。これ以上の経営多角化は肉球が回らぬ。


 話が脱線してしまったが、さて、村長・ワイスさんの見解は……


「……ルーク様。我ら一同、忠誠を誓いたく存じます。今後、ルーク様の信徒としてお仕えすることを、どうかお許しください」

「……ふぇぇ……」


 ルークさんの喉から変な声が漏れた。

 判断が! 早い!


「ちちちちちちちょっと待ってください……! あのですね! まずは村長さんとか代表者数名に現地へ行ってもらって、どういう場所なのかを確認してもらって、それから情報を持ち帰って村の方々で話し合いとか……」


 動揺する俺に……キルシュ先生が横からそっと囁いた。


「ルーク様。彼らにはもう選択肢がないのです。この地に残れば旱魃かんばつで死ぬだけ。村を離れて生き残れる者が皆無とは言いませんが、間違いなく大多数が死にます。早期に村人達をこの苦境から救いたいという村長の判断は正しいですし、シャムラーグや私という実例がいる以上、疑う余地もないということでしょう。それに――村人達の決をとったところで、結果は同じです。先程の『奇跡』を間近に見た上で、もはやこの地でルーク様を疑う者はいません」


 んぁ……? 奇跡……? なんかやったっけ……?

 俺がほけっと首を傾げていると、クラリス様が俺を抱え上げ、耳元で呟いた。


「……炊き出し。ルーク、普通の猫さんは、岩を野菜スープに変えたりできないからね?」


 あっ。

 ……い、いかん! コピーキャットの使用に慣れすぎて、なんか普通に失念していた……!

 少しだけ言い訳をさせて欲しい!

 ここしばらく、遺跡と道路の工事に忙しく、ケーナインズの皆様やアイシャさんのリクエストに応じるがまま、なかば当たり前のよーに朝昼晩とコピーキャットを使いまくっていたのだ……

 落星熊さんの餌付け――もとい交渉と契約にも大量のリンゴをバラまいたし、もうそれが「日常」になってしまっていた。

 もはや「蛇口をひねれば水が出るよね? 当たり前では?」くらいの感覚である。

 さすがに他の人が使える魔法でないことは重々承知だが、俺が使う分には別に気にしなくていいかな……的な。


 クラリス様の腕に抱かれてアホ面をさらし、俺は肉球で飼い主の腕をてしてしした。


「ち、違うのです、クラリス様! 決して忘れていたわけではなく! 慣れって怖いなぁ、とゆーアレでして……!」

「炊き出しを提案したのは私だし、そこまで慌てなくてもいいけど……それより、私やリル姉様のことも神様だと勘違いしている人がいるみたいだから、ちゃんと訂正しておいてね」

「はっ! 承りました!」


 俺はビシッと敬礼をキメる。クラリス様は我が飼い主でリルフィ様は女神で間違いないと思うのだが、そうはいっても種族的には人間であり、誤解はよくない。ただしピタちゃんはガチの神獣なので、ちょっと説明に迷うが……

 飼い主に忠実なルークさんを見て、村長のワイスさんが不思議そうな顔に転じた。


「ええと……ルーク様は神様で、クラリス様は……?」

「私の飼い主です。そしてこちらのリルフィ様は、魔導師としての師匠です。あっちのピタちゃんは従者ですけど」


 ピタちゃん(人間形態)は有翼人の子供と仲良くなってしまい、一緒にスープを食べている。

 ……やさしいおねえさんっぽく見えるでしょう? 会話は幼女なんですよアレ……


 ワイスさんは困惑顔だ。


「はあ……飼い主……師匠……? ……あの、ルーク様は、神様で間違いないのですよね……?」

「種族としては亜神とゆーことになってますが、まぁそれ以前にそもそも猫ですので! 今はネルク王国のリーデルハイン子爵家で、ペットとして飼われております」


「……子爵家……ペット……そういえば、最初にもそんなことをおっしゃっていましたが……キ、キルシュ先生……恐れ多すぎないか……?」


 キルシュ先生はにっこりと受け流す。


「ルーク様は自らをペットと定義することで、世に干渉しすぎないよう、戒めの鎖とされているのです。しかし、生来のそのお優しさゆえに、世の理不尽を見過ごすことはできず……こうして、我々にも救いの肉球を差し出してくださいました。有翼人の方々にとって、この出会いは一族の命運を大きく変え、それこそ翼を得たほどに世界を広げる結果となるでしょう」


 キルシュ先生……さてはルーシャン様と同系統だな? むしろもっとヤバい人だな? 猫力は83と「少し高め」くらいなのだが、動物の猫さんに対してはその程度でも、「猫神様」への信仰心が分厚いタイプだな……?


 あと本質が考古学・民俗学系の学者さんだけあって、「超常の存在」に対する畏敬いけいの念が一般人より強そう。ピタちゃんに対しても割と丁重である。つくづく良い人材を手に入れた。


 ワイスさんはまだ戸惑い気味であったが、俺は猫っぽく毛づくろいをしてごまかす。


「キルシュ先生は大げさすぎますが、まあ、おいおい慣れていってください。皆様の生活が安定するまでの食料物資は私がご用意いたします。毎日というわけにはいかないので、小麦とか塩とか野菜類、豆類をまとめて用意し、皆様自身に調理してもらうことになるとは思いますが……日用品に関しては、領主であるライゼー様も支援を約束してくださいましたし、居留地にはもう果樹園や菜園、小麦畑を整備済みですので、来年以降は安定した収穫を期待できます。その代わり、移住する上での条件が三つ――」


 俺はにょっきりと爪を伸ばした。ちゃんと爪切りしているので、あんまり鋭くはない。


「すでにシャムラーグさんから聞いていると思いますが、居留地の近くにダンジョンがあります。ご提供する場所は、本来はダンジョンを攻略する冒険者達の拠点として活用するために作ったものですので……皆様にも、冒険者向けの宿とか食事処を経営していただきます。つまり、排他的な集落にはしないでください。冒険者達を甘やかしたり横暴を許す必要はないのですが、普通に接してもらえると助かります。あ、もちろん商売としてちゃんと稼いで、生活費の足しにしてくださいね。あと、もしかしたら冒険者ギルドの人も派遣されてきて定住するかもしれませんので、その時は仲良くお願いします」


 ワイスさんが神妙に頷く。


「続いて二つめの条件。集落では、『落星熊メテオベアー』という巨大な熊さんを、聖獣として信仰していただきます。これはちょっと事情が複雑なので、後でキルシュ先生から詳細を聞いてください。手っ取り早く言うと、外から来る冒険者と落星熊さん達を敵対させないための措置です。私は獣同士、落星熊さんと意思疎通ができていまして、熊さんには集落を外敵から守ってくれるよう、お願いしてあります。その代わり、定期的に餌となる農産物なんかを提供してください。あと、無闇に集落を広げて、熊さんの縄張りを荒らしたりはしないように。もしも将来的に人数が増えて手狭になったら、集落を広げるのではなく、麓のリーデルハイン領への移住を促進する方向で制度設計を進めています。まぁ、これは五十年後とか百年後とか、相当先の話になりそうですが……」


 なお、落星熊さんは雑食性で――あの巨体を見た後では信じ難いことなのだが、意外と少食である。

 これは落星熊さんに限った話ではなく、魔獣、つまり「魔力を持った獣」全般に言える特徴の一つで、彼らは主たる栄養素を自然界のマナ的なもの……要するに「地水火風の四大精霊の影響」から得ているらしい。

 その摂取方法には魔獣ごとに違いがあるが、例えばモグラ的な土の中に住む魔獣なら土や石を食べることで摂取できるし、空を飛ぶ系統の魔獣ならば空気からも摂取できるそうな。


 もちろん肉や植物といったエサも普通に食うが、その巨体の維持に必要なカロリー計算が前世のそれとはだいぶ異なる。

 ゆえに、種によっては荒れ地でも生息が可能だったりと、厄介さも増すらしいが……

 そういやピタちゃんも本体は馬車よりデカいはずなのに、食べてる量は人間とそんなに変わらんな……あれ? むしろルークさんは猫なのに食べ過ぎでは……?


 落星熊さんの場合、エサは森の動植物全般が対象であり、主食は木の実や葉っぱ、枝、肉系ではイノシシや鹿に加えて、こちらの世界の固有種など。

 いずれにしても体格の割にエサの必要量はあまり多くなく、象とかと比べたら全然少ない。俺が最初にご提供したリンゴ一山は割と適正量というか、ちょっと多めだったっぽい。

 

 ――が、瘴気を浴びすぎて凶暴化した場合にはこの限りではなく、暴飲暴食の権化となり、食べない生き物まで殺して回るやべー奴になってしまう。怖っ。


「冒険者への助力と、現地の獣への信仰――いずれも問題ありません。その二点については、もうシャムラーグからも聞きました。しかし、三つ目というのは……?」


 ワイスさんの隣で、シャムラーグさんが「やべっ」的な顔に転じた。

 あー。話し忘れたな、コレ。


「はい。三つ目は、皆さんの立場を『移住者』ではなく、『昔からその集落に住み続けてきた先住者』ということにして欲しいのです。ご存知の通り、レッドワンドとネルク王国は敵対関係にあり、難民を受け入れるとなると政治的な問題が多々ありまして――あと、『落星熊への信仰』についても昔からあったことにしたいので、そのあたりの口裏あわせをお願いします。ネルク王国側はこれから、『山奥の秘境に、自分達の把握していない有翼人の集落があった』という認識で動きます。国王陛下は我々の味方ですので問題は起きませんが、何も知らない調査隊とか冒険者に対しては、キルシュ先生が用意する想定問答集の通りに受け答えをしてください。そしてもちろん、『私』の存在についても秘密にしてください。皆様を新天地に導いたのは私ではなく、皆様の先祖がそこに住み着いた結果である、と――対外的には、そういう設定でお願いします」


 納得したように頷きつつ……ワイスさんの表情がわずかに曇った。


「し、しかし、それでは――ルーク様から受けた御恩を、子々孫々に語り継ぐことができません……」


 猫は困った。


「あ。そーいうのはいいので……あのですね? 私は亜神ということになってますけど、別に信仰心とか要らないのです。私に向ける信仰心の余裕があったら、ぜひこちらに――」


 そう告げて、俺はそっと――トマト様を差し出した。

 村長さんがぱちくりとまばたきをする。


「……赤い……これが、あの……トマト様……!」


 あれ? 知ってた?

 あ、シャムラーグさん経由か! ちゃんとトマト様の布教は忘れていなかったようで何よりである。コレが一番重要である。シャムラーグさんにもトマト様にお仕えする自覚が芽生えてきたのはたいへん心強い。


「はい、シャムラーグさんにもお世話をしてもらっている、そのトマト様です。私はこの植物を世界に広めるために、現在、着々と準備をしているところでして――もちろん皆様のための集落にも植えてあります。生で食べられますので、ぜひこのまま、皮ごとめしあがってください。あ、ヘタはとりますね」


 爪でぷちっとヘタだけ回収し、俺はトマト様をワイスさんの前に差し出す。

 見慣れない植物ではあるはずだが、ワイスさんは深々と頭を垂れてトマト様を押し戴き、恐る恐るとかぶりついた。ちょっと大げさだな……?


 たちまちその眼が見開かれ――次いで、頬を一筋の涙が伝う。


「……なるほど……なるほど……シャムラーグが言っていた意味がわかった……これは……これは、すばらしい……こんな作物が……この世に……」


 ……有翼人さんはアレか? もしや俺にとっての運命の同志ばかりなのでは? これもう身内認定で良くない? たぶん生まれつきのトマト様の尖兵でしょ、このひとたち。


 泣きながらトマト様を頬張る村長を見て、他の村人達も「何事か」と近づいてきた。

 もちろん俺は、その方達にもデザートのトマト様を振る舞う。


「ささ、皆様もこちらをどうぞ! とてもみずみずしくてほのかに甘い、トマト様というお野菜です」


 一人に一つずつ、笑顔を添えて丁寧にお渡ししていく。

 これは「この作物は特別なものである」と、皆様に印象づけるためでもある。ルークさん割と小賢こざかしい。洗脳ではない。印象操作といって欲しい。


 トマト様を配る列の中には、かわいらしい有翼人の女の子もいた。

 お年は五歳か六歳か、クラリス様よりも小さな、まさしく幼女である。背丈も猫(直立)よりほんのちょっぴり大きい程度であり、目線は近い。

 あ。さっき、ピタちゃんと一緒にスープを食べてた子かな? 日焼けはしているし、今はちょっとやつれてしまっているのだが、この世界の人たちはやはり地の顔が良い。背中に生えた白い翼もあいまって、ちょっと天使っぽい佇まいである。


 一方、こちとら歩いて喋るUMA系の怪しい猫さん。

 怖がらせないように、俺はゴロゴロと喉を鳴らしてわざとらしいほどの愛嬌をぶちまけた。


「はい、お嬢ちゃんもお一つどうぞ! ゆっくり、少しずつ食べてね?」


 幼女様は、びっくりしたようにじっと俺を見つめたが――

 やがて、そのご尊顔をくしゃくしゃに歪め、ぼろぼろぼろぼろと泣き出してしまった。


「ふえっ!? だ、大丈夫ですか!?」


 野菜スープがお口に合わなかった!? でもお子様向けのスイーツは血糖値爆上げになるから今はまだちょっと……!

 慌てふためく怪異生物(※自己認識)

 

 幼女様は泣きながら顔をあげ――


「……ね、ねこじぞうさま……ごはん、ありがとぉ……」


 紡がれた、そのかすれる声に――

 ルークさんは猫目を見開き固まってしまう。

 後ろにいた母親も涙ぐみながら、俺に一礼をした。


 ……俺は決意した。

 守護まもらねばならぬ。

 この方達を、トマト様の誇りにかけて、その下僕たる俺が守護らねばならぬ……!


 ルークさん割とチョロい。自覚はしている。


 そして他の有翼人の方々も、トマト様を食すなり――皆が皆、俺が期待した通りの反応を示してくれたのであった。

 ヨシ!(達成感)



イワシの頭も信心からと申しまして……(言い訳)

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― 新着の感想 ―
昔の魔女っ娘アニメのオープニングに 「真珠の涙を浮かべたら 男の子なんてイチコロよ」 という歌詞があったけれど、あれ誇張無しで本当なんよね。 いたいけな幼女の涙は戦局を一撃でひっくり返す最強技よ
[気になる点] チョロチョロじゃなくてただのアホである
[一言] >ついでに視察をしたライゼー様もどこか遠い目をして 書籍ではこのパートの前に ・約束通りリーデルハイン領上空を遊覧飛行させてもらうライゼー様 ・クマ遺跡でレッパンとふれあう(リンゴのえさや…
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