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我輩は猫魔導師である! 〜キジトラ・ルークの快適ネコ生活〜  作者: 猫神信仰研究会


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114・猫+冒険者達の事情


 迷宮攻略を成し遂げた翌日。

 ロレンス様とクラリス様達にはキャットシェルターで優雅なお茶会をしていただき、その間にルークさんは(ヨルダ様の背負袋に隠れて)冒険者ギルドへお邪魔した。


 目的は「黒帽子キノコの調理法・保存法を学ぶ」ため。こういうのは生産地で詳しい人に聞くのが一番である。

 で、そんな感じの依頼というか、ギルドの人に「誰かいい人知らない?」と、アイシャさんを通じて問い合わせてもらうつもりだったのだが……


 来客が「宮廷魔導師の愛弟子」と知るや、支部長さんが出てきて、二階の応接室に通されてしまった。

 こちらの支部長さん、冒険者出身なのだが、なんとルーシャン様のご友人であった……別に「親友!」とかではないが、政治的なアレコレを抜きにして、「うぇーい」感覚で話せる程度の仲。

 ぶっちゃけ、「猫仲間」である。

 ルーシャン様の猫仲間ネットワーク(NNN)、その人脈はなかなかのものらしく、各種ギルドの関係者や高位の貴族、豪商などにも広がっているという。

 ……それはもしや、ちょっとヤバめの秘密結社なのでは……? サバトラを崇めるサバトとかやってない? 大丈夫?


 まぁ、決しておもねるよーな感じではなく、「ルーシャン様はお元気ですか」とか「王都の正確な状況は」とか、ギルドの支部長らしい情報収集が目的だったようである。

 アイシャさんは内心面倒がっていたっぽいが、ルークさん的にはこういう人脈は大事にしたいので、あえてきちんと対応してもらった。支部長さん、猫力高かったし……


 そして帰り際。

 事件は起きた。

 我々がダンジョン内で救出した「ケーナインズ」のリーダー、ブルトさんがギルドに来ていたのである。

 どうも手頃な依頼を探しに来た様子だったが、支部長さんが気軽に声をかけてしまい、我々とも昨日ぶり二度目の邂逅かいこうとあいなった。


 ……こういう縁の巡り合わせが来ると、称号「奇跡の導き手」さんが水面下で仕事してそうな気配を感じるのだが、この称号も推論ばかりで実際の仕様がよくわからんので、保留、もしくは偶然ということにしておこう。実際、冒険者がギルドに来て良さげな依頼を探すのは日常業務みたいなものであり、彼がここにいるのは別に不思議でもなんでもない。


 さて、このケーナインズの皆さん。

 ブルトさんの武力こそBだが、他の面々は武力C〜E、魔力があるのはシィズさんのみでC……ぶっちゃけ、強くはないが、「平均よりちょっと上の冒険者」という印象である。

 そもそもヨルダ様なみに強かったり、ある程度以上の魔力を持っている人は、普通に仕官してしまったほうが良い。「それでもあえて一攫千金!」を目指して冒険者をやっている物好きもいそうだが、そうした方々はやはり少数派であろう。


 しかしながら、『じんぶつずかん』をぱらっと眺めたところ――

 見習い神官のハズキさんが、適性に「料理B」をお持ちである。ついでに「演奏B」もお持ちであるが、料理のほうがより重要。なぜならルークさんは花より団子、色気より食い気、隣の客はよくトマト様を崇めたてまつるべき客である。


 料理技能を持つ味方はいくらいても困らない。

 リーデルハイン邸料理人のヘイゼルさん、ロミナさんも心強い味方であるが、他の地方の特産品などにはさすがにうといし、調理や食材に関する知識は貪欲に仕入れていきたいものである。

 どこでどうトマト様とのアンサンブルに結びついても即応できるよう準備をしておかなければ、下僕たる役目を果たせぬのだ。


 というわけで、我々はそのままブルトさんについていく流れとなった。

 俺はまだ姿を隠したままなので、対応はアイシャさんとヨルダ様にお任せ。


「ケーナインズの皆様の、拠点はどちらに?」

「……ち、近くの安宿で……す……」


 …………口封じとかやべぇ手段を警戒されている気がする!


 アイシャさん、脅しすぎたのでは……?

 いや、言動ではそんなに脅していないのだが、この子は意外と存在感が怖い。物腰こそ笑顔で優しいのだが、「笑うという行為は本来――」の名言から想起されるよーな迫力があり、その背後にたまに獣のオーラが見えるのだ。

 猫……ではないな……トラ……ほどでもないな……割と獰猛なアライグマぐらい? アイシャさん、見た目はちゃんと可愛いから……うん……


 しかしルークさんがしゃしゃり出て場を和ませるわけにもいかぬ。こちとらただの猫さんであり……

 あ。


「にゃーーーーん」


 俺はヨルダ様の背負袋から顔を出し、媚びっ媚びの甘えた声をあげた。

 ヨルダ様がビクリとして、一瞬だけ「マジかコイツ」みたいな顔をしたが、マジである。

 ルークさんは猫であるからして、「一介の猫」としてならば、場を和ませることなど造作もない。

 幸い、こちらのブルトさんは平均より上の猫力をお持ちなので、ちゃんと懐いて差し上げれば相応の効果はあるはずである!


「えっ……ね、猫……?」


 戸惑うブルトさん。無言を貫くアイシャさん。必然的に、ヨルダ様が対応を迫られる。


「あ、ああ、うちの飼い猫だ。猫は、その……大丈夫かな?」

「は、はぁ……宿はさすがに、ペット持込み禁止なんで……その……隠しておいていただけますと……」


 む。それはそう。王都で滞在した八番通りホテルとかは貴重な例外である。

 まぁそれはそれとして、俺はじっとブルトさんを見つめ、くりっと小首を傾げてみせた。ルークさん愛嬌ぶちまけモード、相手は和む。


 ブルトさんは、やや呆けた感じに。


「……こちらの猫さんが……もしや……例の精霊様……?」


 ん?

 おや……? ふーむ、これは……

 迷宮内で岩の猫さんに助けられた→王都でも猫の精霊が暴れたらしい→猫の精霊はルーシャン様を守護している→アイシャさんはルーシャン様の愛弟子→つまり猫の精霊はアイシャさんのことも守護している……みたいな流れで関与を疑われ、このルークさんの姿を見て「あっ」と連想がつながったのであろうか……

 ヨルダ様がへらっと笑う。


「あー、いやいや、そういうのじゃない。この猫は俺の相棒で……ただの猫だ。あと……」

「詮索は不要、ということで、改めてよろしくお願いします」


 アイシャさんがまたもにっこり。背景にアライグマ(獰猛)。

 ……むぅ。

 アイシャさんのお心遣いはいろいろありがたいのだが、やはり「冒険者」の人脈は一つ二つ、確保しておきたい気がする。

 じんぶつずかんを見た限りは、この人達は割と安牌あんぱいではなかろうか?


 あと、まぁ、なんか、こう……

 昨日の救出時にも思ったことなのだが、ブルトさん達からは「お犬様」の波動を感じるのだ。

 それはすなわち、忠実で義理堅く、人を裏切らない性質のことである。


 人間を犬扱いなど前世では失礼千万なのだが、むしろ「人間ごときをお犬様と同列に並べるとは何事か!」みたいなお気持ち表明をする犬派版ルーシャン様みたいな人もどこかにいそうだし、かくいう俺自身も猫だし……まぁ問題あるまい。

 仮に「人でなし!」とか「この畜生め!」とか罵倒されても、もはや「そっスね……」としか応じられぬ身の上である。「人面獣心」という罵倒にだけは「いえ、猫面猫心です!」と元気よく反論したい。


 俺はアイシャさんにメッセンジャーキャットを飛ばした。


『アイシャさん、アイシャさん。この人達を仲間に引き込もうかと考え中です。宿に着いたら、タイミングを見て私からもご挨拶するかもしれません』


 アイシャさんが俺を振り返り、「マジかコイツ」みたいな顔をした。

 ヨルダ様といいこの子といい、ルークさんはちょっと信用なさすぎではなかろうか……?

 とはいえ、彼女達は「じんぶつずかん」の存在を知らないので、警戒するのも仕方ない。ついでに、称号「奇跡の導き手」に関する俺の推測も、まだ未確定な部分が多すぎて共有してないし……


「……ヨルダ様、ブルトさん。あそこのパン屋でちょっと手土産てみやげを買っていきますので、十分ほど、このあたりで待っていてもらえますか?」


 あらやだ、アイシャさんたら気が利くぅー。

 ……と思ったら、ヨルダ様の背負袋ごと俺の身をひったくられた。あれ? パン屋に行くんでしょ? ペットだめじゃない?


 しかしヨルダ様も特にツッコむことなく肩をすくめ、ブルトさんと一緒に道の端へと移動した。

 そして俺はアイシャさんにおんぶされ――


「……ルーク様? 一応、事情の説明をお願いします」


 少し離れたところで、ため息まじりに問われてしまった。

 うん。まぁ、そうですね……


 パン屋さんに入るふりをして、我々はその隣の路地裏へ踏み込む。即座にウィンドキャットさんステルス仕様を発動させ、その場に身を隠した。


「えーとですね。理由は複数あります」

「うかがいましょう。『キノコ』とか言ったら撫でくりまわしますよ」


 一つ消えた。

 しかし俺は慌てない。まだ慌てるような時間ではない。


「まず、彼らにとって我々は『命の恩人』です。きっちりと恩返しはしていただきます」

「……………………クソチョロが毛皮着て歩いてるみたいなルーク様が、急にまともな俗物ぶった言い訳を始めてびっくりしました。100パー嘘だってわかってますけど、先が気にはなるので続けていいですよ」


 アイシャさんは割とツッコミが容赦ない……この子のストロングポイントである。


「恩返しをしていただく上で、こちらの素性を隠したままでは無理があります。具体的には、現役の『冒険者』としての彼らの知見を借りたいのです。ぶっちゃけ……昨日はじめて把握した『ドラウダ山地にある迷宮』に関してですね」


 アイシャさんが眼をぱちくりとさせた。


「そっちはあれですよ。ルーク様がお望みなら、魔導閥とかお師匠様が全面的に協力すると思いますよ?」

「それもお願いするかもしれませんが……そもそも課題が多すぎるのです。まず、肝心の迷宮を、よそと同じく『継続的に冒険者達が攻略し続ける』状況にすべきなのですが……そうなると、迷宮のすぐ近くに街や村、つまり『冒険者達の拠点』が欲しいところです。しかしドラウダ山地は未開地ですので、現時点ではまともな道すらありません。まぁ……道は私の『猫魔法』でどうにかするとして、リーデルハイン領も人口の少なさが悩みの種ですし、未開の地では危険もあるでしょうから、いきなり入植者を募るわけにもいきません。必然的に、まずは第一段階として、迷宮の近くに『冒険者が滞在できるような砦』を設け、たとえばギルドにその管理をお願いするとか――」


 ……俺の長々とした見解を聞くにつれ、アイシャさんの表情が納得に転じていった。


「……なるほど。あのケーナインズを、冒険者のテストケースとして活用したいわけですか」

「テストケースとゆーか、『モニター』ってわかります? いろいろ体験して、現場も見てもらった上で、現役冒険者の立場から『ここはこうしたほうがいい』みたいな助言を貰いたいのです。あのブルトさん達は、古楽の迷宮でもそこそこ深いところのマッピングまでやっていましたし、迷宮やその周囲に詳しく、それなりの知識を持っていそうなので……割と適任ではないかと」


 しかもそのうち二人は、どこだかの王国の元騎士&正規の魔導師であり、おそらく教育水準も高い。さらにハズキさん以外は全員が他国の出身者なので、ネルク王国以外の場所も知っている有識者だ。

 うまく誘えば――新しい拠点の護衛、あるいは管理人なんかも引き受けてもらえるかもしれない。ゆくゆくはダンジョン周辺に村とか街を作れれば……みたいな欲もある。


 とにもかくにも、リーデルハイン領は現在、様々な人材を求めている。もちろん誰でも良いわけではなく、人間的に信頼できるタイプでないと困るが……トマト様の覇道だけでも一大事業だというのに、ドラウダ山地の迷宮周辺環境の開発・維持・管理までは、さすがに肉球が回らぬ。ここは頼れる戦略的パートナーが必要だ。


 とはいえ、いきなりそんな長期のお願いはしにくいので、はじめは短期で済む依頼をいくつかこなしてもらって、お互いの信頼関係を築いた後で――という流れにしようとは思っている。このあたりはまぁ、先方の反応次第か。


「そういうことならわかりました。拾った野良冒険者をそのまま放置されたら困りますが、ちゃんとルーク様がお世話できるならいいですよ」

「大丈夫です! 楽しく依頼を受けていただけるように、きちんと美味しい話をご用意します!」

「まぁ、その点については心配してないんですけどね……どこまで情報を開示するかも、ルーク様にお任せします。ちなみに……ルーク様の眼から見て、あのケーナインズってそんなに優秀なんですか?」

「能力は冒険者の平均よりちょっと上くらいかと思いますが、人間関係も含めて、パーティーのバランスが良さそうです。あと……そこそこ猫好きっぽいので、私にとっては付け入る隙があります」

「いいですね。ルーク様のそのガバガバな判断基準、割と好きですよ」


 くすりと笑うアイシャさんにご納得いただけたところで、手土産用の菓子パンをコピーキャットで作り出し、その場で袋詰めしてからヨルダ様の元へ戻った。


「お待たせしました。さ、行きましょうか」

「あ、はい……すぐそこです」


 ブルトさんが指さした先は、二階建ての、古びた煉瓦造りの建物であった。

 入り口の接道部分はそんなに広くないのだが、奥に細長い――いわゆる「うなぎの寝床」と言われる系統の建物である。


 冒険者達の長期滞在用の宿として繁盛しているらしく、宿というより「賃貸住宅」に近そうな気配もある。が、冒険者は依頼内容次第では長期不在になったりするし、契約が煩わしい賃貸よりも、安価な宿のほうが利便性が高いのだろう。


 そういえば、さっきの冒険者ギルドには「貴重品預かり所」も併設されていた。迷宮に持っていきたくない私物などは、みんなそちらに預けるらしい。そういう利便性を確保する意味でも、ダンジョン近郊の「拠点」、及び「冒険者ギルド支部」は重要なのだ。


 さて、午前中からなぜかやかましい一階の酒場を横目に、我々は宿の二階へ。えらく盛り上がっているようだが、何かお祝いごとでもあったのだろうか……?

 一階が騒がしいのは、二階で話す我々には都合がよい。声が漏れにくくなる。

 キャットシェルターにお招きしても良いのだが、ロレンス様とクラリス様のお茶会が弾んでそうなので、ちょっとお邪魔したくない。


 ブルトさん達のお部屋は、階段をあがってすぐの四人部屋であった。

 我々が階段を上がるやいなや、先に扉が開く。


「あ、ブルト。おかえ……り……?」


 魔導師のシィズさん!

 現在は魔導師ルックではなく普段着で、そこらの町娘みたいな七分袖+長いスカート姿である。落ち着いた雰囲気であるが、やはりこの世界の人々は顔面偏差値が高い――

 シィズさんは可愛い系よりキレイ系、プリティよりもセクシー寄りであり、普通の格好をしていると若奥様感がある。

 迷宮内で見かけた時は疲労と緊張で鬼気迫る感じだったが、平常モードに戻った今、改めて顔立ちを拝見すると、さすが冒険者だけあって芯の強そうな雰囲気。


「……シィズ。こちら、冒険者ギルドでお会いしたアイシャ様とヨルダ様だ。依頼があるとのことで、ご同行いただいた」

「はじめまして、シィズさん。アイシャ・アクエリアと申します。先日はどうも」


 ……アイシャさん、「はじめまして」の直後に「先日はどうも」とは、実にわざとらしい……シィズさんは困惑し、ブルトさんに視線で助けを求めている。

 その背後から、剣士のバーニィさん、神官のハズキさんも顔を出した。狩人のウェスティ氏はまだ寝てる?

 あれだけの重傷だった以上、しばらくは寝たきりであろう。回復魔法は非常に素晴らしいものだが、「身体に備わっている治癒能力を魔法で無理やり引き出し活性化させる」という仕様上、心臓をはじめとして身体への負担がでかい。

 彼の場合、一週間くらいは寝たり起きたりのダラダラ生活を余儀なくされるはずである。


 ……療養場所、ご提供したほうがいい? いや、そこまで気を使う必要はないのだが、ウェスティさんに関しては、「じんぶつずかん」にちょっと看過できない情報があったのだ。

 といっても、別に元貴族とか元王族とかそーゆーのではない。記述はこんな感じ。


『ホルト皇国外交官のリスターナ・フィオット子爵から、パーティーへの依頼とは別に、個人的な依頼をいくつか受けている。ネルク王国内に流れる情報の収集を主として、有力貴族、有力冒険者の動向調査や、聖教会人事の状況把握など、内容は多岐にわたるが、あくまで「ウェスティの身辺で得られた市中の情報の報告」を求められており、調査のためにわざわざ動き回ることは稀。報酬も小遣い銭程度だが、逆にリスターナ側からも、パーティーにとって割のいい依頼や有益な情報を提供されているため、良好な関係を保っている』


 ………………ホルト皇国の外交官、リスターナ・フィオット。

 この名前、聞き覚えがある。

 王都で俺も連れて行ってもらった、アルドノール侯爵邸での夜会。

 あの時、クラリス様の兄君であるクロード様が言っていた。


『ラン様から聞いた話ですが……ホルト皇国のリスターナという外交官が、ルークさんが呼んだ「猫の旅団」を目撃したせいで、滞在期間を延長して調査を始めたそうです』


 何もないとは思うが、一応気をつけて……みたいなお話であった。

 どうやらこのウェスティ氏、そのリスターナ外交官の持ち駒の一つであったらしい。

 このあたり、ちょっと補足が必要であろう。

 この世界の冒険者達は、基本的に「パーティー」単位で活動するが、一方で「個人への依頼」も普通に受けている。

 パーティーごとの方針にもよるが、日雇いのアルバイトなどはどうしても個人の資質に合ったものを選ぶことになるし、たとえば「小さな酒場の臨時の給仕」みたいな仕事には五人も必要ないわけで、常にパーティー単位で行動するわけではない。

 

 ケーナインズの場合、狩人のウェスティ氏がリスターナ外交官に気に入られており、彼を経由してパーティー単位での調査や護衛系の依頼もたまに受けているのだが――それはそれとして、リスターナ外交官とウェスティ氏の間に個人的な「調査報告」業務が存在しており、これに関してはブルトさんも干渉しない、という流れである。

 彼らは徒党を組んではいるが、その実、一人一人が個人事業主でもあるのだ。


 そんなケーナインズとの今後について、今、ルークさんはいくつかの選択肢を持っている。


 そのいち。ケーナインズとの関わりを絶ち、以降は無視。

 この場合、アイシャさんからの口止めがきちんと作用すれば問題ないが、もしもウェスティ氏がこれを破った場合――「猫の精霊」に関する追加情報が、ホルト皇国へ流れる可能性がある。つまり不確定要素が多い。

 核心に迫れる情報はないはずだが、「アイシャさんと一緒に迷宮に来ていた」わけで、つまり「ルーシャン派の魔導師はみんな、猫の精霊から加護を受けている」とか誤解されかねない。それが原因で末端のお弟子さんが引き抜きとか誘拐とかされたら洒落にならぬ。


 そのに。ケーナインズとの関わりを深め、仲間に引き込み……ウェスティ氏には「リスターナ子爵との関わり」まで知っていることを告げ、改めてガチめの口止めをする。

 つまり、「リスターナ子爵への義理」より、「こっちへの恩義」のほうが勝る状態に持っていく。

 裏切られる可能性も皆無ではないが、「縁の薄い他国の子爵」と「命の恩人の亜神」をはかりにかけて、前者を優先する人は多くなかろう。また、いずれホルト皇国への情報操作をしたくなった場合、ウェスティ氏をその窓口にできるというオマケまでついてくる。俺は今回、この選択肢を選んだ。


 そのさん。口封じに全員◯す。論外である。ルークさんはそんな恐ろしい猫さんではない……たとえ情報流出を招いたとしても、それだけはできぬ。だって本質的にチキンだから!

 ちまたの転生モノでは空前絶後の大虐殺をやらかす方を時々見かけたが、ペットの自堕落生活にその要素は必要ない。魔族と戦ったり迷宮のボスを退治したりとかも本来は必要ない。思えばルークさんには猫としての自覚がまだ足りぬ。こちとら猫さんやぞ? ぜんぶスルーして昼寝とかしていても許される立場のはずでは? ほんとなにやってんの俺?(真顔)

 ……なお、トマト様の耕作地拡大は必要である。それは必然。むしろ主軸。


 ともあれ、やるべきことをやらねば安眠もままならぬ。今はまず、『ケーナインズ』の籠絡ろうらく……懐柔……勧誘を優先するとしよう。

 安宿の一室へ踏み込むアイシャさんの背に揺られ、背負袋の中で身を丸めた俺は、ご挨拶前の入念な毛づくろいを進めるのであった。


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― 新着の感想 ―
NNNというと、猫による猫のための、人間を猫の下僕とするために暗躍する組織じゃないですか!!
「他国の子爵からのアルバイト」と「命の恩人たる亜神からの依頼」 恩人云々が全く無かったとしても、子爵を優先する馬鹿はそうそう居ないでしょうねぇ…
[一言] キャッツなのにチキンとはこれ如何にw
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