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123・ここに遺跡を建てよう


 午前中の迷宮周辺調査は、たいへん実りのあるものであった。

 クラリス様などは退屈してしまうのではと危惧していたが、これは完全な杞憂きゆうで、初めて訪れる山奥に興味津々なご様子であった。

 もちろんウィンドキャットさんに乗ったままなので、迷子になる心配もない。


 そして、調査を一段落させてからの昼食後。

 我々はキャットシェルターで食休みをしつつ、集めた情報の整理をしていた。

 お昼ごはんのメニューは、アイシャさんのリクエストによる炒飯と餃子、中華スープであり、これはケーナインズの皆様にもたいへん喜んでいただけた。


「先日のお土産でいただいた甘食っていうパン……あれもすごい美味しかったです! 何をどうやって焼いたら、あんなに甘くなるんですか?」

「はぁ。あれは植物から精製した糖分を加えているんですが、その作物がこちらの世界にはないみたいでして……」


 ハズキさんとはそんな雑談もしたが、砂糖の扱いについては相変わらず悩んでいる。

 リーデルハイン領ではそもそも気候的に無理なので、栽培するならもっと南のほうで――となると、他国の経済作物になってしまい、国際情勢にまで影響が出そう。

 が、本日の議題は食べ物ではなく、迷宮周辺の整備について。


 ハズキさんが、コタツ改めローテーブルに見取り図を広げる。彼女は迷宮でもマッピングをしていたらしい。加入前は狩人のウェスティ氏が地図制作を担当していたそうで、「師弟関係みたいなものです」なんて言っていた。


「見取り図の中央が、迷宮の入り口です。周囲はそこそこの広範囲で深い森になっていて……傾斜は少ないのですが、大きめの岩が大量に転がっている上、そこに絡みついた木の根が邪魔をしていて、非常に歩きにくい環境です。馬車はもちろん、騎馬でもちょっと難しそうですね。ひづめが滑っちゃいますし、岩の高低差がけっこうあるので『降りたはいいけど戻れない』なんて場所もありそうです」


 リルフィ様に抱っこされた俺は、腕組みをしてうんうんと頷く。

 ハズキさんの説明は続く。


「水源は、北側――こちらの斜面に、澄んだ地下水の湧いている池がありました。渓流は別方向に流れていますが、ここから迷宮の近くまで届く支流を作れば、飲用水くらいは確保できそうです」

「極論、水さえあればなんとかなるからな。運が良かった」


 ブルトさんもこの発見には安堵した様子。

 ちなみに、見つけて報告をくれたのはサーチキャットさんである。野生動物も水場として活用しているようで、ちょっとした獣道ができていた。


「肝心の、拠点の砦を建てる場所ですが……基本的にはどこにしても一長一短はありそうですが、現時点でおすすめできそうなのは三ヶ所です。ブルトさん、お願いします」

「ん。ええと……工事の手間は無視していいとのことなので、簡潔に。まずは、迷宮の直上です。利点はもちろん、迷宮への行き来が楽なこと。欠点は、迷宮から魔物が出てきた場合、襲われる危険性があること。ただし、魔物を山野に出さず撃退できる戦力を常駐させるなら、これは利点にもなります。『古楽の迷宮』と同じですね。冒険者ギルドの出張所も併設できれば、冒険者の出入りも管理しやすいですし、ドラウダ山地固有の問題として、『落星熊』などが迷宮に入り込み、巣穴にされてしまう危険性も防げます。いや、力押しで来られたらどうにもなりませんが……」

「わかります。メリットが多いからこそ、『古楽の迷宮』もあんな感じになっているんですよね。どのみち、出入り口には何か建物を作るつもりでした」


 まずは一箇所、ここはほぼ確定といって良い。

 ブルトさんが苦笑いを漏らす。


「……で、問題が一つ。見つけた水源が、この出入り口より低い場所にあるので……ここには支流を引けないんですよねぇ……」


 それな。


「ここ専用の井戸でも掘ってみましょうか?」

「直下が迷宮ですんで、再構成のたびに地下の地形が変わって、水が出なくなる可能性が高いです。それに、下手すると地下迷宮の天井に弾かれます。あと、ガイアキャットによる地形の変化も……このあたりでは地層の表面にとどめておいて、深い部分はあまりいじらないほうがいいですね。迷宮を壊してしまいますし、水源側の位置を高く盛り上げると地下水の流れが変化して、池が枯れそうです」


 ブルトさん、ちゃんとこういう助言をくれるの助かる……


「開き直って雨水に頼るって手もありますが――雨が降らない期間に干上がりそうですし、冒険者を呼び込むつもりなら絶対に足りません。砦とは別に、拠点にできそうな広い場所を確保して、そこに池や水路を作っておいたほうがいいと思います。ちょっとした村くらいの規模にできれば言うことはないんですが、その候補地が、ここと、ここと、ここと……まぁ、大差ないですが、強いて言えばここが良さそうです。水源からの支流を作りやすくて、元の流れに戻すルートも確保できます。周囲に急斜面がないんで、土砂崩れの心配がなさそうなのもいいですね」


 割とスムーズに決まってしまいそうだが、どこもかしこも空き地なため、権利関係を気にしないで良いのは本当にありがたい。

 ブルトさんが沈痛そうに声をひそめた。


「……で、土地の選定よりも大きな問題が、野生動物への対処です。落星熊メテオベアーに手を出すほどのバカはもう死んで当然と思いますが、向こうから襲われたらどうにもなりません。このあたりの……その、兼ね合いですね。冒険者こっちが襲いかかった時に落星熊むこうが無抵抗だったりすると、いずれ調子に乗ってやらかす冒険者が必ず出てきます。自慢にもなりませんが、我々(ケーナインズ)は冒険者には珍しいぐらいの良識派ですんで、我々を基準にはしないでください。頭のおかしい連中もけっこういます。また、冒険者こっちが何もしていないのに落星熊むこうから襲われた場合には、『やはり危険だ』って流れになって、ギルド主導で討伐なんて話が出てくるでしょう。人が獣の領域に踏み込む以上、こういういざこざは避けられません」


 俺は腕組みをしたまま唸ってしまう。隣のクラリス様が、俺の組んだ腕の間に指を抜き差しして遊んでおられるが、まぁやりたくなる気持ちはわかる。


「いかにも有り得そうで嫌な展開ですよねぇ……私もさっき、落星熊さんと話をしていて、いっそう不安が強くなりました……その……話がまったく通じないほど凶暴でもなく、かといって安易に共存できるほど価値観が近いわけでもなく……やはり、犬猫と同じようにはいきません。人にも獣にも、両方に自重じちょうを求める方法があればいいのですが……」


 考え込んでいると……我が頭上で、リルフィ様がぴくりと肩を震わせた。

 お膝から見上げると、視線がバッチリと合う。

 ハイライトさんはちゃんとお仕事中なので、見えない地雷とかを踏んだわけではない。ヨシ!


「リルフィ様? 何か気になることでも?」

「えっと……あの……はい。人側に対しては、ちょっと思いついたことが……まだ、具体案とはいえないのですが……」


 そして、訥々(とつとつ)と。

 リルフィ様は、ゆっくりと、丁寧に、間をとりながらお話をされる。美しいお声とあいまって、それは時に託宣たくせんのように聞こえる。


「……宗教の力を借りる……というか、新しい宗教を作ってしまうのは……どうでしょうか……?」


 む? リルフィ様はもう現時点で女神様であらせられるが……そういう話ではない?


「ドラウダ山地の落星熊を……『聖獣』として位置づけ、地元の信仰の対象にしてしまうんです……まずはそうやって、人間側からは手出しをしにくいようにします……その上で、もしも落星熊から襲われた場合には、『祟り』ということにすれば……感情的な衝突を、多少は緩和できるのでは、と――」


 猫の目から毛玉が落ちた。

 ……よく「目からうろこが落ちる」っていうけど、目に鱗はついてないよね、っていう……

 実はアレって新約聖書の言葉で、より正確には「(神の奇跡的なモノで)目からウロコのようなものが落ちて、元通り見えるようになった」という話らしい。

 いやそれはどうでも良い。


「もちろん、それだけですべてのいざこざを回避することはできないでしょうが……少なくとも、『落星熊を狩ろうとする動き』に対しては、地元の信仰に対する無礼をとがめる形で、リーデルハイン家からいさめられます……また、ダンジョンの浄化が数年、数十年単位で進んでいけば……野生動物の凶暴性も薄れていくはずですから、落星熊の側も、あえて人を襲わなくなっていくかもしれません……これは希望的観測ですが、見た目も愛らしいようですし、将来的には、本当の意味での『聖獣』に近づく可能性もあるかと思います……」


 俺は猫目を輝かせ、肉球でぺちぺちと拍手をした。


「すばらしい! すばらしいお考えです、リルフィ様!」

「ええ……いや、いけますかね……? だって普通に野生の獣ですよ……?」


 興奮する俺とは裏腹に、バーニィ君はちょっと懐疑的である。アイシャさんやウィル君はまだ思案顔だが、俺には勝算があった。


「私が以前にいた世界でも、野生の熊に対する信仰を持つ地域がありました。神として敬うというより、精霊、あるいは隣人として扱うような感じでしたが――」


 それはたとえばアイヌと熊の関わり。熊を狩猟の対象としつつも、同時に神聖なものとして敬い、さらに人を襲った熊は「悪い神」(ウェンカムイ)として討伐したりもした。

 そこにあるのは、互いの「距離感」を信仰によって調整するという、生活の知恵である。


 自分自身が「神」などと呼ばれる立場になってしまったルークさんは、ことさらに思うのだ。

 信仰とは、ご利益や加護を目的としたものではなく、ましてや資金集めや詐欺や闘争のための方便でもない。

 我が前世ではそういう実例があまりに多すぎて、一部界隈では宗教全体への絶望感すら漂っていたが、だいたいぜんぶ人類のせい。人類が悪いよ人類がー。猫になったのをいいことに、クソデカ主語で言いたい放題である。


 それはさておき、本来の信仰とは、その共同体における「節度」、あるいは「加減」の指針ではなかったのかと思うのだ。

 たとえば、「むやみに生き物を殺したらアカンで」「でも食わんと死んでまうやん」「必要なだけにしい。みんな殺したら、なんもかんもなくなってまうで」「せやな」みたいなお話。

 ……そしてある時、誰かが気づいてしまった。「これ、他の連中を都合よく操作するのに便利なのでは?」……この気づきを『知恵の実』などと称した創世記さんはなかなか皮肉が利いている。

 ルークさんにとって、その実はきっとトマト様であろう。

 ククク……人類め……これからこの地で猫さんが捏造ねつぞうする熊さんの信仰に、恐れおののいて右往左往するがよい……!


 ……うーん。悪辣あくらつな陰謀のはずなのに、この拭いきれぬファンシー感はいったい……? 絵面か? 絵面のせいか?


「信仰といっても、大規模なものにする必要はまったくないのです。その土地だけの、それこそ村落単位の狭い範囲の民間信仰で充分です。リルフィ様がこの案を思いついたのは、おそらくルーシャン様の影響ですよね?」


 リルフィ様は頷き、ケーナインズに向けて説明を始める。


「は、はい……ご存知のように、宮廷魔導師のルーシャン様は……猫を信仰されています。その信仰心は極めて厚く、これがルークさんとの強い縁につながり――実際にネルク王国は、ルークさんの尽力で、難局を乗り切りました……」


 過大評価はさておき、働いたことは働いた。それはもうクラリス様から「……ルークって、実は中身が犬だったりしない?」と、ジト目で叱られるくらいには働いた。しかしペットの職責の範囲だと思います。


「……ルーシャン様の猫に対する信仰は、あくまで個人的なものです……特に教義らしい教義があるわけではなく、教祖にあたる人物もいませんし、信者を多数抱えているわけでもありません……それでも、ルーシャン様が『宮廷魔導師』であるがゆえに、この信仰の影響力は大きく――王都では、弟子のアイシャ様も一緒に、ルークさんにとっても私達にとっても、たいへん心強い味方になってくださいました……」


 リルフィ様の感謝の言葉に、アイシャさんがそっと目線を逸らす。なんか哀愁漂ってない? 大丈夫? 猫揉む?


「……うちのお師匠様は、その『信仰』を口実にして、猫の保護施設を運営したり、ペット用品の研究や販売をしたり、それに必要な法整備を嘆願たんがんしたり、割と好き勝手にやってるんですが……どれもけっこう成功しているせいで、余計に信仰心が厚くなっちゃってるんですよね……結果として、『猫を悪し様に扱うと、宮廷魔導師の怒りを買う』、『宮廷魔導師に取り入りたい者は、猫を大切にする』みたいな歪んだ影響まで出てるんで、猫様の幸福を願うお師匠様的には大成功なんですが……一部の弟子達からは、『そろそろ誰か止めとけ』って思われてます……とはいえ意外と経済効果が大きいんで、止めるに止められないんですが。私がいた孤児院にとっても、猫の保護施設や関係団体が重要な就職先になってますし……」


 ……まぁ、実際、リアル猫としても正気を疑うところではある。

 しかも、オルケストの冒険者ギルドの支部長さんがルーシャン様の猫仲間だったりと、有力貴族や有力商人相手に水面下での布教が進んでいそうな気配もある。

 リルフィ様は『あくまで個人的な信仰』とおっしゃったが、意外に信徒が多いのではないか。


 余談だが、王都で猫の保護施設をチラッと視察した際、猫達のルーシャン様に対する印象は、「猫から人間になったおじーちゃん」であった。

 ルーシャン様は「自分は猫様の下僕」と言ってはばからないのだが、とうの猫達からは「孫を甘やかすおじーちゃん」として扱われていたのはなかなか趣深い。

 信仰する対象から家族のように思われるって、ある意味、宗教者としては超絶勝ち組ではなかろうか(錯乱)


 犬派のブルトさんが苦笑を見せた。


「まぁ、そのあたりはうちらの管轄外かんかつがいですんで、おまかせします。でも『聖獣として認知させる』ってのはありかもしれませんな。ロゴールの山奥にも白い虎がいましてね。信仰ってほどのものはありませんでしたが、猟師も手を出さない聖なる獣ってことで、大事にされていました。どっかの狩猟好きなバカ貴族が、その毛皮をとろうとして――地元住民からの協力が得られず、遭難して山の中で凍死した事件とかもありました。リルフィ様やルーク様が狙っているのも、つまりそういう効果ですよね? 落星熊を狩ろうとすると、領主や地元住民の怒りを買うことになるっていう、わかりやすいデメリットを用意したいと」


「まさにその通りです! なので、『落星熊さんは信仰するに足る存在だ』と人に印象づけられるエピソードとかが欲しいですね。捏造ねつぞうでもいいんですが、いわゆる『伝説』の類です。とりあえず、ここに建てる遺跡には熊信仰の名残なごりを匂わせつつ、現在に関しても、たとえば遭難した人が熊さんに助けてもらったとか、逆に熊さんの祟りで誰かが死んだとか、ちょっと神秘的な因縁話とか、そういうお話を虚実まじえてテキトーにバラまきたいです!」


 アイシャさんが「うわー」みたいな眼で俺を見ている……


「……ルーク様って、やっぱり詐欺師の才能ありますよね……? もしかして、神々の世界で何かやらかして追放されたとか……?」


「また人聞きの悪いことを……アイシャさん、私がいた世界には、こういう素晴らしい格言がありました。『嘘も方便』と!」


「こっちにもありますねぇ、同じ格言……しかも詐欺師の常套句じょうとうくなんですよ……」


 あれー?

 きれいに打ち返されてしまったが、有効な策であることに異論はないらしい。


「ともあれ、ちょうど良いことに、リーデルハイン領には現在、その分野の専門家もいます。土着の民間信仰、その研究のためにわざわざ他国へ出向いて定住してしまったほどのガチ勢です」


 ケーナインズを除く皆様が、「あっ」と驚いた顔をした。


「そっか。そういえばキルシュ先生って、そっち系の人でしたね」

「えっ? あの、お医者のキルシュ先生ですか……?」


 アイシャさんの呟きに、シィズさんが戸惑う。そんなヤベー人材だとは思っていなかったのだろう。普通に話してると、普通に腕のいいお医者さんなのである。


「はい。キルシュ先生は、レッドワンドにある有翼人の里で、その土地に伝わる猫の神様に関するフィールドワークをされていたのです。行方不明の師を探す、という目的もあったようですが、そちらの手がかりは残念ながらなかったようで……その後、何があったかは、ケーナインズの皆様も御本人から聞いているかと思います」


 ブルトさんが頭を掻いた。


「はぁ。本職が考古学の研究者だってのは聞きましたが……そんなキルシュ先生の前に、本物の猫の亜神たるルーク様が現れたわけですか。すごい縁ですな」


「そのおかげでリーデルハイン領への移住も即決だったので、私にとってもラッキーでした! それっぽい熊エピソードの考案は、キルシュ先生にも相談しましょう。ついでに、これから作る『遺跡』っぽい拠点のデザインにも参加してもらうつもりです」

 

 その後、おなかいっぱいになったクラリス様とピタちゃんにはしばらくお昼寝をしてもらい、さらに詳細を詰めていると――


(にゃーん)


 しばらくして、斥候せっこうを任せていたサーチキャットさんから脳内に通信が来た。


(あれ? 何かありました?)

(みゃあ)


 向こうから熊が来た、とおおせである。

 縄張りの巡回中か? この付近はこれから工事の中心地となるので、付近の主だとしたら、今のうちにいろいろ交渉しておきたい。できれば縄張りを変えて欲しい。


「落星熊が近づいているそうです。私が話し合ってきますので、皆様はこのまま待機していてください」


 ――ここは迷宮のご近所であり、瘴気の影響が濃い。さきほどすれ違った子達よりも凶暴かもしれず、問答無用で襲いかかられたら殺生もやむなしと覚悟をキメる。

 すかさずウィル君が立ち上がった。


「ルーク様、私はご一緒させてください。転移魔法も使えますし、話し合いなら『人間』の実例を見せたほうが良いでしょう」


 ウィル君は自力で空も飛べるし、熊相手にひけはとるまい。転移魔法の発動も俺よりずっと速い。こちらは宅配魔法というシステム上、ダンボールへの出入りに一瞬の隙ができる……


「わかりました! でも他の方々は待機で」

「ルークさん、あの、お気をつけて……」

「さすがにもう心配はしてませんけど、熊鍋の準備しておきますねー」


 リルフィ様とアイシャさんの反応が真逆だな?

 とはいえ、リルフィ様も本気で心配しているわけではあるまい。さっきの落星熊さんを見てしまうとどうしても危機感が失せる……

 そしてアイシャさんはあのカワイイ姿を見た後でそれが言えるの……? 野生児か? 暴食の権化か? 自分以外のすべてが餌に見えてる?


 キャットシェルターから出て、俺とウィル君は深い森の中に立った。


「熊鍋は避けたいですねぇ……」

「真偽は知りませんが、落星熊は肉が固い上に臭みがあっておいしくないと、書物で読みました」

「ますます避けたいですねぇ……」


 そもそもジビエは……寄生虫がな……

 ――いやいやいや、落ち着け俺。食べる前提で話を進めてはいけない。アイシャさんに引きずられてどうする。


 相手は世が世なら天然記念物扱いでもおかしくない珍獣である。ここは博愛と野生動物保護の精神をもって、あくまで穏便に、それこそお茶菓子でもつまみながら和気あいあいとご歓談したい。少なくとも第一印象は大事に――


 ひゅうぅぅぅぅーーーーーーーー……

 どすん。


 ちょっと離れた場所に、一抱えほどもありそうな巨石が落ちてきた。空から。


(……この山に、二匹の王は不要――! 獣の王よ! 我と戦え!)


 ――咆哮ほうこうとともに脳内で響いたその声に、ルークさんは思わず、自らのお顔を肉球で覆ったのであった。



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