118・犬派の会合
「諸君、よろしく。リーデルハイン子爵家の当主、ライゼーだ。軍閥のトリウ伯爵に従う立場で……娘のクラリスが、ルークの飼い主をしている。もう顔合わせはしたのかな?」
「はい! リルフィ様やヨルダ様、さらにはロレンス様もご紹介は済んでいます!」
俺が応じると、ライゼー様は穏やかに笑った。
「君達も驚いただろう? ルークは非常に頼りになるんだが、見た目はあくまで猫だから――私も初めて会った時は、どう反応したらいいのかわからなかった。今ではすっかり家族の一員だがね」
ライゼー様は俺を抱え上げ、喉を撫でてくださった。ごろごろごろ。む。以前より上達なされた。
ブルトさん達は芝生に膝をつく。
「お初にお目にかかります、ライゼー様。我々はパーティー登録名『ケーナインズ』。私はリーダーのブルトと申します。こちらは魔導師のシィズ、剣士のバーニィ――それからオルケストの聖教会所属、神官見習いのハズキです。狩人のウェスティだけは、まだ歩行に支障があり、町で休ませていただいております」
「ああ。わざわざご足労いただいてありがとう。猫と犬の前だし、堅苦しいのは抜きにしよう。どうだ、うちの子達はかわいいだろう?」
おなかを見せるセシルさんと俺を同時にモフりつつ、ライゼー様、デレッデレである。威厳もへったくれもねぇ。
他のお犬様達もしっぽを振ってケーナインズにじゃれつき、あっという間にわちゃわちゃとなる。
そのうちの一匹が、俺をちらりと見て尻尾を振った。
(ルーク様! これでよろしいのですか?)
(はい! 場が和むので、このままガンガン甘えちゃってください!)
……ククク……すべては計画通り……!
ライゼー様がお犬様と遊んでいるタイミングに重なるよう、ケーナインズを誘導し、そのまま会談へとなだれ込む――
お犬様のモフみによってお互いの緊張が解ける上、ライゼー様的には『犬好きの同志』とゆー親近感が生まれる。犬好きは犬好きに優しい。これは世界の真理である。
……猫好きはね……ちょっとね……猫様を崇め奉る宗教っぽくなることがたまにあるから……(※ごく一部の極端な例です)
「えらく人懐っこい犬達ですね……!」
「はわぁ……ふっかふか……毛並みきれい……」
「ははっ、来客が珍しいものだから、興奮しているようだ」
感心しているのはブルトさん。
とろけているのはハズキさん……ではない。魔導師のシィズさんである。
見た目はクールビューティ感ある方なのだが、お犬様達に四方を包囲されてじゃれつかれ、もう完全にトんでおられる。
ハズキさんも手近なお犬様を「よーしよしよし」と笑顔で撫でておられるが、こちらは割と落ち着いている。先日の猫吸いはなんだったのか。アレで必須栄養素を摂取できて落ち着いた?
あとバーニィ君は普通に笑顏でお犬様との交流を楽しんでいる。微笑ましい。
愛犬達とのスキンシップでご機嫌なライゼー様。今なら俺の悪辣な要求とかにも即OKをもらえるはずである!
「それでですね、ライゼー様! ドラウダ山地の新規ダンジョンの件は、既にヨルダ様からご報告が行っているかと思いますが――近日中に現場を特定し、このリーデルハイン領からつながる『道』を整備したいと考えています! ご許可をいただけますか?」
ライゼー様、ちょっとむずかしいお顔。策は失敗か……まだ説得力が足りぬというのか……
「うーん……労働力の確保がなぁ……小麦の収穫期が近いし、夏の間は畑を耕したり、あるいは別の野菜を育てて、秋にはまた来年に向けた種蒔きをしないといけない。人を出せるのはその後だが、冬支度も必要だし、あまり領民に負担をかけたくないな……」
「いえいえ、領内の人員は使わないです! 遭難を防ぐための、あくまで獣道程度のものを想定していますので、まずは私にできる範囲で試してみます。その上で、必要なお手伝いや相談事は、こちらのケーナインズの皆さんにもお願いする予定です」
ライゼー様、今度は困ったように首を傾げてしまった。
「それはそれで申し訳ないな……いや、実のところ、そもそも私が許可を出すような話でもないんだ。ドラウダ山地はうちの領地ではなく国有地だから、むしろ必要なのは陛下の許可だな。一方で、『開拓できるものなら好きにして良い』という場所でもある。奥地の魔獣が強すぎて、開拓が不可能とされてきたからだ。今回は開拓ではなく、迷宮までの山道を整備するという話だが……ルーク自身に危険はないのか?」
「そうですね。落星熊とゆーのを直に見てみないとなんともいえませんが、危険な真似をするつもりはありません。もちろん安全第一で進めます!」
「それなら構わない。一応、簡単な地図を描いて、計画の概要が決まったら教えてくれ。あと、検討の結果次第では、ルークの判断で断念してもいいんだからな? 君に何かあったら、クラリスやリルフィに申し訳が立たん」
ごろごろごろ……ライゼー様は初対面の頃からお優しかったが、王都での日々を経て、信頼度が一段も二段も上がった気がする……
「あと、陛下かルーシャン殿には知らせておいてくれ。許可の云々ではなく、何か想定外の事態が起きた時、助けてくださるだろう」
「はい! 心得ております」
事前の根回しというやつである。これはヨルダ様やアイシャさんからも勧められたし、俺にも否やはない。
「オルケストの『古楽の迷宮』もそうだが、他国の例も含めて、多くの迷宮は原則的に『国有化』される。これは、国が利益を得るのと同時に、冒険者の不利益になるような仕組みを領主に作らせないためだ。ただ、周辺都市や拠点はその地の領主が管理するわけだから、無関係ではいられない。そこには利権も生まれるし、冒険者だけでなく、彼ら相手に商売する人々も集まってくる。このリーデルハイン領は王都から遠い田舎だし、交易の中継地にもしにくいどん詰まりだから、オルケストのような発展はそもそも無理だが……それでも、近くに迷宮が見つかったとなれば、今のままというわけにはいかないだろう。変化に備えなければな」
ちなみに、広大なドラウダ山地を越えた向こう側には、少しだけ平地があり、そこまではネルク王国の領土である。大きな町などはないようだが、小さな村などはいくつかある様子。
その先には、他国との国境線にもなっている巨大な湖があり――その向こう岸には、『ロゴール王国』という、どっかで聞いたような名前の国がある。
うむ。ケーナインズのブルトさん達の出身国である……内乱続きで荒れまくっているそうだが、ドラウダ山地を突っ切れば、リーデルハイン領とは(地図の上では)そこそこ近い。
実際には、そのルートは過酷すぎてまったく現実味がないのだが、これからダンジョンの攻略が進み、瘴気の浄化がうまく回り始めて、山の魔物達が少しずつ穏やかになっていけば……数十年後には、あっさり交易路ができている可能性もないわけではない。
その頃にはおそらく、ライゼー様ではなく、ご子息のクロード様がこの地の舵取りをしていることであろう。
そして面倒な政務から退いたライゼー様は、老後の趣味として、悠々自適とトマト様の栽培に勤しんでいるに違いない。それをこっそり盗み食いするルークさん……うむ。実にステキな未来予想図である。
ライゼー様に撫でられつつ、遠い未来の可能性に猫が目を細めている間に、ケーナインズとの会話もぼちぼち進んでいった。
「で、ルークが君達に目をつけた理由はよくわからんが……君達も気づいているかもしれんが、このルークには、おそらく人の運命を良い方向へと変える力がある」
……にゃーん……?
……いや、『奇跡の導き手』という称号がいかにも怪しいのは事実だし、リルフィ様にもそんな感じのご相談をしたが、ライゼー様にまでそう思われていたとはちょっと意外である。
動揺する俺をよそに、ケーナインズの皆様が神妙に頷いた。
「はい。迷宮で救われた我々にとっても、まさに命の恩人です。キルシュ先生からもこれまでのお話をうかがって、ただの喋る猫……様でないことは理解しています」
「うん。実際、ルークの使う魔法は、人間の魔導師が使う魔法とは根本的に違う。宮廷魔導師ルーシャン様の見解によれば、それこそ神の奇跡と呼ぶべき魔法を、ルークは当たり前のように軽々と行使する。だが、その異常な力とは裏腹に、なんというか、こう……精神的な部分では、おそろしく人が……いや、猫が良い。正直に言って、いつか誰かに騙されるのではないかと、家族としては不安になるほどだ」
ライゼー様、苦笑混じりのためいき……ご心配をおかけして申し訳ないです……でもアイシャさんにも「クソチョロ」呼ばわりされてるし、心当たりはまあまあある……
「だが一方で、私はルークの『人を見極める眼』を信用してもいる。今のところ、彼が見込んだ者に悪人はいなかった。他国の暗殺者に農夫の資質を見出した時は、さすがにどう判断したものかと思ったが……結果を見れば、むしろ天職だったらしい。いまはせっせと畑の拡張を進めてくれている」
シャムラーグさん、ありがとう! 最近は俺が暇な時は、ちょくちょく一緒に農作業をしているのだが……これからしばらくは土木工事で忙しくなりそうなので、彼の存在はたいへん心強い。庭師のダラッカさんからも「よく働くし、植物の状態を見極める眼が良い」と、高評価をいただいている。
「ルークの眼力は確かだ。だから、ルーク自身が正体を明かして連れてきた以上、私も君達のことを信頼する。どうか、ルークの力になってやってほしい。よろしく頼む」
「は! 御恩に報いるためにも、誠心誠意、ご依頼にあたらせていただきます」
ブルトさん達は一様に、背筋をピシッと伸ばした。
ライゼー様は満足げに頷く。
「それで、今後の計画だが……これはルークから説明してくれるか? 私も詳細は把握していないんだ。この機会に、現時点でのルークの考えを確認しておきたい」
「はい! お任せください!」
俺はライゼー様の腕から飛び降り、芝生に立つ。お犬様達も我々を囲むようにお座りし、待機状態へ移行した。
そしてリルフィ様からお借りした「魔光鏡」を掲げ、そこに近隣の地図を表示させる。
「迷宮があるのは、地図上のこの地点です。おそらく出入り口が森の木々に覆われていますので、正確な位置を把握するのに少し手間取るかもしれませんが、これは私の猫魔法でどうとでもなります」
未発見の迷宮。
そこは、俺が初めてこちらの世界へ来た時に放り出されていた場所と、かなり近そうだった。
おそらく偶然ではあるまい。超越猫さんに、何か思惑があったのかもしれないが……つまりは猫……というより俺の足で三泊四日程度の距離である。ルークさんの徒歩はリアル猫さんよりも移動力が低い。
あと、あの時は風精霊さんの導きによって山の獣を避けて迂回したため、少しだけ遠回りもした。
人間の足なら……急げば一日~二日程度の距離か? 道らしい道がないため馬は使いにくいが、山道の整備さえ済めば、半日程度で着いてもおかしくはない。
もちろんウィンドキャットさんならばものの数秒。
「そして次に、この迷宮からリーデルハイン領までを結ぶルートを検討します。なるべく斜面のゆるやかな場所を選んで道を通したいですが、途中に崖などがあれば迂回が必要ですし、これの検討には少し日数をかけたいです。ケーナインズの皆様にも、この段階でいろいろと助言をいただきたいと思います。拠点を作るのに適した場所とか、道を作る上での地形の検討とか……あと、ウェスティさんは狩人ですし、野生動物に関する知識などにも期待しています」
バーニィ君がおずおずと片手を挙げる。
「何度も確認するようで恐縮ですが、魔獣に対する護衛任務……ってわけじゃないんですね?」
「はい。それは先日、皆様を助けた『ストーンキャット』さんとかが対処してくれます。バイオラ&チエラを倒してくれた子です」
「アレか……確かに、俺らより遥かに強いですし、心強いですが……」
何か言いたげなブルトさん。一方でハズキさんはそわそわ。
「あの子は……ルーク様の仲間? ということでいいんですよね? お子さんとかではないんですよね? 今はどちらにいらっしゃるんですか?」
この子は猫派である。魔導師のシィズさんはどちらかとゆーと犬派っぽいのだが、神官のハズキさんは若干重めの猫派。
その猫力は堂々の87。ルークさん的には「90を超えるとやべー人」扱いなのだが、女神であらせられるリルフィ様は例外なので、現状の該当者はルーシャン様のみである。
ハズキさんはまぁ、ちょっと平均値よりは高めだが、普通……普通?の猫好きさん??だと思われる???
……?マークが多いのはたぶん文字化けか何かなので、深く気にしてはいけない。決してルークさんのセンサー的なものに何か不確定なモノが引っかかっているとかではない。そーゆーのではない。いや今回は本当に違う。
とゆーか、そもそもこの子、俺よりも「ストーンキャットさん」のほうに、より強く興味が向いているような気が……?
なんか今の「今はどちらに?」という問いには、やたらと期待感が透けていた。
ちょっとした好奇心に駆られ、俺はストレージから手頃な小石を取り出す。
「ストーンキャットさんは私の魔法で呼び出してます。こんな感じですね!」
芝生においた小石がむくむくと大きくなり、そこに丸まった猫さんが現れる。
肌はゴツゴツとした岩であるが、これはこれですべすべザラザラで意外とさわり心地が良い。ルークさんにとっては大切なお昼寝パートナーである。
なお、実はほんのりと温かいので夜でも冷えない。素晴らしい。
「あっ! こ、この子です! ほら、ブルトさん、この子ですよ! 私達を助けてくれた子! やっぱり可愛いじゃないですか! 迷宮ではじっくり観察する余裕がなかったですけど、青空の下で見たらきっとめちゃくちゃかわいいって思ってたんです! わあぁ……大きい……かわいい……でっかい……かわ……」
ハズキさんはフラフラとストーンキャットさんに抱きつき、頬ずりを始めた。
……ストーンキャットさんは確かにカワイイのだが、硬くない……? 手触りはもちろん岩石である。
ストーンキャットさんは無言で俺を見る。
……いや、このタイミングで「どうしたらいい?」とか目線で聞かれても……困る。
幸い、ストーンキャットさんはこの程度の些事など気にもとめぬ、豪快にして温厚な猫さんである。害はなさそうだし、このままで良くない? ちょっとだけ相手してあげて?
「あああ……かわいい……この子、かわいい……かったい……わ、私ですね? 大きい猫さんに憧れてたんですよ。迷宮でこの子を見た時、怖いとか思うよりも先に、びびびっとすごい衝撃がきちゃいまして……このフォルム、この大きさ、この存在感……! たまらないですよね? ね!? シィズさんならわかりますよね!?」
「……………………ううーーーーん…………わ、私は、こっちの犬さんのほうがタイプ、かなぁ……? あ、かわいいとは思うわよ? もちろん……」
困り果てたシィズさんは、安易に同意もできず、言いにくそうに議論から逃げた。
俺もストーンキャットさんはかわいいと思うが、ハズキさんのは、なんか、こう……微妙にヤバい人の反応だな?
しかし、我がお昼寝パートナーを褒めていただけたのはたいへん嬉しい。
ヨルダ様からは「落星熊より強そう」と言われ、クラリス様からは「硬い」と言われ、リルフィ様からは「一番かわいいのはルークさんです……」と真顔で諭されたものだが、ストーンキャットさんのカワイイポテンシャルはもっと高いと常々思っていた。
俺はストーンキャットさんによじ登り、その背からハズキさんへ声をかける。
「この際ですから、試しに乗ってみます? 見た目より乗り心地は悪くないんですよ」
「えっ!? いいんですか!?」
ストーンキャットさんは大きさに融通が利く。現在のサイズは牛よりちょっと大きいぐらいだが、丸くなって寝ているため、人間ならば乗るのは難しくない。
そしてハズキさんは神官服なので、お馬さんにまたがるよーなわけにはいかぬが、普通に座る分には全然いける。
「わぁ……! おとなしい……! 賢い……! 耳かわいい……石なのにピクピク動いてる……!」
ストーンキャットさんは岩石系猫さんなのだが、関節などはシームレスで継ぎ目が見当たらない。どうして滑らかに動けているのか、いまいち謎であるが、表面は硬いのに動く時はゴムのよーに伸び縮みする。
ともあれ、我々を背に乗せてもストーンキャットさんは動じることなく、泰然と丸まっていた。
思えばこの子が、俺の使った猫魔法第一号――いちばん長い付き合いである。お昼寝のタイミングでよく召喚していたため、稼働時間もそこそこ長い。
ライゼー様が、そのストーンキャットさんをしみじみと眺め、わずかに首を傾げた。
「……なぁ、ルーク。この猫が、バイオラとチエラを一撃で粉砕したんだったな?」
「そうですね。異変を察知してすぐに召喚したので、私は直に現場を見ていないのですが――緊急対応としては上手くいったのではないかと、自賛しています」
「ふむ。それなら、落星熊に対する警護役としては充分か……実はな。クラリスとリルフィも、ルークの山歩きに同行したいから許可をくれと言ってきたんだ。迷宮行きにも許可を出したし、今回もルークの判断に委ねるとは応じておいた。どうだ? 不安要素はないか?」
「はぁ。予測不能な天変地異とかが起きない限りは、おそらく大丈夫だとは思いますが……」
俺は若干、その先を言いよどむ。
「……やることは結局、地形の調査と土木工事なので、見ている側はとても退屈かと思います。その……地味で地道な作業です」
「……そうだよなぁ……いや、正直にいえば、私としても、いまさら安全性がどうこうというより、ルークの仕事の邪魔にならないかという点のほうが不安なんだ。クラリスは賢いし手のかからない子ではあるが、要するに子守を押し付けているようなものだから……一方で、ルークの仕事ぶりを間近で見ることは、良い経験になるとも感じている。すまんが……任せてしまってもいいか?」
「はい! お任せください」
そもそもクラリス様は我が飼い主である。飼い主の世話はペットの勤め。鳥獣戯画にもそう描いてある。
そしてライゼー様は、ケーナインズの一同を見回した。
「さて、諸君への報酬の話もしないといけないな。いかにルークが命の恩人とはいえ、まさかタダ働きをさせるわけにもいかない。ただ見ての通り、うちは田舎の貧乏貴族なものだから、あまり大金は出せん。食料などの現物支給なら、多少は色をつけられるんだが……日当については、ギルドのDランク規定料金で頼みたい」
ギルドのDランク規定料金。これはいわゆる「雑用」カテゴリの依頼である。
Cランクが得意な技術を生かした少し専門的なお仕事。
Bランクが魔物の討伐や危険地帯での採取など、命がかかったお仕事。
Aランクがそれらより危険、もしくは特別な技能が必要とされる大きなお仕事とされている。
さらに上のSランクというのもあるのだが、これは「国家の危機!」とか「街を救え!」みたいな本格的にヤバい任務であり、数十年に一度、あるかないかという激レア案件。
……あとさらに条件の悪いEランクというカテゴリもあるにはあるのだが、これはもうタダ働きというか現物支給というか――「皿洗いしてくれたら賄いを出す」とか「収穫を手伝ってくれたらその一部をやる」みたいな、食い詰めた冒険者への助け舟に近いシロモノであり、もはや依頼とは呼べない。
今回の依頼は、仮に冒険者ギルドを通してもDランク相当ではある。勤務地が「田舎の僻地」ということで、移動の手間賃はプラスされるだろうが、これは転移魔法のおかげで発生しない。
決して割の良い仕事とは言い難いのだが……ライゼー様からのご提案には、もちろん続きがあった。
「その代わり、お仲間が復帰するまでのキルシュ先生の診療費はこちらで持とう。今、滞在中の貸家も、依頼が終わるまでは無料で使ってくれていい。食事はルークが用意してくれるはずだが、他にも必要な物資があれば、常識の範囲内で提供する。しばらくはこういう契約でどうだろうか?」
ブルトさんが一瞬驚き、次いで深々と頭を下げた。
「そいつは願ってもない、たいへん良いお話です。我々としては、ルーク様への御恩を返すため、今回は無報酬でやらせていただくつもりだったんですが……」
「それをやるとルークが怒る。彼は、『労働には正当な対価を』という方針をとても大事にしていてね。私も同意見だから、これは受け取って欲しい。それから、ルークからも……」
「はい! 私からは、『新規の迷宮での獲得物』の一部をご提供するつもりです。新しい迷宮をちょっと調査したいのですが、初めての場所に一匹で入っていくのは怖いので、一緒に来ていただけると……もちろん、戦闘面はこちらに任せていただいて大丈夫です。こちらは一日~二日程度の話ですし、危険手当も含めて、Bランク相当の日当を別途、追加でご用意いたします。まぁ、手つかずの迷宮内には、いろいろあるはずですので……こちらはけっこう、美味しいのではないかと!」
俺はストーンキャットさんの背中をぽんぽんと叩いた。戦ってくれるのは我が同胞の猫さん達である。今回もお世話になります!
ケーナインズの皆様は、それぞれ顔を見合わせ――
安堵と期待の様子をその表情に浮かべ、改めて、その場で深々と頭を垂れたのだった。
いつも応援ありがとうございます!
コミックポルカにて本日、「我輩は猫魔導師である!」の第七話(前半)が更新されました。
先住ペットたるお犬様へのご挨拶を果たしたルーク、その背で振るわれるうどん打ち名人の妙技、そして感動(?)の晩ごはん……は、後半へ続く?
ご査収ください。
なお、ニコニコ静画では更新のタイミングが変わるようで、約一ヶ月後になるらしいと風のうわさに聞きました。(※三國先生のツイッター情報)
さらに「ピッコマ」内に「コミックポルカチャンネル」「コミックノヴァチャンネル」が新設されたとか。
そちらでも掲載中とのことなので、今後ともぜひよろしくお願いいたしますノシ




